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咎人の叫び  作者: 歩海
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1−2

 放課後、僕は話をするために教室に残っていた。ここに残っているのは全部で6人だ。


「それで、どうする? これからだけど」

「受ける、しかないわよね」


 あの後昼休みにもう一度話し合い、葵のギルド決めの戦いの手段を決めた。レイドで決着をという話だったがそれで人数の都合が難しい。ほとんどがこの学校の人で構成されている『山吹峠』ならともかく、大槌くんたちの方は色々な人が加入しているギルドだからだ。そのため、簡単に話し合いをした結果、曜日は改めて決めることになった。このゲームは携帯電話でも少しだけ操作できるので大槌くんは自分のギルド専用のチャットルームで相談したところ、今日のうちに顔を合わせて決めたいという連絡があった。なので、今日の22時に連れて行くことになった。それで、なぜこうしてわざわざ放課後に話をしているのかというと、


「えっと……わたし今日は何をすれば」

「まあ私たちと一緒に大槌くんのギルドホームに行きましょう。それで、この話がなかったことになれば問題ないし」

「そうなんだ。あ、これには咲風くんもくるの?」

「え?」


 どうすれば春山さんを大槌くんたちのギルドに取られないようにできるのかという作戦会議のためだ。春山さんたちの話を心半ばで聞きながら、僕はずっと携帯をいじっていた。ゲームの情報を確認したりチャットに書き込んだりとできることは多い。だから、急に僕に話を振られた時は思わず変な声を出してしまった。僕が話を聞いていなかったことがわかったのだろう。霧雨さんは僕に向かってきつめの口調で、


「ちょっと話し聞いてた? あなたも私たちと一緒に行くの!」

「え、ええ?」

「ちょっと霧雨さん、こいつはギルドに入っているっぽいし難しいんじゃない?」

「あーそっか」


 思ってもみないことを言われて言葉に詰まってしまう。そんな状況の僕を見かねたのか、赤井くんが口を挟む。その言葉は非常にありがたかったのだけど、少しだけ後の祭りだ。僕は苦笑いをしながら霧雨さんたちに伝える。


「だ、大丈夫かな」

「え?」

「い、いま連絡とって問題ないって」


 チャットルームに書き込んでこのことを伝えたらお前にも友達いたんだとかかなり失礼なことを言われたけれどそれでも許可を出してくれた。てか、僕としても行かなくてもいいのなら、行きたくなかったよ。ここで行かなければあとで何か言われるかもと危惧して連絡をとったけれど彼らはそんなことを気にしないみたいだった。仲間たちの言葉に軽く傷つきながらも赤井くんたちに伝えた。それを聞くと、赤井くんはちょっとだけ嬉しそうに、


「そっか、じゃあ一旦解散で、今日21時にギルド会館集合な」

「おっけー」


 ギルド会館とは、ギルドに入るための手続きをするところみたいな建物のことを指す。また、そこにはちょっとしたクエストができたりと人の交流が盛んで今回みたいにリアルの知り合いが待ち合わせをする場所でもよくここが使われているし、妥当だ。僕が別のギルドに所属しているからこそ、赤井くんはここを指定したのだろう。春山さんはが話を切り上げるように別れの言葉を告げる。


「じゃあわたしは帰るね、絢香ちゃん、咲風くん、みんなも、またね」

「さよならー」


 春山さんの言葉を皮切りに、僕たちはそれぞれ帰ったり、部活に行ったりする。僕? 当たり前だけどどこの部活にも所属していないのでまっすぐ家に帰るよ。だって部活なんてしたらゲームをする時間が減ってしまうじゃないか。それにしても、今回の騒動はちょっと面倒だな。今回の渦中の人物がクラスのマドンナの春山さんでかつ動いているのがクラスのイケメンの赤井くんたちでなかたならば関わることをしなかっただろう。さっきの思ったけど、これを無視してしまえばこれからのクラスでの生活に悪影響が出るかもしれない。実際は違ったけれど、これは嬉しい誤算、かな? 単に僕が人と関わることがなくてわからないというだけかもしれないけど。そんなことを考えながら、僕は自分の家へと帰ってきた。


「ふぅ、やっと帰ってこれた」


 家に帰ってすぐに僕はパソコンの電源を入れてゲームを起動する。そしてベッドに寝っ転がると特殊な機械を装着した。これをつけることでゲームに入ることができる。用は電源装置みたいなものだ。細かな仕組みは一応説明書に書いてあったけど、難しいことが書いてあってよくわからなかったな。まあ、普通にゲームできたら問題ないかな。それに、これを装着することによる人体の不具合とかはほとんど発生ししないみたいだ。もちろん危険ではないことは証明されているが、それはあくまで安全に使用した場合のみで徹夜などをしてしまうのは色々とまずいんだけどね。


 そんなことを考えながら、僕は機械を装着して、いつものログイン画面に移行する。データは常にパソコンにも記録されているので万一この機械が壊れてもまた同じようにプレイすることができる。だから僕はパソコンも同時に起動する。


 そしてゲームを起動して世界に入り込む。僕がいる場所は、昨日ログアウトしたところ、つまりは自分のギルドホームだ。他には誰かいるのかなって思ったらユキさんだけがいた。長い銀髪の髪の毛が特徴的な紫色の目をした美少女だ。顔とかは元の自分からいじることはできないが、髪の毛の色や目の色は帰ることが可能だ。男性と比べて女性の方が変更していることが多い。例に漏れず、ユキさんも変えている……と思う。さすがにそんな日本人はいないだろうし。そしてユキは僕の姿が目に入ると、笑顔で話しかけてくる。


