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「ねえ、咲風くん、他のギルドの手伝いってしても大丈夫なの?」
「え?」
次の日、僕は春山さんに学校に着くなり、質問をされた。言葉から推察するに、多分霧雨さんたちの手伝いに行ってもいいのかということだろう。そういえば似たようなことを以前ユキさんと話した気がするけど、その時の会話からするに、
「大丈夫だよ。というかユキさんはそれを推奨しているし」
「そうなんだ」
「霧雨さんたちと挑戦するのか?」
「うん、私にパーティーでの戦い方を教えるってことで、赤井くんたちと一緒に挑戦することになったんだ」
「そっか」
確か青山くんと緑口くんが騎士を選んでいて、赤井くんが魔法使い、霧雨さんが暗殺者で、そこに巫女である春山さんが加わったらバランスの良いパーティーになるだろう。パーティーでの動きを学ぶという意味ではかなり理想的だと思う。前衛と攻撃それから回復の役割がしっかりと決まっているし。その点、うちのギルドはアンバランスでどうしようもないけど。
「え? 咲風くんも加わるんだよ?」
「は?」
横から霧雨さんが出てきてそんなことを伝えてくる。いや、ちょっと待って、なんで僕も参加することが事実であるような言い回しをしているのだろうか。僕は慌てて霧雨さんに確認する。
「どうして」
「どうしてって手伝ってくれるんじゃないの?」
「それはアテナの攻略だけだ」
「いいじゃない、ついでだとおもっt」
「ふざけるな」
「え?」
「咲風くん?」
霧雨さんの言葉を遮って、僕は自分の思いを伝える。二人が目を丸くしているのが見えたけれど、僕は、止まることができなかった。
「悪いけど、僕は自分のギルドの人以外とでは魔王討伐に参加しないから」
「それなら葵ちゃんが」
「言葉が足らなかったね。ギルドでしか参加しないから。それじゃ」
僕はそう言って自分の席に向かっていった。後ろで霧雨さんたちが唖然としているのがわかったけれど僕はそれを無視して進んでいった。
「はぁ」
さすがに言い過ぎてしまったきがする。春山さんや霧雨さんにあんなことを言ってしまったらこれからの学校生活がどうなるのだろうか。女子から嫌われるかも……別に何も変わらないから問題ないか。とは言え、キツイ言い方をしてしまったと思う。それでも、僕の事情を聞かずして勝手に決めるのもどうかと思うのだけどね。
「咲風、くん」
「ん?」
机の上で臥せっていたら上から上から気遣わしげな声が聞こえてきた。何事かと思って顔を上げたら、春山さんがいた。
「どうしたの?」
「その、何があったの?」
「魔王討伐はね、好きじゃないんだ」
「え? そうなの? かなり報酬が魅力的なクエストだって聞いたけど」
「あー、まあ、僕はいいんだ。それに、一度もしたことないから」
「そうなの!?」
僕の言葉を聞いて、本気で驚いている。まあ、普通にプレイをしているのならこういうクエストとかは行っていると思われるのが普通だろうね。ただ、僕は違うそれだけだ。
「彩香ちゃんもそこまで悪気があったわけじゃ」
「わかってるよ」
春山さんが僕のところにきた理由は霧雨さんと喧嘩? というか言い合ったことを気にして仲直り? させようとしているみたいだ。うん、本当に優しい性格だと思う。こうして、みんなのために動くことができるなんてね。
「わかってるから、そこまで心配しなくてもいいって」
「そ、そう? ならいいけど」
だから、心配させないようにしっかりと言い切る。僕の言葉を聞いて、春山さんは安心したように微笑んだ。
「霧雨さんにも僕が気にしていないことを伝えておいてもらえるかな?」
「うん、わかった!」
春山さんは明るくうなづくと、そのまま霧雨さんのところにいって話はじめた。霧雨さんの表情とかをさりげなく見たけど、しっかりと伝えてくれているみたいだ。そして、放課後になって、また、僕は霧雨さんに呼び止められた。隣には、赤井くんと緑口くん、それから春山さんの姿がある。
