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咎人の叫び  作者: 歩海
14/19

4−1

「……咲風くん」

「おはよう、春山さん」


 ユキさんと二人でささやかな復讐を果たした次の日、まだ、夏休みまで時間があるので、僕はまた学校に来ていた。そこで、僕のことを待っていたのだろう春山さんに捕まってしまった。隣には霧雨さんの姿もある。


「ねえ、あれからどうなったの?」

「多分大丈夫だと思うから気にしないで」

「そう言われても」


 僕としてはもう終わった話なので話すことはあんまりないけれど、春山さんたちからしたら気になることなのだろう。根掘り葉掘りとたくさん聞いてきた。


「昨日掲示板のほうで恥をさらしていたみたいだからね。非攻撃職二人に1パーティーが壊滅って。しかも直前にPKをしていたこともばれてかなり肩身の狭い思いをしているだろうね」

「そ、そうなんだ」

「当然よ! 私たちを問答無用で倒したんだから」


 僕の報告を聞いて、春山さんは少しだけ言いたげな表情をしたけれど、霧雨さんはそれが当然の報いとばかりに、彼らをこき下ろした。実際、霧雨さんと同じような反応をしている人は多く、春山さんたちを襲った集団に対してかなりの誹謗中傷が向かっていた。


「この日本でPK行為をしたわけだし、制裁が下っただろうね。だから春山さんたちに向かうことはないよ」


 くるとしたら、こんな事態を引き起こすきっかけとなった僕とユキさんに向かうだろうね。でもまあ、例えきたとしても、なんどきたとしても僕たちは負けるとは思わないし、何度も返り討ちにすればいい。少なくとも、当初の目的である春山さんたちを二度と襲わせないということは達成することができただろう。


「でも、大丈夫かな」

「心配?」

「うん、彼らは別にルールを破ったわけじゃないんだよね」

「春山さんは優しいね」


 僕の報告を最後まで聞いたところで、一転して、自分を襲った人たちのことを心配しだした。正直言って僕はもう彼らに興味がない。きっちりと落とし前というかけじめはつけたわけだし、彼らに思うところなんて何もない。


「え〜葵ちゃん、あいつらのこと心配しなくてもいいじゃない。それだけのことをされたわけだしさ」

「うん、でも……」

「春山さん」


 僕は呼びかけながらさりげなくスマホを指差した。それを見て、納得したようにうなづいた。多分僕の思いが伝わったのだろう。それ以上は何も言わないで、彼女たちはそれぞれ自分の席に着いた。そして、これ以上僕に話しかけることなく、1日が終わった。


「へえ、アオイちゃんって優しいのね」

「やっぱりユキさんもそう思いますか」


 そして、ギルドにて、ログインしたらいたユキさんと話している。ユキさんも同様に、彼女のことを『優しい』と評している。


「いきなり『続きはゲーム内で』って言われてびっくりしたけど、そういうことだったのね」

「すみません、ギルドのチャットを私用に使ってしまって」

「構わないわよ。他のみんなもわかってくれるでしょうし。それに、アオイちゃんの言葉ではないけどルールを破っているわけではないもの」


 そして、僕はさっさと今日の自分の行動について謝罪しておく。でも、ユキさんは笑って流してくれた。学校での僕の行動についてだ。僕はチャットルームにてアオイにゲーム内で話をすることを伝えた。これが、僕なりの彼女に対しての誠意みたいなものだ。


「それにしても、アオイちゃんみたいなのが一人でもいたらね」

「そうです、ね」


 彼女の今日の言動を振り返って、しみじみと痛感する。どこかで彼女と出会っていたら、きっとここにいなかった人がいただろう。特にヨミとサキさん。その二人が顕著だろうね。でも、現実は非情で、それはあくまでも空想でしかなく、僕たちはみんな、このギルドに所属している。


「それで、アオイちゃんに何を話すの?」

「彼らが行動を起こした理由、ですかね」

「そうね」

「それを話すことでしか、彼女に誠意を示す手段がないですから」


 昨日の段階で、僕はなぜ彼らがPKなんてことを起こしたのか、その理由を突き止めていた。ただ、考えてみたら当たり前というか、そろそろそういう時期だと言われたら納得出来る。


「ま、いつの時代も考えることは同じ、か」

「みたいですね」


 しみじみと二人でうなづき合う。そんなことを話していたら、アオイがログインしてきた。


「あ、お疲れ様です」

「おかえり、アオイちゃん」

「おかえり」

「ただいま……それで、咲風くん、話って」

「今だけはハルホって呼んでほしいな。リアルでのことをゲームに持ち込んだからしょうがないけど」

「あ、ごめん」


 まあ、ここにいるのは僕とユキさんだけだしここの人は知ったとしても悪用することはないけれど、一応気をつけておいてくれた方が助かる。


「別にいいよ。それよりも話を続けるよ」

「う、うん」

「あいつらの目的だけど」

「う、うん?」


 僕の話題の展開がわからなかったのか、疑問を浮かべていた。そういえばここで話すとは伝えていたけれど、何を話すかなんて何も伝えていなかったように思える。でも、話なんて続けていけばそのうち繋がるだろう。


