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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

遠未来転生とスピンオフ

ハーレムのハーレムによるハーレムのための召喚 (短編)

作者: 安井上雄

 その日、私は疲れていた。

 日曜日の朝9時から始まった極真古武術全国大会で全国47都道府県から集まった128人の猛者たちを相手に無差別級で7試合を戦い、何とか栄光の賜杯を手にすることができたが、決勝の相手が私の2倍以上の体重を誇る怪女だったため、持てる力の全てを使ってようやく勝てたのである。


 実は私は、とある出来事がきっかけでESPを身につけている。

 この力を使えば、遠くのものを見ることも動かすことも一瞬で転移することも、果ては空間を破壊することも可能である。

 しかしながら、身体能力は普通の25歳日本女性と変わることなく、鍛錬の成果以上の怪力や超スピードは持ち合わせてはいない。


 今日の試合もESPを使えば楽に勝てるのは分かっていたが、根がまじめな私は不正が大嫌いだ。

 よって、己の肉体以外の力を封印し、鍛えあげた肉体と技術のみでこの賜杯を手に入れたのだ。


 自宅マンションに帰ってまずは、風呂をぬるめに入れることにする。

 食事よりも、疲れ切った筋肉をほぐし、ゆっくりを暖まりたい。


 湯を張るまでの時間を利用して、簡単な夕食をつくっておく。

 風呂から出たら、エネルギーの補給も必要だ。

 今日のメニューは炊き込みご飯の素を使った鶏肉入りご飯と、野菜がごろりと丸ごと入ったスープカレーだ。

 小さめのジャガイモ、にんじん、タマネギ、鶏のもも肉1枚を油で素揚げにして、その後スープで煮込む。

 マイタケも奮発して一株ごと入れる。

 薄口の出し入り醤油で味を整える。

 ガラムマサラを入れてカレー風の辛みを出すのは食べる直前だ。

 後は、風呂に入っている間に勝手に煮えてくれるだろう。

 IHコンロの切りタイマーを1時間にセットし、弱火でコトコト煮込む。

 ご飯の炊きあがりも一時間後にセットする。

 これでお風呂から出たらすぐにご飯にできる。

 ここまでセットすると、ちょうどお風呂のお湯が溜まったお知らせのブザーが鳴った。


 私は着替えを手に浴室に向かう。

 シャワーで簡単に汗を流すと湯船につかり、手、足、腰の筋肉をもみほぐす。

 特にふくらはぎを腿の後ろは念入りにマッサージだ。

 一通り筋肉のメンテナンスが終わると、肩まで湯につかり、湯殿の縁に頭を乗せると、手足を伸ばしてリラックスする。

 いい気持ちだ。


 なんだか眠くなってきた。


 IHコンロはタイマーをセットしているから、火事の心配はない。


 少しくらいならいいかと思った次のしゅんかんには、私は意識を手放していた。




「よくぞ来た!

 わが99番目の花嫁よ!」


 どれくらい寝たのか分からないが、私が次に気がつくと、知らない場所に全裸で横たわっていた。

 よく分からない一枚岩の床に不思議な模様が描かれている。

 目の前には、筋骨隆々とした半裸の男がいやらしい目つきで私を見下ろしている。


 私はとりあえず手で隠せる部分を隠すと上半身を起こし横座りする。

 こんなことなら胸が隠せるくらい髪を伸ばしておくべきだった。

 私は男をにらみつけた。

「あんたいったい何者で、ここはいったいどこよ」


「これは元気がよい花嫁だ」

「わたし花嫁じゃないし!」

「それでは説明してやろう。

 私はこのハーレムの主にして、第126代バイオス帝国の皇帝、マルチニコフ・ドルバ・バイオスだ。

 そなたはより強き後継者を生むため、私のハーレムに召喚されたのだ!」

「はっ?

 何言ってるのこのおっさん!

 それって人掠ってきて手込めにして妊娠させるって言ってるのと同じじゃない!」

「むっ、不敬な!

