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初恋の代償

作者: どんC
掲載日:2020/01/19

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。


 やっと分かったの。

 私が愛しているのは貴方じゃない。


 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 貴方をあの人だと勘違いして。

 貴方の事を愛していると勘違いして。

 貴方に纏わりついて。

 貴方に縋りついて。

 ごめんなさい。


 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 あの人もあなたと同じ黒い髪だった。

 だから勘違いしてしまった。

 貴方をあの人だと。

 でも……

 今だから分かる。

 あの人の瞳の色は……貴方の青い瞳に少し茶色が混じっている。

 アースアイ。

 この星の神の瞳。


 ごめんなさい。

 ごめんなさい。


 雨の中、血だらけの私の婚約者は。

 私にただひたすら謝罪を繰り返してその瞳を閉じた。





 その日は雨だった。

 初夏とはいえ少し肌寒い日だった。

 町の外れに在る孤児院の慰問を彼女はとても楽しみにしていて。

 中止にする事が出来なかった。



 彼女は女に刺された。

 孤児院の門の所で傘を差した修道女に混じって女が立っていた。



 出迎えの修道女達。

 私も護衛も修道服を着たその女を修道女シスターだと思った。

 見習いの修道女はベールを被っているのだ。

 だから気を抜いていた。

 まさかそのシスターがそんな事をするなんて。

 誰も思っても居なかった。

 直ぐにその女は周りの護衛に取り押さえられた。

 泥まみれにれになった女は。

 すぐにベールを剥がされ素顔を晒す。


「 ‼ 」


 誰も声を上げる事が出来なかった。

 私も護衛も婚約者も知っている女だった。

 彼女(婚約者)を刺したのは彼女の義理の妹だった。


『私の方がエルリック様にふさわしいわ‼』


『姉様はエルリック様を愛していないわ‼』


『私はエルリック様を愛しているのよ‼』


『こんな事間違っている‼』


『間違いは正さねばならないわ‼』


『平凡なつまらない女が王妃になるなんてこの国は亡びるわ‼』


 プラチナブロンドにアメジストの瞳。

 皆が天使だ、妖精だと称える美貌を醜く歪めその女は喚く。

 姉を殺したことに一遍の罪悪感も無いようだ。

 悍ましい化け物。


『私は某国の王女の血を引いて居るのよ‼』


『ただの伯爵家令嬢の姉とは違うのよ‼』


『エルリック様は私を愛している。私と結婚するべきなのよ‼』


『私は両国の架け橋になれるわ』


 牢の中咎人は醜く喚き続ける。





「私は昔海の向こうの国に留学していました」


 ポツリと婚約者の父親だった伯爵が語る。


「その国の第三王女はプラチナブロンドでアメジストの瞳のそれはそれは美しい姫君でしたが、お身体が弱く儚く身罷られました。今にして思えば私の初恋だったのでしょう」


 伯爵は歪んだ笑みを浮かべる。


「私は荒れました。博打に喧嘩に明け暮れ。父は直ぐに私を国に連れ戻し幼馴染みの令嬢と結婚させました。憑き物が落ちた様に私は正気に返り。私達の生活は政略結婚ではありましたが落ち着いたものでした。娘が生まれました。ライトブラウンの髪に琥珀色の妻に似たそれなりに美しく。優しい娘でした」


「私はある仮面舞踏会で噂を聞きました。かの国の亡くなられた王女にそっくりな娘が春を売っていると」


「あの国ではプラチナブロンドもアメジストの瞳も珍しい物ではありませんが、この国ではとても珍しい物でした。私は彼女の娼館を一度だけ尋ねました」


「酷い物でした」


「埃っぽい部屋はけばけばしく。品性の欠片もない女でした。でも……王女と同じ髪と瞳をしていました。尤も王女に比べると色が薄かったのですが」


「私は彼女を抱きませんでした。ただ少し彼女と話して感傷にふけりました」


「亡くなった姫に似た不幸な少女。あたりまえですが、彼女は私の姫では無かった」


「何年かしてその娼婦が自分とそっくりな子供を産んで亡くなったと風の噂で聞いたのです」


「私はその赤ん坊を引き取りました。妻も両親も猛反対でしたが、私はおしきりその子を引き取り離れの屋敷に住まわせました。社交界に出すつもりはなく裕福な商人の妻にするつもりでした。初恋の人に似たその娘が幸せになれるように。私は望みました」


