3−4
僕とユキさんは黙って進んでいく。僕たちの間に特に会話らしい会話なんてない。ただ、黙っているのは理由がある。これからの戦いのために、装備などを整えていたりしたのだ。
「よかったの? ハルまで」
「僕は、もう、後悔したくないですから」
「そう」
ユキさんが思い出したように、僕の方を向いて、尋ねてくる。一瞬だけ視線が僕が持っている『死神の錫杖』に向かったけれど、だからこそ、僕はユキさんと一緒に向かうのだ。
「むしろ、ユキさんこそ大丈夫ですか? PVPできますか?」
「……さすがに今回はサポートになりそうね」
「今度は、近くで僕も闘いますから」
ユキさんに確認しておいてよかった。でも、それなら安心だ。簡単に僕たちで作戦を立てる。まあ、作戦といっても、僕が前線で暴れてユキさんが後衛でサポートしてくれるという感じだけどさ。でも、ユキさんのサポートほど信頼出来るものはない。彼女の腕前は知っている。どんな特技が得意で、どんな闘い方をするのか。もちろん、逆もまた然りだけどさ。
「人、集まっていますね」
「あいつらかな」
しばらく進んでいると、前方に、アオイが言っていた場所に男たちが6人程度たっているのが見えた。時間から見ても、彼らがアオイたちをPKした集団で間違いないだろうな。移動していたら違うけど。そして、その男たちも僕たちが近づいてきているのがわかったのか僕たちの方を向いた。
「どうしたんだい?」
「無駄な話は嫌いなの。あなたたち、さっきここでPKをしなかった?」
「……」
ユキさんは単刀直入に突っ込んでいく。でも、男たちは、ユキさんの言葉を聞いても、何も言わなかった。
「俺たちがPKしたっていう証拠は?」
「ないわね。ただ、あなたたちを今からPKしたとしても問題ないわよね」
「ユキさん、飛ばし過ぎ」
さすがに言いがかりが過ぎるというか、僕たちが悪者になってしまう。別に彼らがアオイたちを襲っていないとしても倒す気でいるけどさ。そこにいるのが悪い。運が悪かったと思って諦めてくれ。でも、そうならないことはわかっている。みんな、僕の方に注目しているから。僕の方を見て、僕の名前を確認して見ているから。何人かは隠しきれない笑みを浮かべている。それが何よりの証拠だ。
「俺たちに喧嘩を売ってきたってことは逆に俺たちがPKしてもいいってことだよな?」
「構わないわ。できるのなら」
「ユキさん煽らないで……僕もまどろっこしいことは嫌いです。僕に、用事があったのではないのですか?」
「なんだよ。全部わかった上で来ているのか」
「じゃあ、認めるのよね?」
ユキさんが念を押すようにもう一度確認する。さっき自白まがいのことをしたし、間違いないのだけど念のための確認は大切だ。
「そうだな。だが、さっきお前は言っただろ? PK自体は何も問題がないって」
「そうね」
相手の言葉に僕たちはうなづく。うん、いわゆるこれはダブルスタンダードというやつだろうね、相手から見たら。相手からしたら、僕たちは仲間がPKされたから怒ってここにやってきたと思っているのだろう。客観的に見ても、そう見える。見えないのは、僕たちを知っている人だけ。
「なら、お前たちは俺たちと同じことをしているわけだ」
「あなたたちからしたらね」
「どういう意味だ?」
「さっき言った通りです。僕に用事があるんですよね? なら、僕に直接来てください」
僕がギルドにずっと引き篭もっているから見つけることができなかったとか言われたらどうしよもうないけどさ。でも、例えそうだとしても僕に非はないと言い切ることはできる。僕の言葉を聞いた、男たちは、僕の言葉を待っていたというように、
「なら、そうさせてもらおうか」
「俺たちが勝ったら、お前のその杖とスタンの秘密、教えてもらおうか」
「……構いませんよ。僕たちに勝てるのなら、ですけど」
「ハルも同じじゃない」
ユキさんに窘められてしまった。結局、僕も彼らに対しての怒りを留めることができなかったみたいだ。彼らは僕の言葉を聞くと、
