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魔術師と月下の狂人


僕は開始と同時剣を抜いてに走り出した。

剣士対魔術師では距離が勝敗を分ける。出来ればこのまま僕の間合いに持ち込みたい。


だが走る僕を見ても、イグナは余裕な態度を崩さない。ウィークネスを使って普通の勇者クラスまで身体能力を落としているとはいえ、この速度を目で追えるのは流石だ。


「ッ!」

「グランド・ニードル」


突然魔法の気配を感じて止まる。僕の進行方向には土の棘が生えていた。相手も考えることは同じか。距離の取り方が上手い。


「よく避けたね、どんどんいくよ!」


次々と魔法が飛んできた。


「容赦ないですねっ」


僕は全て避けているが、このままでは近づけない。

金陣を使おうかと考え始めた時、魔法が止んだ。


不思議に思って見ると、イグナは大きな魔法陣を展開していた。どうやら広範囲の魔法を放つ気らしい。


「ライトニング」

「舐めてもらっちゃ困る!」


雷撃を放つが、イグナは魔法陣を維持したまま避けてしまった。そして魔法陣が完成する。


「ソウフィル!」



凄まじい爆発が僕を中心にして起きた。僕は金陣を展開して防ぐ。煙が立ち上っているのでイグナからも観客席からも見えていないだろう。気配を消し、イグナに忍び寄る。


「やったか?」


そんな声が聞こえる。お約束すぎるな。僕は思わずニヤリと笑うと、イグナの背後に立ち、手を背中に当てる。気づいたイグナが目を見開く。


「な!?なぜ……」

「ショック」


小さく電撃が走り、イグナは崩れ落ちた。


煙が晴れ、観客席からも様子が確認できるようになる。


『勝者、ミヅキ選手ッ!』


「「うおおおおおおっ!!!」」


歓声が聞こえる。僕は片手を上げてそれに応えた。


「「狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!……」」


会場から鳴り止まぬ狂人コール!

……おかしいだろ。そこは勇者だろ。しかも月下狂人ならまだしも、ただの狂人じゃないか。


僕は何故か負けた気分になりながら闘技場を後にした。



「おかしくない?狂人コール。」


観客席に戻った僕は一吾に愚痴っていた。


「まあ、しょうがないんじゃねぇか?勇者って沢山いるし、月下の狂人はお前だけだろ」

「そうなんだけどさ、なんで狂人オンリーなの?」

「月下をつけたら叫びづらいだろうが」


そんな単純な理由で狂人呼ばわりされたのか。……ショック。



次の試合は植木対高橋だ。身内同士の戦いだが、植木は僕が魔族側じゃないかと疑っている一人なので、要チェックだ。こんなところで能力を使うとは思えないけど、万が一ということがある。相手を操る系の固有魔法を持っていれば問い詰める必要があるだろう。


国王には話してあるので闘技場の警備は多めになっている。今日が襲撃でも十分対応可能だ。


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