勇者の使命
今回は勇者視点で進んでいきます。
「一人で封印門の魔物を倒して参れ」
私に告げられた居丈高な言葉。
「そ、それは少し早すぎるのではありませんか?」
私の後ろに控えていた神官が反対意見を述べる。
「……何だ? 私の言うことに異議を唱えるつもりか? 平民上がりの分際で……」
目の前の偉そうな男はカルドニア侯爵家の当主、セルゲイ・カルドニアだ。
そして、後ろの教会の神官はデューンという名だ。
彼は孤児でありながら、本人の努力により、勇者付きの神官としてとりたてられた。
まあ、他にも理由はあるが、同様に孤児であり平民な私に当てるには、丁度いい人材であったということだ。
「曲がりなりにも勇者だ。それくらいこなして貰わねば困る。それとも平民にはそんなことはできんかね?」
見下した目。
それを彼は全く隠そうとしない。
「まあ、そうだろうな……! どうやって教会に取り入ったのかは知らんが、所詮平民には荷が重い話だろう」
それに、大体からしてこの貴族は間違っているのだ。
勇者には本来命令などできない。
その理由は、勇者という存在が世界の生み出した自浄作用であり、勇者は望む望まざるにかかわらず、災厄へと巻き込まれてしまうものだからだ。
それを人間が歪めることのないように、教会には「例え王族であろうと、何人たりとも勇者に命令はできない」という教義がある。
「こんなのが人類の希望か、もうこの世も終わりかもしれんな……!」
だけど、私は知っている。
彼がこんな風に私へと無理難題を押し付けてくる本当の理由を。
「やはり、このような者に勇者は務まらぬ。もう一度選定し直すべきではないかね? この女の勇者資格を剥奪して――」
彼は武勇に優れた自身の子どもが、勇者に選ばれるべきだと思っているのだ。
彼は教会に何度もアプローチをかけ、多額の寄進をし、ごまをすってきた。
全ては息子を勇者に指名させ、教会の利権によって甘い汁をすする為。
しかし、いざ蓋を開ければ、勇者となったのは私のような平民の女。
傍から見たら喜劇だが、彼からしたら悲劇だったのだろう。
(本当に笑えます……)
勇者の天啓なんてモノは存在しない。
教会が自身の操りやすい人形をとりたて、利権を貪っているのだ。
そういったバカな勘違いをしている人間は割と多い。
そして、貴族という人間の中には自身の尺度でしか物事を測れない者が多い。
金をやったのだから、それに報いるべきだろうと。
まるで政治や謀略をするような感覚で考えているのだ。
「カルドニア卿……! 少々言いすぎではございませんか?」
デューンは流石に耐えかねたようで諫言の声を上げる。
「勇者の称号の失効は、勇者が力尽きたときか、勇者が力を失ったときだけです」
「そうだな、そんなことは敬虔な信者であれば誰もが知っていることだ」
どの口が言うのかと思ったが、口には出さない。
「私の口からは何も言えんな。ただ自主的に辞めてもらえればと思っただけだ」
死ね。
(そう言いたいんでしょう?)
