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桜子さんのショートショート

泣き虫王子様とマンドラゴラ

作者: 秋の桜子

 優しい白の魔法満ちる国、桃色水晶宮と称される王宮の宝物庫の中で、最も大切にされている逸品をお教え致しましょう、それは。




挿絵(By みてみん)

 フォト提供☆天理 妙我様


 まことに小さな小さなマンドラゴラでございます。これから語るは、その小さきマンドラゴラに纏わる逸話で御座います。




 ――、セリアーヌちゃん!どうしよう!ウワァアン!


 わたくしの婚約者であり、この国の嫡子でもあらせられる殿下が情けなくも泣きついて来ましてよ。王宮に与えられているわたくしの部屋で、貴婦人の嗜みのひとつ、刺繍をしていた時ですの。


「どうしたのですか?男たるもの、むやみやたらに泣いてはいけません!泣くのは、いち日1回になさいませ」


「でも、でもね。ウワァアン。君と婚約破棄する事になってしまった。・゜・(ノ∀`)・゜・。うわぁぁん」


 は?何を言っておられるの、婚約破棄等と一体誰が吹き込んだのかしら。侍女達に下がるよう指示を出します。二人きりになった、わたくしと殿下。


「うぇぇぇん。・゜・(ノ∀`)・゜・。、セリアーヌちゃん、僕はもうだめなのぉぉ」


 シクシクお泣きになられる殿下。ふう。わたくしの使命はこの御方を、いっぱしの殿方に育て上げる事でしてよ。国王陛下に()()()頼みこまれてますの。


「すまぬな、亡くなった王妃がやたら甘やかし育ててしまった故」


「いえ、少しばかりよくお泣きになられるお癖があられるだけで、お心根はお優しく、どのような人々にも寛大であられる殿下は、太平の世である今、良き国王になられると思っておりますの」


 摂政家の長女として生まれたわたくし。本来ならば家を継ぐ立場でしたが、わたくしの気性を見込んだ陛下から、是非にと望まれたこの婚約。


 国の為、人民の為にわたくしは殿下を育てなくてはいけません!放って置いたら、殿下というだけで寄付く、あわよくば令嬢共に骨の髄迄、食い尽くされましてよ。そうなれば国家の平安が……、王室の乱れは国の乱れ。


 乱世が再び来るやもしれません。


「さあ、涙をお拭きになって、どうされたのですか?確か今日は街に視察に出られた筈……、可哀想なマッチ売りの少女に出会ったのですか?それとも、意地悪な継母が娘を殺すためにグツグツと鍋の前で、毒リンゴを仕込む現場に出逢われたのですか?それとも、嫁ぎ先の人食い女の義母が若い嫁と子供を食べようとして、息子に見つかりムカデや蛇が蠢いてる盥に飛び込んだ所を見てしまったとか……、狼の腹を切り裂き岩を詰め込んだ話を聞かれたとか、それとも真っ赤に焼けた鉄の靴を……」


「セリアーヌちゃん!怖い。・゜・(ノ∀`)・゜・。、そんな事あるの?だめだよ、みんな仲良くしなくちゃ、うん」


 わたくしが差し出した絹の手巾(ハンケチ)を受けとられると、天使の様な蒼い瞳を宿す目元を拭かれます。うふ、可愛いですわ。


 くるくるとした金の巻き毛、きらきらした蒼い瞳、薔薇色の頬をした殿下は、そんじょそこらの女達よりも可愛らしく、愛らしいお顔をされてますの。


「先程婚約破棄とか仰られておられましたが、わたくしは殿下に何か失礼な事を?至らぬ事が御座いましたら、ちゃんとお話されて下さいませ」


「ふぐ……、・゜・(ノ∀`)・゜・。僕はセリアーヌちゃん相応しく無いからぁぁ!無くなっちゃったからぁぁ、変な事になっちゃったからぁ、うわぁぁん!」


 赤いベルベットの絨毯の上に突っ伏された殿下。わたくしは銀の針刺す手を止めると、ほら、お立ちになってと、椅子から立ち上がり彼の肩に手をかけようとした時。


「あら?殿下……、おつむりに何か生えてましてよ」


「はう!見ないで!」


 慌ててお身体を起こされ、手でお隠しになられましたが、わたくしはしかと目に致しましたわ!


