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咎人の叫び  作者: 歩海
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2−1

久しぶりの更新となります。

また、地の文が三人称から一人称に変更させてもらいました。

「はぁ」


 僕は憂鬱になりながら学校への道を歩いた。理由は簡単だ。昨日、ゲームをしていてアオイ……春山さんからとんでもないことを言われてしまったからだ。まさか僕の、『白夜の旅立ち』に入りたいだなんて言われるとは思ってもみなかった。



「もしかして、迷惑かな?」

「いや……」


 僕がすぐに答えなかったことを受けて、アオイは少しだけ寂しそうな表情で遠慮がちに自分の主張を取り下げた。いや迷惑も何もそれを決めるのは僕じゃない


「私は構わないわ。だからハルが決めて」

「え?」

「ハルが嫌なら悪いけど入ることは諦めてもらえるかな」

「ハルホくん、どうなの?」

「えっと……ごめん、少しだけ考えさせてもらってもいいかな?」

「まあ、厳しいでしょうね」


 ユキさんの言葉には驚いたけど、僕は結局、その日のうちに結論を出すことができなかった。情けない話にはなるのだけど保留ということにしてもらった。僕はその後に足早にギルドホームへと戻ってからすぐにログアウトした。一応チャットルームにてユキさんには謝罪しておいた。ユキさんはただ一言、『ハルに任せる』。そう言ってくれた。そして今日。僕は一つ、重要なことを忘れていた。普通に学校があるというこを。学校があるということはリアルの世界にて春山さんと出会うということを。


「どうしよう」


 悶々としながらも、僕は教室へと入る。運がいいことに、まだ春山さんは来ていないみたいだ。僕は自分の席に向かうとそのまま机に突っ伏した。原始的な手段だけどこれで朝はごまかそうとしたのだ。


「咲風くん、起きてるよね? 葵が困ってるから起きて」

「ちょっ、絢ちゃん。私は」

「あはは、やっぱりばれてたか」


 でも、失敗。春山さんだけだったらなんとかなったのだろうけど、霧雨さんもいたのでどうしようもなかった。彼女はグイグイと僕に話しかけてくる。


「ねえねえ、昨日のあれ、どうやったの? あんな特技ってあったっけ?」

「いや、あれは、特別なんだ」

「特別?」

「うん……それでできれば誰にも言わないようにしてほしい。もちろん、代わりに霧雨さんたちのレイド手伝うからさ」

「え? うーん、それならいいかな」


 あの時、大勢の人に見られていたしすでに一部では騒ぎになっていることはわかっていた。でも、だからこそ、余計なトラブルに巻き込まれないように、彼女たちに箝口令を敷いてもらうことにした。だが、今は正直そんなものは些事だ。今最も重要なのは、


「咲風くん、まだ悩んでるの?」

「え? いや」


 嘘だ。もう答えは出ている。でも、どうしても、次の言葉が出てこない。別に春山さんが嫌いとかそういうわけではない。ただ、リアルの知り合いをゲームでも一緒にすることに対して、恐怖を抱いているだけなのだ。ユキさんは言ってはいるけど、それでも僕は、ギルドから人が辞めていくのを見るのは辛い。


「なにか辛いこともあったの?」

「いや、同じゲームをずっと続けているとね、仲間が辞めていくことがあるんだ」

「そっか。正直葵がこのゲームをずっとするなんて考えにくいものね」

「ちょっと……でも、絢ちゃんの言うことは間違ってないかも、少なくとも来年にしてるかって言われたら難しいし」


 僕たちは高校二年生。だから来年は受験生だ。つまり、ゲームなんてしていられる状況ではないということになる。まあ、それを言ったら僕だってゲームをする時間は減るだろうけどね。


「うーん、じゃあ難しいのかな?」

「いや、僕としては入ってくれるのは嬉しい。でも、さっき言った理由から安易に言えないだけなんだ」

「え?」


 僕の正直な気持ちを伝える。迷った時は、悩んでいる時は、相手に自分の思っていることを素直にぶつけたらいい。かつてそう言われたことが思い出される。そして、それは正解だったみたいだ。春山さんの表情から辛そうな感情は消える。そして同時にかなり納得の表情をしていた。


