2-2 サバイバルが始まるそうですよ(2)
視線を画面に戻し、まるで今まで眠っていた主人公が目覚めたかのように、画面が開いた。
その瞬間、
「きゃあああああああああ!」
「った、トラ!?」
突然隣から聞こえた叫び声。
思わず今は言っちゃいけない彼女の名前を言いそうになりながらも、視線を慌てた向けるとーー
「……へ?」
下着姿になっている大河がいた。
☆ ★ ☆ ★
何がどうしてこうなった?
ゲームが始まった瞬間、大河の服が綺麗に消えていた。
恥ずかしそうに頬を赤く染め、手で必死に上下を隠そうとしているが、残念な事にまったく隠せていない。
というか、下着姿でそんな風にくねくねされたら、こう。
「う、うまぁー。何これぇー」
いつもの凛とした声ではなく、甘い声。
表情だってクールとは正反対で涙目になっている大河。
あまりの状況に、完全に素の大河がこんちにはしていた。
「え、えーと……って、はあ!?」
変化が起きているのは大河だけじゃなかった。
彼女に気を取られていて気が付かなかったが、なんという事でしょう。俺まで下着姿に、そうトランクス一枚の状態になっていた。
「うぅー」
小さくなった少しでも身体を隠そうとしている大河。
そういえばさっきセバスチャンがサラッと言っていたな。
ゲーム内での状態が俺たちにも起こるとかなんとか。
この姿は俺も恥ずかしいが、大河と比べればまだ平気だ。
俺はコントロールを握ると、メニューを開いた。
(えーと、どこだ? ……あった)
俺が選択したのは装備の項目だ。
その瞬間、画面に出てきたのは現在の大河とまったく同じ状態の大河。
「うお!」
「な、ななななななななっ」
俺の叫び声を聞いて顔を上げた大河が、ディスプレイに映し出されたウインドウの中にある自分の下着姿を見て、まるで壊れたラジオのようになってしまっていた。
(これってつまり、そういうことか!?)
出来るだけ画面に映る大河の姿を見ないように気をつけながら、書かれていることを確認しているのだが、どうやらこのゲームには服とかの概念があるみたいだ。
つまり、初期装備は下着姿。ここから自分で服を手に入れろという事なのだろう。
そして、操作キャラの姿がそのままVR世界の俺たちにも適応される。
ゲーム内で服を手に入れて、それをキャラに装備すればVR世界にいる俺たちもまた服を着る事になる。多分そういうことだな。
聞いた話だと、このゲームはオンラインゲームだ。
今はまだ公開されていないため、いるのは現状この建物内にいる本企画参加者である実況者たちだけだが、それでもこの姿で歩き回るの辛いものがあるな。
とはいえ、ゾンビホラーって言っていたし、このまま蹲っているのは危険だと思うんだよね。
「えーと、トラ? 大丈夫か? そろそろ再起動しないと、まずいぞ?」
あー、これはだめだな。完全にシャットダウンしちゃってるぽい。
再起動までにそれなりに時間が掛かりそうだな。これ。
「えーと、はい。トラの時間が止まってる間に、ヘルプでも読んでおくかなー」
「そんな場合ではないだろ!」
「お?」
操作プレイヤーはトラだ。
だから俺が動かすのは俺たちの中じゃルール違反になるからな。
だからせめて情報収集をヘルプでしようと思っていたのだが、どうやら二つの意味で再起動が完了していたらしい。
「大丈夫かトラ?」
「ふっ。問題はないのだよ! さあ、今すぐに!」
「今すぐに?」
「服を入手するのだよ!」
若干迫力のある顔で宣言する大河だけど、若干キャラが変わってないか? まあ、それもそれで焦り具合が見えるから放置するけどさ。
キャラ自体は現在大河が操作しているのだが、俺の分もコントローラーがある。
俺のコントローラーと大河のコントローラーでは、それぞれ出来ることに制限が掛かっているみたいだ。
具体例としては、大河は一切メニューを開く事が出来ない。その代わりキャラの操作自体が出来る。
視点を変えたり、歩いたり、走ったり、しゃがんだりだ。
対して俺はそういった事が出来ない。
その代わり常にパソコンのカーソルのようなものがあって、それを自由に動かす事が出来る。
それからメニューを出したり出来るし、本当にパソコンを操作しているみたいに、カーソルを使う事によって表示場所を変えたり、拡大とかも出来る。
「くっ! 服なんてどうすればゲット出来るのだ!」
舞台設定としては、ゾンビウイルスが世界中に蔓延し、人間の社会システムが完全に崩壊してしまった世界。
この世界の中で生きている人間は、俺たちプレイヤーが操作しているキャラクターと、ほんの少しだけNPCがいるらしい。
「どうやらそのNPCから服が買えるみたいだな」
「うむ! 承知した!」
ん? どうして俺がこんなにも詳しいのかだって?
