1-1 依頼が来たらしいですよ。
初日なので二話投稿です!
大手ゲーム会社から俺たち[トラウマ]へと送られてきたメッセージ。
その内容とはズバリ、仕事の依頼だった。
俺たち実況者とゲームの関係性ってのは相当に深いものだ。
ゲームがあるからこそ、俺たちは実況者として存在していられる。
ゲーム会社という土台の上に実況者は立っている。立たせてもらっていると言っても良いだろう。
しかし、俺たち実況者が存在する事によって、ゲーム会社側にもメリットが存在する。
言ってしまえば広告代わりだな。
実況者が有名になれば、その人がプレイしているゲームそのものも一緒に有名になる。
世の中には実況者のおかげで有名になり、大作へと成長したゲームもあるほどだ。
実況者たちは自分で好きにゲームを選び、実況をするのが普通なんだが、たまにゲーム会社からうちのゲームを実況してくれという依頼が来る事もあるのだ。
ゲーム会社から実況の依頼が来る。
これは実況者からすれば、最高の名誉と言えるだろう。
なんせゲーム会社側から、あなたの実況は我々に有益だと太鼓判を押してもらったようなものなのだ。
自分を認めてくれたゲーム会社が大きければ大きいほど、得られる名誉も大きくなる。
俺たちは今回、そんな数あるゲーム会社の中でも、最高ランクと言って良いほどの大手から依頼があったのだ。
これはもう、興奮しないわけがない。
「……なあ大河」
「どうしたのだ秀馬。そんな渋い顔をして」
ついさっきまで興奮していた俺だが、下に降りていつも通り何故か大河の分まで用意されている朝ごはんを共に食べ、綺麗に米粒一つすら残す事なく平らげられたお皿を洗剤水のたまった桶に入れた後、これまた揃って上の部屋、つまり俺の部屋に戻ってきたわけなのだが。
俺の興奮は完全に冷え切っていた。
「今回の話。おかしくないか?」
「おかしい? 何がだ?」
「だってそうだろ? 確かに最近は視聴回数も増えたし、チャンネル登録者数だって五桁まで行った。だけど、このレベルじゃあんな大手から依頼が来るなんておかしくないか?」
チャンネル登録者数というのはわかりやすくいうとファンの数だ。
五桁。一万人を超えたファンが俺たちは[トラウマ]にはいる。
実況者としてはこれは中々に良い感じだ。それは間違いない。
だけどだ。
トップクラスの実況者たちは、さらに二段階上の桁。
百万人以上のファンがいるんだ。
最大手クラスから依頼が来るのは、そういう百万人以上のファンがいるトップクラスの実況者たちだ。
俺たちレベルに白羽の矢が立つなんて事、ありえないと断言しても良いはずなんだ。
「ふむ。確かに自然ではないかもしれないな」
「だろ? これってもしかして、詐欺じゃないのか?」
大手の名前を語った詐欺ってのはよく聞く話だ。
時代が進み、そういう詐欺の相手が俺たち実況者にも向けられたって事だ。
「なるほど、詐欺か」
「特に俺たちは顔出しして年齢も公開してるんだ。詐欺グループからすれば、騙しやすいカモだって思われてもおかしくないだろ」
「……ふむ」
口元に手を当てて考え込む大河。
大手から名指しで依頼が来るなんて、こんなうまい話があるわけない。
うまい話には裏がある。詐欺があるって事だ。
「この事は忘れて元の予定通り今日は休みだ。という事で俺は寝るからな」
別に眠いから詐欺だって決めつけてるわけじゃないぞ?
確かに眠いって気持ちはでかいけど、普通に考えてこんなの詐欺に決まってる。
あるいは何かしらのミスだろ。
「……確かにその可能性は高いな」
やっと思考の渦から帰ってきた大河が呟いた。
納得してくれたみたいで助かる。
「んじゃ。自分の部屋に戻れよ。俺は寝るから」
ただの二度寝ならまだしも、朝飯を食べてからの二度寝だなんて、太るぞとか言われるかもしれないけど、お腹がいっぱいになった事で元々あった眠気がさらに強くなっているんだ。
俺は寝るぞ。なんと言われようともな。
「って、何してるんだ?」
「見ればわかるだろう?」
中々いなくならない大河に文句を言おうとしたら、自分の携帯を耳に当てている大河の姿が見えた。
「いや、だから一体何処に電話を掛けているんだって話なんだけど」
指を立てて静かにするように指示してくる大河。
とりあえずはおとなしくしていよう。
「どうも。僕はゲーム実況活動をしているトラウマのトラというものなのだが、そちらに鈴木という人はいるかい?」
大河の電話先はやっぱりというべきか、話題になっているゲーム会社のようだ。
確かにメッセージの担当者名に鈴木ってあったからな。
あのメッセージが本物かどうか、確認してるって感じだな。
それにしても思った事が一つ。
(普通敬語とか使うもんだろ)
大河の言葉使いが完全にいつもの大河だ。
あの話が本当だったとしたら、相手はクライアントの会社だぞ?
