第3部
※聖夜イメージ画像
5話
「まずはお嬢様の撮りたい物を
撮ってはいかがでしょうか?」
「撮りたい物か…。まずは聖夜を
撮ろうかしら。」
聖夜とは、私が5年前から
飼っている黒猫の事である。
5年前にこの子が来た事はあまり
覚えていないが、何かのきっかけで
我が家にやって来た。
「聖夜!おいで!」
「ニャァァァン」
聖夜がすり寄って来た。
「ふふっ。いつ見ても可愛い子ね。
このボタンを押せばいいのかしら?」
「そうです、お嬢様。1枚撮ってみて
ください。」
「カシャッ!」
「私が撮れた写真を見せますね。
この一枚です。」
そこには私にすり寄ってきて
安心しきっている聖夜の姿が
写っていた。
「これが写真なのね。聖夜の
可愛らしい姿が残せたわ。」
「他にも色々撮ってみましょうか。
お嬢様の大切な物とかを撮ってみては
いかがでしょうか?」
「私の大切なものと言えば…。
この聖夜の首に付けてるリボンと
幼少期から大切にしてるガラス玉かしら。
物を撮るって難しそうね。」
「お嬢様が撮りたい様に撮れば、
必ず良い作品になりますよ。」
「そうかしら…。カシャッ!
撮れたわ。どれどれ…。
あ!素敵に撮れたわ。」
「お嬢様、流石です。これから
毎日写真を撮って日常の何気ない
場面を残していきましょう!」
「暁斗…。私の為にありがとう。
写真って本当に素敵ね。こうやって、
大切な物や場面を記録出来て
思い出に残せるんですもの。
これから私はこの写真達で、
自分の人生の思い出を残していきたいわ。」
「お嬢様…。お役に立てて光栄です。
私もお嬢様に最大限、協力致します。」
こうして、私の日常は写真を
撮影する事によって私の記憶では
忘れてしまっても、写真という媒体を
使って思い出す事が少しずつ
出来るようになって来たのである。
「あぁ、そうだ。この日は私と暁斗と聖夜で
庭を歩いたわね。この日は聖夜が
ガラス玉で遊び始めてはしゃいでたわ。」
「お嬢様…。やはり私はお嬢様に
写真を撮る事を勧めて本当に良かったと
思います。こうして、お嬢様の記憶が
蘇っていく事を大変嬉しく思います。」
「そんな…。大袈裟よ。でも、写真を
撮り始めてからこうやって過去の出来事を
思い出せる様になって私も感慨深いわ。
記憶をこうした形で少しずつ取り戻す事が
出来ている事で、憂鬱だった毎日が
こんなに楽しいもの!…。そろそろ
行ってみようかしら。」
「お嬢様?」
「何でもないわ。気にしないで。」
私は写真のお陰で、毎日が楽しい物と
なって来ていた。
これも全て暁斗が私に写真を
勧めてくれたお陰だ。
しかし、暁斗がこんなに私に
良くしてくれているのに
私は暁斗には何も出来ていない事を
悩んでいた。
だからこそ、暁斗が口には出さないが
心の内で秘めている私が高校に
復学する事を考え始めていたのであった。
6話
「復学されるですって⁉︎
お嬢様、本気ですか?」
「ええ。暁斗のお陰で憂鬱だった毎日が
とても楽しい物になって来たの。
そんなきっかけを与えてくれた暁斗に
何も出来ないのが、申し訳なくて…。
だから、暁斗が願っていた復学を
してみようと思って。今の私には
写真があるもの!」
「お嬢様…。私が復学して欲しいと
気づいておられたのですね。
お嬢様にとって、写真と言う
存在がそれ程までに大きな物に
なっている事は私にとって
感銘深いです。」
「暁斗…。私頑張ってみるから
どうか見守ってて。」
「かしこまりました。ご武運を
お祈りしています。」
こうして私は高校に復学する事になった。
しかし、待ち受けていたのは
クラスメイトの冷ややかな扱いだった。
「えー。あの人誰だっけ?」
「ほら。ずっと休んでた西園寺家の
ご令嬢よ。今更来てももう高校生活の
半分以上は終わってるのにね。」
予想はしていたが、クラスメイト達の
反応は私にとって辛いものだった。
しかし、私が復学しようと思った理由の
1つが写真にあった。
写真部へと入部しようと
思っていたからだ。
「ここが写真部か…。緊張するなぁ。
コンコン。失礼します。」
「ようこそ!写真部へ!見ない顔だね。
もしかして新入部員かな?」
写真部の部室に居たのは部長であろう、
男子生徒とクラスで見かけた事のある
女子生徒の2人だけだった。
「はい。私、2年生なんですけど
今からでも入部って出来ますか?」
「写真に年齢制限なんて無いよ。
大歓迎さ!僕は部長の財前夕輝だ。」
「あれー?もしかして、同じクラスの
西園寺さん?写真部に来てくれたんだ!
私は知ってるかもしれないけど、
伊集院乃ノ香だよ。」
「お二人とも、これから
よろしくお願いします。私まだ
写真を始めたばかりなので、右も左も
分からないですが、頑張ります!」
この2人との出会いが後の高校生活を
一変する出来事となるのであった。
「早速だけど、写真部の活動を
伝えよう。写真部は週一回、
屋外活動として撮影に出かけている。
テーマを決めて写真を撮るんだ。
撮った写真は部員や顧問の中で
共有して評価し合う。良い作品が
撮れた場合は高文連に出品する事も
出来るぞ。夏休みや冬休みには
部内で課外活動として、撮影旅行に
行ったりなんかもするぞ!」
「結構、自分が予想してた以上に
良いものが撮れたり、自分では
気付かなかった意見を貰えるんだよ。
撮影旅行は毎年、とても楽しいよ!」
「何か凄くワクワクして来ました!
とても楽しみです!」
「興味を持ってくれてありがとう!
じゃあ早速明日からこの部室に
来て貰えるかな?顧問も紹介したいし。」
「分かりました!明日また来ます。」
こうして、私の復学初日は写真部に
入部した事により、楽しい物と
なったのであった。