第4部
7話
今日は入部初めての屋外活動だった。
「今日のテーマは花だ。それぞれ
好きな花を自分らしく撮って来てくれ。」
「花かぁ…。この季節だと桜とか
チューリップかな?陽乃はどうする?」
「私撮りたい花が有るんだ。」
「えー!なになに?教えてよ!」
「撮ってからのお楽しみだよ。」
乃ノ香とは、すっかり仲良くなっていた。
同じクラスという事もあり、クラス内で
孤立していた私に積極的に
話しかけてくれるようになり、今では
毎日お弁当を食べたり、一緒に
遊びに行く仲になっていた。
(春の花といえば、
私の好きなあの花が咲いてるはずだわ。
暁斗にも帰ったら見せてあげようかな。)
私は撮影したい花がもう決まっていた。
ハルジオンだ。
西園寺家の庭にも咲いており、
この季節になるといつも儚げに
揺れるハルジオンに思いを馳せていた。
(この辺に確か、ハルジオンが
あるはずなんだけど…。
あった!撮影してみよう。)
「カシャッ!カシャッ!」
私は夢中になって、ハルジオンを
撮り続けた。
気付くと集合時間が迫っていた。
(いけない!もうこんな時間だ。
でも、夢中になって撮影してたなぁ。
やっぱり好きな物を撮るって
凄く楽しいよね!)
「おーい!2人とも遅いぞ。」
「部長、ごめんなさい!
遅くなりました。」
どうやら乃ノ香も夢中になって
撮影してた様だ。
「じゃあ今日撮った写真は
評論会の日に見せ合うぞ。」
「陽乃は何撮ったのかなー?
見るのが楽しみ!」
「私も乃ノ香が何撮ったのか、
楽しみにしてるよ。」
私は部活を終えて帰宅した。
「お帰りなさいませ。お嬢様。」
「暁斗、貴方に見て欲しい写真があるの。
見てくれるかしら?」
「勿論でございます。どれどれ…。
この花は!」
「そう。ハルジオンなの。綺麗でしょ。
頑張って撮ったつもりだけど、どうかな?」
「お嬢様はハルジオンがお好きで
いらっしゃいましたものね。
お嬢様のハルジオンに対する好きな気持ちや
感情が溢れている良い写真だと思います。」
「暁斗、ありがとう。
私らしい写真が撮れる様になって
嬉しいわ。」
暁斗には褒められたが、問題は評論会だ。
2人がこの写真をどう判断してくれるか、
ドキドキしていた。
そして、評論会の日を迎えた。
「さぁ。今日は評論会だ。まずは
2人の写真を見せてくれ。」
「私は桜を撮りました!
春といえば桜かなって思いまして。
私自身も桜が好きなので、撮ってみました。」
「ふむふむ。桜の色鮮やかさや
繊細な様子が伝わってくるね。
良い写真だ。」
「やった!」
(乃ノ香は褒められている…。
私はどうなるんだろう。)
「お次は陽乃ちゃんか。これは…。
ハルジオンかな?意外な選択だね。」
「私がハルジオンを撮ったのは
西園寺家の庭にも咲いている花で、
毎年庭に咲くとハルジオンの儚げに
揺れる姿に思いを馳せるんです。」
「ほう。この写真からは
陽乃ちゃんの思いや感情が凄く
伝わってくる良い写真だね。
まだカメラを握って日が浅いが、
良い写真を撮る様になったね。」
「部長、ありがとうございます!」
(やった!部長にも褒められた…。
良かったぁ。安心したかな。)
「陽乃がハルジオンを撮ってくるとは
予想外だったよ!凄く良い写真だね!
因みに部長は何を撮ったんですか?」
「タンポポだ。」
「タンポポ⁉︎
陽乃より意外過ぎますよ!」
「部長はどうしてタンポポを
撮られたんですか?」
「タンポポは英語名で
ダンデライオンと言って、
その英語名も気に入ってるし、花言葉の
真心の愛や別離と言った正反対の意味を
持つ所も気に入っている。
良く花占いでタンポポを使うだろう?
