『白雪姫』の継母に転生したと思ったけれど、違ったかもしれない
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」
「はい。それは女王様、貴女です」
何でも答えてくれる魔法の鏡。いつからだろうか、その鏡に問いかけるのが日常だった。
世界で一番美しいのはこの私。
忌み嫌われる魔女だとしても、貴族たちが蔑む貧民の出だとしても、世界で一番の美しさを持つ私は、王ですら虜にできる。皆に求められる。
私は美しくないといけない。世界で一番。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」
「はい。それは白雪です」
「⋯⋯白雪?」
今日も鏡に問いかけた。いつもと同じ質問。
ただ、返ってきた答えがいつもとは違った。
白雪は私の義娘。雪のように白い肌に黒檀のように黒い髪、血のように真っ赤な唇が印象的な娘。
整った顔立ちをしていて、初めて会った時から気に食わなかった。いつか、私の美しさを超えるのではないかと。
嫉妬という黒い気持ちに飲み込まれる。胸の奥で真っ黒な炎が燃えているというのに、頭の中はひどく冷えていた。
私は、鏡に背を向けて歩き出した。
世界で一番美しいのはこの私。
それを揺るがす者は、なんびとたりとも許さない。絶対に、絶対に。
◇◇◇
うわぁぁぁぁああぁぁ⋯⋯
なにが、なにが⋯⋯『世界で一番美しいのはこの私』よ!『なんびとたりとも許さない』よ!
自意識過剰にも程があるわ!
確かに私は美人だけど、傲慢で顔は醜く歪んでいるじゃない!
人を使い捨ての駒のように扱って、自分以外は全て醜いものとして見下している。心の醜さが顔にも出ているのよ!
私にいじめられて、お姫様なのに下女と同じように扱われてもにこにこ笑っている可愛らしい白雪の方がよっぽど美しいに決まっているわ!
自分より美しいからってその白雪を排除する?!
なにを驕り高ぶっていたの、私?!
身の程知らずっぷりに頭を抱えてうずくまる。自分の言動が恥ずかしすぎて穴があったら入りたい気分だ。
⋯⋯何故、私の考えがこんなにも変わったのか。
それは先程、カーペットの端につまづいて転倒するという年寄りのような転け方をしたことから始まる。
ガツンっと鏡台に頭をぶつけた私は、衝撃で前世の記憶なるものを思い出した。
日本という戦争の無い平和な国で、物のあふれた豊かな国で、呑気に暮らした短い人生。
死因ははっきり覚えていないが、高校の帰り道に、友人とくだらない話をしながら道を歩いていたことまでは覚えている。
私は平凡だった。顔も普通、勉強も運動も特別できる訳でも特別できない訳でもない。家も普通に温かい家庭だったし、普通に幸せだったんだと思う。
でも、一つだけでもいいから、何か人より優れたものが欲しかった。誇れるような特別な何かが欲しかった。普通じゃなくて、これだけは特別なんだって言いたかった。
それは頭の良さでも、運動神経でも、一途に愛してくれる恋人でもよかった。
そう願ったからだろうか、私が特別な美貌を持って生まれ、それに執着したのは。
私には夫がいる、いや――――いた。
十五歳が成人というこの国で、私は十六歳でこの国の王に嫁いだ。
彼は私を愛してくれたが、私は彼を愛してはいなかった。私は、この美しさでどこまでできるか試したかっただけ。王妃という地位が欲しかっただけ。
その夫は今年、病で亡くなった。私は、夫と前妻の間にできた娘――――白雪が成人して婿を迎えるまで、女王という地位につくことになった。
白雪姫。
皆からそう呼ばれ、家臣たちからも慕われるその子の名前は前世で知っていた。
白雪姫と呼ばれる美しい少女。その美しさを妬んだ継母に城を追い出されて、七人の小人たちに救われ、白雪姫が生きていることを知った継母に毒りんごを食べさせられ、隣国の王子に救ってもらう。
多くの人が知っている美しいお姫様のお話。
――――⋯⋯うん。
どうやら私は、その白雪姫の継母に転生してしまったようだ。
率直に言おう。
ないわー。
異世界転生って、もっと幼い頃に記憶を思い出すものじゃないの?