「なぜおつむりに『草』が生えてますの?」


 くるくる巻き毛の中に、小さくぴょこんと緑の葉っぱの姿が……。


「生えてる?やっぱり、生えてる?うぇぇぇん、ウワァアン。・゜・(ノ∀`)・゜・。、どうしよう、どうしよう」


「どうして生えたのです?施療院には行かれたのですか?」


「行った……、行ったよ、そしたらこれ、『マンドラゴラ』だって魔道士に言われちゃったァァ、うわーん。・゜・(ノ∀`)・゜・。」


 はい?マンドラゴラって、引っこ抜いた時の声を聴くと死ぬって、あのマンドラゴラですの?何故おつむり等に生えたのです!わたくしは混乱しそうになる自身を、ぐっと堪えます。わたくしだけでも落ち着かないと……、


 今頃どこもかしこも大騒ぎになってますわ!きっと!


「お!落ち着いて下さいませ。どこでどうして生えたのです?セリアーヌに教えて下さいな」


「う、うん……。あのね、僕ね。街を歩いていたの。すると可哀想な物売りの子がいて……、このお薬を飲めば、強く男らしい男の中の男になるって言われて、買ったの」


「お毒味役を通さずお口にされたのですか!」


「ふぇえ!だってだって!僕、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から……、すぐ泣いちゃうから、駄目だと思っていても、可哀想なお話を聞くと直ぐ泣いちゃうから。君に立派な殿方になれって毎日言われて、大臣や父上にも。それまでは結婚式もお預けだって。だから飲んだ、あの子売らないと帰れないって言ってたし……、でも飲んだら!頭がムズムズして生えちゃった!」  


 あら……、殿下ったら。最近やたら泣くのを我慢されたり、スキあらば手を握ってこられたりされたのは、そういう事でしたの。


「泣くのを我慢しようとしていても、つい泣いちゃう。こんなんじゃだめだから、だめだから……、でも。僕もう駄目。頭に草生えてる王様なんて、他の国の王様に笑われちゃう!国の皆が嫌な思いするよ、君も嗤われてしまう。だから僕……修道院に行く。君と婚約破棄して、君は幸せになっ……、う、ウワァアン。・゜・(ノ∀`)・゜・。」


 修道院!それは阻止をせねばなりません!古今東西、坊主における云々は有名処ですもの!殿下なんてドンピシャ!一発餌食ですわ!そして思えば殿下から、『わたくしに相応しくなりたい』なんて素敵なお言葉を頂いたのは、初めてでしてよ。わたくしは、しばし考えに耽り……。


「……、とりあえず、小さいですし今のうちに抜いてしまわれたらどうかしら、幸いにして花も咲いてませんもの。雑草は小さい内だと、根のはりも浅いと庭師の話を聞いたことがありましてよ。それに叫び声を聞いても大丈夫じゃないかしら、それほど魔力を感じませんし……」


