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巫覡、寿ぐ(ふげき、ことほぐ)  作者: みやびつかさ
承ノ一 心鎖して
41/150

巫行041 霧里

「暑い……」

 ミクマリは額に汗をしながら山道を行く。

 彼女は雪の村で借りた毛皮の衣をそのまま頂戴して纏っていたが、村から離れると晩秋であってもこの服装は些か分厚すぎる代物となっていた。


『折角織物の技術を教わったのだから、何か一つ拵えてから出立すれば良かったものを。麻や(カラムシ)も余る程に蓄えられていたろう?』

編布(アンギン)の服を(コシラ)えるのにどれだけ時間が掛かるか。月が何度も満ち欠けしますよ」

『それにしたって交易に出る男共も同じ衣を使っていたのではなかったのか?』

「彼等は重ね着をして村の領域とその外では着分けていた様です。私が頂いたのは雪の村内に暮らす女子へ向けて誂えられた物で……」

 ミクマリは衣の胸を引っ張りながら言った。

『為らば俺がそこに入ってやろうか? 俺は冷やされて寒いからな』

 揶揄(カラカ)う様に言うゲキ。


 ミクマリは胸を開けたまま立ち止まった。


『は? 冗談に決まっておろう。誰がそんな(ニオ)いそうな処に入るか。怒らせてやろうと思って言ったのに』

態々(ワザワザ)怒らせようとしないで下さい……。本当に暑いです。水浴みも水垢離(ミズゴリ)もずっと出来ていません」

『身体を洗い清めたら衣に入ってやろう』

「結構です!」

『戯れは置いても、無為に体力を失うのは良くないな。神の影響の強い川を見つけて、新たな衣を編むが良い』

「神様の影響が強い処でですか? 怒られそうな気がしますが……」

『先に試しに編んだ川の水の衣は酷く体を冷やした。神気(カミケ)を借りた衣であれば、その様な事は余程強い力を受けねば起らぬし、気を失って(ホド)ける事もないだろう』

「眠っても込めた霊気が抜けない様には鍛錬を積んだ心算(ツモリ)ですが」

『不意に気を失えばそうもいかぬだろう。戦いに身を置く事も珍しくないのだ。気を失えば身体は俺が入って護ってやるが、衣の維持は出来ぬ。……まあ、裸のままで跳んだり跳ねたりされても良いのならそれでも良いが』


「絶対に、厭です!!」

 力を込めて言う娘。


『だろう? お前なら俺を追い出してでも身体を隠すのに手足を使って、その果てに(タオ)されるに違いないわ。全く、お前は裸体を晒す事を必要以上に厭い過ぎなのだ。巫覡には神前に裸体を晒す儀式は珍しくないし、その儀式を他の信者が同席する事もあるというのに』

「私達の里ではそんな儀式ありませんでした!」

『無かったな。まあ、神気を孕んだ衣であれば解ける心配も無いという訳だ。それに丈夫だ。例えばだが、神気の持ち主が天津神(アマツカミ)であれば、先の鬼の冷気程度は防いでくれる。中身が霊感のない者であっても、その位の神威(カムイ)は持つだろう』

「そんな尊い神様が川の水で衣を編む事を許してくれるのでしょうか」

『そこを何とかするのが修行だな。神和(カンナ)いで話をするも良し、穢れた川を探して清めて機嫌を取っても良し』

「奉仕の動機が不純な気が……」

『供物を捧げるのと大して変わらんだろう。村人の煩くない道祖神(ドウソジン)や野良の神の方が融通も聞き易いというものだしな』


「それもそうですね……」

 神和(カンナギ)。雷神以降は使う機会が無く、少し存在を忘れていた。自身の身体はもう自分だけのものではなく、神のものなのだ。

 そう言えば、雷神とは違い守護霊の憑依ではあの“(タマ)”を産んじた時の様な事は起きた事がない。

 何とも言えぬ変調を起こす故に度々見舞われずに済むのは幸運であったが、自身の神で珠が出来ないのはミクマリには少し寂しく思われた。


「処で、人の住まない処にも神様が生まれたりする事があるのですか?」

『あるぞ。天津神は元々人の信心なく高天國(タカマガノクニ)で生まれた者であるし、国津神(クニツカミ)でも人通りの多い処であれば人が定住しておらずとも生まれるのだ。旅や交易で休憩に使われる水場や、腰掛けるのに丁度良い岩等は悪人ですらも感謝の念を持つからな』

