3−3
「終わったぁ!」
「お疲れ様」
クラスメイトの喜びの声を聞きながら、僕はゆっくりと出していた筆記用具をしまっていく。今回の期末テストもサキさんとユキさんに色々と教えてもらったことでなんとかなった。春山さんの方をチラッと見たら彼女も満足そうな顔をしていたので効果はあったのだろう。
「よし、これで夏休みだな」
「そうだね〜 ゲームの目標を決めようよ!」
「そうだな。アテナとヘラ、それからアルテミスのクリアを目指そうぜ!」
赤井くんたちが話しているのを聞きながら僕はのんびりと体を伸ばす。テストでずっと同じ姿勢をとっていたからか体が凝り固まってしまっている。固まってしまった体をほぐすように、僕は体を動かしていく。赤井くんたちが話しているのは、これからの夏休みにおいてどんな感じでゲームをしていくかの話し合いだ。クラスメイトというか知り合いだけでギルドを作るとよくあることだ。
「ねえ、咲風くん」
「うん?」
そんなことを思っていたら、春山さんに声をかけられた。
「白夜の旅立ちは何かするの?」
「いや、特に何かすることはないよ」
聞かれたことに、僕は淡々と答える。もしかしたら、春山さんは赤井くんたちのギルドの手伝いをするのかもしれない。そういえば僕も手伝うようにって言われていたっけ。まあ、その辺りのことはなんとかしていけばいいだろう。
「でも、そろそろ次のパッチが来るから追加されるレイドには挑戦すると思う」
「そうなの? 私も参加して大丈夫なの?」
「まあ、毎回適当に声かけたりするから平気だよ。それにヨミとも仲良くなっているみたいだしさ」
「うん! 今度ヨミちゃんと一緒に装備を考えるんだ!」
「そっか」
春山さんは嬉しそうに話してくれる。それを聞きながら、改めて彼女のコミュニケーション能力の高さに驚く。まさかこんなにも早くヨミと打ち解けることができるなんて。しかも次に装備の打ち合わせをしに行くとか。歳が近い同性ということももあるのだろうけど、僕がヨミの心を開くまでにどれだけかかったことか。
「春山さんってすごいね」
「え? 何が?」
「いや、なんでもないよ」
「葵ちゃん! 咲風くん!」
「ん?」
春山さんと話していた時に霧雨さんが話しかけてきた。何事だろうかと思って、彼女の方を見たら、
「二人とも、私たちがアテナの攻略をするのを手伝ってくれるって約束覚えてる?」
「えっと」
「そういえばあったね。いいよ。ユキさんには話を通してるし」
「そうなの?」
「うん」
テスト勉強でユキさんから色々と教わっている時に、彼女に伝えておいた。ユキさんは快く、僕たちが他のギルドに協力しにいくことを快諾してくれた。春秋はあんまり気にしていないみたいだけど、普通は他のギルドに手伝いに行くというのはいい顔されることはない。そんな時間があるのならギルド内でレイドの練習をしたり、新人の教育をしてほしいと思うのが自然なところだし。
「それじゃあ、今日その話し合いをしたいのだけどいいかな?」
「今日? 多分大丈夫だと思う」
「咲風くんが大丈夫なら私も大丈夫だろ思う」
僕と春山さんはそれぞれお霧雨さんの質問に答える。話し合いをするのはいいのだけど赤井くんのギルドに誰がいるのかの確認をしておきたいな。それによっては装備を幾つか変更する必要があるからね。霧雨さんとそう約束をして、僕たちは学校を後にした。
「あ、ハル! おかえりなさい」
「ユキさん。ただいま」
ログインしたら、ユキさんだけがいた。家に戻った時に母親からお使いを頼まれてしまったので少し遅くなってしまったのだ。だからもう、アオイはシンイチたちと合流しているだろう。
「それにしてもハルが他のギルドの助けに行くなんてね」
「断れなかったんですよ」
「あはは、これを機にもう少し色々なところに参加したら」
「ユキさんが参加しなければしませんよ」
「あはは、嬉しいことを言ってくれるね」
ユキさんは軽く流しているけれど、僕としては紛れもない本心だ。正直ユキさんのいないレイドなんて考えたくない。ま、それを言葉で伝えるよりかは実際にユキさんとレイドをしていく中で進めていけばいいだろう。
「それじゃあ、行ってきます」
「うん、ハル、私たちのことは気にしないで楽しんできて」
「いや、さすがにうちを優先しますよ。何かあったら教えてください」
「いや〜ハル抜きでなんとでもなるよ」
「うっ」
ユキさんの言葉にぐうの音も出ない。正直ユキさんたちの実力ならなんとでもなるだろう。まあ、そもそもうちのギルドは誰であっても大概のことはどうにかなると思うけどね。そんなことを思っていたら、向こうから、青い顔をしたアオイがやってくるのが見えた。え? なんで?