「あ、ハルー聞いたよ! 学校で友達ができたんだって!」

「え、いや別に友達というわけじゃ」


 さっそくさっきチャットルームで話した内容をすぐに言われてしまった。少し話をするつもりなのか、その手にはカップが握られていて……さすがにユキさんにお茶の支度をさせるわけにはいかないので僕は台所……というか冷蔵庫の形をしたアイテムボックスに行き、お茶の準備をする。


「ありがとう!」

「ここまでそのドレスなんですね……」

「まあ、変えるの面倒だからね」


 ユキさんの格好は一言で言えば純白のドレスだ。かつて僕たちが踏破したとあるレイドの報酬で作られた限定品。だからこそ、僕はユキさんにお茶を準備させるのを嫌って自分で注ぐことにした。


「ありがとう! それよりもハルの新しくできた友達について知りたいな!」

「なんで友達って話で進めるんですか」

「えーだって新しく入った子のギルドを決めるために付き添いで行くんでしょー? ハルがそんなことをするなんて思えないのよね」

「僕だって新規に優しくしますよ」

「え? 知り合いよね?」

「いや……ま、まあそうですけど」

「ほらー」


 押し切られてしまう。まあ、ユキさんのグイグイくる感じに対抗することはほとんどできない。だからこれはもう諦めるしかないんだよね。ここに来る前にある程度、ユキさんたちには事情を説明している。ゲームで出会ったというには僕がほとんど外に出ないことを知っているからほとんど意味がない。僕はこの話題を変えるために他のことを話す。


「それはいいとして、『ポセイドン』の攻略はどうします?」

「あー来週よね〜うーん。私は問題ないんだけどハルは大丈夫?テスト近いんじゃない?」

「うっ」


 あえて触れないようにしていたけど、確かにもう少しでテストがある。言葉に詰まってしまった僕を見て、ユキさんはしたり顔で、


「また私とサキちゃんが教えてあげるから大丈夫よ。ついでにヨミちゃんとミナトくんも一緒にね」

「……わかりました」


 僕は早々に白旗を上げる。そして素直に頷く。いつもテスト前になったらユキさんとそれからサキさんに勉強を教えてもらっている。勉強が本分である高校生にとってテストはゲームの一番の大敵といってもいい。特にテストの点数がわるければゲーム禁止にもなりかねないからだ。幸い僕の家ではそういうことはないがそれでも点はいいに越したことはない。それに聞くところによれば二人の通っている大学は日本一のあそこだとか。そんなわけで僕たちはユキさんたちに助けてもらいながらテストを乗り切っている。


「ま、毎週土日はチャットで勉強会をしてるし直前で詰め込んだら大丈夫でしょ。だから安心していってきていいよ」

「だからなんでそんなに送り出したがるんですか」

「だってハルの初めての友達だし」

「友達ぐらいいますよ!」

「現実に?」

「うっ」


 そんなことを言われてしまえば僕としては不本意だけど黙らざるを得ない。ゲームの中には確かに友人と呼べる人がいる。さらに親友と呼んでも差し支えない人だっている。目の前にいるこの美少女だってそうだ。


「まあその子がうちにきたいって言ったら私は構わないよ〜連れて来なよ」

「女の子ですよ!?」

「えぇ!?」


 ユキさん、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。そういえば性別については何も言っていなかったことを思い出す。というか、僕が手伝うのは男子だと思われていたのだろうか。確かにリアルなら女子に話しかけるなんて難しくてできないもんね……。


「驚かなくてもいいじゃないですか」

「だってハルが女の子連れてくるなんて」

「なんで連れてくること確定してるんですか」

「連れてこないの? うち抜けやすいし……てか抜けること推奨してるし」

「それを言っていいのかギルマス」


 思わずといった感じでユキさんがぽろっと言ってしまったことに僕は突っ込む。さすがに今の発言はギルドマスターとしてどうかとは思う。でも、ユキさんが言いたいことは、ギルド決めでトラブルが起きるくらいなら一旦自分のところで預かる、ということである。これは僕の知り合いだからという側面が大きいだろうけど、それでもユキさんなりに初心者を思ってのことだろうね。そしてユキさんは話を続ける。


「でもその子とちゃんと会える? 名前変えてるんでしょ?」

「……なんとかなりますよ」


 正直かなりヤバイと思うけれど、まあなんとかなるだろう。現実世界とゲームとでは名前が違うのは当たり前のこと。それなのに、春山さんたちの名前を確認していないというのはよくなかったのかもしれない。でも、春山さんたちが気にしていなかったことを見るに、多分彼女たちはリアルネームをそのまま使用しているのだろう。だから特に伝える必要がないと判断した。しかし僕は違う。僕の名前は遥歩。もともとこれを「あゆむ」と読むのもどうかという話ではあるけどそれでも本名はあゆむだ。でも、僕のプレイヤーネームは「ハルホ」。みんなは呼びにくいからという理由でハルと呼んでいる。これを見て僕だと気づくかといえば……難しいかもしれないな。


「集合は何時なの?」

「21時です。なので一旦夕飯食べてきますね」

「りょうかーい」


 他に誰もいなかったし、僕はそう告げるとログアウトして、そして時間もあることだし宿題も済ませておく。先に済ませておいてからユキさんに聞いた方が効率の面では良かったと気づいたのは、宿題で詰まった時のことだった。

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