「成程。うーん……」

 ミクマリは唸る。

『どうした?』

「人通りの多い川で衣は編めない様な……。丈を合わせたりして何度も脱ぎ着しなくてはならないですし……」

『我がままな娘だな。お前の裸を見て喜ぶ奴なんか居らんわ』

「またそう云う事を仰るでしょう? 覗く癖に……」


 溜め息。雪の村でも身体を拭き終わらない内に、追っ払った筈のゲキが「寒い」等と言い訳をしながら小屋に戻って来た事があった。


「処で、村を出て随分歩きましたが、この先には何があるのでしょうか? 衣を編むかどうかは別として、早めに村か清流を見つけておきたいのですが」

『この路は、“霧の里”と呼ばれる大きな里に続いておる。目立った川や道の無い難所の峰々が続く為、旅人は少なく、秘境として有名だ』

「どうして早く仰ってくれないのですか? そうだと分かっていればイワオさんの処に寄ってから出立し直したのに……」

『別にさっさと抜けてしまえば良かろう。術で走れ。喉が乾けば術で水気を集め清めて飲め。お前は水分(ミクマリ)の巫女だ。その憑ルべノ水(ヨルベノミズ)は旅に最も優れる才だ』

「もう! では、早く身体を清めたいので、全力で走ります。ゲキ様、置いて行ってしまっても怒らないで下さいね!」


 蘊蓄(ウンチク)を垂れる癖に、必要な言葉は足りない師にまた溜め息。雪に鎖された村では常時隣り合っていた為、ミクマリは偶には一人になりたい心境であった。


――ちょっと振り切って、ゲキ様が追い付くまで一人の時間を愉しんでしまおうっと。


 ミクマリは尋常ではない量の霊気を脚に込め、呼吸もまま為らない程に加速した。

 玉響(タマユラ)の間に流れ行く景色。


『残念だったな。守護神は念じれば守護対象の元へ飛んで行く事が出来るのだ。お前がいかに俺を振り切ろうとしようとも、急げば急ぐだけ俺も早く移動できる』

 悠々と背後に付ける守護霊。


「はあ……偶には独りの時間が欲しいです」

 再三の溜め息。


『離れろと言われれば離れてやるが、どうせ直ぐに寂しくなって俺を呼ぶだろうに。お前、俺が離れている時は矢鱈と空を見上げるからな』

「あれは太陽にお祈りしているんです!」

 娘は顔を真っ赤にして叫んだ。



 野を越え山越え、水場も探さず霧の里を目指すミクマリ。水場を求めて無闇に足を止めるより、確実にある人里を目指した方が良いと判断をしたのだ。

 崖を飛び越え、岩場を登り、努力の甲斐あって男の脚で数日掛かると言われる道のりを半日足らずで踏破した。


「流石に少し疲れました」

 水筒の水を飲み干すミクマリ。

 山の頂上。日が傾き冷え始めた空気が心地好い。


『ここを下れば霧の里の領域だ。俺も生前に立ち寄ったことがあるが、険しい道のりだった。矢張り、憑ルべノ水は便利が良いな』

「ゲキ様は生前はどの様な術に長けていらしたのですか?」

『広く浅くと言った処だ。火も放てたし、水術も使えた。土を(ツブテ)とする事も出来たし、風を巻き起こす事もお手の物だ』

「凄い。何でも出来る方だったのですね」

 弟子は額の汗拭き(ニコ)やかに師を見上げる。

『一般の術師から見ればそうだろうが、今のお前と比べれば俺の水術は児戯だ。霊気(タマケ)の量と質には優れていたが、調和ノ霊性(ノドミノタマサガ)が修行不足でな。俺が走れば今日の道の半分も踏破出来なかったであろう。自身の肉体と霊魂の一体を神髄とする調和(ノドミ)の術である故、肉体を失ってからは関係が無いがな』