美少女とかに転生するものじゃないの?
いや、確かに私は美人だし、まだ十七歳だから美少女と言えなくもないけれど、でも人妻よ? 未亡人よ?
前世で十七歳の女子高生だった私が恋愛すっ飛ばしていきなり未亡人&子持ちよ?
女王なんて地位についているけれど、いきなり政治なんてできるか? 内政チート? 無理無理。
もっと驚いたのが、義娘である白雪だ。
魔法の鏡により世界一美しいとされた彼女だが、まだ七歳である。
七歳である。
大事なことだから二回言ったわ。桁一つ間違えてない?
十七歳の日本でいうピチピチ女子高生が七歳の小学校低学年の子に美しさで負けてんのよ?
どうなのよ?
まぁ、白雪が規格外の美人だと言うことでこの話は収めましょう。
さて、問題はここから。
白雪姫の継母って、最後どうなるんだっけ?
おばあさんに化けて白雪姫に毒りんご食べさせるところまでは覚えてる。それで? 絶対何か罰を食らうよね?
そのまま白雪姫は隣国で王子と結婚して、継母は自国を治めてめでたしめでたし⋯⋯なわけないよね?
魔女だし火炙りとか?
小人に殺されるとか?
王子に暗殺されるとか?
うわー。いい未来が浮かばない。死亡エンドじゃない。
というか、国を治めるのもね、私みたいに美しさにしか興味のない奴より、賢く聡明、明るく謙虚な性格で多くの人から慕われている白雪の方がいいに決まってるよね?
私は白雪が成人したらさっさと退いて、隠居生活した方が良くない? わけわからん政治するより魔法極めてた方が楽しくない?
良い案だ。採用。
⋯⋯採用したはいいが、ヤバいわ。
うん。ヤバい。
何がヤバいって⋯⋯実はさっき、狩人に命令しちゃったのよね。
「白雪を森の奥に連れて行って殺して来なさい」って。
あー。もう既に破滅に向けて動き出してるー。もう少し、もう少しだけ早く前世の記憶を思い出していれば! そんな命令出さなかったのに!
⋯⋯狩人が機転利かせて「やっぱりこんなに美しい白雪姫を殺せません。連れて帰ってきました」とか言わないかな。
気の利く部下であってくれよ。頼むから。
「女王陛下、ただいま戻りました」
狩人戻ってきた!
「おかえりなさい。⋯⋯白雪は?」
「はっ。言われた通りに殺して参りました」
ばっかやろー!
いや、待て。殺したという証拠はないはず。
物語通りなら、白雪は生きていて小人に保護されているはずだ。
よし、その可能性に賭けよう。
「証拠に、心臓を持って帰って参りました」
ばっかやろー!
そんな証拠頼んでないわ!
いや、エグっ! 見せなくていい、見せなくていいから!
「⋯⋯本当に殺しちゃったの?」
「はっ。言われた通りに」
恭しく頭を下げる狩人。私は絶望で乾いた笑いが込み上げてきた。
「ふ、ふふ、ふふふふっ⋯⋯」
「じょ、女王陛下⋯⋯?」
狂ったように笑い始めた私を引き気味に見てきた狩人。その顔がなんだか腹立たしかったので、八つ当たりで狩人の肩を掴んで大きく揺さぶった。
「何やってくれてんのよ! あんないたいけな美少女殺すなんて世界の損失よ?!」
「え?! いや、しかしご命令では⋯⋯」
「あんたは上司の言うこと鵜呑みにして仕事すんのか! ちょっとは機転利かせて仕事しなさいよね! 自分で考えて動かないといつまで経っても成長できないわよ!」
「えぇ?!」
⋯⋯終わった。
まさか物語に逆らって本当に殺してしまったとは。
白雪と結ばれるはずの王子どうすんのよ。
この国どうすんのよ。
私が治めるの? 無理じゃね?
