…… 私の騎士さま 3
夕食の時間だった。
姉様達は、兄様の友達にしきりと話しかける。
短い返事しかしないのだから、話したくないのだと察すればいいのに。
…… 私は何故かおもしろくなかった。
「 …… で、領地はどちらでいらっしゃるの? 」
「 …… ウィルトシャーのはずれですよ。 」
「 …… でも公爵領のお隣なんでしょう? 」
「 …… 公爵領のうちの一つの隣りです。 」
「 …… では、ロンドンの近くではないのですね。 」
「 …… ウィルトシャーのはずれですから。 」
「 …… ファニーも、エマもいい加減にしないか。お前達、地図の勉強もしていないのか? 」
呆れたように兄様が間に入った。
姉様達は少しも怯まない。
「 …… だって、公爵領のお隣と聞きましたわ。 」
「 …… 姉様。公爵様はたくさん領地をお持ちなのです。さっき、そうおっしゃっていらっしゃったでしょう。 」
「 …… まあ、アンナったら。人の話に割って入るのは無作法ですわ。ねえ、お母様? 」
「 …… そうね、アンナ。 …… 知識をひけらかすのは嗜みに欠けます。わきまえなさい。 」
「 …… はい。お母様。 」
アンナは俯いた。
いつもの傍観者を外れるからだと自分を戒める。
姉様達は都合が悪くなると母様に言いつける。
母様は、いつも姉様達の味方だ。
…… 揉め事ばかり起こす私を疎んじているのだろう。
父様はいつも何も言わない。
争い事は好まないのだ。
…… 人は嫌いだ。
一人になりたい。
夕食はたちまち辛い時間になった。
…… 早く終われば良い。
アンナはひたすらそう思って耐えていた。
朝靄の中、いつものようにバターカップに乗る。
昨夜あんなに不愉快だったことも、バターカップに愚痴ったら落ち着いた。
姉様達の事なんかほうっておけばよかったのだ。
兄様の友達は大人なのだからあしらえるに決まったいる。
ちょっとは不愉快な思いはしても。
姉様達は美人だから、大目に見てもらえることが多い。
金髪碧眼の姉様達と違って私は地味な茶髪に過ぎない。
お祖父様と同じらしいけど家族で一人だけ違うのはちょっと嫌だ。
無心で馬を走らせたら心が凪いだ。
厩に戻ると、兄様の友達がいた。
「 …… 君はいつも早起きだね。 」
「 …… この時間しか乗れないから。 」
「 …… え? 」
「 …… 朝一番、誰にも会わない時間なら、ブリーチズで乗っても良いって。 」
「 …… 誰かに言われたの? 」
「 …… お父様と約束したの。 」
「 …… そう。 」
「 …… でも、見つかっちゃった。 」
「 …… え? 」
「 …… 兄様の友達に。 」
「 …… ジョンだよ。僕の名前はジョン。 」
「 …… ジョン? 」
「 …… そう、ジョンだ。 」