2−2
「クエスト?」
「そう、特殊クエスト『精霊の魔稼ぎ』」
「あー」
「えっと、どういうこと?」
ヨミの言葉を聞いて、アオイがわけわからないという顔をしている。まあアオイは初心者だし、他の職業についてこれから学んでいく感じだから知らなくても当然といえば当然か。
「ヨミ、どこまで話したらいい?」
「別に私が精霊を召喚できることは言っても大丈夫です」
「え? ヨミちゃん精霊を召喚できるの?」
そう、ヨミの職業は『召喚師』。様々な生き物と契約をすることで従者としていつでも召喚することができるようになる。召喚獣はどこにでもいる兎とかいう生き物から、果ては精霊と呼ばれる存在まで様々だ。また、かなり数は限られるが一部のモンスターも仲間にすることができる、らしい。そしてこのゲームでは契約した生き物とまるで現実世界のペットのように共に生活をすることができるようになっている。だからそれ目当てで召喚師を選ぶ人も多い。そんなことをアオイに簡単に説明する。
「そうなんだ。でも、精霊とクエストがどのように関係するの?」
「まあ、要は精霊の食料が手に入るクエストなんだ。基本的に動物が食べる物は野菜とかで賄うことが可能なんだけど、精霊はちょっと特殊で特別な素材が必要なんだ。それを手に入れるためのクエストなんだよ」
まあ、別に契約獣に食べ物を与えるということはしなくても問題ないのだが、与えているプレイヤーはおおい。ヨミもその一人で今回精霊の食べ物が不足していることに気がついたのだろう。
「そうなんだ。大変なんだね」
「まあ現実で生き物を飼うことに比べたらはるかにマシだと思うけどね」
病気にかかることもないし、食べ物もなんでも手に入る。ある意味でこれは理想だろう。まあその契約獣を戦わせているのだけど、それはまあご愛嬌ということで。ある程度割り切ることも大切だし。
「それじゃあ手伝おうか? 一人だと大変でしょ?」
「うん。助かります」
「あ、私も手伝えたりは……できるかな?」
「……」
手伝うと申し出てくれたアオイの言葉に、僕とヨミは顔を見合わせる。召喚師が精霊と契約できるようになるのは50レベルになってから。だから一応推奨レベルは50だったはず。
「今回の内容はどんなの?」
「えっと……うわっ、耐久クエだって」
「なら、アオイがいたほうがいいかな? 回復役がいた方が都合いいし」
「……そうですね。では、アオイさん、すみませんがよろしくお願いします」
「うん! 任せて」
クエストの内容を聞いて、僕はアオイにも協力を要請する。耐久ということは少なくとも回復役が一人増えたところでそこまで問題はない。いつもはヨミ一人でクリアできるレベルだし大丈夫だろう。それに、これで少しでもヨミがアオイに打ち解けてくれたら、という打算もある。
「それで、耐久ってどういうこと?」
「要は次々とモンスターが襲ってくるからそれを殲滅して一定時間何かを守るという感じだ」
「そうなんだ」
アオイが耐久クエというものを知らなかったみたいなので簡単に説明する。うまくできたのかよくわからないけど、一応僕の説明で納得してくれたみたいだ。
「それで、すぐに行くか?」
「いえ、ハルさんたちも今きたばかりですし、アオイさんに説明をしておいてください。私は一旦自分の部屋に戻ります」
「……わかった。それじゃあ説明が終わったら呼びに行くね」
ヨミは僕たちに一礼すると、自分の部屋へと向かっていった。ギルドホームの中は比較的簡単で共有スペースと個人スペースがある。共有スペースの中に台所とか居間とか色々とあるけど、まあ今はアオイに説明をする必要はないかな。ヨミが自室に向かった理由はアオイのためというよりは、きっと、自分の心を落ち着けるためだろうし。
「説明って何があるの?」
「うーん、うちのギルドが何をしているのかの説明かな?」
と言っても、何か具体的に説明できるようなことはほぼほぼない。全ての高難度クエストをクリアするという戦闘系のわけでもなく、素材を集めるというギルドでもないし、じゃあ仲良しこよしのギルドかといえば……うん、これが一番近いのかもしれない。
「仲良しこよしなの?」
「まあ、いろいろな人が集まっているからね」
「7人なのに?」
「うん」
7人なのにと言われても、7人いればそれだけで7つの物語がある。みんなそれぞれ目的があってこのギルドに加入している。
「じゃあハルホくんも?」
「そうだね」
「へえ、ちなみになに?」
「アオイ」
「ん?」
「あー、その、できれば詮索しないでくれると助かるかな」
「あ、そうなんだ」
本当はもっと強めの口調で否定したかったけれど、アオイがクラスメイトだということを思い出して優しく言い換える。僕の口調からあんまり言いたくない察してくれたのだろう。アオイはすぐに謝罪してきた。
「ごめんね。辛いことを言わせてしまって」
「いや、これは僕の言い方が悪かったよ。僕たちはみんな、自分の意思でここにいるんだ。ただ、普段の僕とかを見たらわかると思うけど内気な人がいるんだ」
「でも、ハルホくん学校にいるよりもよく話すよね」
「まだゲームだからね」
そう、ゲームだからクラス1の美少女であるアオイと二人っきりというこの状況においてもかなり冷静に話すことができる。ゲーム内なら僕の周囲にはイケメン、美女、美少女がたくさんいるからアオイに対しても落ち着いて話すことができているのだ。
「じゃあ、普段は何をしてるの?」
「ん? 今日みたいに誰かが欲しい素材があったらそのクエストをするけど、基本的にはみんなここでダラダラと話してたりすることが多いかな」
「なんか部活みたいだね」
「それは、そうだね」
かなり参加の自由度は高い部活と言われたらそうかもしれない。確かにゲーム部という部活動も高校によってはあるみたいだし、それと基本的には同じだろうね。ただ違うのは、
「あ、そうだヨミは中学生だけど、社会人の人もいるから、気をつけてね」
「え? そうなの1? ……あ、もしかして昨日のユキさんも?」
「いや、ユキさんは確か大学生だったはず」
「へえ、そうなんだ」
「あ、あとそうだ。ユキさんに勉強を教えてもらってもいるな」
「そうなんだ! じゃあ私も教えてくれるかな?」
「どうだろ。多分いいんじゃないかな?」
あの人基本的には誰かに教えるということを苦にしない性格みたいだし、あとなんだかんだでアオイのことを気に入っているみたいだし、きっと喜んで教えてくれるだろうな。そして、他に伝えておくことは……特にないかな。
「ねえ、他のギルドもそんなものなの?」
「うーん、ほらシンイチたちみたいに同じクラスでまとまっているところもあるしマチマチだよ」
「あ、そっか」
僕はこのギルドが初めてだから断言はできないけれど、それでもギルドごとに特色があるのは間違いないだろうね。逆に社会人だけで構成されているところもあるだろうし。ま、この辺りのことはみんなに聞けばわかるだろう。一人で勝手に納得してうなづいていたら、アオイが控えめに言ってきた。
「ねえ、もしよかったら巫女について教えてもらってもいい? 私よくわからなくて」
「ああ、それは構わないよ……と、そろそろいいかな」
「ん?」
「ヨミを呼んでくるよ」
まだ確実なところはわからないけど、多分そろそろ心が落ち着いた頃だろう。僕は立ち上がると、ヨミを呼ぶために彼女の自室へと向かっていった。