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劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです  作者: 山外大河
二章 魔戦開戦編

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8 両手に花 抱く感情

「あれ? 黒田コイツと知り合い?」


 黒田が里羽の名を呼び、里羽もどうやら黒田の事を知っていたようなのでそう聞いてみると、黒田は頷いた。


「ん、ああ。同じ中学出身の友人なんだ。まあとにかく座れ里羽」


「お、おう」


 促されるようにそのまま里羽は赤坂達の前の席に座る。

 そして今度は黒田の方が、赤坂が里羽と知り合いの様な反応を見せた事が気になったらしく赤坂に訪ねてくる。


「というか赤坂、お前もどうやら面識があるみたいだが里羽とどこで知り合ったのだ?」


「今朝ランニングしに行ったら偶然な」


「全く。キミの所為で今朝は大変だった。キミがあんな馬鹿みたいな意地を張るから」


 里羽はそう言って軽くため息を付くが、それに赤坂も反論する。


「その言葉そっくりそのまま返すぞ。俺もお前の所為で当初のトレーニングメニュー狂いまくってんだからな? ただの全速力の持久走になってんだからな?」


「その言葉こそそのまま返すぞ赤坂!」


 両者そうやって罵りあうがそれ以上その話題は続かない。


「……まあ今朝はお互い大変だったという事で」


「……ああ、そういう事にしておこう」


 これに関しては今朝自然な流れで解決している事だから、今更改まって言い合う事でもない。

 それでまだしつこく罵りあい続ける程相性が悪ければ、おそらくあの場で談笑などしていなかっただろう。

 ……となれば話題は当然これになる。

 赤坂が今一番はっきりさせておきたい問題。


「で、里羽。なんか俺どうも魔術科の連中から普通科のやべー奴って呼ばれてるみたいなんだけどさ……まさか広めたのお前じゃ無いだろうな。お前今朝俺の事そう呼んでたよな?」


 そんな赤坂の問いかけを里羽は鼻で笑う。


「馬鹿か。あれは僕の率直な印象を述べただけだし、態々誰かに広めるような真似をしようとも思わない」


「じゃあなんでこんな事になってんだよ」


「キミが良くも悪くも普通科のやべー奴だからだろう。朝来たらもうそんな風に広まってた。僕は無実だ」


「だろうな。友人の立場として言わせてもらえば、里羽は態々そんな事をする様な奴ではない。広まったのはやはり赤坂が普通科のやべー奴と思われたからで決まりだろう」


「……決まんのか。えぇ……」


 だが実際そんな感じに広まってしまったのだろう。

 赤坂も頑張って自分を客観的にみれば、なんとなくやべー奴にも見えなくないと思ったので、なんかもう誰が悪いかと言われれば自分が悪い気がした。

 そんな風に若干自己嫌悪に陥っていた所で黒田が里羽に問う。


「ところで里羽……お前一人か」


 黒田がふと里羽にそう問いかける。


「見ての通りだ」


「秋山と春野はどうした。一緒じゃないのか」


「秋山? 春野? なにお前らの中学の知り合いまだいんの?」


 黒田の言葉に赤坂がそう訪ねると黒田はうむと頷く。


「里羽もお前と同じだ。両手に花を現実で実現しているのだよコイツは」


「へぇ……」


 つまり里羽は両隣にかわいい女の子がいる状態なのだろうと赤坂は分析する。

 と、そう分析する赤坂にツッコみを入れるように黒田は言う。


「む? さっきの反応を見る限り両手に花というのは否定してくると思ったのだが認めるのだな」


 意外そうに黒田は言うが、それは別におかしい事ではない。


「いや、だってお前、アレだろ。面と向かっては絶対言えるわけじゃねえけど、まあ、その……なんだ。間違いなく花だろ。それ否定したら二人に失礼だ」


 言葉の通りそれは本当に失礼な事だと赤坂は思う。


 美月は可愛くて性格もよくて……あとはなんかもう、最近目のやり場に困って。

 そして渚も同じ位かわいく、ノリの波長も絶妙に噛み合うし接しやすいし、あとはあまり表には出さないけれど凄く優しい。目のやり場には全く困らないけどまあそれはそれでいいとは思う。

