…… 破天荒な公爵夫人 2
「 …… あなたがレディ・アンナね。初めまして、私がメアリ・ハミルトン。ハミルトン公爵夫人よ。」
「 …… 初めまして、アンナ・ウォルターです。よろしくお願いします。 」
「 …… ラテン語やギリシャ語も興味があるんですって? 嬉しいわ。 」
公爵夫人の言葉に驚いて、お父様の方を見てしまった。
お父様は落ち着いた様子でお茶を飲んでいる。
…… お母様が聞いたら怒るだろうに。
「 …… はい。弟達と学んだので基礎的な事しかわかりませんが。 」
「 …… 素晴らしいわ。普通女の子は、フランス語は学んでもラテン語やギリシャ語まではね。 」
「 …… ミス・キャサリンが熱心な先生だったので。 」
「 …… ミス・キャサリン? 家庭教師の先生ね。 」
「 …… 我が家は六人兄弟なので、教えるのはきっと大変だったでしょう。 」
「 …… あなたを見れば、立派な先生だと分かるわ。 」
「 …… その先生は? まだ弟さん達がいらっしゃるのよね? 」
「 …… 弟達がパブリックスクールに入る事になったので、私が入学すれば必要でなくなる事になったのです。 」
「 …… アンナ。その言い方は良くない。 」
珍しくお父様が咎めるような言い方をした。
見ると赤面している。
…… 何か不味い言い方をしたのかもしれないと思ったが、よく分からない。
「 …… 先生に不手際があったのですか? 」
「 …… いえ、もちろん違います。我が家の事情でして。 」
お父様は狼狽えたように口籠った。
公爵夫人は少し考えていたが、お父様に尋ねた。
「 …… おいくつくらいの先生かしら? 次のお仕事は決まっていらっしゃる? 」
「 …… さあ、チャールズが小さい頃からなので30代半ばだと思いますが。次の仕事については聞いていません。もちろん我が家で紹介状は用意いたしますよ。 」
「 …… ここは始まったばかりで先生もあまりいません。よければご紹介いただけますか。 」
「 …… もちろん、構いませんよ。ミス・キャサリンも助かるでしょう。 …… たぶん。 」
ミス・キャサリンに会えるかもしれない。
そう思うと、アンナはワクワクした。
ミス・キャサリンは厳しいが理不尽ではない。
自分の事を話す人ではないので親しくはなかったが、子供部屋では公平だった。
公爵夫人は話が逸れた事を詫び、今後の授業計画について話した。
新しい学校ということもあり、生徒は他に三人らしい。
話し振りからも公爵夫人の態度からも利益を追求しているわけではない事がわかる。
お父様は公爵夫人のハッキリした物言いに戸惑いながらも安心した様子だった。
今夜晩餐を一緒にするが、明日の夜明けに帰るという。
アンナは少し寂しい気がしたが、期待の方が大きかった。