巫行048 凶鳥
「うわああっ! 私、飛んでます! 空を飛んでいます!」
上空からダイコンの悲鳴。
彼女を空高く連れ去ったのは巨大な鷹であった。見てくれは鳥であるが、その身には夜黒き霧を纏っている。
『高すぎても見えぬな』
師が何か言った。
凶鳥は更に高く土の巫女を持ち上げると、その脚から彼女を放した。
「あの高さじゃ助からないわ!」
悲鳴を上げるダイコンの姉。
しかしダイコンは地面に埋まる事はなく、何処からともなく現れた水の塊に墜落した。ぼよんと弾んで尻餅を搗くダイコン。
『鈍臭い奴め。脚が太過ぎるのだ』
「脚は関係無いでしょうに……。ダイコンさん! 次からは土を盛り上げれば落ちずに済みますよー!」
ミクマリは落とされた巫女へと声を掛ける。
巨鳥が滑空。地面の土を飛沫の様に散らし、修行不足な方のミクマリ……姉の方のダイコンへと迫る。
「うわわ」
彼女は背を見せ、退避しようとした。
「脚に霊気を込めて後ろへ飛んで! 目を放さないで!」
ミクマリが指南するも、逃げる姉ダイコンは猛禽の爪に背中を切り裂かれてしまう。
「姉様っ!」
妹ダイコンが悲鳴を上げる。
だが、背中の紅い爪痕はゆっくりながらも塞がり始めた。
憑ルベノ水による肉体の操作は不得手でも、自身の治療程度は出来る様だ。ミクマリはほっと息を吐いた。
「戦いはあたしに任せて!」
ナツメが躍り出る。
「焼き鳥に為りなさいっ!」
無より焔結ぶは探求ノ霊性。霊気に依って生み出された火球が夜黒の鷹へと飛来する。
鳥は炎に僅かな尻込みをしたが、直ぐに弾道から退避。そのまま身を翻し巣を破壊した怨敵へと再突撃をした。
妹ダイコンは頬と腿に汗を流しはしていたものの、豊満な右脚で強く地面を踏んで霊気の籠った土壁を作り出した。
鳥はそれを見ると、回避する事もなく一層身体の邪気を濃くし、加速を掛けた。
いとも容易く砕かれる土壁。ダイコンは身を屈めて回避したものの、鳥の軌道上にはその姉が残っている。
「ミクマリ姉! 危ない!」
ナツメの警告。次の火球は直ぐに生まれたが鳥の早駆けには間に合わぬ。
姉ダイコンへ迫る鋭い猛禽の嘴。
しかし彼女は逃げずに、その太ましい腿を揺らし、足先で鳥の顔を蹴飛ばした。
凶鳥は穢れた悲鳴を上げ、鼻から血を流しながら空へと逃げる。
『意外とやるではないか。流石、太腿がダイコンなだけはある』
ミクマリは師に何か苦言を呈してやりたかったが、その通りだったので鼻息を吐いて我慢をした。
処が、強烈な一撃を放った筈の女は脚を押さえ、地面に蹲ってしまっていた。
「あ痛たた! 折れた! 治すのに時間が掛かりそう……」
「治療して差し上げましょうか?」
ミクマリが訊ねる。
「あんたの助けは要らない。あたし達だけでやる!」
ナツメが空へ火球を撃ちながら言った。当の怪我人も治療を続けながら首を振る。
「姉様、“土傀儡”をやりましょう」
ダイコンが姉の元へ駆け寄る。姉は治療を中断して頷いた。
大地借り、命吹き込むは招命ノ霊性。
地面から二人分の霊気を受けた土が盛り上がり、それは次第に大男の形を成した。
『大地の精霊を使役して傀儡とするか。あの二人、思ったよりは出来るではないか』
土人形は旋回して様子を窺う凶鳥へ向かって腕を振り、霊気の籠った土塊を投擲した。
「あたしの炎が避けられるのに当たる訳無いよ!」
ナツメの言う通り、土塊は易々と回避されてしまう。
『あれだな。糞を投げる猿を見た事がある。あれにそっくりだ』
ゲキが何か言った。
