そうだろ?
いいなーあの薬。
「聞きました?佐藤さん、魔法を無効化ですってよ」
「まぁ、そうなんですの?成瀬さん」
「羨ましいわね〜」
「あら、でも成瀬さんならそんなの無くても余裕じゃなくって?」
「もう、やだわ佐藤さん、買いかぶりすぎですわ」
「そんなことなくってよ、オホホホホ」
「ウフフフフ」
「…なに漫才やってんの…」
…ふざけすぎたな。白沢が呆れた顔をしている。
緊張感が足りない?いやいや、あんな相手緊張するまでもない。
僕は白沢の視線なら耐えかね、真面目な顔をして魔銃を撃った。またしても弾かれる。というよりは魔力が霧散している感じだ。なるほど。
「いくらでも撃ってこい!無駄だがな!」
「じゃあ遠慮なく」
腕を真っ直ぐに伸ばし、そこに魔力を螺旋状に流す。次の瞬間、風を切る音がして剛腕の腕が弾け飛んだ。
「なぜだ!貴様、なにをした!」
「その薬のからくりが分かったんだよ」
あの薬は魔力を霧散させる。なので霧散させられない程の魔力をぶつければ問題ない。
「なんだと?」
「ほら、避けないと死ぬよ?掃射!」
銃の形にした指先に魔法陣が現れる。それは回転しながら魔力の弾を無数に撃ち出した。
「グアァ!」
剛腕は避けきれず何発か食らう。だが傷はすぐに修復される。魔法無効化を解決してもそれがあったか。あの感じだと蜂の巣にしても治りそうだな。僕はそう判断し、接近戦を挑む。
「ほっ」
「グアァッ!」
距離を詰め、頭に蹴りを入れると剛腕は反応できず、吹っ飛んでいく。
だが次の瞬間、剛腕は僕の後ろにいて手を組み合わせ、振り下ろしていた。僕は片手を上げてそれを受け止める。メキメキと僕の足元の氷に亀裂が走った。なかなかの威力だな。
「な、なぜ受け止めている!それも片手で!」
「君が弱いからだよ」
「クソガキがァァ!」
おお……剛腕ってそういうことか。
剛腕の両腕が巨大化した。
「うおおお!」
僕が感動している間にその腕で殴りかかってくる。
僕は余裕をもって受け流し、ガラ空きになった背中に蹴りを入れた。
「がああああっ!」
今度は反撃できないほど吹っ飛んだ。透打も同時に使ったので回復にも時間がかかるはずだ。
「そんなものか!いくぞ!」
威勢の良いことを吐き捨てて起き上がった剛腕は僕に向かってくるーーと思いきや、一吾達の方へ襲いかかった。
忘れてた、一吾達もいたんだっけか。
「動くな!こいつを握り潰すぞ!」
「ケホッ」
白沢が巨大な腕に掴まれていた。
油断したな……
取り敢えず両手を上げ、降参を示した。
「フンッわかればいい。」
剛腕は白沢を握ったまま聖剣(笑)の方へ向かう。
「聖剣なんて手に入れてなにをするつもり?」
「我が主人に捧げるのだ。」
「ふーん、ところで白沢を放してくれないかな。苦しそうなんだけど。」
「放せばお前が襲いかかってくるだろうが。それにいずれこいつも殺す。」
どうしたものか。取り敢えず会話を続けることにする。
「聖剣は資格なき者が持つと危険だよ」
「我が主人に資格なしとでも言うのか!」
「さあね、ただ、下手に持つと後が怖い」
「デタラメだ!我が主なら持てる!」
剛腕は自分の主を信じきっているようだった。
「君の主はともかく、僕は持てる。そうだろ?『紅雪』」
思い出した。あの刀の名前。僕が名を呼ぶと、紅雪は一層妖気と冷気を増し、剛腕の動きを止めた。
「な…なんだこの気配は!貴様なにをした!」
僕は固まっている剛腕を尻目にスタスタと歩き、紅雪の柄に手をかけた。
ーその瞬間、僕は何もかも思い出した。
力の使い方、戦いの記憶。
どれも懐かしい。
だが紅雪はそうしている間にも僕の身体を乗っ取り、手当たり次第に人を斬ろうとする。
それを抑え込み、竜の頭蓋骨から引き抜くと剛腕に向き直った。
「これは僕の物だ。魔王だろうがなんだろうが渡背ないね」
「まさか!お前が……」
全てを言わせず魔力を放出する。
周りの氷にひびが入り、空間が歪んだ。常人なら気を失っているほどの圧だ……って
「あ、ごめん」
「おおおおおう」
一吾達が顔を青くしている。まだ本気じゃないし、一吾達には向けてないんだけど、余波でやられたかな。
一方剛腕はピンポイントで妖気にあてられて、動けない。
「ぐああああああっ!」
感触を確かめる様に紅雪を振ると、剛腕の白沢を握っている方の腕が肩から斬り飛ばされた。
「きゃっ」
あ、白沢を受け止められなかった。
まぁ無事だし、よかった。
「なぜお前がここにいる!お前は、千年前の…!」
剛腕が切られたところを抑えながら叫ぶ。「紅雪」の能力で凍っているので傷は治らない。
「正解☆」
剛腕は上下真っ二つになり、絶命した。死体は徐々に凍ってゆく。
久しぶりに斬ったな。
そろそろ説明しなくては、一吾達が唖然とした感じでこっちを見ている。