 正直二人ともそこらのアイドルや女優の100倍は可愛く魅力に溢れた魅力しかない奴らだと、割と赤坂は真剣に思っている。

 ……思ってはいるが。


「なるほど……ちなみに本人の前でそれ言えるか?」


「……言えると思うか? 言えねえだろ」


 絶対にそんな事を口にはできない。

 そんな事を面と向かって言う様な事になれば恥ずかしくて死ぬ。

 そしてきっとそんな事を軽く言える様な性格をしていれば、どんな形であれ自分達の関係性はまた違ったものになっていただろう。


 ……だってそうだ。赤坂隆弘にとって篠宮美月は幼馴染で、篠宮渚はその従妹で友人だ。だがしかしそれは今現在の関係性の話でしかない。


 ……実際二人の事を赤坂がどう思っているのかという話になると話はまた変わってくる。



 そもそもそうやって魅力的な相手だと認識している時点で。そう認識してしまった時点で、もうそれまでの感情とは違う物が自然と向いてしまう事の表れだと赤坂は思う。



 だけどそれでも何も変わらないままでいるのは、今の関係性の居心地が良いからという事もある。

 どちらか一方ではなく二人ともにそういう感情を抱いてしまっているが故に、どっち付かずでどうしたらいいのか分からないからという情けない理由もある。


 だけど何より一番の理由を挙げるとすれば、赤坂に前に進む勇気がないからという事が大きい。

 篠宮美月と篠宮渚。その二人に赤坂隆弘ではつり合わない。

 今は色々な事が重なって友好関係を築けてはいるけれど、本来は手を伸ばしても届かない様な高嶺の花の様な存在なのだと思うから。

 きっと自分が一方的に向けている感情が受け入れられる事は無いだろうから。

 どんな形であれこれより先に踏み出せば最悪な形で今の関係性が壊れてしまうと思うから。


 だからきっとそんな事が軽く言えるような人間だったら、多分自分達の関係性は壊れている。


「ヘタレだな」


 そんな事も言えないのかとでも言いたそうに里羽は言う。

 だけど別にヘタレでもいい。この性格のおかげで今の関係性が現状維持できているのなら。

 壊さないで済んでいるのなら。少なくとも今はまだこれでいい。


 と、そこで黒田が鋭い指摘を里羽にぶつける。


「随分と特大のブーメランを投げたな里羽」


 どうやら抱えている事情こそ知らないが、目の前の里羽もまたヘタレ野郎らしい。

 赤坂は悪い笑みを浮かべて里羽に言う。


「……お前自分の事棚に上げて人の事ヘタレとか言ってくれちゃってんの?」


「違う僕はヘタレじゃない!」


「で、二人はどうした」


「僕ヘタレ認定したままで話進めんなよ馬鹿ァ!」


「うるさいぞ静かに飯も食えんのか」


「……むぅ」


 言われて少し自分がうるさかった事を認めたのか静かに黙り込む里羽。

 そんな里羽に黒田は問う。


「で、二人は?」


「……新しくできた友達と屋上で弁当食べてるよ。つーかこの新しい友達作んないといけないタイミングでそれ放り投げて僕と居たらなんかこう……色々と駄目だろ」


「まあ確かに」


 黒田が納得した様にそう言って、赤坂もなんとなく言いたい事は分かった。

 入学してすぐはそれぞれ新しい交友関係を築いていかなければならないタイミングだと思う。特に地元の高校に進学したのではなく、県外に出たのであれば尚更だ。

 従来の関係性を保つ事も大事だが、新たな誘いがあれば乗った方がいいし、寧ろ積極的に誘っていった方が良い。少なくとも赤坂はそう思うし、だからこそ黒田と此処にいて。多分渚は渚でクラスで気の合った相手と時間を過ごしている。美月もそうだろう。

 そして基本里羽の隣りにいるらしい秋山と春野という女の子も同じなのだろう。


(……あれ?)


 そこで一つ疑問にぶち当たった。


(……里羽は?)

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