番外 成瀬と佐藤
脱線したくなる癖が……
これは成瀬水月が異世界に行く前のことである。
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俺つまり、中学校教師にして剣道部の顧問である田辺順平は入部届けを持ってきた二人の新入生と向き合っていた。
「剣道部に入部したいんですが…」
一人は社交性がありそうな少年、もう一人はおとなしそうな少年だ。中学生とはいっても、つい先日まで小学生だった彼らはまだ体が出来上がっていない。
部員不足で、今年はまだ誰も入部していない剣道部に、入部を断る理由もない。俺は喜んで許可した。
「じゃあよろしくな!先生!と、えーと」
「成瀬水月だよ。よろしく。先生もよろしくお願いします」
「俺は佐藤一吾、よろしく!」
「ああ、よろしくな」
今年も廃部を免れ、俺はホッと息をついた。
ー
「え?」
俺は驚愕で声も出なかった。少し部活を見に行かないうちに二人は上級生といい勝負をするまでに成長していたからだ。
佐藤一吾は普段から真面目に練習していて、なかなかに見込みがあった。勝てはしないものの上級生の剣撃にある程度耐えている。
剣道経験のある俺はついやりたくなってしまい、彼等と勝負することにした。
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成る程、俺は思う。佐藤は一撃一撃が重く、狙いも悪
くない。だがまだ甘いところがある。
「面!」
一本を取った。
「まだまだだな。だが良かったぞ!」
「はい!ありがとうございました!」
次は成瀬か、成瀬も佐藤同様、よく練習しているが。
ー
俺は追い詰められていた。成瀬は体格の割に一撃が重く、剣速も凄まじい。そして何より、間合いの取り方や読み合いが圧倒的に強かった。
天才とはこう言う奴のことを言うのか。
今も俺が全力で踏み、打ち込むも、まるで心を覗かれているかのように読まれてしまう。
結局ー
「胴!」
一本を取られてしまった。こいつ化け物か?
「成瀬、お前どうしてそんなに強いんだ?」
「たまたま読みが当たっただけですよ」
そう言って成瀬はひらひらと手を振る。
その手は豆だらけになっていた。
成る程な、ただの天才じゃなかったか。相当隠れて練習しているようだ。思わず笑ってしまう。
「フッフッフ、ハッハッハ!」
「どうしたんですか?」
「いやあ、なんでもない」
お前たちの総体が楽しみだなんてちょっと本人達には言えないな。俺は職員室に戻ってもニヤニヤしていたようで、校長に心配され、家に帰らされた。