霊性(タマサガ)の得意分野は何だったのですか?」

 ミクマリは木陰の土の剥き出しの地面に枝を集めながら訊ねる。


招命ノ霊性(マネキノタマサガ)だ。故に、降霊術の類は得意で里の秘伝の御神胎ノ術(ミカミバラノジュツ)も扱えた。まあ、大方の悪霊は霊気で吹き飛ばせば済んだし、賊や性悪な術師相手では身体の脂を直接燃やしたり、唾液や鼻汁を爆ぜさせてしまえば直ぐに片が付いたがな』


「あの、今から食事をするので、そういうお話は……」

 ミクマリは襷の袋から乾燥した猪肉を取り出しながら言った。


『訊かれたから答えたまでだろうが。本当に仕様もない娘だ。一応、治療術は得意であったぞ。ぶった切ってやった腕を繋ぎ直してやったりもした』

「ちょっと! ゲキ様は無神経過ぎるんです。今からお肉食べるのに……」

『俺には肉体が無いので神経も無いのだ。招命(マネキ)の術に優れると、相手が拒否しても治療を強行する事が出来る。酷く痛む様だがな』

「もう!」

『……念の為に言うが、お前はそういう戦いをするなよ』

「しません。どんな悪人相手でも、そんな(ムゴ)いやり口で攻め立てたりはしたくありませんから」

 返事をしながら、肉に水気を加え火で炙る。村で貰った荏胡麻(エゴマ)の葉でも巻いて食べようか。

『そうだな。お前がその様な事をするのは絶対に見たくない。お前は、お前らしくあれ』


――この前までは甘いだの何だの言って置きながら……。


 ミクマリは食事を終えると師に溜め息を浴びせ、早々に会話を打ち切り横になったのであった。



 翌朝に目を醒ますと、辺りが霧に包まれていた。

「濃い霧……どうかすると迷ってしまいそう」

『それも秘境と呼ばれる所以(ユエン)の一つだ。朝陽を左手に進めば里へ下りられる。お前が寝ている間に村も見つけて置いた。行こう』

「ありがとう御座います」


 ミクマリは山を下り始める前に、辺りの霧を集め清めて水筒に収めた。


「わ、綺麗……」


 霧が晴れて視界が広がり、遠く(モヤ)に沈む里の光景が浮かび上がる。遠方まで伸びる朝霧と雲の海。昇る太陽。爽昧(ソウマイ)の光が作り出す陰影。

 霧から逃れて朝焼けの雲海と同じ色の花鶏(アトリ)がやって来た。


 小鳥を指先に乗せ、旅の無事を太陽へと祈る。


「霧の里はどの様な処でしょうか」

 山を下りながら先達に訊ねる。

『俺が旅をした頃には穏やかな処だったな。場所が場所だ、数十年程度で変わりもせんだろう。だが、仕事を見つけるのは苦労するやも知れぬな』

「どうしてですか?」

『巫覡の数が多いのだ。里が広く、村も多いが、その分祀る神の数も多い。里全体としては何だったか……“神の御使い”とやらを崇めているらしい。里の巫女頭に成るには条件が厳しく、故に候補とする為に多くの巫覡を育成している。霧の里であると同時に、巫女の里でもあるのだ』

