プロローグ
VR物に初挑戦してみました
よろしくお願いします
「また、ここにきてしまったか」
僕は今、目の前にあるコロシアムを見ながらそんなことをつぶやいた。
響き渡る歓声。ぶつかり合う鈍い金属の音。そこでは今、まさに最強のプレイヤーが決定しようとしていた。
MMORPG「フロンティア」。ユーザー数10億をも超える、超人気ゲームソフト。配信がスタートしてからはや四年、その人気っぷりはかげることがなく、日々人々を虜にしてやまない。
学生たちは放課後になるとこぞってゲームにログイン、社会人たちもゲームのために残業を減らし、結果的にブラック企業が消える……とまではいかなかったがそれでも毎日毎日学生たちの間では飽きることなくフロンティアについての会話がなされていた。新しいクエストそれによって見つかる新しいダンジョン、高難度戦闘、武器、語られていることはさほど多くはないが毎日毎日飽きもせず学生たちは前日にあったことを学校で話し、そして放課後になればともにログインして一緒に冒険するーもちろん見ず知らずの人たちと冒険をしているものも多いが、時間の関係からクラスメイト同士でグループ、ギルドを組んでいることが多い。
だが、話題にもっとも多くのぼっていることはダンジョンでも、レイドでもない。それは、pvp……つまり最強のプレイヤーーの話だ。このゲームにおいて、pkはあまり推奨されていないが、MMO系となれば当然プレイヤー同士の戦いも当然起こる。そこで定期的に運営はプレイヤーのバトル大会を実施している。プレイヤーにはそれぞれランクが与えられており、自分のランクにあったトーナメントに参加する。ランクはSABCDEの6段階でありS級のトーナメントで優勝することはそれすなわち最強のプレイヤーの称号を得ることに他ならない。
そして、今、また新しい最強プレイヤーが決定した瞬間でもあった。コロシアムから少しの間歓声が止んだ。静まり返ったそのあとで、ひときわ大きな歓声が聞こえて来る。
『きまったぁぁあぁぁ。栄えある第9回pvpS級トーナメント、前回優勝者のライトを下し、勝ったのは……アマツだぁぁ』
「アマツ……ああ。『太陽』か」
「そうだ。さすが『黄昏』のギルマスといったところか。まさかライトを下すなんてな」
僕は独り言をつぶやいていたと思ったら返事が返ってきたことに驚きながら、僕、ハルホは後ろを向く。そこには、20代くらいの男のプレイヤーが立っていた。僕は驚きながらも、彼の言葉を返す。
「花月。どうしてここに?」
「いやぁ、ヨミのやつが少しそわそわしてたんで結果だけでも見に来たんだ。それにもしかしたらお前もいるかもしれないと思ってよ」
僕の言葉を聞いて、花月は苦笑しながら答える。口調にはどこか諭すような……なだめるようなそんな感情が見え隠れしていた。
「そっか。ならヨミにいい報告ができそうだな」
「おい、ハル……無理するなよ」
「無理なんて……」
「まあ、お前がこんくらいでダメージを受けるような奴だとは思っていないがな。それよりホームに戻ろうぜ。ユキが待ってる」
「ユキ? あいつもいま……ああ、ログインしてるな。というかみんないるし」
基本的にプレイヤーは他のプレイヤーがログインしているかわからない。だが、お互いにフレンド登録していれば相手がログインしているのかオンラインかオフラインかがわかる。ちなみに一方的にフレンド登録することも可能だ。その場合は相手にメールを送ることができるだけだが。基本的に僕たちはお互いに交換していることが多い。
それからホーム。これはギルドのホームのことを指す。ギルドとは、先ほども述べたがこのゲーム内でのグループの一つ。まあ同じようなプレイヤーが集まって何か動こうとするのに都合のいい組織、よく一緒にプレイする人たちで集まりやすくした感じとでも言えば良いのか。ギルドに入っていることによる恩恵はとても多く、ほとんどのプレイヤーたちが何かしらのギルドに加入している。
そしてホームとはそのギルドのメンバーたちの拠点のことである。ギルドを作り、みんなでお金を出し合うことでギルドホームを買ったり借りたりできる。そしてそのギルドホームへは基本的に自由に行くことができる。さすがに街中やダンジョン内から直接ワープというのは難しいが、その他の場所からならどこでも移動することができる。
「あ、ハルと花月! 帰ってきたんだね!」
だからこうして外にいたとしてもすぐにホーム内に戻ってくることができる。僕と花月が戻ってきたときに、ユキとそれからもう一人、ヨミが出迎えてくれた。
「お帰りなさいハルさん、花月さん」
「おー帰ってきたか。それでそれで? 」
「ただいま……であってるのか? 僕今来たんだけど」
思わず突っ込んでしまったけど、それでも僕はこぼれ落ちる笑みを押さえることができなかった。僕は知っているから。おかえりと言ってくれる仲間がいることを。だから僕は絶対にこの手順を省くことをしない。というか、後ろにシオンがいるんだけど。今日はやけにみんな集まっているんだな。そしてユキが話を進めるように催促した。
「まあまあ、細かいことは気にしなさんな。それよか、もったいぶらないでさっさと言いなさいよ。ヨミちゃんがほら、そわそわしてて落ち着いていないでしょ?」
「あ、いえ、そも」
「わかったよ。つーか、僕たちがすぐに来た時点である程度わかるだろ? アマツが勝ったよ」
確かに不安そうな顔をしている。だからすぐに僕は教える。僕がアマツの勝利を告げた瞬間、ヨミは嬉しそうな表情に変わった。そしてそれは、同時に悲しそうな表情でもあった。ユキがそれを見てヨミの頭を撫でる。
「よかったね、ヨミちゃん。アマツが遂に勝ったんだね」
「うん、うん。よかったよアマツくん」
「にしても相手はライトだろ? すげえよな」
こうして僕たちはいつものようにたわいのない雑談を始める。それはいつものこと、いつもの僕たちがしていたこと。そして、変わることのない、僕たちの全てでもあった。