「それで、お前たちの要求はなんだ? 二度と手を出すなってか?」
「何も」
「あ?」
ユキさんの言葉が予想外だったのだろう。ユキさんの言葉を聞いて不思議そうにしている。でも、別に何かを要求しようだなんて思えない。というか、思う必要がない。
「二度と歯向かう気が起きないように叩き潰してあげるわ」
「なめんじゃねえぞ!」
「『安寧の禊』」
ユキさんの言葉を皮切りに、男たちが向かってきた。慌ててダメージ吸収の特技を唱えると、僕はユキさんと男たちの間に入って、攻撃を受ける。すぐに、障壁は砕かれてしまったけれど、ユキさんを男たちから離すことは成功した。
「もう少し位置どりを確認しておいてくださいよ」
「ごめんごめん」
謝罪の言葉とともに、僕に向かって支援魔法が飛んでくる。ユキさんの職業は『支援者』。パーティーメンバーを援護して能力上昇を付与することに特化した職業。その代わりに攻撃力もなく、耐久面も不安しかない。はっきり言えば、1対1でのPVPにおいて最弱と言われる職業だ。ただし、その分、仲間がいれば強い。他にも、敵に能力低下をかけたり、魔力の管理をしたりできる。
「非攻撃職2人でなにができるんだよ」
「さっさと死んでしまえよ」
「『13』」
まずは初手で『13』を当てる。この魔法は割と広範囲に当てることができるので数人に命中する。ユキさんの援護で火力が上がっているとはいえ、倒しきることはできない。相手の職業を素早く確認する。前衛職の剣士と騎士が一人ずつ、攻撃職の魔法使いが二人、暗殺者が一人、そして僕と同じ神主が一人。
「くそっ」
「あ? これ呪いがかかってる!?」
「ヒーラー、解除よろしく」
やっぱり回復職がいるか先にそっちから攻略したいところだけど、人数の不利が大きい。それに、下手に突っ込みすぎるとユキさんを孤立させることになりかねない。さて、どうするかな。
「おらよっ」
右から一人、僕の魔法を避けた人が襲ってくる。持っている刀を振りかぶって僕に振り下ろしてくる。うっすらと色が付いていたので、何かしら僕にデバフをつける効果のある特技を使ってきたのだろう。
「ハル! 『天使の戯れ』」
「ありがとうございます。そして、『13』……まずは一人」
「くそっ、なんでこんなに動きが鈍いんだ」
ユキさんの援護がいい感じに効いている。おかげさまで敵の異常状態の攻撃を無効化してそのままカウンター気味に『13』を当てることができた。これによって、厄介な前衛職の剣士を倒すことができた。男たちは一人やられたことに動揺しつつも、次の攻撃を仕掛けてくる。
「切り替えろ! まずは後ろの女を狙え!」
「ハル! 残り5秒間で半分倒しなさい」
「了解です」
「あ?」
その言葉を聞いて、僕は一人突っ込んでいく。僕の行動が予想外だったのか、反応が少しだけ遅れてしまう。それでも、ユキさんに向けていくつか魔法が飛ばされたのはなかなかだと思う。それを見ながら、彼らの中心に立って、
「『13』」
僕の魔法が彼らを襲う。障壁も関係なく貫いていく。それに、例え防ぎきることができたとしても、この魔法の追加効果である呪いの固定ダメージは防ぐことができない。さらに、
「はい、魔法職の二人はお疲れ様」
「なぜ、お前が生きている」
「どう……して」
ユキさんに魔法をぶつけた二人が死亡する。ついでに、個別で障壁をかけていなかった神主の男も死亡していった。残されたのは前衛二1、それももう残り体力が後僅かだ。
「なぜ、俺のタゲ集中が効いていない」
「範囲攻撃しか使ってないから、ですかね」
「後は、それを無視する方法もあるってことを」
「ふざけるなっ」
男が最後のあがきとばかりに僕に突っかかってこようとしたけど……僕は『』を発動させて、スタン状態に追い込む。そのままなし崩し的に、残りを倒して、今回の敵討ちのような、八つ当たりのような戦いは幕を閉じた。




