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劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです  作者: 山外大河
二章 魔戦開戦編

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19 勝利条件

 時は戦いが始まる直前まで遡る。


「……ねえ渚。隆弘勝てるかな?」


 ブース内に設置された椅子に座って缶ジュースを飲む渚に、隣りに座る美月がそう尋ねる。

 別に赤坂と中之条が戦った時の様な不安はない。

 この戦いに勝とうと負けようと、その戦いの渦中もその後も赤坂に振りかかる危険はない。

 ……暁がどういうつもりなのかはともかく、それは間違いなさそうだから。

 それでもまあ、気になるのだ。


 自分が応援したい相手が果たして勝つ事ができるかどうか。

 そして渚はあっさりと答える。


「まあぶちゃけ無理でしょ」


「……へ?」


 あまりにもあっさりそう答えたので、思わずそんな声が漏れてしまう。


「いや、いやいや、無理でしょって……さっき渚、やってみないと分からないって言ってたじゃん!」


 それに対して渚は言う。


「それは相対できるか……まともに相手になるかって話にやってみないと分からないって答えただけですよ。もっともこの場合五分五分の勝負ができるかではなく、最低限戦いになるかどうかって話ですけど」


「最低限戦いになるかどうか……やってみないと分からないってそういう事!?」


 驚愕する美月に落ち着いた様子で渚は答える。


「別に驚く様な事じゃないと思いますよ。暁さんは成績で単純に考えれば世界で4番目に強い高校一年生な訳ですから。その暁君に五分五分の勝負をするにはそれ相応の実力がなければ話になりませんが……流石に今の赤坂さんにそれだけの力は残念ながらないんですよ」


「……ないかな?」


「ありません。私が言うんだから間違いありませんよ。当然赤坂さんも現時点で無茶苦茶強いですけど……それでもまだ向こうの方が強い。なにしろバーストともう一つの隠し玉を除けばほぼ向こうの下位互換なんですから」


「……」


 確かに渚がそう言ってしまえば、きっとそれはもう答えだ。

 その世界で四番目に強い一年生よりも間違いなく強くて、そして赤坂に修行を付けてきた渚の言う事なら間違いない。

 でも、だとすればだ。


「……じゃあどうして渚はあんなに自身ありそうな感じだったの?」


 思い返す限り渚の言動は敗北確定の勝負に送り出すそれではなかった。

 まるで自慢の弟子をぶつける様な。いい活躍ができる事を確信して送りだしている様な。そんな風に思えた。

 それに対して渚は言う。


「そりゃアレですよ。確かにやってみるまで分かりませんけど、私はやれるって信じてますから」


「え、やれるって……さっきの最低限の戦いの話?」


 いまいち何が言いたいのか分かっていなさそうな美月の言葉に渚は頷いて答える。


「ピンと来ませんかね? 思いだしてみてくださいよ。元々赤坂さんはいてもいなくても変わらないという風に煽られてた訳です。そしてそれが最終的にこうした対戦に縺れ込みました。つまり……この試合の勝利条件は三勝する事ですが、赤坂さんの勝利条件自体はそんなものじゃないんですよ」


「それってつまりどういう……あ、そっか!」


 ようやく理解したのか美月は答える。


「いてもいなくても変わらないって認識を変えられればいいんだ!」


「そう、正解です」


 そして渚は言う。


「最低限度の戦いができる。それは即ちそこに意識を割かなければならない。吹けば飛ぶような自分に影響のない雑魚とは違い、明確に意識を向けて対処しなければならない敵になるんです。そう認識させる事ができれば……それはもう赤坂さんの勝ちですよ。だって暁さんに言われた暴言をそれで覆せるんですから」


 そしてそう言った渚はブース内のモニターを見つめる。


(……最低限の戦い、か)


 篠宮渚は良く知っている。

 赤坂隆弘が今どの程度の実力なのかを。

 その実力で望めるのはそこまでだ。それだけでも普通科の生徒はもちろん魔術科の生徒も成しえる事ができないだろう。

 なにせ渚には結果的に遅れを取っているものの、暁隼人もまた規格外の実力者なのだから。

 ……だから、高望みはしてはいけない。いずれはともかく今はまだ。それ以上の事は高望みだ。


 だけど、知っているから。

 赤坂隆弘が今までずっと頑張ってきた事を知っているから。

 だから。例え無理だとしても、無理だと分かっていても。

 気持ちよく勝ってほしいと。そう思った。


 そうでなくとも、せめて一勝。せめて一勝位は勝たせてやってほしいと思う。

 それはずっと頑張ってきて。それでもまだ何も勝ち取れていない赤坂にとって、明確に勝ち取れた何かになる筈だから。

 ……だから。


(……がんばれ、赤坂さん)


 心中で静かにそう応援の言葉を送り、美月と共にモニターへと視線を向けた。

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