「アオイ?」
「え? アオイちゃん? どうしたの?」
いきなりアオイが出てきたので、僕もユキさんもかなり驚いた声を出してしまった。そして、僕たちの言葉を聞いた、アオイは、泣きそうな顔で、
「わ、私とアヤちゃんたちでいたら突然襲われて」
「!」
「アオイちゃん、ゆっくりでいい。起きたことを教えてもらえるかしら」
アオイの言葉を聞いて、僕たちはきっと同じことを思っただろう。背中に冷たいものが流れるような感覚がした。アオイが遭遇したのはおそらく、PK、プレイヤーがプレイヤーを殺す行為のことだ。このゲームも当然、そんなことは起きる。別に運営がその行いを否定しているわけではないからだ。ただ、そこまで多くないのは僕たちが日本人でそういう行いを嫌う傾向にあるからだ。でも、僕たちが震えたのはそれが理由じゃない。ユキさんが慎重にアオイに聞いている。人によってはトラウマになりかねないことだから。だから僕たちは慎重に対処しなければいけない。
「わ、私たちが立っていたら突然、男たちに囲まれて、」
「なにか言われたの?」
「はい、さ、咲風くんを探しているって。何か知っているのなら話せって」
「うん」
確定だ。今回アオイたちが狙われたのは、たまたま彼女たちがそこにいたからとか、彼女たちに恨みがあって狙ったとかそういう理由じゃない。僕が、僕が使ったバグ技とこの杖のせいだ。アオイからの言葉を聞いたユキさんは、優しい口調でアオイに語りかけた。
「わかったわ、話してくれてありがとう」
「はい」
「そして、もう安心して。二度と関わらせることをさせないから」
「え?」
「ユキさん」
「……わかったわ」
ユキさんが何かを言う前に、僕はユキさんの名前を口にした。僕が口にした意味をわかったのだろう。ユキさんはため息をつきながらも、僕の同行を認めてくれた。そして僕たちがしようとしていることがわかったのだろう。アオイは慌てたように、僕たちを止めようとする。
「ま、待ってください、別にハルホくんたちが戦う必要なんて」
「多分だけど、何度でも続くと思うよ。僕の秘密を知るまでは」
「そうね。それに、私たちにも関係があるから、私たちも行くのよ」
「え?」
「ハルには技を使った責任が、そして、私にはハルを止めなかった責任が」
「いや、さすがにユキさんにまで責任を押し付ける気はないですよ」
自分がしたことだから、それくらい自分でケリをつける。でも、なんだかんだ言って、僕たちが言っていることは全部詭弁だ。僕たちが戦いに行こうとしている一番の理由は、僕たちはアオイたちを襲ったPKを許すことができないからだ。普通のPKだったら僕たちもそこまで首をつっこむ気はない。でも、襲われた理由に僕たちが絡んでいるとなれば、話は別だ。そんな理由で人を襲うとか、そんなこと、絶対に許してはいけない。
「あ、アオイ。どこで襲われたの?」
「……街から出るところです」
最後にどこで襲われたのかを確認する。それをきちんと確認しておかないと無駄足というか相手に思い知らせてやることができないからね。その言葉を聞いて、僕たちは、ギルドから出てアオイが襲われたという場所に向かっていった。
***
「どうして」
「あら、何かあったのかしら?」
ユキとハルホが出て行った後、某然としていたアオイは、自分に向かって話しかけてくる声を聞いて、顔を上げた。そこには、最近仲良くなったサキの姿があった。
「実は……」
「ふうん、なるほどね」
アオイの言葉を聞いて、サキは納得した表情を浮かべた。その様子を見て、アオイは気になって質問する。
「驚かないのですか?」
「まあ、先輩とハルくんならさもありなんってところだしね」
「どうして」
「え? どうしてって」
サキは不思議そうに、アオイの方を見て、そして、すぐに何かに気がついたように、言った。
「そっか。アオイちゃんは知らないよね……先輩とハルくんはね、『紅雪の悪夢』の被害者だから」