「ただ一度だけデビュタントだけは許しましたそれが間違いの元だった」


「そこであの子は王太子に一目惚れしたのです。叶わぬ恋。まるで私と王女様との恋」


「王太子の妻の座を狙う者たちがあの哀れな娼婦の娘にある事無い事吹き込んだのです」


「曰く彼女は某国の亡くなられた姫と私との娘であると」


「姉は殿下を愛していない。王太子様が可哀想であると」


「王太子も貴女の事が好きなのだと」


「これは運命の恋なのだと」


「もともとあの娘は頭が良くなかった。真実を告げても信じなかった。私のせいだ。初恋の代償に私は実の娘を失った」




 弔いの鐘が鳴る。

 まるでむせび泣いて居るようだ。

 私には双子の兄がいた。

 御家騒動に為るからと私は隠されて育てられた。

 本当に私達はそっくりで。

 ただ瞳の色だけが少し違っていた。

 兄の瞳は青にほんのわずかだけ茶色が混じっていた。

 かなり覗き込まなければ解らない。

 アースアイ。

 神と同じ瞳。



 兄は貴族派のメイドに毒を盛られ亡くなった。

 私は兄に成り代わり王太子として生きた。

 私は兄には悪いと思ったが。

 嬉しかった。

 兄の婚約者が好きだった。

 彼女は派手な美人ではなかったが。

 彼女の側にいると、とても癒された。

 このまま彼女と結婚しこの国を支えて行こうと決意していた。


 婚約者には妹がいた。

 血は繋がらない。娼婦の娘だ。

 噂では伯爵の娘と言われるが。

 彼女は誰にも似ていなかった。

 自由で奔放でどこか浮き世離れしていて。

 彼女の周りの男達は彼女の事を天使だ妖精だと褒め称えていたが。

 私に言わせればただの頭の足りない娘だった。

 貴族として生きることはできないとすぐに分かった。

 彼女の母親とそっくりだった。

 男達にちやほやされ股を開く。

 さっさと毒殺しておけばよかったのだ。


 伯爵に苦言を呈したことがあった。

 伯爵はそうそうに田舎の領地の金持ちの商家に娘を嫁がせる準備をした。

 その矢先の凶行だった。


 弔いの鐘が鳴る。

 まるですすり泣くような雨が降っている。

 私は婚約者の棺に薔薇の花を手向ける。

 薔薇の花の中。白い結婚衣装を着た彼女はまるで此れから兄の元に嫁ぐ花嫁のようだ。

 兄と二人で天国で幸せに暮らしてくれるといいなと思う。



 伯爵は妻と離婚した。

 婚約者の母親は修道院に入り後の人生を娘の為に祈り暮らすそうだ。

 伯爵は爵位を弟に譲ると国を出た。

 風の噂ではとある国の姫様の墓前で自殺した男がいたと言う。

 どうでもいい事だ。



 姉を殺した女は広場で処刑された。

 最悪の宝石刑だ。

 広場に描かれた魔法陣で黒い宝石に変えられると。

 火山に運ばれてマグマの中に棄てられる。

 宝石の中、意識も痛みもある。

 あの女は未来永劫業火に焼かれるのだ。

 どうでもいい事だ。




 私は彼女の墓に花を添える。

 そういえば彼女の好きな花を知らない。

 ずっとずっと一緒に生きていくのだから。

 結婚式のブーケは彼女の好きな花にしたいと、彼女の母親に言った事があった。

 彼女の好きな花を知るのは結婚式のお楽しみにすればいいと、彼女の母親は笑っていた。

 結局私は知ることはなかった。

 私の初恋は後悔ばかりだ。

 雨が降ってきた。

 私の頬を流れるのは雨だったのか。

 涙だったのか。





                   ~ Fin ~





 ***************************

 2020/1/19 『小説家になろう』 どんC

 ***************************



 ~ 人物紹介 ~


 ★ 王太子の婚約者 

 血の繋がらない妹に刺され、王太子に抱かれた時に初めて彼が最初の王太子ではないことに気が付く。

 出血のため死亡。


 ★ 王太子

 兄は貴族派に毒殺される。双子は不吉と隠されて育てられたが。兄に代わり王太子になる。

 婚約者を不器用ながらも愛していた。


 ★ 血の繋がらない主人公の妹

 自分が某国の姫と疑わず。王太子は自分を愛していると勘違いして平民派にいいように利用され姉を殺して宝石刑にされる。


 ★ 主人公の父親(伯爵)

 某国の姫に恋をしたが告白する前に姫は病死してしまう。

 姫に似た娼婦の産んだ娘を引き取り。病死した姫や娼婦の母親の代わりに幸せにしようとしたが。

 恩を仇で返す馬鹿娘だったため姉を殺す。

 妻には離縁され。爵位は弟に譲り国を出る。

 某国の姫の墓の前で自殺したのが彼だったのかは分からない。


 ★ 主人公の母親。

 早めに夫を見限り。ただ娘の幸せを願う。仮面夫婦。

 娘が亡くなった後は修道院に入り娘の冥福を祈る。


 ★ 某国の姫

 全く主人公の父親に気づいていない。

 側仕えの騎士が好きだった。告白前に亡くなる。

 墓の前で全く知らない男が自殺して迷惑この上ない。


 ★ 咎人

 王太子を毒殺したり妹をそそのかし殺させた貴族派や平民派は事故や病死で表向き亡くなっているが。

 馬鹿娘と同じ宝石刑でマグマの中で地獄の業火に焼かれている。





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― 新着の感想 ―
[一言] 死んだ令嬢は抱かれるまで結婚したのが弟だと気付かなかったのだけど、本当に愛していたらしぐさや癖で気付くんじゃ?と思ってしまうけれど、弟だと言わない王家も酷いね。 まぁ父親と何故か引き取った…
[一言] >墓の前で全く知らない男が自殺して迷惑この上ない。 ホント、それな。
[気になる点] >結局私は知る子田はなかった。 “子田”とは何なのでしょうか? [一言] 誰が悪かったのかと言われると、婚約者の義妹が1番悪いのですが、婚約者父も悪いですよね。 それにしても、婚約…
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