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「あ、はる……咲風くん、おはよう」
「おはよう春山さん」
次の日、学校に行ったら春山さんがかなり眠たそうな顔で僕に挨拶をしてきた。少し寝ぼけているのか僕のことをゲームの名前で呼ぼうとしていた。幸か不幸か、僕の本名はあゆむなのでからかわれることはない、だろう。
「あ、葵ちゃーん! どうだった咲風くんのギルドは?」
「え? あー」
「何か嫌なことでもあった? なら私たちのギルドに」
「そ、そういうわけじゃなくてね」
霧雨さんが話しかけてきて、それに困ったように対応する春山さん。まあ、どう考えてもユキさんが言ったことに起因しているのだろうけど。
「ユキさんの言ったことは気にしないで……」
「でも、どうして咲風くんと意見が全く違うの?」
「機会が来れば話すよ」
意見が違うと言ってもそれで喧嘩をすることはない。ユキさんがこのギルドを解散したいと考えているのはこのギルドが創られた理由によるものだし、僕が誰かが脱退するのを見たくないのも、このギルドに加入した理由によるものだからね。だから、ここら辺について話そうと思ったら、必然的に僕たちの過去を話す必要があるわけで、好き好んで話したくないから、これでいい。
「そういえば、葵ちゃん、咲風くんの他のギルドメンバーと出会ったりした?」
「え? 確か、ヨミちゃんと話したよ」
「え? ヨミ? 『黄昏』の?」
「『黄昏』? なんのこと?」
なおも、二人の会話が続いているときに、緑口くんが間に入ってきた。そいえば、緑口くんってそこそこプレイ期間が長いんだっけ? なら、知っていてもおかしくないか。春山さんの言葉を聞いた緑口くんはよくわかっていない、霧雨さんと春山さんの二人に解説する。
「今から1年半くらい前に一つのギルドがレイドを駆け抜けていたんだ。その名も『黄昏時の集い』。そして、そこのトッププレイヤーの1人の名前がヨミ。ある時からすっかりと噂を聞かなくなってたけど」
「へえ、そうなんだ。でもどうして咲風くんのギルドにいるの?」
「本人に聞いて……って言いたいけど絶対に聞いちゃダメだよ」
「どうして」
「春山さん」
緑口くんの言葉を聞いて、春山さんが興味深げに僕に聞いてくる。緑口くんも霧雨さんも僕の方に顔を向けてくる。
「ごめん、ギルドのルールというか、暗黙の了解として、過去のことは詮索しない方がいいよ。少なくとも当人が話すまでは」
「ん? その感じだと、咲風も何かあったということになるわけだけど」
「そうだね。でも、君たちにそれを伝える義理はないよ」
「そ、そうか」
僕が冷たく突き放したからか、あたりに奇妙な沈黙が降りてきた。そして、その沈黙をごまかすように、
「ね、ねえ。今って何が話題なの?」
「あー、咲風の謎の魔法だけど」
「あっ」
気を利かせて春山さんが話題をそらそうとしたけど、逆効果だった。まあ、この程度なら話しても問題ないし、大丈夫だよね。春山さんが僕の方に不安げな顔を向けてくるし、さすがにそんな顔は心臓に悪い。
「別にいいよ。でも、これは掲示板とかに書き込みをしないでくれ。というか、他言しないでほしい」
「え? いいのか?」
「うん」
緑口が少しだけ気遣わしげに聞いてくるけど、さすがにね。それに、これは誰かに話したところで問題はない。ただ、少しだけごまかす必要があるけど。
「あれは、とあるレイドの報酬で手に入れた素材から作ったんだ」
「へえ。どこのレイドだ? てかあの魔法を見るに明らかにヤバいやつだろうけど」
「期間限定のレイドだよ。日本では少ないけど外国は多いんだよ」
「へえ! お前外国のサーバーに行ったことがあるのか」
