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うちの毒舌メイドさんはいろいろすごい

「お帰りくださいませご主人様」


 家に帰るなり、メイドさんにそんなことを言われた。


「今帰ってきたんだけど!?」


「え……?」


 はて、と首をかわいらしくかしげて肩あたりまでの銀髪を揺らしながらそんなことを言う。


「なんで疑問形かなぁ! ここ僕の家のはずだけどなぁ!? 大体帰るってここ以外どこに?」


 一応部屋の位置を確認しつつ言う。


 うん、やはりここは僕の家だ。




「あえてお答えするのなら、……、土に、でしょうか?」


「遠回しに死ねって言ってない?」


「どう受け取っていただいてもかまいませんが……」


「そこは濁すのね……」


いや、半分というか全部言っちゃってるけど。


「主人に死を所望するメイドなどあり得ませんので」


「さっき君が言ったんだけどね?」


「はて?」


「いや、はてじゃなくてさぁ……」


「はい?」


「うん、言葉を変えればいいわけでもないんだよね。ていうかそもそもさ」


 一拍間をおいて、僕は尋ねる。



「君、誰?」


「は?」


「いやはじゃなくてさ、そもそも初対面だよね? 名前も知らないと思うんだけど。なんで僕の家の中にいるの? まず名前から聞いていいかな? ああ、僕から名乗ったほうがいいか。僕は」


「いえ、名乗っていただく必要はございません。存じておりますので。こちらは名乗らせていただきますね」


 私は、と彼女は続ける。


「ザ☆メイドと申します」


「明らかに偽名では?」




「失礼な。何を根拠に」


「そんな名前を付ける親がどこにいるっていうんだ……」


「ああ、そうですね」


 そもそも名前に記号が入っている時点でダウトだ。


 しかし、と彼女は反論する。


「名前なんて、それをそれと認識できればそれでいいのではないのでしょうか? であれば、私がザ☆メイドを名乗ろうと山田花子を名乗ろうと関係ないのでは?」


「ん~……。まあ、それもそうか」


 確かに一理ある。


「まあ、星ちゃんて呼ぶけど、君は何でここにいるの? 僕に何をしたいの?」


「く、星ちゃんですか。確かに私を呼称していると認識できるから名前とは何ぞやと語ってしまった今の私ではその呼び方を否定することはできませんね……」


 非常に残念そうに顔を伏せて彼女はそんなことを言っているが、


「質問、答えて~」


「は、主人の質問を無視するとは、あるまじき失態を。はい、ではお答えしましょう」



 曰く、


 彼女は僕に仕えるためにやってきたらしい。


 僕の生活を補助してくれるんだとか。


 家の中にいたのは部屋の窓が開いていたからだといや待ったここ三階よ?


「私の身体能力をなめないでください。一流のメイドともなれば朝飯前です」


「ええ……、わかった。で、君はどういう扱いになるの? 後、僕に拒否権はあるの?」


「私という素晴らしいメイドを仕えさせることを拒否できるわけがないでしょう。扱いとしてはそうですね、同居人的な何かになるのでは? 居候扱いで構いません」


「え、寝食共にするの?」


「そうですよ? ずばり、住み込みメイドです☆」


 語尾に星……。




 それから、僕と彼女の共同生活が始まった。


 * * * * * * * *


 今日も今日とて帰宅すると、メイドさんの出迎えが待っている。


「お帰り下さいませご主人様」


「ねえ、毎日このやり取りするのそろそろやめない?」


「そういう命令でしたら。こんな些細なことも嫌がるとは、どうしようもないですねご主人さまは」


「なんかいきなり責められたんだけど……」


「さて、夕ご飯はできておりますので、さっさと着替えてきてください」


「微妙に辛らつだなぁ……」


「時間がたちすぎると冷めてしまいますので」


「いつもそこそこ長い会話に発展する一言ぶっこんでくるのは誰だったかな?」



 今日もご飯がおいしい。


 家に帰ると温かいご飯が待っているというのはとてもいいね。


「そういえばさ、なんで僕を選んだのか、僕のところに来たのか、聞いてないよね?」


 ずっと気になってはいた。


 なんとなく聞けずにいた。


 だから、聞いてみるのだ。


 知っておきたかった。


「ん……言わなければいけませんか?」


「まあ、どうしてもっていうなら言わなくてもいいけど」


「分かりました、そこまで知りたいのでしたら言いましょう」


 いや、言いたくないなら言わなくていいって言ったんだけどね?


「ご主人様に強要されたら、言う他に選択肢はありませんね」



「実は、私はご主人様のメイドだったのです」


「え、今もメイドさんだよね?」


「はい。今も。これまでも」


「これまでって、あの時からのこと、だよね?」


「あの時と言えばあの時、ですが。いえ、曖昧にする必要はないですね。一つ、事実をお伝えします。驚かないで、聞いてください」


「ん? ああ。驚きゃしないさ」


 では、お話ししますと、そう言って彼女は話し始めた。


「あなたはすでに死んでいます」



 彼女の話を総合すると、僕はすでに死んでいて、しかしなぜかたびたび戻ってきてしまっているらしい。


 死因は交通事故。


 突然突っ込んできたトラックに、僕自身気づかないうちに引かれていたのではないかと。


 だから、死を自覚していない僕が、幽体で戻ってきてしまっているのではないかと。


「で、追い返すことなく僕を入れてくれるのはどうして?」


「私には、追い返すなんてことはできません。あなたのおかげで私は今生きられるのですから」


「っていうと?」


 そして、彼女は口にする。


 すべての答えを。


「私は、冥途。あなたが通り終えれば消えてしまう存在。ですから、通り終わらないように現世の記憶を思い出させながら、私の生を引き延ばしているのですよ」



感想下さいまし……。

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