私は美貌だけでここまでのし上がって来たのよ? 国ひとつ動かせる教養があるわけないじゃない。
馬鹿な暴君として民に反乱起こされて粛清されるオチが見えるわ。
あ、これも死亡エンドね。
がっくり項垂れて涙を流す私に、戸惑った狩人が声をかけてきた。
「あの⋯⋯実はこの心臓は猪のものでして⋯⋯白雪姫は森の奥に置いて参りました。おそらく、まだ生きておられます⋯⋯」
「ナイス! あなたできる部下だったのね!」
素早く外套を羽織ると護身用の武器を持って駆け出す。
「えっ、女王陛下! どちらへ?!」
「白雪を迎えに行くに決まってるでしょ!」
白雪が生きているとなればこっちのものだ。小人たちの家に行かれる前に保護して連れ戻す。
白雪を取り戻せば、死亡エンドは避けられる。
まってて白雪、そしてこの国を頼む!
私は馬に乗って森へと入って行った。
「きゃあっ」
しばらく馬を走らせると、どこからか女の子の悲鳴が聞こえた。
⋯⋯白雪!
この鈴が鳴るような美しい声は白雪に違いない。切羽詰まったような悲鳴だった。何があったの?!
急いで声の方向に馬を向かわせる。
「白雪!」
「え⋯⋯? お義母さま⋯⋯?」
そこには、美しい七歳の少女白雪と、その白雪を取り囲む三匹の狼がいた。
獲物だとでも認識しているのか、グルグルと唸りながら白雪ににじり寄る狼たち。
白雪は木の棒を構えて応戦しようとしているが、恐怖からか及び腰になっている。ここままでは白雪が狼の餌食になってしまう。
そんなの、ダメだ!
「――――っ! 私の可愛い白雪にっ、何やってんだー!」
ぶんっと持ってきた猟銃を振り回す。
狼と白雪の間に入り、唸る狼たちから白雪を隠した。
猟銃を構える。
構えるのはいいが、実は私⋯⋯撃ち方知らない。
城を出る時咄嗟に掴んで持ってきたはいいが、猟銃なんて撃ったことない。女王がそんなの扱えると思うなよ。
それでも牽制にぐらいはなるかと、狼たちを睨みつけた。
狼たちと睨み合うこと数秒。私にとってはもっと長い時間そうしていたような気がするが、実際にはたかが数秒だ。
近くでパァン! と大きな音がした。猟銃が放たれる発砲音だろう。引き金を引いたのは私ではない。
その音に驚いた狼たちは、そのまま去って行ってくれた。
茂みから先程の狩人が顔を出した。私を追いかけて来てくれたみたいだ。先程の発砲音は彼の持つ銃から放たれたものらしい。
狩人の評価を訂正。彼は超仕事できる奴だ。
ホッと気を抜くと、後ろでドサッと音がした。
「白雪っ! 大丈夫? 怪我はない?」
地面に座り込んだ白雪を上から下まで観察する。⋯⋯怪我はなさそう。
どうやら緊張状態から解放されて腰が抜けたみたいだ。
「⋯⋯ごめんなさい、白雪。怖かったわよね」
「えっ? お義母さま?!」
まだ少し震える白雪を優しく抱きしめる。
怖い思いをさせてしまった。森に一人で放置されて、狼たちに襲われて。いつも美しい白い肌だけれど、今の白雪の顔は青白いという表現が正しいだろう。
「白雪、今までごめんなさい。酷いことをしてしまったと思っているわ。あなたの美しさに嫉妬して下女のように扱ったり、追い出したりして。私、やっと気づいたの。私にはあなたが必要なの。城に戻って来てくれないかしら?」
「お義母さま⋯⋯」
なるべく優しく、白雪の黒く艶やかな髪を撫でる。
「これからは、あなたと本当の母娘の関係を築いていきたいと思っているの。最初は私を信じられないかもしれない。当然よね、信じなくてもいいの。でも私は諦めないから、あなたが信じてもいいと思ってくれるように、努力するから、だから、少しだけでもいいから、歩み寄ってくれると嬉しいわ」
「⋯⋯」
「一緒に城に戻ってくれる?」
「⋯⋯はい」
白雪はまだ戸惑った顔のままだけど、一緒に戻ってくれると言われてほんの少し安堵する。
「帰りましょうか」
微笑んで白雪に手を差し出すと、白い雪のような肌にほんのり赤みがさしたように見えた。
「あの⋯⋯お義母さま」
「ん? 何かしら?」
白雪はもじもじしながら視線を彷徨わせ、胸の前で手を組むと小さく言った。
「もし、よろしければ⋯⋯またぎゅってしてもらってもいいですか?」
「あら。ハグが気に入ったの?」
こくり、とゆっくり頷く白雪。
「なんだか温かくて、ふわーっと幸せな気持ちになったのです。⋯⋯もっと、して欲しいです」
何この可愛い生き物⋯⋯!!
