きらきらひかる
きらきらしたものが落ちていた。
通りがかった一人の男は、そのきらきらしたものに気が付かず、せかせかと歩き去って行った。
ただ前を見て、何を急いでいるのか分からないまま、急ぎ歩き去った。
続いて通りがかった一人の女は、そのきらきらしたものを見つけた。
見付けただけだった。
何だろう、あれは。そう思いながら通り過ぎた。
何人かの学生が通りがかった。
酔っ払っているらしく、ふらふらしながら、お互いを支えながら、げらげらと笑いながら歩いていた。足元にあるきらきらしたものには一瞥もくれずに、げらげら笑いながら歩き去った。
一人の老人が通りがかった。
きらきらしたそれを見て、目を細めた。懐かしそうに、面白そうに。見つけたそれをしばらく眺めて、やがて老人は歩き去った。
小さな子供が通りがかった。
走ってきた子供は、すぐにそのきらきらしたものを見つけて、拾った。家に帰り、宝物をしまう小瓶に入れた。きらきらと輝く小瓶になった。
*****
子供は、家にいた母親にそのきらきら輝く小瓶を見せた。
先ほど見たきらきらしたものだと、女はすぐに気が付いた。
女は、綺麗ね、と言った。ただ、綺麗ね、と言った。
子供は、帰ってきた父親にそのきらきら輝く小瓶を見せた。
男は、それが先ほど通り過ぎたきらきらしたものだとは気付かなかった。ただ、子供の喜ぶ姿を見て、よかったな、と言った。
子供は、帰ってきた兄にその小瓶を見せた。
兄は、酒に酔って幼い弟の相手をするのが面倒で、大事にしろよ、と適当に答えて部屋に戻っていった。
子供は、部屋に居た祖父に会いに行った。
祖父は、孫が来たのを見て喜んで、その子を部屋に招きいれた。手に持っていたきらきら光る小瓶を見て、先ほど見たきらきらしたものだと気が付いて、優しい笑みを浮かべた。
そっと子供を手招きをし、押入れの奥、木の箱にしまわれていた小瓶を取り出した。古いものらしく曇ったその小瓶を覗き込むと、子供が持っているのにそっくりな、きらきらしたものだった。
驚いた子供が祖父を見ると、祖父は笑って、そっと口に人差し指を当てた。そして、子供が持つきらきら光る小瓶を指差し、大切にするんだよ、と言葉を掛けた。
大切に大切に持っておくんだ。
そして、それを持っていることを、忘れないように。
落とさないように、なくさないように。
大切に大切に、持っておくんだよ。
そう言われた子供は大きく頷いて、きらきら光る小瓶をぎゅっと握り締めた。