 我はおっさんではない。

 こう見えても25歳の現役ばりばりじゃ。

 精力も抜群で、これまで召喚した98人の花嫁も、皆立派に妊娠しておる!」

「誰がおとなしくあんたの子供を産むのよ。

 ホントに頭変なの?」

「本当に失礼なおなごじゃ。

 これを見よ」


 男が部屋の後ろのカーテンを引くと、そこには所狭しと若い美女が全裸で座っており、ほとんどのものが泣いていた。

 お腹が大きい女性もやたらと多い。

「どうじゃ。これが現実じゃ。

 この者たちも最初は抵抗していたが、今はおとなしく我の子を産むことを喜んでおるのじゃ」

「バカじゃないの!

 どう見ても泣いてる人が多いじゃない。

 無理やり拉致ってきて子供産まされて喜ぶ人間なんていないわよ」


「ああ言えばこうゆう、口の減らない女じゃな。

 もうよい、そなたも我の子を孕むがよい。

 今、仕込んでやるわ!

 わっはっはっは」


 変態男は高笑いしながら唯一腰に巻いていた布きれを取り去ると私に飛びかかってきた。

「ふっふっふ、抵抗してもよいのじゃぞ。

 その細腕では抗いきれぬであろうがな」


 どうしようもないゲスだ。

 私は、一瞬で立ち上がると男の突進してくる力を利用して、背負い投げを決める。

 相手の右腕をとっての一本背負いだ。

 もちろん引き手を離さずダメージを軽減するというような配慮は一際せずに勢いのままに床へぶつける。

「ぐっ!

 この下郎が、不可思議な技を!

 おとなしく我の子を産め!」


 どうやらあきらめが悪いようだ。

 ここは力で黙らせた方がよいのだろう!


「あんたはどうやら自分が一番で、最も強いとでも思っているようだから、天に変わって私が教えてあげるわ。

 感謝しなさい。

 先に行っておくけど私の授業料は高いわよ!

 授業の後から返金要求にも一切応じないわ。

 クーリングオフ無しよ。

 それでもいいならかかってきなさい」


 変態男はよろよろと立ち上がると、喚きながら突進してくる。

「訳の分からんことを!

 二、三発殴ればおとなしくなるだろう。

 うおぉぉぉーーーー」


 私は、突進してくる男を右に回転しながら交わすと、後頭部に裏拳をたたき込む。

「ぐふぅ」

 変態男はうめきながら後頭部を押さえるがまだ倒れない。


 後ろから男の右腕を取り、関節技で肩と肘をはずしてやる。


「ぎゃっ」

 男の右腕がだらりと垂れ下がり、目に怒りをたぎらせ残った左腕で殴りかかろうとする。

 私は男の右膝を正面から蹴り込み、膝の皿を破壊してやる。


「ぐぅおぉっ」

 変態はそれでも片足で立っている。


 残る左の膝も粉砕してやる。


 私と変態男では格闘に関する能力も身体能力も大きく私が上回っている。

 それは、最初に接触した瞬間に理解できた。

 男のスピードでは私をとらえることは不可能なのだ。


「ぎぃぇぇぇぇーーー」

 ついに変態は床に崩れた。


「おのれ!皆のもの出あえぃ!

 もう花嫁はやめだ!

 たたき殺せ!!」


 私は、男の叫びを無視して、部屋の仕切りとなっていたカーテンを手早く引きむしると、とりあえずローブ代わりにして全裸状態を脱する。

 それにしても全裸の男女のからみにしては全く色っぽさがない戦いだった。


「おのれ、我がハーレムでは着衣は禁止だ!

 早々にその布を取り去れ!!」


 両足を折られ、利き腕もダメにされているのに、この誘拐変態男はまだまだ元気なようだ。

 お仕置きが足りないのだろうか?


