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プロローグ

 皆様お久しぶりです!

 それでは早速どうぞ。

 ドンドンドンドンドンッ

 高校二年の夏。

 明日から夏休み。朝早くから起きる事を強いられる事もなく、平和な休日を迎えようと眠ったのだが、そんな俺の小さな願いは、朝早くから部屋に鳴り響くこの音によって阻止された。

「……知らん」

 一定の感覚で連続する音。

 うるさいといえば確かにうるさいのだが、しかしここは少しだけ考え方を変えてみよう。

 そう。これは少し激しい子守歌なのだ。

 そう考えればほら、うとうとした気持ちになるじゃないか。

 ドンドンドンドンドンッ

 ………………。

 ドンドンドンドンドンッ

 …………。

 ドンドンドンドンドンッ

 ……。

 ドンドンドンドンドンッ

「あああああっ! うるせえっ!」

 イライラを全開しながら起き上がった俺は、カーテンに隠された窓に向かって一直線に進んだ。

 カーテンを荒々しく開くと、そこにはさっきから鳴り響いている音の正体である、窓叩き少女、田中大河の姿があった。

 隣の家に住んでいる幼馴染。それがこいつ、大河だ。

 ちょうど部屋が隣同士、身を乗り出せば手が届く距離に互いの部屋の窓がある。

 そのためこいつは何か俺に用があると、わざわざ下に降りて礼儀正しく玄関からやって来る、なんて事は絶対にせずに、こうして直接アポを取りに来やがるのだ。

 この窓はマジックミラーとかじゃない。つまり、俺が大河の姿を発見したという事は、大河も俺を発見したという事だ。

 目が合い、何やら嬉しそうな表情を浮かべて窓ドンのテンポを上げる大河。

 そんな大河にため息を見せた後、鍵を開けた。

 その瞬間勢いよく開く窓。

「仕事だぞっ秀馬!」

 窓を開くために両手を大きく広げ、とびっきり楽しそうな笑みを浮かべてそう言う大河。

「おおっと」

「って、危ないっての!」

 前のめりになってる状態で手を支えか離すなんて、危ない事この上ない。

 俺が支えてなかったら今頃地面までノンストップになっていたところだ。

「はははっ。それよりも仕事の話をしよう」

 俺の部屋に無事着地すると、笑顔で振り返りながらそう言う大河。

 俺、佐藤秀馬と田中大河は幼馴染。

 幼馴染だからと言って同い年とは限らない。

 だから俺は高校二年でも、大河は社会人。

 そういう可能性は十分にある話だ。

 だけど、それはあくまでそういうケースもあるって話だ。

 俺と大河は同い年だ。

 俺は高校に通っている。だけど、大河は高校には通っていない。

 高校に行かず、中卒という履歴書と共に社会へと出た。

 というのもまた可能性の話であって、実際の所はそうじゃない。

 俺も大河も高校に行っている。

 どこにでもあるようなごく普通の公立高校にだ。

 高校生だって仕事がある。

 アルバイト? 違う。俺たちの仕事はそうじゃない。そういう、普通な感じとはまた違う。

 だからといって、世界の裏で暗躍しているとか、秘密結社とか、戦隊ヒーローとか、そういう非日常な感じでもない。

 俺たちの仕事、それはズバリ。

「実況動画撮るのは明日からのはずだろ。今日は一日ゆっくりと夏休みらしく休みを堪能するって決めたじゃねえかよ」

 実況動画を撮り、それを動画投稿サイトに送る事によって、視聴回数に応じた広告料を得る。

 簡単に言ってしまえばそういう仕事を俺たちはコンビでやっている。

 多くの実況者が顔を隠しているのに対して、俺たちはまったく隠していない。

 ご近所さんや学校の連中だって知っている顔出し実況者コンビ[トラウマ]として活動しているんだ。

 知名度はこのところ上がっていて、期待の新人って感じだな。

 まあ、どっかの企業に入ってるとか、そういうのじゃないんだけどな。

 とはいえ、ちゃんと報酬を貰っている以上立派な仕事だ。

 ゲームをやってそのプレイ動画を実況付きで撮る。

 この夏休みに一気に動画を撮って、一気にアップすればそれだけ視聴者に見つけて貰える可能性が上がる。

 つまりこの夏休みでの活動は[トラウマ]とファンを増やす絶好のチャンスって事なのだ。

 とはいえ。せっかくの休みを全部仕事に回すなんて、良く働き過ぎと言われている日本人だとしても遠慮したい事だ。

 だから今日は休み。そう決めたはずなのだが、その取り決めをこんな朝早くから破りやがった大河。

「ハッキリ言うぞ。俺は今不機嫌だ」

「ふふふっ。まあそう顔を顰めるものではない。良い話があるのだ」

「仕事の話なら明日だ。今日は一日寝るって決めてるんだよ」

「ほう。そうか。だがこれを見てもそう思えるかな?」

 ニヤニヤとした笑みとともに携帯の画面を見せてくる大河。

 大河の表情がなんだが腹立つが、こいつは一度言ったら中々曲げようとしない頑固物だ。

 俺がちゃんと見ない限り話が進まない奴だな。これは。

「はぁー。見りゃいいんだろ」

 携帯を受け取り画面に焦点を合わせた。

 ディスプレイに表示されているのは、動画投稿サイトの中にある俺たちのページだ。

 スクロールしてみると、どうやらメッセージが来ているらしい。

 ちらりと大河の顔を覗いてみると、どうやらこのメッセージを読んで欲しいらしい。

 ため息を一つこぼした後、メッセージを開いた。

「えーと何々」

 メッセージの送り主は、ゲームをしない奴でも名前くらいは知っているであろう超が付くほどの有名ゲーム会社。

 その時点で俺は固まった。

「……大河? これってまさか」

 さっきまでの怠そうな感じはもはやない。

 綺麗さっぱり彼方へと飛び去っていった。

 俺は真剣か面持ちで、メッセージの続きを読んだ。

「……」

 最後まで読み終わった俺は、無言で大河を見た。

「どうだ? 良い話だろう?」

「……ああ。そうだな。最高に良い話だ」

 ニヤニヤ顔の大河に向かって、俺は大きく頷いた。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。

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