「為らば水を混ぜましょう」
姉ダイコンは霊気で川の水を操り、土人形へと混ぜ込む。
泥人形が空へ向かって茶色い飛沫を湿った音と共に噴射する。広範囲に飛び散る霊気の泥は見事に凶鳥の羽根を汚した。
「乾かして上げる!」
ナツメは両手を広げ、術に依り自身の周りに火の粉を散らして風を巻き起こす。火の渦が生まれ、泥に塗れた翼を包み込んだ。
鳥は泥が固まり自由が利かなくなったか、羽搏きを緩めると静かに降下し始める。
「好機!」
「為らば止めを!」
泥人形から水気が減らされ、代わりに土が増量される。逞しい大地の肉体は翼を奪われた鳥を捕まえ、締め上げ始めた。
「ナツメ、頼みましたよ!」
傷が治っていないのか、姉ダイコンは顔が紅潮し全身汗塗れだ。妹も疲労の色が見て取れる。それでも姉妹は両手を土人形へと翳し術の行使を続けていた。
「了解。全力でやる」
「ナツメさん、待って下さい!」
ミクマリが制止を掛けた。聞こえぬのか無視したか、ナツメの周囲から熱風が吹き出し始めた。
「あいつは死んだ筈だったのに! 村はあたしが居れば充分! 滓の癖にミサキ様に贔屓されて!」
この場に居ない巫女への怨み言か。多少の怨念を混ぜ込んだ霊気が膨れ上がり、ナツメの両掌に小さな焔が生まれる。
「くたばれ糞鳥っ!」
巫女に有るまじき罵詈と共に両手で焔が圧し出された。
玉響、森を明けの如き光が包み、小さき焔は大木程の炎蛇と化す。
炎の顎開きし蛇が土人形と共に凶鳥を呑み込んだ。
「もうっ!」
ミクマリは懐から霊気の籠った水筒を取り出すと、その水を膜としてダイコン姉妹を覆った。
――爆発。
森を揺るがす大轟音と共に、燃えた土塊と炎が辺りに飛び散った。
空には鳥達が逃げる姿が見える。ミクマリには森中の生き物が退避を始める気配が手に取る様に感ぜられた。
「会心の一撃って奴ね」
蛇を放った姿勢のまま、肩で息をしながらナツメが笑う。
「貴女、何をしたか分かってるの?」
ミクマリの震える声。彼女は目を見開いている。
「何って……焼き鳥を作ってやったのよ。どうしたの? 若しかしてあたしの術の威力に驚いて……」
言い終わらない内にナツメの目の色が変わる。
彼女の瞳に映るは燃え盛る森。
枯れ葉、凩、土傀儡に依る精霊の酷使、火術の乱発。その全てが被害を大きくしていた。
「ど、どうしよう、ミクマリ姉っ! 火事を消して!」
ナツメが雨を乞う。しかし、水術師の憔悴しきった表情が不可を示した。
「火事は私が消し止めます。森の神様に申し訳が立たないわ。川神様、この不始末は貴方の責任ですよ。支流の水を使い切っても怒らないで下さいね」
ミクマリは早口で言うと川の水を術で吸い上げ、地域一体に甚雨を呼び起こした。
「消火には時間が掛かります。止めは貴女達で刺しなさい」
雨降らす巫女の言葉に姉妹達は斃した筈の大鷹を見やった。
鷹はその羽毛を焦がし震えながらも飛翔する。纏っていた夜黒き気配は半分程は霧散している様だ。
「嘘、あれを喰らってまだ動けるの!? でも、どうしよう。もう火は……」
雨音に混じり獣の叫び、烏の鳴き声。乾いた破裂音は木々の悲鳴か。
『どうする? 俺の巫女はお前達姉妹よりも、獣達の方を優先する気だぞ』
ミクマリは降雨の術を繰る傍らで、傷付いた獣の手当てをしている。
穢れた鷹が再び急降下を繰り出した。
「ちょっと、こっちに来ないで……」
迫る凶爪。絶望に歪むナツメの顔。
「やっほーーーーっ!!!」
……唐突に何者かの間の抜けた大声が響いた。
