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劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです  作者: 山外大河
二章 魔戦開戦編

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29 暁隼人という男 下

「ところで最後のアレ、どうして最初から使わなかったんだ?」


 勝負の開始する権限を持つのはこの空間のホストである暁だ。

 その暁だが次の勝負を始める前に聞きたい事があるらしくそんな事を訪ねてきた。


(……まあ普通に考えればそういう疑問は出てくるわな)


 先の戦いで五秒経過して動けなくなる所を見せていれば色々と察してくれるかもしれないが、先の二回戦は赤坂がフルパワー状態を維持したままでの敗北だ。故にまだ暁という男にこの力の欠点を教えていないのだ。

 ……だから当然、三戦目を優位に進める為にも此処は隠しておくのが得策だ。

 得策なのだが……。


「ああ、この力五秒しか使えないんだ。その時点で体に限界が来て動けなくなる。だからここぞという時にしか使えない一回きりの大技なんだよ」


 普通に言ってしまった。

 まあ別に言ってもいいかとかそう考えた上での回答ではない。敵対心を向けられず、どこかフレンドリーな感覚で話されたが故に、普通にポロっと出てきた。多分先程までの好戦的な視線を向けられていればこんな事にはならなかっただろう。

 ……正直やらかしたと、赤坂は口にしてからそう思う。

 だがこれはそこまでのやらかしでは無かったのかもしれない。

 それを聞いた暁は、これから闘う相手の弱点を知ったという様な様子は見せず、ただ静かに腑に落ちたという様な雰囲気を出した後、少し考える様に呟きだした。


「……なるほど。あの出力に体が付いていかないのか」


 そしてそんな事を呟いた暁は赤坂に問いかける。


「なあ、単刀直入に聞くけどあの力は魔術なのか?」


「いや、魔術じゃねえんだ。俺術式器官ぶっ壊しててさ、魔術は使えない。これはそれでもなんとか魔術を使えねえかって過程で生まれた魔力を操作する技法だ」


「術式器官を……」


 それを聞いた暁は複雑な表情を浮かべるが、少し間を空けた後、気持ちを切り替えるように軽く息を吐いてから赤坂に言う。


「とにかくその魔力操作とやらはなんとなくのイメージしか付かないんだけど、とにかく魔術じゃないんだな」


「ああ」


「……だとすれば術式を弄ってセーフティを付けるみたいな手段は駄目か」


「……えーっと、ちょっまて。駄目かってお前、一体何考えてんだ?」


 赤坂の問いに、当然の様に暁は答える。


「何って、その力をもっと安定して使うためにはどうするべきなのかって考えてるんだよ」


「……」


 その言葉の真意が理解できなくて思わず押し黙る。

 それでも少し間を空けてから赤坂は暁に突っ込む。


「いやいやちょっと待て!? なんでお前がそんな事考えてくれてんの!? 俺達まだ三戦戦うし、なんなら校内予選でも戦う可能性あるよな!? なんで敵に塩送る様な真似しちゃってんの!?」


 その言動の意味が全く理解できなかった。

 だけどそれでも、当然の事を言うように暁は言う。


「まあそりゃそうかもしれないけど、俺はあまりそうでありたくはないかな。校内予選では敵でもそれ考えなきゃ普通に同じ島霧の生徒だろ? 俺は同じ学校で頑張ってる同級生とはアドバイスしあえる奴でいたい」


「……なるほど」


 理解できた。

 確かに真っ当な意見だと赤坂は思う。

 別に暁とは友達でもなんでもない訳だが、それでも冷静に考えれば敵なのは戦っている時だけなのだ。

 それが終われば普通にただの同級生だ。そうでなければ魔術科の生徒は四方八方が敵だらけになってしまう。

 こうして対戦相手にもアドバイスをして切磋琢磨して成長していこうというスタイルは、勝利に拘れば間違いなのかもしれないが、学生としてや人としての枠組みでみれば多分正解だ。