もっとこう、丁寧な話し方があるだように。
まあ、大河がそういうの苦手だって事は知ってるけど、素過ぎるだろ。
「ふむ。了解した。今から向かう事にしよう。では」
どうやら通話が終わったらしい。
最後の感じからして、十中八九今日というなの休日は消滅したような気がするんだけど、さてはてその答えは。
「秀馬。これから本社に行くぞ」
「あ、はい」
やっぱりそういう感じか。
着替えるために大河を部屋から追い出した後、俺は何度もため息をこぼしながら着替えを始めた。
さてはてどんな格好をするべきだろうか。
本社に呼ばれたって事は多分あの話は本当だったって事だよな。
いや、それとも大河の対応から電話じゃ埒があかないと判断されたって事か?
こっちが持ってる情報なんて鈴木ってよく聞く苗字だけだからな。
そういえばゲームの題名すら知らない状況だ。
おっと、少し思考がズレたな。
どんな格好で行くべきか。仕事の話になるわけだし、スーツ姿が良いのか?
あ、だめだ。俺スーツなんて持ってないじゃない。
はい。その数分にわかる悩みに意味なんてありませんでしたっと。
バイトの面接に行く感覚でいけばいいか。
ジャラジャラしていないシンプルな服装に着替えている中、どんどんと扉の方からノック音が連続で聞こえるけど、まあ無視だ。
「遅いぞ。何をしていた」
「見ての通り。着替えてただけだ」
扉を開けると少し怒った様子の大河が迎えてくれた。
大河は俺の部屋に突入してきた時には、既に寝巻きから着替えている。
窓越しに移動しているからといって、着替える事もなくやってくるなんて事は流石にない。
「では行くぞ」
「はいはい」
俺の準備が終わった時点が出発準備が完了したって事だ。
俺を待っている間に本社の場所とかは調べてくれていたらしい。
最寄りの駅からしばらくガタゴトガタゴト。
その間俺たちの間に会話なんてものはない。
俺はただぼーっと座ってるだけだけど、大河の奴は今回の依頼について色々と考えてるんだろうな。多分。
駅から数分歩いた所にそれはあった。
「……デカイ」
本社のデカさはそのままその会社の規模のデカさと直結してると言っていいだろう。
これはあれだな。建物っていうより、ビルだな。うん。
「何を惚けているのだ。行くぞ」
「……へいへい」
普通こんな大きな会社に行くってなったら、緊張とかするだろうに。
大河に緊張なんて無縁なんだな。
図太い神経羨ましいぜ。
カウンターに立っているお姉さんとの会話は大河に全投げした。
俺たちのコンビ名であるトラウマの名を出したら、すんなりと案内された。
「鈴木はすぐにお伺い致しますので、こちらで少々お待ちください」
個室に案内された俺と大河。
温かいお茶とお菓子を出され、適当に摘みつつ鈴木とやらが来るのを待った。
「それにしても、どうやらあの依頼マジだったって事だよな?」
「うむ。そうだろうな。でなけらばこの対応はおかしい」
鈴木っていう担当者に覚えがなければ、こうして会う事になるわけがない。
本社に来ているわけだし、詐欺グループにやられたとかそういうのはまずないだろう。
「ふふふっ。いつの間にか僕たちもこんな大手から依頼をして貰えるほどまでに成長していたのか」
「普通に考えたらありえないんだけどな」
偶然俺たちの実況動画を見てくれた鈴木に気に入られて、それで依頼される事になった。多分そんな感じだろうな。
新人作家を掘り出す編集者さんみたいな感じだな。……多分。
どちらにせよ。俺たちからすればこらは大が数十個は付くほどのチャンスだ。
将来のためにも絶対ものにしてやるんだぜ!
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