ヒナ
少女を助ける為に盗賊団と対峙するユウト。
少女には秘密が隠されていた。
俺は呪文を唱える。ここは森で空気も澄んでいる。心地よい風が吹いている。これならイケる。
「風よ。我と彼の者を護り吹き荒れろ」俺は右手を上から下に振り下げ、左手を右から左に降る。
その瞬間、俺と少女の周りの葉が風に流され周りを舞う。一方荒れ狂う風は木々を激しく揺らす。木々からは太陽の光を浴びてキラキラ光る粉が舞う。そう、花粉だ。
花粉は風に流され盗賊団達に降り注ぐ。彼らは突然の事に手を振って払おうとする。しかし花粉を払う事は出来ない。
「な、なんだこれは!」盗賊団の面々は花粉の影響により涙、鼻水まみれになりながらクシャミを連発している。
「さて、俺たちは逃げようか。」俺はそう言いながら少女を、抱き抱える。
「キャッ!?」っと、短く悲鳴をあげるが、近くにある俺の顔を見て黙り込む。「しっかり掴まってなよ」俺はそう言ってスタスタと立ち去る。すると後ろから鼻声が聞こえる。
「貴様!この俺を馬鹿にして覚えておけ!このグラド様が直々に殺してやる!」と叫ぶ。
ピタリと動きを止め俺は振り返る。
「解った、殺してみろ。その時はお前ら全員、後悔する死を見せてやる。」俺は抑えてる魔力を全力で叩きつける。
瞬間、彼らの周りに舞っていた花粉が消え去り、気圧されたグラド達は気を失っていた。
「ふぅ。これでしばらくは大丈夫だろ。」俺は少女を見ると、彼女も気を失っていた。
「・・・やっちゃった」俺はため息を吐きその場を後にする。ユウトが去っていった方向を1つの影が見ているのに気がつかず。
「とりあえず、この森抜けて何処か村に寄らなきゃなぁ。それに・・・」俺は焚き火の前に座りながら横になっている少女を見ながら次の行動を考えていた。「まずは、この子を帰してあげないとな。」そう言いながら少女の頭を撫でる。その時、違和感を感じた。
「ッ!この子、まさかエルフか?」俺はそう言って少女の髪を搔き上げる。耳の付いているその部分にはエルフ特有の先の尖った耳が付いていた。
「参った。これは面倒くさい事になったなぁ。」俺はため息を吐いた。
エルフ。それは風の精霊と密接に関係しており【森の護り人】と言われる種族で風の恩恵を100%受ける事が出来る。
彼らの射る弓は風の力により必中なのだ。俺が使う風の力は50%程の恩恵しか受けられない。そして一番の決め手は。
【自分よりも恩恵を受けて居る者が居れば恩恵は激減する】なのだ。
彼らが居たら俺は20%の恩恵しか受けられなくなる。簡単に言えばそういう事だ。
基本的に俺は風魔法を使うからエルフと居るとどうしても弱くなる。だが、この少女が居ても使えるのは少女が恩恵を受けていないから。または、少女が・・。そんな事を考えていると、少女が目を覚ました。
「う、ん?ここは・・・?ッ!私、襲われて」と、少女は勢いよく身体を起こした。
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「よう。目は覚めたかい?」身体を起こした私は横から声をかけられ其方を見る。
そこには私を助けてくれた青年が焚き火を前に座っていた。
「あ、あの、ここは?」私は青年の方見た。彼は笑いながら答えてくれた。
「ここは、君が襲われていた所からかなり離れた場所だよ。もう安心していい」そう言って彼は枝を焚き火に投げ込む。
「あ、あの。助けて頂きありがとうございます。」私はお辞儀をしてお礼する。
「ははは。そんなに畏まらなくていいよ。」彼は笑いながら続けた。
「さて。自己紹介がまだ、だったな。俺はユウト。訳あって旅をしている者だ。君は?あそこで何をしていた?」ユウトと名乗った彼は私を見る。その顔は焚き火の灯りで美しかった。
