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劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです  作者: 山外大河
二章 魔戦開戦編

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11 ランチタイム・ガールズサイド in魔術科

「……そういえば美月、魔戦出るんだっけ?」


 屋上でそれぞれ持参したお弁当を食べていた所で遥がそんな事を聞いてくる。


「うん、出るよ」


 それ自体は別に隠す様な事でもないのでそう答えると、ペットボトルのお茶を一口飲んでから遥が確認するように言う。


「……確か篠宮……えーっと、渚さんと出るんだよね」


 一瞬言葉が詰まったのは、普段篠宮渚の名を呼ぶときに単純に篠宮と呼んでいたからだろう。それいくと美月も篠宮だ。

 そして遥と千里が美月を名前で読んでいるのも同上の理由なのだが、それでも多分友達でもない渚の名前を呼びにくかったのだろう。無表情で少し感情が読みにくいがなんとなく渚の呼び方がぎこちなかった。


「うん、一緒に出るよ」


 美月は笑ってそう言う。

 まあ今後この二人を渚に紹介する時もあるだろうし、そのぎこちなさも消えるだろうと美月は思う。

 そしてそう思ってる美月に付け加えるように遥は言う。


「えーっと、後は……名前は確か……」


「はい! 普通科のやべー奴!」


 名前が出てこない遥に変わって千里が答える。

 不正解……と言いたい所だったが大正解である。


(……これ、止めさせた方がいいかな)


 どうやら昨日の決闘の影響で赤坂にそんなあだ名というか二つ名が付いてしまったらしい。

 新入生という事もあり名前もほぼ知られておらず、赤坂という名前を知らないまま普通科のやべー奴という名称だけが一人歩きしてしまっている訳だ。

 ……正直赤坂が知ったらとてもショックを受けそうで、実際同時刻学食にて無茶苦茶ショックを受けている。

 これは幼馴染として。そしてそもそもの原因を作ったものとして一言言っておかなければならない気がした。


「えーっと、それ多分本人嫌がると思うから、あんまり言うの止めてもらえるかなーって思うんだけど、どうかな?」


「えー語感凄くいいじゃん」


「うん、まあ語感は凄くいいんだけど」


 普通科のやべー奴。なんかとっても語感がいいとは美月も大いに思うけども。


「まあ嫌がられるって事なら止めようかな。今更ウチらが止めた所で変わらないと思うけど」


「だよねー。ははは」


 そう言って美月は苦笑いを浮かべる。

 これはしばらく赤坂は普通科のやべー奴として過ごしていかなければならなくなりそうだと、心の中で赤坂に向けて手を合わせた。


「……ところでそのやべー奴君の名前って何だったっけ?」


「隆弘。え、あー赤坂隆弘って名前」


「……まず下の名前から呼んでる辺り仲良さそうだね」


「恋人か? もしかしてお付き合いしてる感じなのか!? 普通科のやべー奴の彼女さんなのか美月は!?」


「彼女さん!?」


「どうなんだどうなんだ!?」


「……千里うるさい。で、どうなの? そういう関係?」


 二人にそう問い詰められた美月は、少し慌てるように答える。


「いや、あの、別にそういうのとは違くて! 幼馴染だよ幼馴染! 二人と同じ!」


「……そっか、ただの幼馴染か」


「うん、ただの幼馴染だし……そんなんじゃないし……」


 そう答える美月の声は消え入りそうで、少し顔を赤らめて目を背ける。


(彼女さん……彼女さん、かぁ……)