あれはそういった花言葉が
込められているんだ。」
「へー!タンポポって面白いんですね。
小さい、足元に生えている花でも
そうやって見方を変えると印象が
変わりますよね!」
(部長の言ってる事、とても素敵だな。
真心の愛や別離か…。何か私には
まだ無縁の世界かな。)
しかし、私の思いと裏腹に
タンポポの花言葉である
真心の愛と別離は身近な物と
なりつつあった。
8話
写真部に入って4ヶ月が経った。
屋外活動や評論会で部員同士で
切磋琢磨し、私は写真に対する
自信を持ち始めていた。
4月の評論会から部長から
何かと声を掛けてくれることが
多くなっていた。
私は単に後輩として、
親しみを持って接してくれて
いるものだと思っていた。
そんな矢先、夏休みが訪れて
撮影旅行に私達写真部は訪れていた。
撮影場所は江ノ島だ。
毎年行き先が変わるらしく、
山と海を交互に行っているが
今年は海の年という事で、
部員同士で意見を出し合い、
水族館や海がある江ノ島に
決めたのだった。
「海だー!水族館だー!」
「やっぱり江ノ島の海は
気持ちいいな。」
「私は海自体、初めて来ました。」
「えー!そうなんだ。
初の海はどう?綺麗でしょ!」
「本当にキラキラして綺麗ね。
素敵な旅行になりそう。」
「素敵な旅行ね…。」
「部長、何か言いました?」
「いや、何でもないよ。
まずは水族館に行こうか。」
「これが水族館…。いっぱい魚がいるね。」
「そっかぁ。水族館も初めてなのか。
今日は初めて尽くしだね!」
「さあ、2人ともこれから1時間の
撮影タイムだ。水族館の撮影は
人が多くて、水槽越しに撮影するのも
難しい。頑張って撮影してこい。」
「はーい‼︎」
「じゃあ、陽乃またねー!」
「うん!また1時間後ね。」
私は初めて来た水族館にワクワクしていた。
前日は眠れなくて暁斗に心配を
かけてしまった程だ。
恐らくだが、私は水族館や海に
来た事がない。
高校に復学するまでは
家に閉じこもりきりだったからだ。
しかし、今は写真部に入部したお陰で
外出する機会が増えており、
部長と乃ノ香にはとても感謝している。
(さて、何を撮ろうかな。
事前に予習してきたけど、ペンギンや
イルカが気になるなぁ。
水槽やショーに行ってみよう!)
私はペンギンの水槽に行った。
(これがペンギンかぁ。可愛いな!)
「おや、偶然だな。」
「あ、部長!
部長もペンギン目当てですか?」
「まあ、そんな所だな。
ペンギン、可愛いだろう。」
「はい!沢山写真撮っておきます。」
「俺はそろそろ行くよ。またな。」
「はーい。」
(ペンギンの可愛らしい姿を
一杯撮れたかな。
次はイルカショーに行ってみよう。)
イルカショーは観客で満員だった。
(あれがイルカかぁ。ちょっと遠くて
撮影しづらいけど、イルカって
賢いし芸達者だなぁ。)
「おや、また偶然会ったな。」
「部長!また会いましたね。」
「イルカショーを撮影しに来たのか?」
「はい!部長もですか?」
「そんな所だな。」
(何か行く場所で度々部長に
会ってる気がするなぁ。偶然なのかな。)
私は部長とイルカショーを観覧しつつ、
撮影に没頭した。
そして、約束時間の1時間が訪れた。
「あれ?部長と陽乃、
一緒だったんですね。」
「偶然、バッタリ会ってな。」
「ふーん…。そうですか。」
「何か言いたげだな…。」
「何でもないですよ!
次は海に行きましょう!」
水族館の次は江ノ島の海に行く事になった。
江ノ島の海は夕焼けに照らされていて
海面がキラキラした
とても美しい光景だった。
しかし、水族館での偶然だと
思っていた出来事は
部長の意図していた行動だった事を
後で知ることとなる。