 そんなことを考えていると、正面の大きなドアが開き、ハダカの上半身に革ベルトを巻き、下は革製の腰蓑を着けた厳つい男たちが剣や槍を持って大勢乱入してきた。


「おお来たか皆のもの。

 今度の女はもういらん。

 お主たちにくれてやるから、好きにせい。

 妙な武術を使うからまず痛めつけるのだ!」


 この変態は、ここに来てもまだ実力の違いというものが分かっていないらしい。


 兵士たちは変態皇帝と同じようなぎらついた嫌らしい目をしながら私へと殺到してきた。


 もう、こいつら容赦しなくていいよね。

 まあ、一度だけ警告してやるか…

「死にたい奴はかかってきなさい。

 死にたくない奴は回れ右して逃げなさい!」


 大声で怒鳴ってやったが誰も回れ右しない。

 もう、いいよね…


 私はサイコキネシスを発動して、迫ってきた男たちを全員空中に持ち上げる。

「「「「うわっ」」」」

「「「「ぎゃぁ」」」」

 そのままの勢いで天井にぶつけてから床に落としてやると、兵士たちは様々な悲鳴を上げて床と仲良くなった。


 大半は気絶したが、まだ何人か意識があるようだ。


 私は意識がある兵士たちの首筋に手刀をたきこみ意識を刈り取って皇帝の前に山積みしてやる。

 これにはさすがの皇帝も驚いたようだ。

 さっきまでのえらそうな表情はなりを潜め、顔面蒼白にしてぶるぶる震えている。

「ばっ化け物だ」

「失礼ね、

 誘拐した上に化け物扱いとは…

 それより私の授業はどうだったかしら。

 授業料はあんたの命よ。

 それが嫌ならこの帝国をもらう。

 選びなさい」


「そんなことできるか!この化け物め。

 神の怒りを恐れるがよい!」

「いや、神罰が下るならあんたからでしょ。

 もういいわ、わたしが勝手にするから」


 私は、ハーレムに召喚されていた女性たち一人一人に状況を聞いてみる。

 妊娠してしまっている女性には堕胎したいかどうかも含めてだ。

 わたしができる限りのことはしてあげたい。


 まず、この世界から召喚された女性は、私のテレポーテーションで元の国や場所に送り返すことができることを説明した。

 私と同じ地球から来た人も、私がテレポーテーションで平行世界を転移できるようになったので送り返すことができる。


 しかしながら、地球以外の次元から召喚された人は、今の私では送り返せない。


 そんな人のために、この帝国をプレゼントする。

 まず、城の宝物庫、金庫をこじ開け、中の金と財宝は全て私たち被害者で山分けした。

 城は二度と再建できないように、サイコキネシスで、分子レベルに分解した。


 変態皇帝は全裸で逆さ十字に貼り付け、街の中央公園にさらしておいた。

 もちろん、皇帝の座を追われたことを立て看板に書いて添えておいた。


 国の治世は、掠われていた女性たちの中で統治能力が高い人も大勢いたので、その人たちで議会をつくり、合議制によって政を行うことにした。

 安定してくれば、民主主義的な選挙も行うように伝えておく。


 旧勢力で反抗しそうなものは、全て私のESPで潰しておいた。そいつらの財産や土地は全て没収である。


 そして翌朝には、サイコキネシスで固い岩盤を切り出し、立派な国会議事堂を建てて、帝国は名実ともに消滅した。


 そして全てを終えた私は、テレポーテーションで懐かしの我が部屋へ帰り着く。

 時刻は朝の7時だ。

 我ながら、よくやった。


 たった一晩でこの世からクズな帝国が一つ消滅し、民主的な国会によって運営される国ができたのだ。




 これでゆっくりできる。

 さあ、寝よう。

 追う思った瞬間、無情の目覚ましベルがなる。


 そうだった。

 大会が日曜日だったのだから、今日は月曜日だ。

 そして私はこの世界では企業に雇われているしがないOLさんなのだ。


 こんなことなら、現世もESPで作り替えてしまった方が楽なのにと思いつつ、根が正直な私は会社へ向かう準備を始める。


 それにしても、今日一日、完徹のこの体でまともに仕事ができるのだろうか…

 私は夕食用につくっておいた炊き込みご飯やスープカレーを温め直して急いで胃にかき込み、重い足取りで会社へ向かった。




 尚、このときの私は、全国優勝が新聞各紙に取り上げられ、朝から晩まで取材の対応で追いまくられるなどとは夢にも思っていなかったのである。


 もっとも、夢を見る暇も無かった一日ではあったのだが…

                                   (完)

疲れ切って帰ってきたら何となく思いついてしまって、急いで書いてみました。

本編の主人公には、裏設定があるかも知れません。

楽しんでいただければ幸いです。

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