驚いたか?
「さあ!依頼を受けに行こうぜ!」
朝から一吾が張り切っている。申し訳ないがうざい。
「あと五分寝かせてくれ」
「だぁぁぁ!」
布団を剥がされた。一吾よ、汝は禁忌を犯した。
「紅雪」
僕の手に刀が顕れる。
ぞっとするような冷気が吹き荒れ黒い雷のようなものがパチパチと弾けた。一吾が足元から凍り始める。
「ちょっ、待って!ごめん、俺が悪かっ……」
一体の氷像が出来上がった。凍りつかせるつもりは無かったんだけど、寝起きなので制御できなかったネ。
少し反省しながら「氷雪」を解除した。
「うっ、死ぬかと思った!凍らせることないだろ!」
「朝早すぎるんだよ!いま何時だと思ってるの?五時だよ?五時!」
この世界の時間は大体元いた世界と同じだ。
五時なんて朝早いなんてもんじゃない。それは夜だ。
「そうだとしても普通、起こしに来たやつを氷漬けにしたりしねぇーだろ!」
「僕の寝起きが悪いのは知ってるだろ?」
剣道部だった頃も、一吾は僕を早朝に起こして痛い目にあっている。
「そこまでじゃなかっただろうが!あん時は殴りかかってくる程度だったぞ!」
「ぐ……年齢とともに進化を遂げたんだよ」
「嘘つけぇ!退化だろうがぁ!」
僕達ははたから見れば不毛に見える争いを続けていた
本人達はいたって真剣だ。
バタンッ
「うるさい、朝から何なの?」
突然ドアが開き、白沢が不機嫌な様子で言葉を発する
「おきなさい!みんなも起きてるでしょ!」
森山も来た。
「はい……すみません。すぐに準備します」
僕はあえなく降参することになった。
ー
「こちらがみなさんのギルドカードになります。」
僕達はギルドに来て、ギルドカードを受け取っていた。そこには、「下級:ミヅキ・ナルセ」と書かれている。
「これで皆さんも立派な冒険者です!頑張ってください」
「はいッ頑張ります!」
一吾が張り切っている。というか受付にデレている。
「っしゃあ!頑張ろうぜ!」
「はいはい」
依頼が貼り出されているボードを見ると様々な依頼があった。主に魔物の討伐依頼だが、中にはペットを探せだとか、家の掃除をしろだとかの依頼もある。
ちなみに一条達はまだいない。当然だ。
だって五時過ぎだもの。
「おい!これにしようぜ!」
一吾が持って来たのは、「ゴブリン二十体の討伐」だ。報酬も悪くないので、これで良さそうだ。
「それではお気をつけて!」
一吾が鼻の下を伸ばした。……僕?僕は美人は白沢で見慣れている。一吾もそのはずなんだけどな。
ー
「フッフッフ、俺の新しい剣が火をふくぜ!」
一吾が腰に差している剣が変わっている。
「いつの間に」
「驚いたか水月!俺は昨日、一度帰った後、もう一度外出してこれを買ったのだ!」
「なんだって⁉︎」
危ない危ない。街で会わなくてよかった。
「高かったんだぞ?これ」
「確かにいい剣だね。でも刀じゃなくていいの?」
「いいんだよ、なんか剣もいいなって」
「はあ。うん?気配を感じるな。多分ゴブリンだ」
三十体はいるだろう。ゴブリンは繁殖力が強く、個体数が多いので珍しくはない。依頼は二十体だが、襲いかかってくるなら仕方ない。皆殺しだ。
「こんなとこからよくわかるな」
「まあ、経験の差だね。おっと、見えてきたよ。」
「よし!行くぜ水月!」
一吾がゴブリンの群れに突っ込んで行く。
「じゃあ、白沢と森山は魔法で援護よろしく」
「了解」
「気をつけて!」
僕も一吾に続いてゴブリンの群れに飛び込んだ。
森山にはまだ僕の秘密を話していないけど、パーティー一緒に行動する以上、知らせないとな。ということで手加減はしない。
ゴブリンが四方から襲いかかって来た。
蹴りを放つ。
ゴブリンの頭が破裂した。
手刀を食らわす。
ゴブリンの首と胴が別々になった。
殴る。
ゴブリンの体に穴が空いた。
「え?成瀬ってあんな強いの?」
森山の声が遠くから聞こえた。一吾を魔法で支援しながら白沢と会話している。
「たぶんあたしたちの誰よりも強い」
「一条よりも?」
現在クラスで僕を除いて一番強いのは一条だ。その後に大山や、清水がいる。一吾もその次位に強い。
「うん、ダンジョンで剛腕を余裕で倒してたし」
「え?白沢と佐藤がやっとのことで倒したんじゃなかったんだ……」
ゴブリンの数がだいぶ減ったな。十体くらい一吾一人で大丈夫だろう。僕は直接説明しに森山の近くへ行った。
「面倒ごとを避けるために隠してたんだよ」
「ふーん、で、なんでそんなに強いの?」
「僕が千年前にいたっていう勇者だからだよ」
「えー!成瀬って何歳?」
「時間がズレてるのか、僕が日本に帰ってから一年しか経ってないのにこっちでは千年経ったんだよ。」
「はぁ…そうなんだ」
「このパーティー以外には内緒で頼むよ」
「はいはい」
「ぜぇぜぇ、終わったー!」
どうやら一吾が倒し終わったらしい。ゴブリンが十体くらいなら勇者には問題にならないけど、流石に疲れたらしい。
「おつかれ、じゃあ後始末をしようか」
「やっといてくれ」
「全く、しょうがないわね」
死体を集めて焼く。みるみるうちにゴブリンは灰になった。死体を残しておくと、魔物がさらに集まってしまうのだ。
「全部で三十五体か。報酬は山分けにしよう」
「よっしゃー!いい宿に泊まれるな!」
ー
「はい、依頼達成です!お疲れ様でした。報酬はこちらです!」
宿に泊まるには十分な報酬を受け取った僕達は外に出た。
「そういや今日は一条達に会わなかったなー」
「一条達も依頼を受けてたんじゃない?」
ギルドのある通りを進む。
「そうだな!それでよ、騎士団の人からいい宿屋を聞いてきたんだよ」
「やるじゃない、佐藤!」
「ハッハッハ、予習はバッチリなのだよ!」
角を何回か曲がると、そこには大きい家があった。
「じゃ、僕はここで」
僕はその家の門を開けると、中に入っていく。
「は!?」
「え?」
「へ?」
「そんな間抜けな声を出してどうしたの?」
僕はニヤニヤしながら問いかける。
「オオキイ、イエ、オマエノ?」
「もちろん、僕の家だ。」
「オーマイガット!」
ゴットをガットって発音するのムカつくな
「驚いた?一吾。僕は昨日、君が剣を買っている間、この家を買っていたんだ。はっはっはっ」
夢のマイホームだ。まあまあの大きさだが、僕は天下に自慢して歩きたいとさえ思っている。
「買い物のデカさに差があり過ぎだろ!」
「お金ならあった」
「えっ成瀬、お金も持ってんの?」
「まあ、前回の勇者の時の報酬で」
「部屋余ってる?」
「まあ」
「成瀬くん、泊まらせてくれないかしら?」
「口調変わってるって森山。そんな事しなくても部屋は貸してあげる」
「やったー!」
「白沢と一吾もそれでいい?」
「ありがてー!」
「大丈夫」
こうして僕達はこの家で生活することになった。