…… 破天荒な公爵夫人 4
アンナの部屋のある東棟向かって歩いているとサリーが飛び出して来た。
マズイとは思ったが一応帽子を取った。
「 …… おはよう、サリー。早起きね。 」
「 …… まあ、アンナ様ですか。てっきりどこかの不届きものかと。 」
アンナは自分の服を見下ろして苦笑いをした。
少なくとも子爵令嬢には見えないだろう。
「 …… やっぱり、マズイわよね。 」
「 …… この時間なら他の令嬢に会う事はありませんが、使用人は起きています。 」
「 …… それは、そうね。 」
「 …… ところで、何をなさっていらしたんですか? 」
「 …… 馬に乗って来たの。もう何年も夜明けに馬に乗る習慣だから。 」
「 …… わかりました。 」
サリーは先に立って歩き出すと通用口から入って行く。
使用人用の狭い階段を上がると、アンナの部屋へはすぐだった。
「 …… こちらの階段を使えば、厩へも近いでしょう。でも、朝のこの時間だけにしてくださいね。普段は私達の使う階段ですから。 」
「 …… もちろんよ。ありがとう。 」
アンナは部屋に戻ると手と顔を洗い、モーニングドレスに着替えた。
少し早いだろうか …… と思いながらも、食堂に向かう。
…… 朝から乗馬をするとお腹が空くのだ。
驚いた事に食堂にはすでに公爵夫人がいて、食事中だったのだ。
「 …… おはようございます。公爵夫人。 」
「 …… おはよう、レディ・アンナ。 …… 驚いたわ、お父様のお見送りかしら。 」
「 …… いいえ。毎朝、馬に乗る習慣があるので。 」
「 …… そう言えば、ご自分の馬を連れていらしたのよね。 」
「 …… はい。 …… 世話は自分でしますので、ご迷惑でしょうが。 」
「 …… 良いのよ。乗馬のレッスンも取り入れたいと思っていたの。 」
「 …… 素晴らしい馬がたくさんいらっしゃいますね。 」
「 …… そう? 公爵が馬道楽なの。一人であんなに乗れないのにね。 」
「 …… 公爵夫人はお乗りにならないんですか? 」
「 …… 乗るけど、横鞍は苦手なの。 …… 内緒よ。 」
もちろん、意図したものではないのだろう。
でも、あまりに突然だったので飲んでいた紅茶を吹いてしまった。
あまりの無作法に赤面していると公爵夫人は言った。
「 …… ごめんなさい。時々、考えなしに話してしまうの。大丈夫? 」
「 …… ええ。はい。 …… 違うんです。私の事かと。 …… 私も横鞍、苦手なので。 」
「 …… そうなの。気が合うわね。 …… レディ・アンナは興味深い。 」
「 …… え? 」
「 …… 今日は他の令嬢も到着するわ。楽しみね。 」
「 …… はい。 」
アンナはサイドボードから卵料理とベーコンを持って来た。
いつのまにか温かい紅茶が入れ替えられていて少し気まずい。
当たり障りのない話をしながらなごやかな時間を過ごした。
午前中に一人、午後に二人、令嬢が到着した。
アンナは部屋にいたので見た訳ではない。
午後のお茶の時間、サリーが呼びに来てくれたので朝の間に行った。
公爵夫人は既にいて、知らない令嬢が、それぞれ三人離れた場所に座っている。
アンナは公爵夫人はの近くのオットマンに腰掛けた。
公爵夫人の入れた紅茶を、それぞれに手渡す。
「 …… じゃあ、自己紹介してくださる? 」
「 …… はい。 …… 私はミーガン・マッケンジー。侯爵家のものです。 」
「 …… 私は、クラリス・シーモア。伯爵家のものです。 」
「 …… 私は、エミリア・ダットン。伯爵家のものです。 」
「 …… 私は、アンナ・ウォルター。子爵家のものです。 」
互いに牽制しあう空気を感じて、アンナはため息をついた。
当分、朝の乗馬はやめられそうにない。
…… ここでも、やはり。