3−2
サキさん、ユキさんと同じく大学生の女性。ゆったりとした黒髪の持ち主で、色気のある顔立ちをしている。ただし、服装はかなり軽い感じで水玉模様のポンチョ? というものをきている。正直服の種類なんて詳しくないんだけど、サキさんが言っているのなら、きっとそうなのだろう。うん。
「お久しぶりです。サキさん」
僕はサキさんに挨拶をする。サキさんはゆったりとした口調で、僕を迎えてくれた。
「他に誰か、いますか?」
「ヨミちゃんが自分の部屋にいるわね。あとは、さっきシオンさんがいたけどすぐにログアウトしちゃった。会社が忙しいみたい」
「そうなんだ」
「それで、今日は新人の子、アオイちゃんはくるのかしら?」
「来ますよ」
僕の言葉を聞いた瞬間サキさんはかなり嬉しそうに微笑んだ。その微笑みは個人的にはかなり悪女というか、
「あら、今変なことを想像しなかった?」
「……なんでもございません」
この人こういうことがあるんだよな。時々人の心が読めるんじゃないかって思うぐらいこちらの心理を的確に突いてくることがあるんだよ。個人的に僕が勝てないと思っている人の一人だ。レベル的にはユキさんとそれからあいつと同じ。
「そう?」
「魅惑的な微笑みはアオイには見せないでくださいね」
「もちろん、あの子に変な印象を植え付けたくないわよ」
「ごまかしてくださいね」
「手伝ってくれるのね。ありがとう」
「……」
ほら、いつの間にやら手伝う流れになってしまっているし。こうしていつの間にかサキさんのペースに巻き込まれてしまっているんだよね。
「すぐに来ますからね」
「そう? もうすぐミナトも来るだろうし丁度いいわね」
「こ、こんにちは」
そんなことを言い合っていたら丁度よくアオイがログインしてきた。そして、僕と話しているサキさんの方を見ると、固まってしまった。
「え、えっと」
「あなたがアオイちゃんね。私はサキ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
アオイは戸惑いながらも、サキさんの挨拶に返している。そして僕の方に向いてきた。何が言いたいのかわかったので僕は彼女たちに説明する。いや、何を説明したらいいんだ? 職業とかはわかっているはずだし。そんなことを考えていたらサキさんが会話を始めてくれた。
「それにしても、ハルくんがこんな可愛い子を連れてくるなんてね」
「え? い、いえ。サキさんも綺麗です」
「あら、ありがとう。ほんと素敵な子ね。ハルくんにはもったいないわ」
「あの、サキさん、何か勘違いしていません?」
なんだか僕とアオイが付き合っているというふうに思われているような。そう思った瞬間、それがサキさんの策略だということに気がついた。サキさんは僕の方を向くと、アオイには見えないようにさっきみたいな怪しげな微笑みを浮かべると、
「ハルくんはアオイちゃんのことをそんな風に考えていたのね。アオイちゃん気をつけてね」
「えっと、私たちは本当に何もないです」
「あら、残念ね、ハルくん」
からかわれた。そう思って焦ってしまったけど、アオイも同じように推測して否定してくれたので、サキさんはかなりつまらなそうにしていた。というか何が残念なのだろうか。
「僕が好きなのはアオイじゃなく……」
「え? ハルホくん好きな人いるの?」
「あら、それは知らなかったわ」
口が滑ってしまった。今まで、この手の話題をサキさんたちから振られることは多くなかった。だから、自分の恋愛事情を言うことはほとんどなかったはずなのに。ここまで隠していたのに、つい言ってしまった。少し浮かれていたのだろうかと思うが、まあ、もう諦めるしかないか。それよりも、この恋愛話についてキラキラとした目をしている二人の追及からどのように逃げるのか考えないと。一番確実なのはログアウトだけど、それだと根本的な解決にならない。
「誰かしら。私が知っている人?」
「ハルホくん、学校の人? もしかしてクラスメイトとか?」
今もこうしてグイグイ聞いてくる。誰か助けてくれ。誰でも……よくない。ユキさんは知っているし、多分シオンさんも同じだ。ここで一番来て欲しいのはハヤトだ。あいつが来てくれたら上手いこと誤魔化せる。でも、それに頼るのは少し違うよな。てか、サキさん、当たり前のように僕の好きな人をこのゲームでの知り合いにしないでください。間違っていないけど。
「サキさんが知っていると思いますよ」
「へえ、ということはユキ先輩は当然知っているわよね」
「はい」
「そうなんだ〜ん? もしかしてユキさん本人とか?」
「いや、それは違う」
言ってしまってからまた失敗だったと気づく。ごまかしきることができるかどうは置いておいて、ユキさんだと誤魔化すことも可能だったのに。ユキさんには後で謝っておけば大丈夫だろうし。ていうか、
「あ、サキさん一応言っておきますけど。ユキさんに迷惑かけないでくださいね」
「ハルくんがそこまで言うのならやめておくわ。というか、あの子よね?」
「……」
うん、これはサキさんは気がついたみたいだな。でも、あえて名前を伏せて聞いてくるあたりここで名前を出すことをする気はないみたいだ。アオイは少しだけ不服そうだったけれど、僕が本気で嫌がっているのがわかったみたいなのでこれ以上は追及してくることはなかった。
「そういえば、先ほどサキさんはユキさんのことを先輩と呼んでいましたけど」
「あーうん、大学が同じみたいなの」
「アオイも色々と勉強とか教えてもらったらいいよ。僕も教わっているし」
「そうなの?」
「うん」
「いいわよ! 好きなだけ教えてあげる。テストが近いんだっけ?」
「はい。おねがいします」
「こんにちは! えっと、誰ですか?」
「ん?」
突然、そんな声が聞こえてきたので声が聞こえてきた方向に首を向けたら、そこに、さっきから少しだけ話題に出ていたミナトがそこに立っていた。黒髪で夏ではあるがコートを着ている男の子だ。まあ、ゲームなので暑さとか寒さとかはある程度は感じないようにすることができる、じゃなきゃ火山とか雪山とかのクエストとかがほぼほぼクリア不可能になっちゃうし。
「ミナト。いらっしゃい」
「こんにちは。サキさん、ハルさん。それからこの人はハルさんが言っていた人ですか?」
「は、はい。ハルホくんの同級生のアオイです」
「ハルさんの同級生ということは、俺にとっては先輩ですね。よろしくお願いします」
「よろしく」
「それじゃあミナトも来たところだし今日は勉強でもしましょうか」
「そうですね。サキさん、よろしくお願いします」
ミナトが来たところで、サキさんがこの場を仕切るように宣言した。今は特に気になるクエストとかもないし僕としても問題ない。
「それじゃあ一旦ログアウトしますね」
「どういうこと?」
「さすがにこのままでは勉強できないから、チャットルームを使うんだよ。わからないところを写真でとって送ればいいよ」
「そうなんだ。あー」
「一応釘を刺すけど他の人たちには内緒ね」
「あ、うん」
「アオイちゃんのクラスメイトには申し訳ないけどさすがに全員は難しいわ」
「わかりました」
「ハヤト、来たばかりなのに悪いな」
「構いませんよ。俺も今日はサキさんに勉強を教わりに来ただけですから」
そして、僕たちは一旦ログアウトして、そしてテスト勉強を始める。そして、わからないところがあったらそれを写真にとって送る。少ししたらサキさんから電話が来るので電話で話しながら問題の解説を聞く。そんなことをしながら、ゆっくりと時間が過ぎていった。