「わ、私の名はヒナです。ハー・・・エルフの者です。」私は咄嗟に嘘を付いた。本当はハーフエルフであり、エルフの嫌われ者なのだ。
ハーフエルフ。エルフと人間の間に生まれた者。風の恩恵を受けれない者達。
それを聞いてユウトさんは私を見つめながら答えた。
「・・・隠さなくても良いよ。ヒナはハーフエルフなんだろ?」ユウトさんは笑顔で私を見る。
「・・・気づいていたんですね。」私は目を伏せた。ハーフエルフに対する差別。人間からもエルフからも嫌われる運命を背負う者達。私は目を開けユウトさんを見た。するとユウトさんは優しく声をかけてくれた。
「ハーフエルフはこの世界に沢山居る。ヒナもその1人。この世界で生きるたった1つのヒナの人生なんだ。誰かにとやかく言われる筋合いはないさ」ユウトさんはそう行って微笑んだ。その言葉に私の頬を涙が伝った。
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俺は勢いよく身体を起こした少女を見て声をかけた。少女の名前はヒナ。ハーフエルフと言いかけたがエルフと答えた。
俺はそれを見て思った。相当の差別を受けて来たのだろう。ハーフエルフと言う枷が彼女を縛り付けていたのだ。
彼女は目を閉じていた。恐らく、この後の事を思っているのだろう。侑斗の世界でも差別はあった。生まれ、障害そんな事だけで差別をし、相手を傷付ける世界。そんなの間違っていると言い切れない自分が許せなかった。そんな事を考えているとヒナが目を開いた。俺は俺なりの事を伝えた。
「ハーフエルフはこの世界に沢山居る。ヒナもその1人。この世界で生きるたった1つのヒナの人生なんだ。誰かにとやかく言われる筋合いはないさ」そう言った瞬間、ヒナの目から雫が流れる。
泣かせた!俺が急いで謝る。しかしヒナからは別の言葉が返って来た。
「・・・ありがとう、ございます。」ヒナはそう言って顔を覆った。
しばらくして落ち着いたヒナから話しを聞く。「体の弱いお母さんの為に薬草を取りに行く途中にあの人達に見つかってしまって。」ヒナはそう言ってため息を吐いた。
「なるほどね。なら薬草を持って早く帰らなきゃな。」俺はそう言いながら焚き火に枝を放り込む。ヒナはそれを見ながら答える。
「そ、そこまでしてもらう必要無いですよ!ただでさえ助けてもらったのに。」ヒナはそう言って遠慮する。が、俺が押し切る。ヒナも折れてくれたのか。ありがとうございます。と呟いて横になると、すぐに寝息が聞こえて来た。俺はヒナを見て微笑み、岩にもたれて目を閉じた。
まずは薬草を手に入れてヒナと一緒に届ける。俺は頭の中で計画を立てる。そろそろ夜が明ける。動くなら早いうちが良いだろう。
寝ているヒナに声をかけようとした瞬間
ヒュッ!っと矢が飛んでくる。
俺はそれを掴もうとする。しかし矢はあり得ない軌道を描き手をすり抜ける。
「ッチ!」俺は舌打ちをして矢が刺さる一歩手前で避ける。矢は岩に刺さり止まった。
あの軌道。間違いない。俺はヒナに声を掛ける。ヒナも声を聞いて起きる。すると目の前から声が聞こえた。
「必中と言われる矢を避けますか。人間とは思えない。」声のする方を見るとそこには白髪の長い髪をしたエルフが立っていた。
あれ?ヒロインが2人になったぞ!(驚愕
と言うわけで、ハーレムルートになります。ミアとの関係とかも含めて皆さんの期待を裏切るように頑張ります。
注意※差別の件を取り上げましたが、あくまでもこの作中での見解となります。これについては賛否両論かもしれませんが、暖かく見守り下さい。