「ねえ、咲風くん」
「どうしたの?」
「朝言ったことだけど、やっぱり難しい?」
「うん、ごめん……僕は自分のギルドでしかイベントには参加しないよ」
「そっか……それと、緑口くんが咲風くんに話があるみたいなんだけど」
「え?」
僕は緑口くんの方を見る。正直言って、彼の用事が全くわからない。てっきり霧雨さんの援護というか口添えのために一緒にいるのかと思っていたけれど。緑口くんは、僕の方を見て、少しを意を決したように口を開いた。
「咲風って、『神風』に所属していたのか?」
「?」
「……」
また、なんていうか懐かしい名前が出てきたものだな。でも、遅かれ早かれ話題になるとは思っていたけどまさか緑口くんから聞かされるとはね。緑口くんの口から出てきた単語は彼以外知らなかったらしく、みんな疑問の表情を浮かべている。
「サン、神風ってなんだ?」
「どうなんだ?」
「所属、という言い方は正しくないよ。僕たちはただ、一緒にいただけ」
「やっぱりか」
「だから何のことなんだ?」
「フロンティアで2年前くらいに活動していたトッププレイヤーの集団だよ。昨日掲示板を見ていたら神風のハルってあったから気になって」
「そんなのがいたのか」
「昔の話だからね。俺も正直昨日見るまで忘れていたし」
緑口くんの説明に納得の表情を浮かべている彼らを見ながら、僕はのんびりと自分のことを思っていた。『神風』、僕がこのゲームをはじめて最初に所属した集団。ギルドではない。あの人がギルドという形を好まなかったからだ。そこで僕たちは日夜、ずっとゲームをしていた。ただ一つの目標のために、僕たちはずっと活動をしていた。
「それがのちの『白夜』?」
「いや、違うよ」
春山さんから出てくる当然の疑問に、僕は答えようとした。でも、その前に緑口くんが答えてくれた。多分、そうとう調べたのだろうな。
「『神風』の人はほとんどやめているみたい。『紅雪の悪夢』でやめちゃったんだって」
「そうなの?」
「あっ」
「ん?」
緑口くんの言葉を聞いて、春山さんが何か思い当たったような声を上げた。僕たちは、彼女に注目する。急に注目されたことで恥ずかしそうにしながらも、ゆっくりと話し出してくれた。
「もしかして、咲風くん、ユキさんも」
「そうだけど……どうして?」
「その、以前サキさんに言われたの、ユキさんと咲風くんは『紅雪の悪夢』の被害者だって。だから、もしかしてって思ったの」
「間違ってないけど」
被害者、か。サキさんらしい優しい言い回しだな。でも意外だとも思った。サキさんがそんなことを簡単に部外者に伝えるとは思わなかったから。もしかしたら僕が連れてきたから話しても大丈夫だと思ったのかもしれないけどさ。そして、僕と春山さんの会話を聞いた赤井くんが思い出したかのように確認する。
「そのサキさんというのは違うのか?」
「ああ、うちで神風なのは僕とユキさんだけだよ」
「ねえ、他に、誰がいるの?」
「掲示板で調べたらわかるんじゃない?」
「なんで私にだけそんな冷たいのよ」
霧雨さんが怒ったように言ってくる。でも、そんなのあたりまえでしょ。こっちの地雷をことごとく踏み抜いてくるんだから。さっき緑口くんが言ったでしょ。僕たちはほとんどやめているだから。それに、
「聞いてどうするの?」
「え? 紹介してよ。話聞きたいし」
「霧雨、さすがにやめといたほうがいいぞ」
「どうして?」
「話はそれだけ? それじゃあ、僕はこれで」
うまい具合に赤井くんが止めてくれた。だからそれに乗っかる形で僕は帰って行った。やっぱりだけど、僕と霧雨さんたちとでは、考え方の違いというか、ゲームの向き合い方が全く違うみたいだ。でも、それも当然かもね。僕たちと同じ経験をした人なんていないほうがいいに決まっているのだから。