これで、誤魔化せたかな? 僕は何も嘘を言っていないし、これで充分だろう。それに緑口くんたちが勝手に思い込んだだけだろうし。まあ、春山さんと霧雨さんはよくわかっていないみたいだから問題ないけど。あとはまあ、大槌くんたちに聞かれていたら少し面倒かもな。調べたらすぐにわかるだろうし。
「すごいね! 咲風くん」
「まあ、ゲーム歴が長いとね」
「お前何年やっているんだ?」
「もうすぐ4年」
「4年! ってことはお前オープンからやってるのかよ」
緑口くんの言葉を聞いて、近くにいた赤井くんとそれから青山くんが近づいてきた。何事かと思ったのだろう。さっきから色々とうるさかっただろうし。
「サン、お前どうしたんだ?」
「あー、すまん、咲風が『フロンティア』を初期からプレイしてたって聞いて驚いてしまってさ」
「そうなのか。でも、どうして気になるんだ?」
「いや、俺が始める少し前にあった事件なんだけどさ、『紅雪の悪夢』って呼ばれる悲劇を知ってるか?」
「!」
緑口くんが口にした言葉を聞いて僕は思わず固まってしまう。でも、幸いなことに彼らはすぐに気がつかないで、話を続けてくれた。
「いや、知らない。なんなんだ?」
「それが、誰も話してくれないんだよ。その時にプレイしていた人はそこそこいたはずなのに。俺が知っているのは大々的なPKが起きた、ってことだけなんだよ」
「そうなのか。じゃあ咲風くんは知ってるのかな? ……咲風くん?」
「どうし……大丈夫か?」
春山さんが僕の方を向いて、そして固まってしまう。そして春山さんに続いて僕を見たみんなも同じように固まってしまった。理由なんて簡単だ。僕の表情がかなりこわばっていたからだろう。
「咲風」
「ごめん、その話はしたくないんだ」
さっきよりもはるかに強い口調で彼らを拒絶する。彼らは不思議そうな表情をしたけれども、僕の様子を見て、これ以上突っ込んでくることはなかった。そして、代わりに、
「さて、と。ゲームの話題もいいけど、テストの心配もしないとな」
「あ!」
「来週期末試験だ」
別の話題、それもゲームとは関係のない話をしてくれた。うん、色々あってすっかり忘れていたけど、もうすぐテストが近いんだよね。赤井くんの言葉を聞いて、みんなは慌て出す。
「うわーどうしよう」
「いっその事みんなで勉強会でもする」
「いいね! 咲風もくるか?」
「いや、僕はやめておく」
赤井くんが気を利かせて僕も誘ってくれたけど断る。ユキさんたちと勉強する予定があるからね。多分赤井くんたちのことも話したらきっとまとめて見てくれるのだろうけど、そんな事はできない。なんとなく罪悪感を覚えながらも、僕は何食わぬ顔で、彼らの会話を聞いていた。
そして放課後、帰りの準備をしている僕に、春山さんが話しかけてきた。もうここ数日で何度もあった事だから、僕も大分慣れてきた。それに、彼女が言いたい事がだいたいわかっているというのも大きいだろう。
「咲風くん! 今日も私ログインしようと思うんだけど」
「わかった。何時?」
「えっと……5時で」
「うん、5時だね」
そして別れる。春山さんが危惧していたのは、僕がいない時にまたヨミと二人っきりになるか、それか他の人と二人っきりになってしまうことだ。僕がいないと不安なのだろう。まあ、うちのギルドには危険な人は……いるけど、少なくとも春山さんに危害を加えようとする人はいないし大丈夫だと思うけどね。何かあればすぐに僕もログインするし。
そして、家に帰ってすぐにログインする。5時までは少しだけ時間がある。でも、先に入っておけばアオイが今日出会う人が誰になるのか把握することができるし、もし、社会人だけとかだったら遠慮してもらうこともできるからね。
「あら、ハルくん。久しぶりね」
入ったら、そこには、サキさんだけがいた。