次の瞬間、辺りから音が消えた。生物達の混乱も、ダイコン姉妹が妹を気遣う叫びも、森を包む雨と炎の音も。
そして霊気を孕んだ見えない何かが宙を走る気配。それは雨飛沫上げ空気振るわせ凶鳥に衝突し、夜黒を散らし半身の羽根を毟り取った。
「今のは何!?」
ナツメは自身を狩ろうとしていた凶鳥の姿を探す。鳥は地面に不格好に転がっているが、その身には未だ黒い靄を湛えている。
「「アズサ!?」」
ダイコン姉妹が声を上げた。不可視の一撃と間の抜けた掛け声の正体。それは村の姉妹巫女の三女であった。
「敵はまだ生きています! もう一発……」
アズサは鳥へ駆け寄ると両手を口に当てた。
「やっほーーーーっ!!!」
掛け声と共に霊気の波動が鳥を襲う。しかも耳への直接攻撃だ。
『何て喧しくてマヌケな術だ。……だが!』
至近距離の追撃は確とぶつけられ、霊気の籠った音波が残りの邪気を全て霧散させる。
大鷹は弱々しく一鳴きすると地面に頭を横たえ、動かなくなった。
「良し、やっ付けた!」
両拳を握り白い歯を見せる童女。
「何しに来たのよ!」
ナツメがアズサに詰め寄る。
「何って、御手伝いさー! 役に立ったやろー!?」
「別にあんたなんか居なくたって、あたし達だけで解決出来たのに!」
睨むナツメ。
「止めなさいナツメ。アズサに救われたでしょうに」
姉妹巫女の長女が言った。
「雨さえ降ってなければ斃せてた!」
「雨はミクマリ様がお前の起こした火事を鎮める為に降らしたんでしょうが」
次女も額を抑える。
「ごめんねアズサ。これまで、滓扱いして。修行不足だったのは私達も同じ様です」
長女が言う。
「御気に為さらず!」
アズサは興奮冷めやらぬ様で、謝罪を適当に受け取ると丸禿げにされた鳥を検め始めた。
「あっ、大鷹の御霊だにー」
夜黒を祓われた鷹の魂は無事だった様で、死骸の上を漂って居る。
『元より霊力の強い生き物であったのだろうな』
「高天に、還りし命を寿ぎます」
アズサは祝詞を上げ、大鷹の御霊を弔った。
「ミクマリ様も守護神様も、重ね重ね御助け頂いて本当にありがとう御座いました」
姉ダイコンはミクマリへ向き直り頭を下げる。妹ダイコンも続く。
「分かって頂けたのなら結構です。……それよりも、森の神様が御怒りです」
ミクマリは大きな白兎を抱いている。彼女の足元には小動物の群れ。
「申し訳御座いませんでした。妹の不始末は姉の不始末。後日改めまして、私共姉妹の技術を以て森を癒します」
姉妹は兎に平伏し、額を地面に擦り付けた。
兎は自身を抱く巫女を見上げ、鼻を鳴らした。
「彼女達の村は農耕に秀でており、巫女も優れた土の操術と多少の水術を扱えます。失われたものは還りませんが、また豊かな命を育む事が出来るでしょう」
ミクマリがそう言うと、白兎は彼女の腕から飛び出し、他の小動物を伴って荒れた森の奥へと去って行った。
『まだ終わりではないぞ。お前達、これを見ろ。全員だ』
守護霊が招集を掛けた。彼の下にはどす黒い鳥の巣。
「鳥の巣がどうかなさいましたか? まだ邪気が残っている様ですが」
ミクマリが訊ねる。
『先程に退治された鳥は凶鳥と呼ばれる化生の類だ。元は只の鳥であるが、鳥と云うものは習性や巣作りの為に何かを集める行動を取る』
「烏もそうですね。神鳥故に、悪戯で何を盗られても文句は言えませんが……」
姉ダイコンは耳輪を触った。
『集めたものに霊気や邪気が籠っていると、巣が霊場と化す。悪霊の類は霊場に引き寄せられる故、巣や鳥がその影響を受けて悪なるものへと変ずる。それが凶鳥だ』
