4−3
ブクマありがとうございます
「あら? 今日はアオイちゃんは一緒じゃないのね」
「あ、サキさん。こんばんは」
ログインしたら今日はサキさんがいた。フレンドの一覧を見るに、ユキさんとそれからシオンさんもログインしているみたいだけど共用スペースにはいないみたいだ。僕が来た時にサキさんから聞かれたけど、別に僕はアオイと常に一緒にいるわけじゃないから、付き合っているわけでもないのに。
「なんでアオイがいると思ったんですか」
「え? だって彼女もログインしているじゃない……もしかして登録してないの?」
「そういえば、そうですね」
サキさんが言った登録というのはフレンドリストへの登録ということだ。ゲームとかではおなじみの機能だ。内容は簡単で気に入った相手を登録すると、その相手がログインをしているかどうか確認できる。あとは簡易的なメッセージを送ることができる。でも、登録するためには相手と会っている時でなければならず、一方的にできるためにメッセージ機能はほとんど使われることはない。使うとしたらお互いにフレンドになっていることがわかっている時だけだ。あとは本当に緊急の時とか。そして僕はアオイを登録していなかった。別に上限が来たとかではなく、なんとなく登録そびれてしまっていたのだ。
「意外ね。てっきり交換し合っていると思っていたのに。あ、もしかしていつも一緒にいるから使わなくても平気とか」
「そんなんじゃないですよ」
「ハル、来たのか」
「あ、シオンさん」
サキさんの言葉をバッサリと否定したところで、シオンさんが彼の部屋からでて、共用スペースにやってきた。黒装束をきている30代ぐらいのお兄さんだ。本人は「俺はおまえたちからしたらおっさんみたいなもんだよ」と笑って言っていたけど、僕たちはみんなシオンさんのことをおっさんとか言って馬鹿にすることはしない。そもそも馬鹿にする理由がないし。ちなみに黒装束で固めているのは彼が職業『暗殺者』を選んでいるからだとか。まあ格好についてもとやかく言う権利なんて無いしさ。
「出てきたんですね」
「まあ、おまえがログインしたのがわかったからな。久しぶりだし」
「そうですね」
「あ、あと最近入ったアオイって子はいるのか?」
「いえ、いません」
「ああ、『山吹峠』だっけ? 最近頑張っているみたいだな」
「そうなんですね」
「あれ? 知らないのか? 知り合いだろ?」
「正直あんまり聞いていないんですよ。というか、相変わらずですね」
シオンさんは所謂、情報屋をロールプレイしている。だから、このゲームにおいて様々な情報を独自のルートから見つけてきたりする。僕たちもよく、彼から色々なことを教えてもらったりする。特に新しいレイドの情報や新しい武器などの情報などを、だ。
「あそこも確か魔王討伐に挑戦すると聞いたんだけどおまえは手伝わないのか?」
「僕はこのギルドでしかあのイベントに参加しないよ」
「そりゃそうか……とすまない、サキ。お前の前で」
「いいえ、大丈夫ですよ。ただ、ちょっと休もうと思います。ハルくん。シオンさん、お疲れさまでした」
サキさんはそう言って、ログアウトした。残された僕たちは微妙な空気を感じながら、顔を見合わせる。シオンさんも別に悪意があってこの話題をしたわけではない。それでも、サキさんにとっては耐えられない話題なのは間違いない。
「少し無神経だったな。忘れてたよ」
「まあ、わかってくれると思いますよ」
「お前とギルマスみたいに、気に食わなかったら殴り込む奴らがいるからつい忘れちまった」
「誰が殴り込むですか」
「あれ? お前アオイちゃんたちをPKした奴らをボコボコにしたって聞いたけど?」
その言葉に僕は沈黙で答える。僕とユキさんがあの集団をPKしたことはつい先日のことだし、何も言い訳できない。シオンさんもこれ以上突っ込んだ質問をすることなく、魔王討伐の方に話題を移した。
「それにしても、サキのことを考えなくて手伝えばいいものを」
「嫌ですよ」
「全く、君らしいといえばそうなるのかな」
「でも、どうして僕の力を借りたがるんだろう。というか当てにされても困る」
「うーん」
「あ、シオンさんもこっちに来てたんだ」
「ユキさん」
僕が正直な思いを吐露した時に、ユキさんもやってきた。そして、ユキさんがきたことで都合がいいと考えたのか、シオンさんは、
「ギルマスもいるなら丁度いい。ギルマス、今ハルがなぜ自分の力を当てにするかわからないと言っていたが君はわかるか?」
「え? ハルが強いからでしょ?」
「別にこの力、まあ手に入れることはできないけど、それでも大体のことなんてレイドをしていれば誰でも手に入ると思うけどな」