今回のことは相当な準備をしてきたらしい。
こうやって私と面会をしていることもそう。
こうやって私に命令を下しているのもそう。
こうやって私に遠まわしな脅迫を仕掛けているのもそう。
どれだけの金を使えばこのような機会が造れるというのだろう。
こんなことをするくらいなら、孤児の救済にお金を使って欲しいものだ。
「とにかく、書類は正式な物だ。断っても構わんが……やはり勇者に対しての疑問は生まれるだろうな」
「分かりました。行きましょう。もしかしたら世界の自浄作用が、あなたを突き動かしたのかもしれませんしね」
私の言葉を聞いて、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべるカルドニア卿。
「そうか、まあ無理だとは思うが精々頑張ることだな」
「ええ、ですが、もしあなたが自浄作用とは関係なく、自身の私利私欲のために世界の意に反した行動をしているのであれば、どうなるかは知っていますよね? 敬虔な信徒であるカルドニア卿であれば尚のことです」
「ど、どういうことだ……?」
私のイヤミが分からなかったようなので、懇切丁寧に教えてあげることにする。
「例えばです。世界の自浄作用が私を不要と思えば、私は死ぬでしょう。逆にあなたを世界の自浄作用が不要と思えばーー死ぬのはあなたですよ?」
浄化されるのは、世界に不要な人物……つまり、汚物ということだ。
「は、はは……何を一人前に吠えておるか……! 私が世界に不要なわけがあるまいよ! 教会にも国にも多大なる貢献をしてきたのだぞ?!」
やはり彼は俗物だ。
世界が教会や国に配慮するわけがない。
私達にできるのは、世界の状態を見極めながら、極力巻き込まれないようにすることだけだ。
「……まあいい。ひと月もすればどちらが世界に必要かはわかるであろう」
そう言ってカルドニア卿は部屋から出て行ってしまった。
「よろしかったのですか? 時間を稼げれば教会の総本山から助けがもらえたかもしれませんよ?」
「はい、良いんです。カルドニア卿……あの人は何か嫌な感じがします。多分ここで退場してもらった方が良いでしょう」
書類の偽造などは確かに罪だが、私が行かなければそこまで大きな問題にならないだろう。
誰かの陰謀だと身代わりを立てられ、その人が罰されて終わりだ。
だが、実際に私が動き、大事になれば話は違う。
責任は追及され、知らぬ存ぜぬではいられなくなる。
「なるほど……世界にあだなす者の可能性がある、ということですか……」
デューンは顎に指を当て考え込む。
「はい、もし私が死んでも次の勇者がいますしね」
「そういうことを言わないで下さい」
「大丈夫です。死ぬつもりはありません。でも、封印門の魔物……強敵でしょうね」
勇者のいない時期に現れた強力な魔物を封印した場所――それが封印門。
それを倒すには封印を解くか、門の内側に入り込むしかない
「そうですね……でも、あなたならやれるでしょう。勇者ルビーナ・ブレイド……いや、我が娘ルビィ」
「もう、やめて下さいよ。こんなときに名前を呼ぶなんて……まるで死にに行くみたいじゃないですか」
「すいません。あなたを拾って育ててきましたが、成長した姿を見ると感傷的になってしまって……貴族相手にもひるまないあなたの姿は実に勇ましいですよ」
「ありがとうございます。……その……もうお父さんとは呼べないですけど……心ではずっとそう思っていますよ?」
そう言うと、デューンはまるで娘を嫁にやる父のように泣き出してしまったのだった。
「おっと……感傷的になっている場合じゃないですね」
目の前には封印門。
入るには、特殊な魔力を見に纏う必要がある。
これは魔物には発せられない魔力だ。
だから封印門に封じられた魔物は出てくることができない。
「よし! 行きましょうか!」
意を決し、私は門へと侵入する。
「あれ、ですかね……?」
少し先の方に、小さな球体が見える。
剣を鞘から抜き放ち、戦闘態勢に入りながら、じりじりと近付いていく。
トーントーン――
目の前の魔物がその場で地面を跳ねる。
リズミカルでありながら、段々とその拍子をあげていく。
トントントントン――
見たことのない魔物を警戒しながらも、その動きの不気味さにどんどん不安が募っていく。
(ここは仕掛ける? でも……)
戦いは迷ったときが一番危険である。
乱れた思考が油断へとつながるからだ。
そして、強敵との戦いにおいて、それは致命的な隙となる。
――ドン!
来た!
そう思ったときにはもう遅い。
魔物は私の体へと吸い込まれ、腹部に激しい衝撃を感じた。
「ぐふっ!」
衝撃で胃液を口から吐き出しながらゴロゴロと転がっていく。
(マ、マズい……!)
反応できない。
早すぎるのだ。
腹部を見ると、鎧は激しくへこみ、ひび割れ、もう使い物になりそうもない。
勇者である自分でなかったら、穴があいていてもおかしくない。
トーントーン――
魔物はまたもや地面を跳ねる。
すぐに追撃を仕掛けてこないということは……。
(これは、おそらく地面を跳ねることで速度を生み出しているのでしょう……!)
それならば話は早い。
今の内に斬りかかるしかない!
「いえああぁぁぁぁぁっ!」
そう考えてからは早かった。
すぐさま剣を振りかぶり、切りかかる。
そう……誰もがそう思うはずだ。
今しかない、ここで決めると。
そうして勝利を信じて疑わないのだ。
誰も『地面を跳ねなければ動けない』などと言ってもいないのに……。
気付いたときにはもう遅い。
球体からトゲが飛び出し、宙を飛ぶ。
私の速度と、相手の速度。
その衝撃が全て私の顔へと向かって――
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