「成程。でも何が原因で巣が霊場と化したのでしょうか?」
ミクマリが訊ねる。
『ここは先代の御使い様の森。そもそも霊気や神気を纏いやすい地だ。そうでなくとも巨鳥為らば長生きであったろう。魂が高天に昇ったのが示す通り、鳥自身が影響した面も大きいだろうな』
「本来でしたら、この時期に鷹は巣を掛けませんよね?」
『長く生き、精霊を宿し神に近付けば行動が通常とは逸脱するものだ』
「見て下さい! 巣に烏の羽根が」
アズサの指摘。巣には黒の羽根も織り込まれている。
「御使いの仲間とされる烏が犠牲に為っていたから、川神様が私に話をするのも渋った訳ね」
ミクマリが納得し頷いた。
「成程ね。でも、御使いは神聖な鳥でしょ? 巨大な鷹までは良いとして、それが混じって黄泉に引かれるかしら?」
ナツメが首を傾げる。
『ナツメよ。火術のに長けたお前ならば、この巣の黒い物体の正体が分かるのではないか?』
「あたしなら?」
ナツメは巣に顔を近づけた。彼女の顔が歪む。
「……この臭い。髪が焼ける臭いだ」
『その通り。髪の毛だ。足の太ましいミクマリよ。お前の里では死者の処理はどうしておる?』
ゲキが訊ねる。太くない方が、ちらと睨んだ。
「墓場を設けて埋めて居ります」
『それに類する塵等はどうだ?』
「墓場の傍に塵捨て場を設けてそこに放っておりますが。赤穢や黒穢で出たものは皆そこへ。清めは定期的に行っています。普段は覆ってますので荒らされれば分かりますし、穢れの無い品も人の霊気が残りますから、集めて穴に放って管理しています」
太い方が首を傾げる。
「私がほる係でしたよう」
アズサが声を上げる。
『ふむ。そこまでは不精ではなかったか。では、御柱に立てて来た者の遺骸はどうした?』
「川の神が押し流して行方不明です。そうか……贄に選んだ者は、全て霊感のある女でした」
『恐らく悪霊の出処はそれだ。そもそも生贄自体が空振りだったのだから、無念であったろう。贄の遺骸が働き掛け、髪や死骸をくれてやったのだろう』
「全ては私達の過ち……」
ダイコン姉が項垂れる。
「でも、一般人の悪霊だけであそこまで強いものが生まれるものなの?」
『怨みの強さに依るが、恐らく今回凶鳥があれだけの力を持ったはそれだけではない。うちの巫女がずっと探知を掛けていたが、黒い霊気は急速に成長しておった。アズサの髪はどうした?』
「髪は……川の上で切ったので、そのまま流れて何処かへ……」
ダイコン妹も頭を垂れた。
『凶鳥が力を得る為にそれを集めて巣に織り込んだのだろう。巫女の髪は神聖だが、穢れは伝播するものだ。触穢と云う奴だ。神が夜黒に塗り替えられるのと同じ様に、アズサの髪の霊気が邪気に転じたのだ』
「何だ。じゃあ、結局アズサが悪いんだ」
ナツメが口の端を歪める。
「ナツメ!」「貴女何て事を!」
巫女達が咎める。
「だってそうでしょ? こいつが居なかったら鳥はもっと弱かったんでしょ? それに、こいつが居なければあたしはもっと早く村に来ていたかもしれない。そしたらこの件にも早く気付けた!」
童女へ指を指し指し怒鳴る娘。
「はー!? なんをやたけたこと言うなー!? うち、悪ないやん! もー好い加減にじゃーすぞ!」
アズサは気丈にも拳骨を振り上げた。
「ミサキ様に気に入られてたからって好い気に為るな! この滓!」
ナツメも腕を振り上げる。霊気。開かれた掌には炎の燻ぶり。
「止めなさい。また、この森で火を使う気ですか? 二度目は赦しません」
