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神の住む場所

 本日二話目です


 強敵と戦い、やっと死ねる……というところで、またしても生かされてしまった男はーー

「どうですか? 意識はありますか?」

「アンタは……誰だ?」


 光が治まり、目を開けると、寝転ぶ俺を覗き込む男がそこにいた。


 とりあえず体を起こし、周りを見渡す。


 その場所はとてもきれいな場所だった。

 緑にあふれ、空は澄み渡り、暖かな日差しに溢れ、この世のモノとは思えないほどの清廉さだった。


「良かった……ギリギリ間に合いましたね」

「間に合ったって……俺は……どうなったんだ?」


 そこで彼は気付く。


「傷が、なくなってる……」

「ええ、この場所が汚れるのが嫌だったので、きれいにさせていただきました」

「いただきましたって……」


 彼には理解できなかった。

 全てが夢のように消え失せてしまっているのだ。


 先程までの光景も、自身の傷も、先程までのあの少女も――


「って……! あの女の子はどうなったんだ?!」

「まあ落ち着いて下さい。簡単に説明させていただきます」


 妙に落ち着いた男の態度が妙に気に障る。


 全てを分かっている。


 男はそう言った態度を隠そうとしないのだ。


「仕方ないじゃないですか。全て分かるのですから」

「お前、俺の考えが……!」

「はい、あなたの思考を読むくらいなら簡単にできますよ」


「…………」

「まあ、そう警戒しないで下さい。そんなに時間があるわけではありませんから」

「……分かった」


 俺はとりあえず情報を手に入れる道を選んだ。


「ありがとうございます、それでは手短に……。私は神です、全知のね」

「……早速、意味が分からないんだが?」

「分からなくていいです。私はただ伝えるだけですので」


 会話にならない。

 やはり相手にしない方が良いのかと考えていると、神を名乗る男が俺の思考を遮る。


「あなたは周りの人が良く死んだりしていましたよね? その理由を教えてあげましょう」

「なんだと?」

「聞きたいでしょう? あんなに苦しんでいたんですからね」

「理由、なんてあるのか……?」


 彼を苦しめていた運命。

 それに理由があったとするなら、それをどうにかしたい。

 そう思うのは人として当然の感情だろう。


「はい、簡単なことです。勇者のいなくなった世界が、あなたを無理矢理勇者に近い存在へと昇華させたからですよ」


 勇者? 世界?


 言葉のスケールが大きすぎて理解が及ばない。


「……どういうことだ?」

「つまりは世界の強制力というやつです。本来そんなに強い力を扱えない人間に、無理に力を与えた結果、周囲の人間の運命を腐らせてしまったんですね」


 そう言われても、俺にはいまいちピンとこない。


「少し難し過ぎましたか? これは花壇の花に例えると分かりやすいですかね。本来、一の水で育つ植物が、十の水を与えられた結果、周りの植物は腐り、強制的に耐えさせられている植物――つまりあなただけが残ったということです」


「何だそれは……なら、あいつらは……世界に殺されたってことか……?」

「そうですね、私の言葉を信じてもらえるのなら……ですがね」


 俺はここにきて、男の言葉が間違っていない気がしていた。


 いくらなんでも、今までが異常過ぎたんだ。


 殺しても死にそうになかった人間が、いとも容易く俺の前では死んでいった。

 親しくなった人間を狙ったかのように、ピンポイントでだ。


 それこそ世界に、嫌われているのではないかと思ったほどだ。


「それはないですよ。むしろあなたは世界に好かれ過ぎています。それこそ仮の勇者に選ばれるほどに……」

「俺の心を本当に読んでるんだな?」

「そう言いましたよ」


「そうだったな。……それで俺をここに連れて来て……何かをさせる気なのか?」

「話が早くて助かります。あなたには過去へと戻ってもらいます」

「過去に?」

「ええ、そのままの体ではないですよ? 力はある程度継承させますがね。つまり、タイムリープ。子どもの頃に戻ってやり直すのです」


「……村にいたままで良いか?」


 正直救えるのなら、自身の故郷を一番に救いたい。


「それではどうやっても救えませんよ。何もしなければ、結局は世界からの強制力に負けてしまいます。あなたには他にやるべきことがある」

「やるって何をだ?」

「それは言えません」


 全知の神はきっぱりと言った。

 俺は肩透かしを食らったような気持ちになる。


「言えないって……それなら何もできないだろ?」

「あなたはただ自身の思う通りに行動すれば良いのです。いるのでしょう?  村の前に助けたい人が」


 俺は一人の女性を思い出す。


 自身を慕い、一緒に旅をした人。

 しかし、彼女は死んだ。目の前で巨悪に殺されたのだ。


 彼女とは様々な初めてを経験したが、初めての死に別れ相手にまでなるとは思わなかった。


「救える……のか?」

「あなたが選択を間違えなければ」


 選択と言われて、彼はその当時のことを思い出してみるが、記憶がおぼろげであった。

 もう二十年近く前のことだ。無理もないだろう。


「一つだけ力を授けます。私の加護です」

「加護……?」

「はい、私は全知神。全てのことを知っています。あなたが辿るであろう道筋も……」

「それを教えてくれれば良いんじゃないか?」


「そんなに簡単に済むなら、あなたに頼りませんよ。私は全てを伝えることはできません。もちろん時間という問題もありますが、それだけではなく、基本的に私はそちらの世界に干渉できないですから。無理に干渉すると、世界の法則そのものが崩壊します。あなたに教えられないのも、教えることによって運命がねじ曲がる可能性があるからです」


「今はなんで干渉できてるんだ?」

「そちらの世界の全能神に近い存在であった、デウス・エクス・マキナのアプローチがあったからです。あなたの時間を戻せるのも、私が加護を授けられるのも彼女のおかげです」


「……あいつは世界を壊す存在じゃなかったのか?」

「……それは言えませんね。禁則事項というというやつです」


 神はニコリと微笑む。


「それで加護の話ですが、私のように全てを知るというのは、あなたには負担が大きすぎて耐えられません。なので、あなたの運命を大きく変える選択肢があるときに反応する超感覚を与えましょう」


「……分かりにくいんだが、具体的にはどういうものなんだ?」


「例えば、あなたが右を選べば生、左を選べば死という可能性があったとして、その別れ道にきたときに、ここが分岐点であるということが分かる能力ですよ。名前は【分岐感(ターニングセンス)】とでもしておきましょうか」


「……それは役に立つのか?」


「分かりません、まあ何も知らないよりはマシでしょう。あなたの記憶を思い返して、違う答えを選んでも良いですしね。あなたの正しいと思った選択をすればいいのです」


「俺の正しいと思うように……」


 考えにふける彼の体を、まばゆい光が覆いはじめる。


「……そろそろ時間ですね。タイムリープ先は大体十二歳くらいの頃です。頑張って下さいね、応援していますよ。もう二度と会うことはないと思いますが……」


「ああ、ありがとうな」


 小さな別れの言葉の後、再び溢れかえる光の眩しさに俺は目を閉ざした。

 一日何話投稿するかは反応次第です。


 八話までは基本一日一話以上は投稿します。


 続きが気になるという方はご意見ご感想、評価、ブックマークなどよろしくお願いします!

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