「ふうん。巫女さんの沢山居る里ですか……。だとしたら、難事や悪霊に困る事も余り無さそうですね」

『うむ。まあ、お前はそういう気性だし、これまでも何とかやって来れた。それ程心配せんでもいいだろう』

「そうですよね。良い方、良い方に考えましょう」


 下り坂、霊気でなく重力に任せ悠々と下る足取りは軽い。


『村の数や信仰の数が多い分、参考になる部分もあるだろう。復讐を終えた後の仕事に必ず役に立つ』

「復讐……」

『よもや、忘れておったのではないだろうな? 遊び歩いている訳ではないのだぞ』

「半分は忘れていました。……だって、復讐は悪迄“手段”です。里の者の無念を晴らし、里を再興させる為の」

『そうだったな。手段だ。憎しみに依る目的ではない。水を差して済まなかった』

「御気に為さらず」


 守護霊から思わぬ謝罪を引き出し、更に足取りを軽くする。これで水浴みも出来れば言う事は無いのだが。



 山を下ると、点々と家屋が視界に入り始めて来た。霧も多少は薄まり、徐々に山間の村の正体が暴かれる。

 緑の裾野に覗く木造の屋根屋根、戸数は数える程。規則正しく生える檎子(ヤマナシ)の木には果実、(ハタケ)には青々と茂る芋の葉、そして仕事を始める村民の姿がある。

長閑(ノドカ)な農村ですね」

『霧の里の山は方向を見失い易い故、獣追いに向かぬのだ。古来より山菜取りや食物の育成を主に暮らしていると聞く。術の使い手によっては鳥撃ちをするらしいぞ』

「ふうん。手持ちの薬味や薬草が尽きて来たので、私もそろそろ補充しておかないと」

『山菜取りに入る際は山神に礼を忘れるなよ。里に入って早々に嫌われたら目も当てられん』

「言われなくても分かってますよう」


 ミクマリは村に入ると早速、体格の良い男に目を付けられた。

 また力比べでもさせられるのかと内心面倒に思っていたが、予想は外れ、男は何の手柄も立てていない漂泊(ヒョウハク)の巫女を歓迎した。


「おー、早いのー。珍しい格好をした女子や。こんな山奥にどしたんなら?」

 僻地らしく訛りの強い言葉で挨拶された。だが、男は優し気な笑顔と気配を向けて来ている。

「旅の水分の巫女です。休息と里の見学をしに来ました」

「おー、ミクマリ様。態々(ワザワザ)えらいこっちゃな。よー来為すった」

「何か御困りの事はありませんか? 雑用と水回りの難事解決が得意です」

「んー? 別に要らんよ。空き家貸してやる。この前ないよーに為った爺さんの家で良けりゃ。飯ももむないもんで良けりゃ、俺が世話してやるが」

「御親切にありがとう御座います」

 微妙な言語の違いに内心首を傾げるも、その口調や機微で好意だと分かる。

「いやなに、神様連れとる巫女様は大事にせにゃ。この里は神様の御使いを祀る信仰があるから、神様連れた他所の巫女様はでんと構えとればええよ」

 男はゲキを見上げると拝んだ。

『視えるのか』

「おお、御口も利き為さるか。この霧の里では霊感が無い方が珍しいんです。何もない処ですが、遊んで行って下さい」

『ならば、持て成せよ』

 翡翠の霊魂は膨れ上がった。

「ゲキ様。恥ずかしい事為さらないで」

 窘める巫女。

「ははは。へらこい神様やなー」

 男が笑う。


「滞在するのに巫女か村長(ムラオサ)に挨拶をしておきたいのですが」

「んー……ここには村長は居らん。この辺りは纏め役が要る程人が多くないからな。ここは里の端やし、里長はずっと遠くの本部に居らっしゃる。巫女さんもたまに他の村から廻って来るし、ここには居ついとらんな。ここはな、霧の神様の加護が強いから万事平気や」


 そう言って村人は、ミクマリが来た方とは逆の山を指差した。他の山々は霧が晴れつつあるが、そこだけは未だに白く靄が掛かっている。


『濃い神気だな。あれだけの神威があれば外から悪霊の類は一切受け付けないであろう。あの霧で衣が編めれば良いのだが』

「霧で衣を? 器用な事為さる。でも、あの霧を扱うのは巫女さんでも難しいんじゃないやろか。ここの里のもんでもあの山の物は誰も使わん。別に祟りがある訳やないが、何となく畏れ多くて避けとるんです。“ミサキ”様でも遠慮するって言うが……」