「それもまあそうね、こないだのPKもそうだけど、どうしてすぐにPKで奪おうと考えるのかしら。自分たちでレイドに向えばいいのに」
「やっぱりか」
僕とユキさんの言葉を聞いたシオンさんは、納得した表情で静かにうなづいた。その様子を見て、僕はこんどはユキさんと顔を見合わせる。シオンさんが何を知りたくて、何に納得したのか、僕はわからなかった。そしてそれはユキさんも同様のようだった。ユキさんが戸惑いがちに、シオンさんに尋ねる。
「シオンさん、どういうこと?」
「君たちはさ、強い武器とかを手に入れようと思ったら、もっと言えば、レイドを攻略しようと思ったらさ、うちに相談するよね?」
「うん」
「そうですね」
「でも、全員が全員、うちみたいにレイドに簡単に行けるわけじゃない」
「なんでよ。行けばいいじゃない。規制なんてないんだから」
シオンさんの言葉に、ユキさんがすぐに反論する。僕としても全く同じことを思っていた。何を躊躇うことがあるのだろうか。行きたいのなら行けばいい。簡単なことじゃないか。一応、一度クエストに失敗した時はもう一度挑むことができるようになるまでに時間はかかる。一度に大勢の人が同じクエストを受注することを減らすためだ。運が悪くて同じになることはあるだろうが、この再挑戦の規制のために、サーバーが重くなることをある程度は抑えることができている。あ、でも、ちょっと待てよ。僕は一つ思い当たることがあった。
「もしかして挑戦したいレイドの難易度が高くて少し装備を揃える必要がある、とかですか? それで戸惑っているうちにもっといい武器が出てくるとか」
「うーん、少し当たってるけどまだ遠いな。でも、装備が充実していないと挑めないというのはあると思う」
「でも、順番に一つずつクリアしていけばいいんじゃないですか? そりゃ確かに僕たちは昔から活動していてそこらへんは充実してますけど」
「別に新規だろうと問題ないわね」
「やっぱりそんな認識だったか。いや、君たちだからしょうがないのだけど」
でも、僕の考えはどこか違っているようで、シオンさはため息をつく。何がおかしいんだ?
「いい? 普通にゲームをプレイしている人は、レイドなんて遥か高みなんだよ? まあ、あんまり言いたくないけど、難易度の低いものは挑戦できるけど最難関のレイドなんて俺の記憶ではここ1年ぐらい新規ギルドのクリア報告を見てないだろ?」
「そう言われればそうですね」
「確かに見てないけど、でも別に公表してないギルドがあってもいいんじゃない? うちも公表してないし」
「レイドクリアとかを隠すギルドなんてうち以外いないよ。これは俺の情報網でも見つけれていないし」
「そうなの?」
普通ならありえないことだけど、このゲームではレイドのみ、クリアしたことを隠すことができる。これは2年ほど前に追加されたパッチによるもので、使っているギルドはほとんどいない。というか、それ以前は全部公表していたわけで、続いているギルドは隠す意味などないし、それにクリアはいわゆるこのゲームの一つの誉れだ。だから余程のことがない限り隠さない。でも、僕たちは、というかユキさんは、隠している。これが罪滅ぼしだと知っているから。
「とにかく、君たちみたいに気軽に行けるようなところじゃないし、そもそも人を集めようにも集まらないんだよ。野良という手もあるけど毎回集まるぐらいならギルドを作った方がいい。君たちがどれだけ異常だったのか理解した方がいい」
「そうですか?」
「別に行きたい人が集まっていけばいいのに」
「確かに行きたい人は多いけど、報酬はどうする? また行くのか? みんなが欲しいのを引くまでにどれだけの回数をこなす必要があると思っているんだ? 必ず落ちるアイテムならまだいい。でも、希少ドロップアイテムが欲しい人が複数現れた時に何十回も挑戦するのか? それはさすがに現実的じゃない」
「それは……」
シオンさんの言葉を聞いて、僕も、ユキさんも改めて理解した。『神風』がどれだけ居心地が良かったのか。あんな簡単に自分の行きたいレイドをいうことができて、そしてすぐに行けた場所がどこにも存在しないことを。まあ、うちもみんな消極的で自分からは口にすることは少ないが、それでも他のメンバーが行きたいレイドを上げた時に協力して一緒に戦ってくれる。でも、それがどれだけ貴重なことだったのか、僕とユキさんは何一つ理解していなかった。
「悲しいことに、だからPKが存在する。全てではないにせよ、ある程度の装備を奪うことができるわけだし、レイドで勝つよりもその方が手軽と考える人もいるからね……まあ、それが成功することはほとんどないけど」
シオンさんはそう締めくくった。この言葉の裏にシオンさんが何を言おうとしているのか理解した僕たちは、ただただ、黙ることしかできなかった。




