黒鋼竜
昼、僕達は黒鋼竜がいるという火山まで来ていた。
「暑い……」
とにかく暑い。麓の方にはまだ草木が生えていたけど、火口近くのここには一本も生えていない。
「水月ぃー、もう俺限界だ」
「つらいのはみんな同じです」
「明らかにお前の方が楽そうじゃねえか」
「もーしょうがないな一吾君は……てってれー紅雪ぃ!」
紅雪が現れ、鞘から抜くと妖気と冷気が漂い出した。
「ドラ○もんのつもりか?全然似てねえよ!」
「でも涼しいだろ?」
「天才かよ」
ー
火口に着き、下を覗き込むと、そこには巨大な竜がいた。すでにこちらに気づいているようで、警戒するような目で睨みつけてくる。
「降りる?」
「は?お前、無茶言うなよ。マグマじゃねぇか、あの竜が立ってんの」
「いや、でも上がって来そうにないよ?」
ここからでは手が出せないとわかっているのか、黒鋼竜は動くそぶりを見せないでいた。魔銃を撃ってみたけど、少し傷つけただけで致命傷にはなりそうもない。
「にしても溶けるぞ?俺たち」
「誰がこのまま降りるって?」
僕はそう言って、紅雪を鞘から出した。
「おいおい、火山まで凍らせるつもりか?」
「♪火口を自由に歩きたいなぁーハイ、凍獄ぅ!」
「やめろぉぉぉぉ!」
紅雪を軽く振り、凍獄を発動する。僕を中心にして、あたりが凍り始めた。マグマも冷え固まって黒い岩になった。更にその上を氷が覆う。
「すげぇ……モノマネ以外は」
先程まで火山だったそこは、一瞬にして氷山になった。
「グルオオオオオッ!」
氷の上で黒鋼竜が咆哮する。住処を荒らされて怒っているようだ。
「よし、降りるよ」
「おう!」
僕達は金陣を階段のようにして下に降りた。
「グルオオオオオッ!」
黒鋼竜は近くで見ると大きさが際立って見える。その体から放たれる威圧感は尋常じゃなかった。
「よし!俺が行く!」
それでも怖気付かず、一吾は剣を抜いて黒鋼竜に向かっていった。
「鱗は傷つけないようにね」
竜の素材は高く売れる。紅蓮亭の店主に渡しても素材は余るだろうから、それを売って得た金で美味しいものでも食べようか
「どわああああっ」
そんなことを考えていると、一吾が吹っ飛ばされて来た。僕は金陣を展開してそれを受け止める。
「ぐはっ」
一吾は金陣にぶつかって止まった。
「大丈夫?」
「大丈夫?じゃねえよ!もっとソフトに受け止めろよ!人を受け止める奴じゃねぇだろそれぇ!」
「受け止められただろ?」
「……あいつ、堅えぞ。俺じゃ勝てるかどうか怪しい」
「へー、そんな強いのか」
僕も試しにいってみよう。
「グルルルルルル」
僕が近づくと、黒鋼竜は唸り始めた。
突然スピードを上げ、黒鋼竜の視界から消える。首の後ろに回ると、拳を突き出した。
「かたっ!」
僕の一撃は鱗に阻まれた。反撃に振り下ろされた爪を避け、それを蹴って一吾の隣まで下がる。
「な?堅いだろ?」
なんで一吾が得意気なんだよ。打撃が効かないとすればあとは魔法か斬撃だが、僕も一吾もこの竜を倒せるような魔法を使えないし、一吾の剣は黒鋼竜に当たると折れてしまう。紅雪を使うと凍らせてしまうので、鱗がダメになってしまう。
だとすれば、
「まだ手段はあるよ」
「どうやって?」
「まあ、見てなよ」
今度はドラ○もんの真似はしなかった。僕は再び黒鋼竜に向かっていった。跳び上がり、顎の下まで来ると、透打を使った掌底打ちを叩き込んだ。透打は表面にはあまり衝撃を与えず、中にだけ衝撃を与える。
「グオオオオオッ」
効いてる。僕は一度着地し、今度は心臓部に掌底打ちを食らわせた。
「グオオオオオッ!」
黒鋼竜は死にそうだ。僕はゆっくりと歩み寄る。黒鋼竜の目は僕に釘付けになり、身動きできなくなる。死を感じたのだ。 胸部に手を添えると、透打を使った。
凄まじい衝撃が黒鋼竜に伝わる。
「グオオオオオッ……」
黒鋼竜は動かなくなった。
「ふう、終わった」
「ドラ○もんの真似は終わりか?」
「不評だったからね。死体を回収して帰ろう」
今日の目的、黒鋼竜の鱗の回収はあっさりと済んだ。