ミクマリはナツメの腕を掴んだ。
「糞っ! 部外者の癖に! 放せ! 放せ! 何て怪力だ!」
暴れるナツメ。ミクマリは叩かれ蹴られる。
「もうっ、何て子! 親の顔が見てみたいわ」
ミクマリは顔を顰めた。
「……糞っ! 放せ!! 痛い!!」
ナツメの瞳には涙。霊気を込めて掴んだのはやり過ぎだったか。ミクマリは慌てて腕を放した。
「本っ当に、もう厭!!」
ナツメは、腕を押さえて何処かへと走り去って行ってしまった。
『勝手な奴だな。凶鳥よりもあれの方が面倒に為るのではないか?』
ゲキも呆れる。
「……そうかも知れません。あの子はミサキ様の御子だけあって巫力は優秀ですが、性格に難がありますから」
長女が言った。
「え、ナツメはミサキ様の娘さんなんですか?」
「娘といっても、神の御使いの御卵が孵ったのに合わせる為に産んだだけの者です。御使いが母に成れば、ミサキも母に成るか、母である者に変更しなければ為らないのです」
『ミサキとやらも、巫力は知らぬが母としては未熟の様だな』
「まさか。ミサキ様は巫女の候補全ての育ての親でもあります。本部にて多くの子の教育を行っているのですよ。母として未熟である筈がないでしょう。ナツメだって、他の子と同じ様に育てられ、優秀だった為に既に本部の外に自身の小屋を持たされていた筈です。あの子はもう立派な大人でなければ為らないのですが……」
「あの人、全然大人じゃないさー。私には意地くさってばっかりなんやから」
アズサが口を尖らす。
「意地悪には理由があるものです。何か心当たりは?」
ミクマリが訊ねた。
「……あります。と言っても、私は何もしてないのですが」
アズサは溜め息を吐き語る。
「私、巫女候補として本部に上がった後に、両親が一緒に病気で死んじゃって。修行をしていて死に目に会えなくて。塞ぎ込んでいた時期に沢山ミサキ様に迷惑を掛けてしまいました。行き場が決まるまではお家に泊めて貰ったりもしたんです。それからです。あの人が私を意地くさる様に為ったのは」
「ナツメの粗暴は里でも有名でして。母親が御偉い方なので皆、堪えてますが。産んだ事情の所為か、ミサキ様は余りナツメに構わなかった様で、母親の事が絡むとああ為るのです」
ダイコンが言った。
「だったら甘えれば良いやん! お母やんが生きてるんやしさー!」
「アズサはナツメが家を出た後は、暫くミサキ様の御屋敷に厄介に為っていたんでしょう? それが妬ましいのよ」
ダイコンが窘める。
「ふん。別に親子ごっこ何かしてへんやん。うちのお父やんとお母やんはのうなったし。でも、二人は普通の人や。うちは巫女に成ったんやもん、のうなった後は高天と黄泉でばらばらやん、もう会えやん! ナツメもミサキ様も巫女やん。のうなったらばらばらに為るって知っとったら、うちは巫女なんかに成らんかったわー! ナツメのが狡いやん!」
アズサも喚き立てると、何処かへと駆け出した。
……が、こちらは転倒して地面に伏した後、とぼとぼとこちらへと戻って来た。
「兎に角、後から村へ来たのはナツメの方や。ミサキ様に御願いしてナツメを本部か余所にやって貰う!」
アズサは泥をくっ付けたままの頬を膨らました。
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赤穢、黒穢……神道に於いて出産や生理等の血に関わる穢れを赤穢、死体や墓場等の死に関わる穢れを黒穢と呼ぶ。
触穢……穢れに触れる事で触れた物にも穢れが伝染するという考え。