「だめだよ!もしもの事があったら……、命は大切にしないと!僕の為にそんな事を、何人たりともさせられない!」


 涙を拭うと毅然と言い放たれる殿下。まあ!凛々しいお姿を初めて拝見いたしましたわ!いつの間にかご立派になられて……。


「……、そうですわね。ならばここは、婚約者であるわたくしの出番で御座いますわ」


「ふえ?」


「わたくしの代わり等、幾らでも御座いますもの。殿下のお替りはいらっしゃいません、そのマンドラゴラを抜くのはわたくしに与えられた使命ですわ」


 しゃがみ込む殿下にわたくしは身を寄せます。突然の話に鳩が豆鉄砲食らった様な殿下。


「ですから、コレはわたくしが抜きましょう!」


「ええ!ダメダメ!そんな事させられない!君が居なくなったら僕!僕……死んでしまう、ウワァアン。・゜・(ノ∀`)・゜・。」


 ジタバタされる殿下の雛のような頭をぐっと、胸元に引き寄せ抱え込みます。


 ほえぇぇ……と殿下の腑抜けた様なお声が……、ハッ!なんとまぁ!とてつもなく、はしたない事になっておりますが、背に腹は変えられません!わたくしは殿下のお顔が谷間に密着という事実を気にせず、そのままに空いた手を緑のそれに伸ばした時!


「きゃ!殿下!な何を!」


 ウワァアン。・゜・(ノ∀`)・゜・。!そんなの、ダメダメ!僕が抜く!抜くぅ!。・゜・(ノ∀`)・゜・。


 下から殿下のお手が!そして泣き声一発とでも言いましょうか、なんとご自分でそれを!


 シュッポーン!


『ギャアァァァ』


 と、微かに聞こえたような気が……、でもそれが上がると同時に、狼狽えたわたくしは貴婦人たる嗜みを忘れ果て。


「キヤァァァァ!殿下かぁぁ!」


 それをかき消すかの様な悲鳴を上げてしまい、あろう事か、殿下ァァ!とそのままぎゅうと、抱き締めてしまいましたの。平常時に大声など出さぬ、わたくしのソレに驚いたのか、扉の外に控えていた侍女や衛兵が慌てて入って来ました。


「殿下!セリアーヌ様!」


「セリアーヌちゃぁぁん!これで死んでも僕は幸せ!君を守れたから、ウワァアン。・゜・(ノ∀`)・゜・。」


 皆の声と混ざり、大泣きの殿下のお声が……。


「生きてらっしゃいますの!」


「うん!君の声が守ってくれた。ウワァアン。・゜・(ノ∀`)・゜・ 僕、君を危ない目にあわせたくなくて」


「殿下!わたくしを守る為にあの様な行動に!セリアーヌは嬉しゅう御座います!立派な殿方の行いでしてよ!」


「ウワァアン。・゜・(ノ∀`)・゜・。、ホント?セリアーヌちゃん。僕、僕、愛する君を守れた?あのお薬、効いたんだ!すぐ!式挙げよう!神父を呼べ!」


 ちょっぴり泣き虫な殿下ですけれど、もう立派な殿方になられましたの。わたくしも、ほんの少し涙が出てきましてよ。そんなわたくし達に。


「殿下。失礼では御座いますが、今すぐ、それは流石に無理というもの。花嫁は色々準備が入りますし、先ずは陛下にお話をしないと」


 侍女頭がニッコリ笑いつつ床に座り込むわたくし達に、先ずは立ち上がる様にと、手を差し出しながらそう言いました。




 ……、という訳でこの小さきマンドラゴラは、この国のお宝になった訳で御座います。





挿絵(By みてみん)


 フォト提供☆天理 妙我様

『ギァアァァァ!』(微少な声)





 お二人は泣いたり笑ったりしつつ、末永く幸せに国を治めましたとさ。


 おわり。


天理妙我様の作品フォトを使用しております。多作な天理妙我様の中で……これにしよう!


三枚のお札

作者:天理妙我様


https://ncode.syosetu.com/n3279dn/


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下ポチッとで、もう一つのマンドラゴラに出会えます i524660
― 新着の感想 ―
[良い点] フォトが作品と見事にマッチしていて良いですね!
[一言] フォトにぴったりなとてもほっこりする優しいお話ありがとうございました。
[良い点] 可愛い(笑) でも殿下何歳なんだろ セリアーヌちゃんに谷間が出来る程発育してる御年 つか、どさくさ紛れで、谷間にお顔密着!! してても気に留めないおおらかな二人(笑) お似合いです♪ 国…
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