だって、これ全部ヘルプという名の攻略に書いてあるもん。
この部屋は全方向がゲーム画面になっている。
とはいえ、それを使う人間の視界は決まっているからな。
だから大河が普通にゲームをプレイする上で邪魔になる事のない、後ろの画面までカーソルを使ってヘルプ画面を移動させたんだ。
んで、大河がおそらく赤い顔をして冒険をしている中、俺は後ろを向いてヘルプを読みあさっている感じだ。
大河は懸命に服を売ってくれるNPCを探しているみたいなのだが、どうやらヘルプを読む限り、NPCはレアキャラ判定らしい。
「トラ。どうやらNPCはレアキャラみたいだぞ?」
「な、なんだと! つ、つまり私はしばらくこの姿を晒さなければならないのか!?」
おー、動揺しまくりだな大河の奴。
普通ならここで大河を落ち着かせるために、優しい言葉をかけるもんだと思うのだが、残念ながら俺たちは実況者だ。
普通じゃだめなんだよ。普通じゃ。
俺たちが一万人以上のファンを獲得した方法、それこそがこれなんだ!
「そうだな。しばらくその姿を晒しとけ」
「にゃああああああああ!」
いつもは女らしさを捨てたキャラを装っている大河を、上手く責めて素の大河を出させるスタイルだ。
俺の本当の仕事は会話を盛り上げるとか、そういうのではない。
大河の隙を見つけ、そこを突く。そして、本来の大河をオンラインさせる事なんだ!
俺たちの異名は[ギャップ萌えと鬼畜]だ。後半は不本意だけどな。
たまに鬼畜じゃなくて変態だろって言われるけど、知らん。
「あ! ウマウマ!」
「んー、どうしたー?」
明らかに歓喜が混ざった大河の声。
俺が心の中で小さく舌打ちをしながら返事をすると、後ろから肩をツンツンされた。
「なんだ?」
「ふっ」
何故かドヤ顔の大河。
ちなみに身体の方は見ないように気を付けてるぞ。
「見ろっ! 街だぞ!」
大河に言われ、彼女の身体を見ないように気を付けてる風を装いつつ、俺は正面のディスプレイを見た。
「おー、本当だ」
確かに身体までほんのり赤くなった大河の言う通り、目の前に街があるみたいだ。
「街で探索をすれば、服ぐらい見つかるはすだ!」
「そうとは限らないんじゃないか?」
「いや、街ならば服屋の一つや二つあるはずだ。これはゲーム、ならばそこに服が配置されていても不自然さはない」
ちっ。
思っていたよりも大河は冷静らしい。
確かにヘルプには書いてありますとも。街にある服屋は、高確率で服がゲット出来ると。
正直に言おう。俺は大河に服をゲットさせる気がない。
理由は至極単純だ。
そっちの方が面白いし、かわいいからな。
だからこれは絶対に教えてやらないんだ。
そこらへんの草を毟って集めれば、それで草の服を作る事が出来るって事はな。
次回更新は木曜日の午後六時です!
感想や評価、お気に入り登録などよろしくお願いします!