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「よし、みんな準備はいいわね?」
ユキさんの言葉に僕たちはうなづく。僕たちは今、魔王がいるとされる洞窟の中を歩いている。シオンさんの情報によれば、四天王のうち、すでに3体は倒されているらしい。そして残り1体にみんな苦しんでいるみたいだ。なぜそんなにも苦戦しているのかといえば、
「敵が使うのは主に異常状態攻撃。まずエリアに着いたら異常状態耐性に大幅にデバフがかかる。だから敵の異常状態を防ぐことが難しくなる」
「サキさんが必要でしたね」
「それなら回復がしっかりしていればある程度戦えるんじゃない?」
「いや、敵の攻撃のスパンがかなり短く設定されていて間に合わないみたいなんだ」
ミナトの疑問はもっともだけど、それならこちらにユキさんがいる限り大丈夫だ。そのユキさんといえばシオンさん他の情報を聞いている。なるほどね。攻撃の感覚が短いせいでデバフとかを解除するのが間に合わなくなってそのままパーティーが壊滅するという流れなのか。この魔王討伐は少し特殊で6人でレイドクラスの敵と戦う。今回みたいに強いギルドが大暴れすることを避けるためだ。それでもそれなりに戦果はあげているみたいだけど。そして、シオンさんの言葉を聞いたミナトは遠慮がちにつぶやく。
「どうしますか? 今は回復ってハルさんしかいないですけど」
「いや、ユキさんがいるから平気だよ」
「そうね。シオンの言葉を聞いて作戦を決めたわ。花月は盾役を、シオンとヨミちゃん、それからミナトくんの三人で攻撃をお願い。私が回復の主軸を担うわ。ハルは基本は私の補助で戦線が崩壊しそうになったらいつものように」
「了解」
「え? ユキさんが回復を? 正直ハルさんの方がマシじゃないですか?」
「平気よ……そういえばミナトくんは知らなかったわね」
「何をですか?」
ミナトから出てくる当然の疑問。そっか。普段レイドでもなければ使わないが、普段のレイドでは野良を募ることが多いために使えない。だから言う機会がなかった。シオンさんは知っているみたいだけど他の人たちはよくわかっていないみたいだ。だからユキさんが言った、僕の『いつものように』の意味もわかっていないみたいだ。
「私とハルにはね、ちょっとしたバグ技があるのよ」
「だから多分大丈夫」
そろそろ頃合いというか、今まで言っていなかったのがおかしいので、僕とユキさんはみんなに説明する。どんな効果を持っていて、また使用するにあたってのデメリットなど。それを説明したら、みんなは驚いたような表情を浮かべた。
「すげえ」
「そんなことができたんですね」
「でも、これは誰にも言わないでね。BANされることはないだろうけどマークはされるから」
「もしかして、ユキさんやハルさんが今までPVPに参加しなかったのって」
「まあ、うっかりがないようにっていう思いはあるだろうね」
「さて、おしゃべりはもうおしまい。行きましょう」
話していたらどうやら、そのボスがいるフロアのところまでやってきていたみたいだ。ここまでのモブ達はそこまで強くなく、久しぶりの連携を試すぶんにはちょうどいい塩梅だった。そして、僕たちはボスの所に向かう。
「おお」
「うわー、見るからにやばそう」
そこにいたのは巨大なヘビだった。蛇って昔から呪術かそういった類に使われるイメージがあるよね。それが関係しているのかどうかわからないけどね。そして、大蛇の名前は『呪いの四天王 ラミリス』。多分元ネタはラミアかな? そしてラミリスは僕たちが近づいてきたのがわかったのか、顔をもたげて威嚇させる。
「花月!」
「おうよっ『プルーブ・プロトコル』」
『プルーブ・プロトコル』、職業『騎士』が使う最も基本的なタウンティング方法。効果はいたって単純で敵一体のヘイトを大幅に稼ぐ。つまり自分が狙われやすくなるという状況に持ち込む。戦闘において、最も基本的な立ち回り方。壁役が攻撃職の人たちを上回るだけのヘイトを稼がなければならない。
「壁役は俺に、任せろ!」
「ヨミちゃん、クロナを」
「はい、『従者召喚』」
ヨミがクロナを召喚してそれと同時に僕たちの体は少しだけ輝く。ユキさんが僕たちの異常状態耐性を引き上げてくれた。情報によればこのエリアはいるだけで呪いや毒などの異常状態を受ける可能性がある。それを防ぐためにユキさんは僕たちに定期的にバフをかける必要がある。だからそのサイクルを上げるためにクロナの効果を最大限利用させてもらう。そもそも、パーティーでレイドランクの相手をするためには特技を湯水のように使わなければならず、再使用時間の短縮はありがたい。
「シオン、どれくらい削る必要がある?」
「そうですね、2割ぐらいは必要ですね」
「わかったわ。花月、敵の大規模攻撃の予兆があれば報告して」
「わかってるぜ」
2割か。結構厳しいな。ダメージはすべてのパーティーの累計になるので僕たちが参加しなくとも徐々に削られていくので倒すことが可能だ。でも、今のペースでは期間内に魔王を倒すことが難しいということなのだろう。
「! くるぞ」
「任せなさい」
突然ラミリスが口を大きく開けた。そして、そこから紫色の息を吐き出す。かなりの広範囲にわたって発生しており、遠くにいたはずの僕たちの所まで到達している。なるほどね。初見で挑んだらここで後衛が落とされておしまい、といったところだろう。でも、ダメージはなさそうだ。なら、何も問題はない。
