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【短編】その他の短編

星降る夜の恋人たちへ

作者: 烏川 ハル

   

 空に星々が瞬くような、珍しく空気が澄んだ夜だった。

 街外れにある、小高い緑の丘。幼き頃より何度も遊んだその場所に、少年と少女が登っていく。

 ペアルックではないものの、似たようなスポーティーな服装で、色もライトブラウン系統で揃えられていた。


 やがて。

 開けた頂上に辿り着いた二人は、服が汚れることも気にせず、草地の広場に寝そべった。

 少年はポケットからパーソナル端末――携帯用の小型電子機器――を取り出すと、二人の間に置いて、スピーカーをオンにする。本来、多機能であるはずの機械は今、小さなミュージックボックスと化していた。

「今日は雑音も入らず、音が澄んで聞こえるわね……」

「ああ。音波の状態が良好なんだろうな」

 そんな言葉を交わしながら、二人は、ギュッと手を繋ぐ。何があっても決して離さない、と言わんばかりの、固い結び付きだった。


 互いに見つめ合ってから、示し合わせたかのようなタイミングで、二人揃って空に目を向ける。

 パーソナル端末から流れる甘いメロディをBGMにして、しばらくの間、黙って夜空を見上げていたが……。

 先に口を開いたのは、少女の方だった。

「これ、何の曲?」

「『星降る夜の恋人たちへ』ってタイトルだよ。地球時代に流行はやった、クラシックな歌謡曲らしい」

「地球時代? ずいぶんと古いのね。でも……」

 少女はクスッと、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「……まるで、今の私たちみたいだね。『星降る夜の恋人たち』だなんて」

「ハハハ……。だけど、地球時代だからなあ。『星降る夜』の意味も、今とは全く違ってたらしいぜ」

「うん、聞いたことあるわ。ロマンチックなニュアンスだったのでしょう?」

 少女の口調が、少しだけ憂いを帯びたものに変わる。

 無意識のうちに彼女は、少年と繋いだその手に、いっそうの力を込めていた。


 地球から人類が飛び出して数百年。

 数多くの惑星が入植可能となり、それぞれの惑星が一つの『国』として扱われる時代。

 入植惑星同士で起きた紛争が広がり、いくつかの星系では、星間戦争が勃発していた。

 少年と少女が暮らす惑星も、その一つ。隣の星から隕石ミサイルが撃ち込まれ、戦々恐々とする毎日。この星の人々にとって、流れ星は、虐殺の象徴に過ぎなかった。


「見て。落ちてくるわ……」

「ああ。僕たちは、最後まで一緒だよ」

 若い二人と共に、今夜もまた、一つの街が消滅する。

 いつの時代も戦争は、人々の幸せを、次々と奪っていくのだった……。




(「星降る夜の恋人たちへ」完)

   

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― 新着の感想 ―
[一言] ありま氷炎様の「月餅企画」から拝読させていただきました。 切ないラストでしたが、せめて二人が次は平和な世界に生まれますように。
[一言] ネタバレありの感想です。未読の方はご注意ください。 初めて読んだときと、2回目に読んだときとでは物語の印象ががらりとかわることに驚きました。 最初は都会に住む初々しいカップルの夜のデート…
[良い点] 儚い未来のお話。胸がきゅっと締め付けられる最後でした。 [一言] 未来だという時代設定を意識させる描写がお見事でした。紛争時代でも、人と人は想いを繋ぐ。一方で血で血を洗う。だからよけいにラ…
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