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劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです  作者: 山外大河
二章 魔戦開戦編

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17 普通科の異端児VS世界四位の男

「全く昨日は中之条先輩で、今日は暁さん。魔術科の校舎に入る度に誰かと争ってますね」


 暁と別れた後、レンタルしたブース内にて渚は赤坂にそんな事を言う。

 それに赤坂は、これから仮想空間で戦うので全く意味がないストレッチをしながら答える。


「まあ別に今回のは昨日の決闘とは違って喧嘩とかじゃねえからな。模擬戦っつーことで争うのとは違くね?」


「まあそうなんですけど……でも正直赤坂さん、あれ露骨に喧嘩売られてましたよ?」


 渚がそう指摘すると、赤坂は少し驚いた様に言う。


「え、マジで? アレ割とマジで俺の事眼中にないが故にナチュラルに出てきた発言かなって思ったんだけど」


「……いやいや、冷静になって考えてみてくださいよ」


 渚が少し呆れた様に軽いため息を付いてから赤坂に言う。


「確かに魔術戦において多勢に無勢という言葉が必ずしも当てはまるとは限りません。そこに圧倒的な戦力差があったとしたら、例え大勢に同時に掛かってこられても纏めて消し飛ばす事だってできます」


 確かに渚の言う通りだ。

 これが生身での戦いなら。格闘技のプロ相手でも大人数で囲めば多分勝てる。数で押しきれる。

 だが魔術の場合は話が違う。プロの格闘家と素人の間に開く差を遥かに凌駕するほどの大きな差が強い魔術師と弱い魔術師の間に開く。例え一斉に跳びかかろうと、それらすべてを同時に焼き払う事も可能で、多勢に無勢が適用されるには、その圧倒的な攻撃力や防御力に対しある程度喰らいつけるだけの力が最低限必要になってくる。

 だから……暁の言うように、邪魔にすらならない。気にする必要のないという展開は魔術戦ではあり得る話だ。


 ……だが、それでもあり得ない話があるとすれば。


「でもそんな事、悪気もなく言ってくる社会不適合者なんてそういないと思いますけど」


「……まあ、確かに」


 確かにそれを悪気もなく言える様な奴を現実で見た事が無いし、いるとも思えない。

 もっとも暁といえば魔術師家系の人間で少し感覚がズレているのかもしれないという考えもあったが、だけど露骨にズレている渚の父親ですら対外の接し方はとても模範的なものらしい。

 日本を代表する魔術師家系の跡取りからそんな発言が自然と出てくるような教育はされていないと思う。


 ……だとすれば意識的に喧嘩を売られたのだろう。

 思えば最初から向けられていた好戦的な視線もそういう事だったのだ。


「……俺なんかしたっけ?」


 もっとも心当たりはなかったが。


「なにか心当たりはないの?」


 美月に言われて改めて考えてみるが、何も思いつかない。


「心当たりもなにも俺アイツと初対面だしな。何かしようがないというか……」


「あ、アレじゃないですか。前に暁君のツイッターとかインスタとかにアンチコメントしまくった事あったじゃないですか。いやぁ、怖いですね。特定されてますよ赤坂さん」


「え、そんな事してたの隆弘」


「してねえよふざけんなよ渚! 俺べつにアイツのアンチじゃねえし、そんなネチっこい真似はしねえ! 言いたい事あんなら本人の前で直接言うから!」


 わりと真剣にどん引きしてる様子の美月に慌ててそう言うと、美月は笑ってこう返す。


「知ってる。隆弘はどちらかと言えばそういう感じだよね」


「……」


「……」


「……じゃあなんで割とマジで引いてたんだ?」


「ノリだよ」


「……本当にノリだよな」


 ちなみにそのドン引きの様子を見て、流石にマジで受け止めるとは思ってなかった! というような驚愕とやっちまった感に溢れる表情を渚が浮かべていた。そう思うのならやめて欲しいとそれなりに赤坂は思う。

 ……まあいつものノリなので別にいいが。


 これも居心地のいい空間の一部なのだから。

 深い溝を埋めた末に生まれた空間の一部なのだから。


「……で、本当に心当たりはないんだよね」


「おう。マジで理由が見えてこねえ」


「じゃあ一体何がしたかったんですかね暁さんは」


「まあよく分からないけど、もしかしたら結構簡単な理由なんじゃないかな?」


 美月が何かに気づいたのか、そんな事を言う。


「ん? 簡単な理由って?」


「あ、えーっと……こんなこと言っちゃいけないんだろうけどね……あ、この話はここだけの話だからね。絶対他の人に言わないでね!」


 美月の言葉に赤坂も渚も頷く。

 当然、美月がそう言うなら頷かない理由はない。それに背く気もない。

 そして二人が頷いたのを見て美月は言う。


「まあ私の偏見なのかもしれないけどね……なんとなく、あんまりいい性格してないんじゃないかなって。だから理由なんか考えても無駄じゃないかなーって」


「……あぁ、そういう」


「なんか一番納得のいく理由ですね」


 つまりは大前提をひっくり返す、社会不適合者説である。


 おそらくクラスメイトとしてそう思うだけの何かがあったのだろう。

 美月がそういう事で嘘を言わないのは赤坂も渚も知っていたので特別疑わない。

 勘違いでも責める気もない。

 そして渚が一拍明けてから言う。


「まあどんな理由であれ、それは戦いそのものに関係はありません。もう時間はあまりありませんが、聞いておきたい事、というかアドバイスしてほしい事とかってありますか?」


 渚にそう聞かれたが、それには首を振る。


「いや、いい。中之条はともかく相手は超有名人だ。今更試合前にアドバイスを聞かなくてもある程度の事は頭に入ってる」


 そして赤坂はヘッドセットに手をかけながら言う。


「暁隼人は単純に何でもできるオールラウンダーだ。確かに秀でた力は何かあるんだろうけど、俺にとっちゃ全てが秀でた力。全部警戒してかなくちゃならない。頭に入れとくの、それだけで十分じゃね?」


「そうですね。実は聞かれても碌に答えられなかったんじゃないかって思います。赤坂の言う通り暁さんは何が強いって人じゃなく何でも強い人ですから」


 ……そう。だからこそ世界四位にまで上り詰めたのだ。


(……そんな相手にどこまでやれるか)


 こちらにできるのは強化とそれを応用して衝撃派を放つ事のみ。

 ……それでも、喰らいつく。


「じゃあちょっとやってくるから。応援よろしくな」


 ヘッドセットを被って椅子に座り、二人にそう言う。


「が、頑張って、隆弘!」


「思う存分暴れてきてください」


「おう」


 そして……視界は何もない空間へと移り変わる。

 そこには既に暁隼人が立っていた。

 好戦的な視線を向けて。


「待たせたな」


「いや、いいよ。俺が来るのが早かっただけだ」


 そして一拍明けてから、暁は赤坂に向けて言った。


「じゃあ勝負といこうか、普通科のやべー奴」

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