「マジかよ」
「噂には聞いていたけど、本当だったとはね」
「これがユキさんの特技」
僕たちはその場に立っている。異常状態を一つも受けることがなく。ついでに言えばラミリスが息を吐くと同時に頭を叩きつけていた攻撃も無力化に成功している。つまり明らかにダメージを負うかに見えた花月さんの体力は減ることがなかった。あ、でも今までの攻撃によって少し体力が減少しているな。
「お、ハル助かる」
「でも、そこまで期待しないでくださいね」
花月さんを回復したのはいいけれど、正直言って僕の特技だと焼け石に水というか、本職である『修道者』にはかなわない。花月さんもそれがわかっているのか僕に向かって手を振る。今もずっとラミリスの攻撃を受けているのでそこまで余裕がないのだ。
「花月さん、もう少し粘ってください」
「任せとけ」
「シオンさん、あの攻撃のサイクルはどれくらい?」
「正確な時間はわからないけど、長くて60、短くて30だと思う」
「わかったわ。ハル、カウントをお願い」
「もうしています」
そして、僕たちもぼんやりとしていられない。敵を倒すことができたわけではないからだ。みんなで声を掛けあいながら攻撃を加えていく。僕もユキさんに言われるまでもなくラミリスの大規模攻撃の後から時間を数えていた。まあ、ゲーム中なのでストップウォッチとか便利なものはないので自分の特技の欄を見て、そこの再使用時間の推移を見るだけだけど。
そして数える理由としては、次の攻撃に備えるためだ。相手の動作を見てもいいが、それよりも予測できていた方が都合がいい。レイドなどのボスモンスターは動きがある程度決まっていて、特技などを一定時間ごとに使用してくる。通常攻撃などは適宜対応しておかなければいけないが、こうして、特別な攻撃はある程度ルーティーン化されていることで攻略のめどが立つ。あくまでも立つだけだが。他にも面倒な特性があるからね。今回の例だとこの常にデバフを受けるフィールドとか。後は特技を複数持っていることもあるからね。
「『安寧の禊』、そしてユキさん、30まで残り5!」
「わかったわ」
攻撃に備えて花月さんに障壁を貼る。そして同時にユキさんに警告を放つ。ユキさんはすぐに次の大規模攻撃に備えた特技の準備を始める。そして再度ラミリスの口が開いて例の吐息が吐かれた時、もう一度異常状態解除の特技が僕たちにかけられる。これが、ユキさんのユキさんだけの特技の正体。異常状態がかけられると同時にそれを解除する特技を放つことで、相手の特技自体を完全に無効化することができる。だから、状態異常にする特技はユキさんを前にすれば、何の意味もなさない。
「相変わらずシビアなタイミングを決めますね」
「普段からこれよりシビアなのを決めてる人が何言ってるのよ。てかこれ関係ないじゃない」
今回は追加効果による異常状態ではないので問題ないが、追加効果の場合、タイミングを完璧に合わせることで、そもそものダメージを0に抑えることができる。最初の時にラミリスの叩きつけのダメージを花月さんが受けていなかったのもそれが理由だ。ユキさんと本気で戦おうと思ったらデバフが付随する特技の使用はできない。ま、ユキさんと戦うことなんてないから気にしないでいいけどね。それに、ユキさん自身もこの特技を人目がつくところで使用するのを嫌うし。
「これなら、戦えるか?」
「そうだな。これなら目標のダメージを出すことができそうだ」
どうやら脅威だったのは継続的に撒かれるデバフやら状態異常攻撃だったみたいで、それをユキさんが完全に封じ込めたことで僕たちは当初の目的であったラミリスの体力を2割削ることに成功した。シオンさん曰く、これでギリギリ間に合うとのことだった。
「これ、私じゃなくても全員の異常状態を解除できる人がいたら問題なかったんじゃない?」
「いや、全員の状態異常を解除できるのって多分ユキさんだけだと思うよ。少なくとも日本のサーバーだと」
「あーこれアメリカでの戦利品だっけ?」
「ユキさんたちってどんな生活を送っていたんですか?」
ただ、当然のことながら、僕たちはずっと戦い続けることはできずに、全滅してギルドホームに戻ってきた。そして、また外に出る気が起きなかったので振り返りながら、しみじみと話している。その中でユキさんの装備品の話が出た。手に入れた経緯を話すとミナトくんから若干引きながらの質問が飛んできた。
「ただ、ひたすらにレイドに潜ったね」
「日本だけでなく、外国のサーバーにまで突っ込んでね」
「何してるんですか」
僕とユキさんの言葉にみんな思いっきり脱力している。そんなに驚くようなことなのだろうか。だって、自分たちの目的を果たすためには、それが一番確実だと思っただけの話だし。そんな風に、話していた時に、僕たちの会話に割って入る声があった。
「先輩」
「サキ」
「ありがとうございます。それに、他の人も」
「……」
サキさんの言葉を聞いて、互いに顔を見合わせる。うん、やっぱりみんな思っていることは同じだったみたいだ。そして、ユキさんが代表するように、サキさんに伝える。
「サキ、これが、私たちだから気にしないでいいのよ。これが、このギルドを作った理由なのだから」
ユキさんは笑顔で、そう、伝えた。




