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7 粉砕する力

 まるで鋼鉄に拳を叩き込んだような感覚だった。

 中之条にアッパーカットを叩き込んだ赤坂はその一撃の感触をそう感じとる。

 そして拳を叩き込まれた中之条は、いつのまにか黒いオーラの様な物を纏い始めた中之条は涼しい顔で言った。


「……なんだよ、意外と軽いな」


 ……効いていない。

 そう感じた次の瞬間には既に中之条の反撃が始まっていた。


「……ッ!?」


 中之条のハルバードと結界による攻撃を全力で後方に跳び回避する。


(……早いな)


 攻撃がほぼ通じない。それは即ち中之条の次の攻撃までの動作を短縮させ、そしてハルバードによる直接攻撃はもちろん結界の操作の精度も格段と引き上げる事へと繋がる。

 元々頻繁に放たれる反撃を回避する為にラッシュで畳みかけるような攻撃はできなかったのだ。

 追撃する隙はなく、そして反撃と言うよりはカウンターに近い動きになった中之条の攻撃は全力で下がらなければ回避は難しい。

 ……こちらに遠距離攻撃の手段はないのに。


「まさか普通科如きに全力を出さねえといけねえとはな!」


 そう叫んだ中之条は自身の正面に薄く、そしておそらくは横幅10メートル程の巨大な結界を何重にも出現させる。

 そしてそれに手を触れると、中之条が纏っている何かと同じ様に、その結界までもが黒いオーラを纏いだす。


(……硬化魔術か)


 先程中之条に攻撃が効かなかったのと同じ術が掛けられたのだとすれば、それはきっと硬化魔術だ。

 おそらくそれで結界の強度を上げたのだろう。

 そしてその結界を中之条自らハルバードで粉々に叩き壊して見せた。

 結果、彼の正面に黒いオーラを放ったガラス片の様な結界が無数に飛散する。


「さあ、躱せるものなら躱してみろよ」


 そして次の瞬間、それらが勢いよく広範囲に向けて射出された。

 それは例えフィールドの端にまで一瞬で移動しても躱せない、密度を犠牲にして範囲を広げた攻撃。

 加えて緩くなった密度は、人間一人が掻い潜れる様な隙間は無い。

 そして硬化魔術により強化された結界の破片は、その一つ一つが大きな殺傷力を持つ。


 ……つまり相手に防ぐための結界魔術などがなければ、例え相手に機動力があろうと一気に絶体絶命に追い込む事ができる、この限られた遮蔽物の無い空間を最大限に利用した必殺の攻撃。

 ……だが。


(……大丈夫だ)


 それでも動じなかった。

 まともに放った攻撃は効かない。そして向こうはこちらが躱せない様な攻撃を放ってきて、それを防ぐ為の防御魔術は使えない。

 それでも……自然と体が動いた。

 こういう時にどうすればいいのか。体が覚えていた。


 0勝274敗。

 この半年間で行った渚との模擬戦の結果だ。

 もうまともに魔術と向き合っていない千年に一人の天才相手に、それだけの回数の敗北を重ねた。あらゆる攻撃を放たれ、その全てに何度も敗北を繰り返してきた。


 だから、分かっている。

 こんな時。こんなどうしようもない攻撃を相手にした時、赤坂隆弘はどう動くべきなのかを。


 そしてもう一つ。

 中之条の攻撃は。その高水準の結界攻撃は。


 篠宮渚の攻撃よりも遥かに劣る。


「だからどうしたあああああああああああッ!」


 右手の平に魔力を流し込んで蓄積させながら右手を正面に突きだし、そして次の瞬間轟音と共にそれを外へと押した。


 そして聞こえてくる破砕音。

 結界は赤坂の体には突き刺さらない。到達しない。


 その手から放たれた衝撃波に全て阻まれた。


「……は? お前、一体何を……?」


「矛には矛をぶつけた。ただそんだけだ」


 矛。赤坂隆弘にとっての徒手空拳を除いた唯一の武器。

 魔力を暴発させて衝撃波を発生させる、バーストと命名された赤坂の必殺技。

 


 そして赤坂は再び構えを取り、そして接近した。



「その程度でイキがんじゃねえぞ一年!」


 中之条は自身の正面に、斜め上に角度を傾けた結界を展開する。

 そして次の瞬間、そこから巨大な石板の様な形状の結界が出現した。

 そして本来支えとなる筈の結界があっけなく砕け、それは赤坂を押しつぶす様に落下してくる。


 おそらく本来地面から生やす様に出現させる類の結界。それを結界を地面と認識させて出現させたのだと推測する。もしそうだとすれば常人では到達できない程の技量を要いた一つの到達点とも言えるほどの高等技術。

 そしてその結界の強度は目に見えて今までの結界とは一線を画するだろう。

 その大きさに発動のタイミングも相まって躱す事も叶わない。


(……ならやる事は一つだ)


 だけど落ち着いて、左手を頭上から降ってくる結界に向けた。


(俺の全力をぶつける!)


 そして左手から限界まで出力を高めたバーストを打ち込み、そして。



 激しい轟音と共に。余波で中之条を弾き飛ばす程の風圧を巻き起こし。

 その結界は粉々に砕かれた。



 そして。砕けた結界が空中で消滅する中で。

 激痛を纏い血塗れで垂れ下がった左手に視線も向けず、ただ中之条だけに視線を向けた赤坂は右手の拳を握って言う。


「次はアンタだ」







「赤坂さんの力は欠陥だらけですよ」


 観客席でその様子を眺めていた雪城に渚は言う。


「強化は通常の強化魔術より遥かに負担が大きくて長時間の使用は疲労骨折に繋がりますし、あの衝撃派だって出力を抑えても負担は大きい。フルパワーで打てば片腕粉砕骨折ですよアレ。だから同じ出力の魔術と比較すれば劣等な力です。だから正直、赤坂さんがどこまでいけるかは分かりません」


 それでも、と渚は強く言う。


「あんな三下に赤坂さんは絶対に負けない」


 そして赤坂隆弘は一歩、前へと踏み出した。

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