魚釣り→魚獲り
少し短いです。
魚釣りの途中、突如現れた勇者を見送ったギルは……。
きた……あの感覚【分岐感】だ。
ここが選択のときだということは分かりきっていた。
特に驚くこともなく、俺は自身へと言い聞かせる。
自身の決まりきった答えを。
「さてと……」
俺はすぐさま魚釣りに戻った。
早く釣ってしまわなければ、母親にどやされ、俺は飯抜きだ。
少女を救うとかよりも、重大な事態と言えるだろう。
「そういえば俺の力は、今はどれくらい使えるんだ?」
ある程度は引き継がせると言っていたが、詳しくは全知の神に聞く時間がなかった為、そこら辺は全く分からない。
俺は掌に魔力を巡らせる。
バチバチと音を鳴らし、掌に電気が巡った。
「なるほど……大体使えるみたいだな」
体は子どもになっているが、魔力操作に対し、不便な点は特にないようだ。
「それじゃあ、ホイっと」
でこピンをするように、手の電気を飛ばす。
旅をしているときに、とても重宝していた技だ。
これで大した労力を使わずに魚をとれる。
「大漁だな」
プカプカと浮かぶ魚を見て、俺はつぶやいた。
(おっと、こうしてはいられないな)
早くしないと、魚が流されて行ってしまう。
俺は腕まくりをして急いで川へと入っていった。
「はい、とってきたよ」
十尾ほどの魚が入った籠をおふくろへと渡す。
「あんた……どうやってこの時間でこんなに釣ったんだい? 漁師にでもなった方が良いんじゃないかい?」
子どもの頃の俺なら反発していたであろう台詞を聞いても、今の俺には何も感じられない。
「考えとくよ」
そう言って俺は踵を返す。
「ギル、どこに行くんだい?」
「……ちょっとした野暮用だよ」
おふくろが制止の声をあげる前に、俺は既に走り出していた。
「さてと……封印門だったな」
村から離れ、誰にも見つからないように注意しながら、自身の体に強化魔法をかけ、地面を蹴る。
遮蔽物のない空間まで、体が浮かび上がり、キョロキョロと見渡す。
「やっぱり上から見た方が良く見えるな」
前世で勇者が戦った後、封印門付近へは立ち入ることが禁止された為、俺は道をよく覚えていなかったのだ。
(どこだ……?)
封印門は門と言っても、金属やら木材でできている訳ではない。
実際は魔法で造り出した障壁のようなモノなのだ。
だから、魔法的なアプローチで感覚を集中させると、魔法でねじ曲げられた不自然な空間を感知できるはずだ。
「見つけた、あそこだな……!」
地面へと降り立ち、地を駆ける。
門を目指し、暫く進むと、先程の少女が見えてきた。
(よし、追い付けたみたいだな……)
後は彼女を尾行することにする。
何か悪いことをしている気分になるが、追いついて声をかけても追い返されるだけだ。
それに何より、ここで一体何が起こるのかを、なるべく見届けるべきだろう。
もしかしたら、勇者が生まれなくなった原因がここで分かるかもしれないからな。
それが分かれば、これからの対策もたてやすくなるだろう。
俺は少しの罪悪感を封じ込める為に、自分に言い訳をして、勇者へのストーカー行為を推し進めるのだった。
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