潤んだ瞳で見上げてくる世界一の美少女。して欲しいと言いつつ少し不安げに下がっている可愛い眉毛も、ほんのり上気した頬も、少し開いた赤い唇も、全てがツボで、キューンと胸につき刺さった。
「いくらでもしてあげるっ!」
白雪をぎゅうーっと抱きしめる。
可愛すぎて勢いよく抱きしめてしまったので、苦しませてしまったんじゃないかと思ったが、白雪は嬉しそうに笑っていた。
⋯⋯白雪が私にこんな穏やかに笑ってくれたの、初めてかもしれない。
本当に、今までの私は何をやっていたのか。白雪の美しさに嫉妬するばかりで、白雪のことをちゃんと見ていなかった。育児放棄もいいところだ。
この子はまだ七歳の子どもなんだ。
母親は早くに亡くなってしまって、父親は国王の仕事の忙しさであまり構ってもらえず、後妻としてやってきた継母にはいじめられた。
白雪は寂しかったのかもしれない。本当は、誰かの温もりを求めていたのかもしれない。
私が少しでも白雪も心を癒すことができるのならば、ハグくらいいくらでもしてあげる。私が前世で散々味わった、温かい普通の家庭をこの子にも与えてあげたい。
そのうち、美しく成長した白雪には、たくさんの王子様からの求婚があるのだろうから、それまでは、母親として最大限の愛情をこの子に注いであげよう。
そう、心に決めた。
◇◇◇
――――十年後。
「リディ、ハグして?」
白雪は今年十七歳になった。美しく成長した白雪には多くの結婚の申し込みが来ているのだが、今のところ全て断ってしまっている。
「⋯⋯白雪。『リディ』じゃなくて、『お義母さま』と呼んでちょうだい。それから、大きくなったのだから、そろそろハグも卒業しない?」
あれから、私と白雪はよく一緒に過ごすようになった。いろんな事を話して、一緒に遊んで、一緒に勉強もした。
最初はまだ緊張があった白雪も、こうして躊躇いなくハグを強請ってくれる程に心を開いてくれた。信頼を積み重ねてくれた。
ちょっと信頼積み重ね過ぎて、最近は『一緒に寝よう』とか『一緒にお風呂入ろう』とか言ってくるので、さすがにそれは断っている。
白雪は臣下や民たちの信頼も得ている。世界一の美貌と賢さを兼ね備えた白雪は、将来この国を治める者としての支持率が高い。
二年前に成人もしたし、もう立派な大人だ。
だから、そろそろ母親の愛情ばかり求めてくるのは終わりにしてもいいと思うの。
「私はリディとのハグが好きなので、卒業なんてしませんよ。リディも『いくらでもしてあげる』って言ってくれましたよね?」
「いや、それはあなたが七歳の頃の話で⋯⋯」
白雪は本当に大きくなった。
身長はとっくに私を超えているし、十二歳頃から始めた剣術により体も鍛えられてほどよい筋肉がついている。
一度、長くて艶やかな黒髪を短く切ってしまって、私が「綺麗だったのにもったいない!」と嘆いたので、今は少し伸ばして後ろでひとつに纏められている。
「幼い頃だろうが何だろうが、言質は取ってますから。ほら、逃げないでください」
「それは⋯⋯きゃっ」
少しずつ距離を取っていたのに、手を引かれて白雪の腕の中に入れられた。すっぽりと。
一見細身に見える白雪だけど、私はもう力では敵わない。白雪がハグを求めてくる度に抵抗してみるのだが、力強く抱きしめられて全く抜け出せないのだ。
「リディ、可愛い」
「〜〜〜っ!」
耳元で囁かれる低い声に私が弱いこともきっと知ってる。知っててわざとやっている。
「ねぇ、リディ。いつになったら私との結婚を承諾してくれるんですか?」
「承諾なんてしないわよ! あなたと私は親子! 親子で結婚はしません!」
「血の繋がりは無いから大丈夫ですよ」
「そういう問題じゃないのよ!」
二年前、白雪が成人した頃くらいから、私は白雪に結婚を迫られている。
わけわからんと思うでしょう。私もそう思う。
気づいているかもしれないけれど、一応言っておくね。
――――白雪は男だった。
男の娘だったのだ。
この国の王族の習わしで、男児は十二歳になるまで姫として過ごすというものがあるらしい。
幼い頃の暗殺を避ける為だとか、多くの視点を持てるようになる為だとか言われているが、本当の理由は知らない。
とりあえず、男児として生を受けた白雪はその習わしにより、ドレスを着て、女性の仕草を真似て生きていたのだ。
そして十二歳の誕生日に解放され、男性として生きはじめた。
白雪が美しい黒髪をバッサリ切って、ジャケットにトラウザーズという格好で現れた時の私のマヌケ顔はこの国の歴史に刻まれるレベルだ。
確かに『美しい』って表現は男性にも使うけどね? でも白雪姫よ? 女の子だと思うじゃない?