「簡単に説明するとこれからゲームでイベントがあるんだけど、そのイベントで有利に立ち回れるようにってことみたいだよ」

「イベント?」

「うん、新パッチが出る直前に、すべてのプレイヤー総出で挑むクエストがあるんだ。通称魔王討伐」

「ん?」

「魔王って文字どうり魔族の王ってことで、一つのエリアに出現してそれを狩るってイベントなんだよ」


 そこはちょっとルールが特殊で他のクエストと違い、誰かが倒した時点で魔王は消滅してしまう。早い者勝ちのクエストだ。もちろん、魔王を直接倒すことができなくともその配下の四天王とかを倒したり、情報を手に入れてたりしたらその貢献度に応じて報酬が手に入る。高難度のレイドを除いてはもっとも希少なアイテムが多いし、このイベントに挑戦する人は多い。


「そこでいいアイテムを手に入れてレイドへの足がかりにしようって考えたみたいだ」

「え? でもそれならどうして」

「ハルのことを知らない人からしたら、無名のプレイヤーがかなり強い武器を手に入れたように見えるのよ。だから自分たちもって考えたのよ」

「ハルホくんって有名なの?」

「昔の話だよ。そもそもこのゲームを最初からプレイしている人は互いに知っていることが多いだけ」

「そうなんだ」

「というわけで、ハルをシメてこの武器を手に入れようとしたってわけ」

「あとは、この武器の作り方、を聞こうとしたってわけだ」

「それくらいなら言っても良かったのに」

「嫌ですよ」


 ユキさんは気軽に言っているけれど、こういう情報を公開するのってなかなかに勇気がいることだからね。それに、この武器の本質を伝えたら、それは僕があの集団(・・・・)に属していたことがばれてしまう。特に古参の人からしたら有名な名前だし。でも、それはもう、過ぎた話だ。だから僕はその話をしたくない。それでも僕がこの杖を使い続ける理由は、贖罪に他ならない。


「ハルホくん!」

「ん?」

「どうしたの?」

「え?」

「ハルホくん、黙り込んじゃったから」

「ご、ごめん」


 考え事をしていたら黙り込んでしまっていたみたいだ。すぐに僕はアオイたちに謝罪する。アオイは少し心配そうに僕の方を見ている。


「どうしたの? 何か嫌なことでも……?」

「へ、平気だよ。それで、どこまで話したっけ?」

「うん、私たちを襲った人たちにも理由があったってこと」

「そうだね」

「どうすれば防げたのかなぁ」

「悪いけど無理よ」


 アオイの言葉をユキさんがばっさりと切る。その言葉を聞いてアオイはかなり悲しそうな表情をした。


「そんな」

「そもそも、彼らは違反という違反をしていないもの」

「ん?」

「そうだな」

「ハルホくんまで」


 多分だけど、アオイと僕たちとでは認識に違いがある。それをきちんとはっきりとさせておいた方がいいだろうな。


「アオイちゃん」

「なに?」

「私たちは、別に、もう彼らに対して怒ってはいないわ」

「え?」

「だって一度叩き潰したもの。それで私たちはもうおしまい」

「昔はとりあえず一回戦うって感じだし」


 昔は今よりもかなりひどかった。PVPの仕組みも定まっていなかったし、会社の初めてのVRゲームってことで色々とゆるかったところも多かった。そのせいであちこちで戦いが起きていた。レイドにいく順番だとか狩場の場所だとか、もっと言えば小さな諍いだって全部戦いで解決していた。そして戦ったあとはお互いに禍根を残さないというルールができた。まあ、このルールがまかり通ったのはみんなが純粋に楽しんでいたっていうのが大きいのだろうけど。というか、戦っているうちに友情が芽生える的な展開もあったし。レイドが少なかったということは互いに格差が生まれにくかったということだからね。


「そうだったんですね。なら、どうしてあんなに責め立てられたのでしょうか」

「人間ってそんなものよ。叩きたいから叩く。それだけのこと」

「でも」

「アオイ」

「ユキさん……?」


 ここで初めて、ユキさんがアオイを呼び捨てにした。突然のことに驚いて、アオイは口を閉ざしてしまった。


「人間ってとても悲しい生き物なの。それを私も、そしてハルも身をもって知っている。だから私たちはここにいるのよ」

「それは」

「アオイ、アヤたちが待っているんだろう? 行って来なよ」


 まだ何か言いたげな顔をしていたアオイを僕とユキさんは半ば強引に外に出す。正直昨日の今日で恐怖感があるかと思っていたけれど、そんなことはなく、アオイは不承不承、アヤたちのギルドに向かっていった。

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