「ミサキ様?」

「里の巫女頭の呼び名じゃ。ここでは生きた御使いを祀っておるから、御使いも代替わり為さる。御使いの性分に合わせてミサキ様も代わるが、代々どのミサキ様もあの山には触れん様にしとる」

「恐い神様なのかしら」

「恐いと言うか気紛れな方らしい。放って置けば里を御護り下さるから、特に何もせんようにしとるんや」

「ふうん……」

「ま、霧なら朝に為れば困る程出て来るから、好きなだけ持って行ってくれて構わんよ。そんなもんで衣が編めるとは思えんが……」


 話を切り上げ、ミクマリは男に空き家を案内して貰う。

 すると、何やら村民が集まって騒いでいるのが目に留まった。


「どした? 何ほたえとるんや?」

 案内の男が訊ねる。

「“コブト”んとこの“アマ”が居らんなったらしい。昨晩から姿見えんと」

「えらいこっちゃ。昨晩って、何ではよー言わんかったんや」

「寝とったらしい」

「コブトのアマはまだむっつやろ。子供まいこってよぉ暢気にしてられるわ!」

 案内の男が別の男を叱った。

「いや、どうせ闇夜と朝霧で見えやんし、朝になってからでええやと……。(カカ)もその内帰って来るやろ言うし……」

「今頃どっかでししくっとるわ。可哀想に。はよ探し行くぞ! 熊ぁがっぱなに籠る前やし、探し行くもんはてき連れていけよ」


 どうやら子供が行方不明らしい。冬籠り前の熊も出る。男達は二人一組に為って散って行った。


『ミクマリよ。俺は(クツロ)いでいる。働いて来い。それと、好い加減臭いから身を清めてから戻って来るのだぞ』

 守護霊は興味無さげに空き家へと漂って行った。


 無論、小屋が只で供されようと、慈愛の巫女がこの難事を放っては置く事等は有り得ない。

 言葉の理解に手間取り、慌てる男達を止めるには間に合わなかったが、既に霊気の膜を力一杯に広げて、付近の山中の熊や子供の気配を探っていた。


 気の立った生物は無し。熊も居るには居るが、刺激しなければ問題はないだろう。

 鳥が喧嘩をしている程度だ。子供は疎か、先程まで霧が掛かっていた所為か、山には人の気配すら一つも見当たらない。


「……」

 若しかして、もう手遅れなのだろうか。この一帯の子供の魂は例の泉の村へと飛ぶ。死して魂が去っていれば、霊気の探知には何も掛からない。

 冬眠前の熊が満足気なのも気になる。

 ミクマリは最悪の事態を頑なに認めず、しつこく繰り返し調べた。

 長閑な村に来て早々、不幸事はごめんだ。暑苦しい毛皮の衣の汗が冷えるのを感じる。


――御願い、見つかって。


 小鳥処か虫の魂まで感知できる程に精度を上げるが、空振りに終わった。

 その内男達が、悲しい結末を持ち帰るだろうか。ここでの初仕事は殯葬(モガリ)や葬式と為るのか。


 師に人や失せ物を探す卜占(ボクセン)が無いか訊ねてみようかと頭に苦し紛れを()ぎらせ、空き家の方を乞い見る。


 ふと、小屋の背後にある山が目に留まる。

 例の霧の神が住むという山。その山の霧中だけは動物を含めて、何の気配も察知出来ない事に気付いた。


 どうやら、あの濃い神気が探知を遮っているらしい。


「……行ってみましょう」


 ミクマリは射る様な視線で霧の山を見上げた。


******

道祖神(ドウソジン)……道端の神。村の境界や分かれ道に祀られる神。

もむない……不味い。

へらこい……人懐っこい。

ほたえる……騒ぐ。

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