まさか、世界一美しい男の子だったなんて。
今や白雪は多くの女の子が憧れる完璧な王太子だ。美しすぎる甘いマスクも魅力的だが、王太子としての国を動かす采配も素晴らしい。私はまだ女王をやっているが、ほとんど彼の手を借りている。
社交的で紳士的な彼の唯一の欠点は、同年代の若いご令嬢には見向きもせずに、継母に結婚を迫っている点だろうか。
⋯⋯どこで教育間違えた。
「では、何が問題だと言うんです?」
「⋯⋯法律的に! 親子で結婚はできません!」
「大丈夫ですよ。リディは未亡人になって一度出家しているので、戸籍上は親子から外れています」
「そうなの?! 出家した覚えなんてないよ?!」
「したでしょう。一日修道女体験」
「?!」
アレか?
白雪に「民の生活を知る一環で、一日だけ修道女になってきてください」って言われて、「わかったー」と修道女体験をしたやつか?
あれ出家だったの?!
「他に問題は?」
「えっと⋯⋯私はもう二十七歳よ? おばさんよ? あなたのお相手はもっと若い子がいいと思うの!」
「リディはいつまで経っても若くて美しいままですよ。それに、リディがいくら歳をとっても私はあなた以外には魅力を感じません。⋯⋯なので特に問題ありませんね。他には?」
「えっ。⋯⋯えっと⋯⋯倫理的に? 倫理さんが『良くない』って言ってる」
「なるほど。その『倫理さん』とやらを説得してみせましょう。どこにいますか?」
「どこ?! えっ、私の頭の中⋯⋯?」
「では、リディを説得できればいいんですね。分かりました」
「待って、待って! 何で顔を近づけるの?!」
白雪の美しい顔が近づいてきたので、手で押し返す。
「⋯⋯キスでもすれば頷いてくれるかと思いまして」
「ダメに決まってるでしょう?! ちゃんと口で説得しなさいよ!」
「はい。だから口で⋯⋯」
「シャラップ!」
本当に、どうしてこうなったのか。
可愛くて可憐な美少女を育てていると思っていたのに、いつの間にか狼になっていた。
その狼は私に狙いを定めたまま、食らいつくタイミングを狙っている。
「リディは焦らすのが好きですね。しょうがないからもう少し待ってあげますよ」
「っ!」
手の甲に口付けられて真っ赤になる私は、もう既に食べられかけているのかもしれないが。
⋯⋯白雪姫の継母に転生したと思ったけれど、白雪は男だし、小人はいつの間にか白雪に忠誠を誓っているし、隣国の王子とは良い友人関係だし⋯⋯継母に結婚を迫ってくるし。
この世界は、私の知っている『白雪姫』ではなかったのかもしれない。
結局本編に出てこなかった継母と白雪の本名。
継母 リューリラディ・ヴィー・エルカランツェ
白雪 スノーホワイト・ロッソ・エルカランツェ
お読みいただきありがとうございました!