 ……多分今の自分達は敵に塩を送りまくる位が丁度いいのかもしれない。

 そして暁は一つ赤坂の力の使い方について自分なりの答えを示す。


「で、それが魔術でないとすればまともに行動できる出力に抑えれば……と思うけどそれがアレを使う前のキミの力だろ」


「ああ。その辺は調整してある程度問題ない限界一杯まで引き上げたのが平常時の力だ」


「となればあの高出力を活用する為の手段は、今俺が考えられる中では一つって所か」


 そして暁は言う。


「接近して攻撃を放つ瞬間とか防御の瞬間だけあの力を使えばいいんじゃないか? そうすれば僅かかもしれないけど実働時間を上げられる」


 出されたのは予想以上にまともなアドバイス。

 どうやら割りと真剣に赤坂の力の使い道を考えてくれているみたいだった。

 そんな暁に少し感謝の気持ちを抱きながらも、赤坂は少し申し訳なさそうに答える。


「悪い。それはもう試そうとはしたんだ。渚からも同じような事言われてな」


「流石篠宮渚が弟子って言うだけあって、ちゃんと考えてるか……キミの力が魔術じゃないとしても、こういう戦う事への指導力は高そうだからなぁ」


 暁の言うとおり実際その能力は高い。

 かつて魔術師としてはポンコツもいいところだった赤坂を一年で辛うじて魔術科の試験に合格できる射程圏内にまで育て上げ、そしてなによりその力で出せる以上の戦いかたも教えてくれた。


 だから中学三年の大会の時には術式器官の損傷で魔戦の県大会には出場できなかったけど、それでももし仮に出場できていればそれなりの成績を修められただろうし……そして今もまた力そのものの事は分からなくても、その力の使い道を見つけ出し示しだしてくれる。

 だから戦うだけでなく指導者としても渚は優れているのだ。


「で、ちなみにどうして廃案にしたんだ?」


「いや、廃案とは違くてな、一応採用はしてんだよ今後の方針として」


 そう、あくまで今後の方針。


「今の俺じゃまだできない。蛇口の取っ手ぶっ壊したみたいに一度使うと止められないんだ。俺の技量不足。今後の課題の一つ。一回きりのってのはそういうことだ」


「……なるほど、そういうことか」



 暁は納得したようにそう言ってから言葉を続ける。


「とにかくそれが課題だと分かっているならキミはこれからもっと強くなれるよ。俺が保証する」


 その言葉に裏は全く感じない。

 この辺りで完全に確信できた。

 コイツ普通にいい奴だと。


「そりゃどうも」


 だから赤坂は素直にそう言葉を返し、そんな赤坂に暁は更にアドバイスを重ねる。


「あとはアレじゃないか? 体への負荷が原因で五秒しか動けないのなら、体鍛えればもっと活動時間が伸びたりとかしないか?」


 その問に赤坂はああ、と頷いて答える。


「もうやってる。やってる五秒に伸ばした。今朝だって走り込みしてた」


「なるほど、それも既に実践済みか」

暁は素直に感心するようにそう言う。


 もっとも今朝里羽と走ったのは、もう走り込みと読んでいいようなものでは無かったと思うけど。


(……そういや美月と同じクラスって事は里羽の奴とも同じクラスか)


 どうも里羽はかなり面倒な立ち位置に立ってしまっているようだが、まあなんとかなるんじゃないかと思ってきた。

 目の前の敵に塩を送りまくる様な男なら、うまくそういう問題も解決してくれるんじゃないかと思う。

 少なくともいい奴なのは間違いなさそうだったから。


 だから赤坂は今日偶然が重なってできた友人が抱える問題について、ひとまずそういう風な結論を出した。


 確かに暁がまともな人間だったとしても、思い込みでどういう行動をとってきたのかを無意識に棚に上げて。

 里羽が魔術師家系の人間から目の敵にされていることは理解して、当の暁もまた魔術師家系であると理解していても、暁の人間性ならそれを止める側だろうと勝手に考えて。


 その暁が件の問題の最重要人物であることなど考えもせずに。


 そんな結論を赤坂は導きだした。


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