質問は?
ちょっと忙しいので次回の更新が遅れるかもしれないです。
「えーと、質問ある人?」
僕はそう聞いた。近くには氷になった剛腕の死体が転がっている。空いている手を虚空にやると、魔力が集まり、それは鞘の形になった。白い鞘に紅雪を収める。
「先生!」
「はい、じゃあ佐藤くん」
「隠してたのに力使って良かったんですか?」
「よくないから今のうちに口止めをしようとしているんです」
「お前なあ……」
そこで僕は重要なことを思い出した。
「あ、それより沼田は?全然気配を感じないんだけど」
「いない、さっきのあたし達が落ちた時に巻き込まれたのかも」
僕は一通り気配を探ったけど沼田の気配は感じない。
あまり考えたくはないけど死んでいるかもしれない。
「浮遊」
白沢が積み重なっていた氷の塊を全て浮かす。
「……いない」
「一旦帰ってみんなでここを探した方が良さそうだね」
「でもどうやって上がるんだよ」
僕たちは崖の上を見上げた。
「白沢が浮遊を使えばいける」
「無理、生き物を動かすには魔力がたんない」
「じゃあ僕が一人一人掴んで投げ飛ばすのは?」
「馬鹿じゃないの?」
「そうだ!殺す気か!?」
「……冗談だよ」
「嘘だ!顔がマジだったろ!」
「ぐ……しょうがない、僕が全員抱えて運ぼう」
「どうやって?」
「こうやって」
僕は全員を一気に抱えると、跳んだ。落ちる前に足元に防御魔法陣を展開し、また跳ぶ。何回か繰り返すと僕達は崖の上についた。
一条達はいない。鉤爪が一条達の方へ行ったけど大丈夫だっただろうか。
「ぜぇぜぇ……いきなり掴むなよ」
「ほんとそう」
「無理なんですけど〜」
「いや〜ごめんごめん」
「で、さっきの話は?なんで成瀬が聖剣を持ってるの?」
「そうだね、帰りながら説明しようか。」
僕は口を開いた。
ー
「じゃあ成瀬が千年前にいたっていう勇者なの?」
「そう、時間が歪んでるのかなんなのか、僕が日本で一年過ごす間にこの世界では千年経ってるみたいだけどね」
「へえー成瀬が勇者様(笑)なんだ」
「なんだよその感じ。まあとにかく、僕が秘密にして欲しいのは僕が勇者だったってことと、僕がまあまあ強いことの二つだ」
「なんで隠したいの?」
「なんかやだ」
「ふーん、まあいいけど。」
「じゃあそんなとこでよろしく」
納得してくれたかな?固有魔法「忘却」を使ってもよかったんだけど、できるだけ使いたくない。
「おーい!お、お前ら!無事だったのか!」
歩きながら話を続けていると、前からゴードンさんに率いられた騎士団がやってきた。聞けば、僕達の捜索に来たのだという。
「僕達は無事だったんですけど……」
「あの魔族はどうした?」
「なんとか倒しました。白沢や佐藤の能力と相性が良かったみたいで」
背中にじとっとした視線が突き刺さる。
「そうか、良かった……」
「しかし先に落ちた沼田が見つかりません」
「そうか……では俺たちも探してくる。他の勇者も外にいるからそこで待ってろ」
「はい」
むむ、まずいかな?僕達が今進んで来た道には無数の魔物の死体が転がっている。もう隠す必要もないので僕が全部を魔銃で殺したのだ。
でもまあ
強敵との戦いを乗り越え、僕達は強くなった。
的な感じでごまかせる……かな?
ちなみに紅雪は異空間に収納してある。「聖剣召喚」とはそういう便利な能力だ。
ー
ダンジョンの外に出ると、そこには暗い空気が流れていた。と言ってもそこにいるのは一条、大山、清水の三人だけだが。
僕達の姿を見ると、ホッとしたような顔をして走り寄って来た。
「無事だったのか!」
「まぁなんとかね」
「良かった、本当に良かった…」
「ところで他のみんなは?」
「鉤爪とかいう魔族に襲われて怪我をしたから療養所にいるよ。成瀬達の方にも剛腕がいたよね?」
「まあね、一吾と白沢と木村が活躍したんだ。」
「そっか、俺はみんなを守りきれなかったよ。……沼田はやっぱり?」
「うん、見つからなかった。今ゴードンさん達が探しに行ったけど、どうだろう」
地下には沼田の気配が無かった。僕は死体でも少しは気配が察知できる。あのダンジョンにはまだ何かあるのかもしれない。
「落ちた時、不自然じゃなかった?」
「一条、それを考えるのは後だ。みんなのところへ行こう」
「それもそうだな」
僕達は療養所に向かった。軽傷の者から重傷の者までいる。皆はベットに寝かされ、回復魔法をかけられていた。軽傷で、回復魔法が使えるものはそれを手伝っている。
「これはひどい」
「ああ、特に柿崎と野村は腕を切り落とされたんだ」
この様子だと、戦闘がトラウマになっていてもおかしくない。現代日本人の環境とはあまりにかけ離れている。
「成瀬君ッ沼田君は!?」
目を赤くした鈴木が聞いてきた。
「……ごめん。見つけられなかった」
「そっか、もう会えないのかな……」
ごめん、鈴木。一吾に全員死なせないと言っておきながら僕はどこか平和ぼけをしていたのかもしれない。