 なんだかそうなっている自分をふと想像してしまい、とっても恥ずかしい訳だ。


「……千里」


「……うん、これは完全にアレだな」


 二人は色々と察したように小さな声で呟く。


「「……これ絶対ただの幼馴染じゃないよなぁ」」


「た、ただの幼馴染だよ!?」


 二人の反応に慌ててそう言葉を返した。


 ……そう、ただの幼馴染だ。

 いつまでたってもそこで停滞している。

 ……何故ならそこから先に進む勇気がないから。


 篠宮美月から見て赤坂隆弘という男の子は、とても優しい性格をしているいい人だと思う。

 ……そう、とても優しいのだ。


 美月が頑張っている隣にはいつも赤坂がいた。

 小学一年の頃。その頃には既に親が期待しているだけの魔術の才能がない事が分かって、それでも頑張ろうって特訓していた時、赤坂は隣りで特訓に付き合ってくれた。

 小学三年になって魔戦のジュニアクラブに参加できるようになったら、自然と赤坂も一緒に参加してくれた。


 赤坂には魔術の才能があまりにもなかったというのに。


 篠宮美月が世間一般的な観点で魔術の才能があるかと問われれば、無くはないといった所だ。

 中の中。良くて中の上。親の期待に答えられるだけの才能ではなく、魔術を専門的に学んでいくような人間の中では低い位置ではあるが、それでもその位の才能は持ち合わせていた。

 対する赤坂隆弘には魔術の才能がなかった。良くて下の中。良くてもそれで多くの人間は才能無しの烙印を押す下の下と判断するだろう。


 それでもしがみ付いていた。


 運動神経は抜群で野球も出来てサッカーも出来てバスケだって出来て。他に自分が輝ける場所はいくらでもあったのに。

 魔術絡みの何かをやっている時は誤魔化す様に笑っていても全く楽しそうじゃなくて。惨めな思いばかりしていて。本当に心底魔術の特訓や魔戦に参加する事が嫌だった事は伝わってきた。

 ……指摘すると離れていってしまいそうで、何も言えなかったけれど。


 その後小学六年生の時に少し大きな事件に巻き込まれて、そこで魔捜官のお世話になったらしい。そしてどうやらその一件で魔捜官に憧れた彼は、それまでもなんとか周りに。おそらく美月についていく為に必死になってやっていた特訓を目を輝かせてより熱心に取り組むようになった。それだけ夢の力は彼に活力を与えたのだ。


 だが逆に言えば本気でやりたいと思ったのはそこからで。それより前は本当にそれはやりたくない事だったのだ。


 だから。もしかしたらそれはただの自惚れなのかもしれないけれど美月は思う。

 赤坂隆弘は一人で頑張っていた、頑張ろうとしていた自分を支える為にそこにいてくれたんじゃないかと。

 それだけ優しい人なのだ。


 それからも。今だって頑張る自分を応援してくれる。隣りで笑って頑張れって言ってくれる。

 昔から変わらず。今に至るまで。


 だからきっと自分が抱いている感情は一人で空回りしているだけだ。

 優しいから自分の様な面倒な奴に愛想を尽かさず見捨てないでいてくれるんだ。

 そう思うと、中々前へと進めない。


 進もうとすれば簡単に全部壊れてしまう気がするから。


 まだ、その勇気を美月は持てない。


 ……今はまだ。


「がんばれ! 応援するから!」


「……頑張って!」


「……う、うん」


 完全に見透かされていてもう否定の仕様がなかったのでもう頷いておいた。

 ……正直今までも友達になった相手にはすぐにバレてしまうのでこの展開には慣れてはいたが、やはり恥ずかしいのは慣れない。

 ……それでも今回だけは仕返しする事ができた。

 なんというか、今回の相手にはカウンターが打ち込める気がしたのだ。


「そ、そうだ。二人はどうなのかな? 里羽君と幼馴染なんだよね? ……好きだったりするの?」


「……普通の幼馴染だよ?」


「うん、普通の幼馴染」


「……そっか」


 その言葉の真意は全く読めない。

 逆に言えば今まで知り合いにバレまくっている自分が分かりやすすぎるのだろうか。

 それとも自分が人の感情を読み取るのが下手なのか。

 まあどちらにせよ、少し位隠せるようにはなりたいと。

 ……相手の気持ちが分かるようになりたいと。


 篠宮美月は渚特製のお弁当(調理成功)を食べながらそう思った。

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