「なら、入れてもいいんじゃない?」

「そういえば咲風くんのギルドって何人いるの?」

「え? 7人だけど」

「あー確かにそれだと抜けた時にきついよね。葵、大丈夫?」

「うん、大丈夫だと思う。咲風くん、お願いできる?」

「わかったユキさん。にそう伝えるよ」


 チャットルームを開いてそのことを伝える。そして、


「今日、時間ある?」

「え?」

「ギルドホームに案内したいからさ」

「うん! わかったよ。あ、時間になったからまた後でね」


 そういって、春山さんは自分の席へと移っていく。ちょうど先生が教室に入ってきたのが見えたからだ。


「なんか私お邪魔だった?」

「霧雨さんも席に戻らないの?」

「私咲風くんの前なんだけど」

「……ごめん」


 これは本当に謝罪するしかない。それから、特に何事もなく、学校が終わった。春山さんとは、昨日と同じようにギルド会館の前で集合することにした。昨日の今日だからかなり目立っているかもしれないと思ったけど、まあすぐに移動すればそこまで大事になることはないだろう。


「ちょっと多いくらい、かな?」


 家に帰ってから宿題を済ませて、そして待ち合わせ場所にて待つ。さすがに今日は内容が内容なので春山さんよりも先についておく必要があると思ったので、少し早めに行動することにした。行ってみたら予想していたよりも少ない感じがしたが、それでもいつもよりは多い気がする。


「まあ、僕のギルド名を言ったし、弱小であることがわかったからスカウトしようとかそういうことなのかな?」


 それとも僕があの時にどんな特技をしようしたのかを知りたいという方が正しいのかもしれないが。あの特技があれば今までのレイドやpvpなどが大きく変わることが考えられる。秘密を知りたいと考えて、そして今日ももしかしたらここにいると考えるのは自然なことだろう。


「お待たせさ……ハルホくん」

「ああ、アオイ」

「あれ? 今日は昨日と違う?」

「ホームに戻ったら戻すよ」


 アオイに指摘されたように昨日の服装と今の服装は大きく異なっている。昨日のは真っ白な甚兵衛、要は男用の浴衣だ。それに対して今日のはラフな感じのtシャツにジーンズという感じだ。はっきり言えば性能度外視の見た目だけの装備をしている。今の季節が夏だからそこまで目立つわけではないけど、それでも男の浴衣姿は目立つ。だからこそ、今の服装をしていることである程度ごまかすことができたのだ。


「そうなんだ。でも、それって普段のハルホくんの格好?」

「え? まあ、近いといえば近いかな」


 聞かれたことに答える。そして僕はアオイを自分のギルドホームに案内していく。少しだけ街から外れたところにある一軒家。そこが僕たち『白夜の旅立ち』の本拠地だ。


「ただいま〜」

「お、おじゃまします」

「あれ? ユキさんは?」

「ユキさんはまだ来てません。ここにいるのは私だけです」

「そうなんだ」

「えっと、初めまして、かな。私はアオイ。えっと……ヨミちゃん」


 ギルドホームに入っても、そこにユキさんはいなかった。代わりにそこにいたのはヨミ。少し小柄だけどしっかり者の中学生の女の子。確か今三年生だっけ? そして家がかなりいいところなのか、礼儀正しいし、いかにもいいとこのお嬢様という感じが普段の振る舞いから溢れている。彼女は、白い巫女服を着て、立っていた。


「ハルさんが言っていた、新規の人ですね」

「そうだよ」

「うん、このギルドに入りたいって思ったんです。まだまだ初心者だけど、精一杯頑張ります」

「アオイは僕の知り合いなんだ」

「リアルの、ですか?」

「うん」


 僕の言葉を聞いてヨミは少しだけ意外そうに、アオイの方を見た、そして特にアオイが否定しないのを見ると、


「ハルさんが女性をここに連れ込んで来た」

「いや、なんか語弊が生まれる言い方やめて」

「えっと、ヨミちゃんは召喚師なんだですね」

「はい、それと、私は中学生ですので敬語は必要ありません」

「そ、そう」


 アオイはヨミの態度を見て、僕の耳にこっそりと囁いてくる。


「ヨミちゃんって人見知り?」

「そう、だね」


 アオイの言葉に僕はうなづく。正確には人見知りというわけではないのだけど、それを説明する義理は全くないし、ヨミの心が開いていない状況のアオイに伝えない方がいいからね。僕だって最初はかなり壁があって大変だったし。今ではほとんどないけれど。


「普段はもう少し明るいんだけど、アオイがいるから緊張しているみたいだ」

「もしかして、私、今日はやめておいた方がいい?」

「いや、ここにいて」


 さっき合流した時にも少しだけ視線を感じた。おそらくだけど、昨日アオイもあの場所にいたことに気がついた人がいるみたいだ。そんな状況で一人外に放り出せばどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ。だから今日はもうここでゆっくりしてもらった方がいいだろう。そう僕が思った時だった。


「あ! このクエスト今日までだった」


 ヨミの慌てたような声が響いてきた。

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