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第3キャラの領地経営  作者: 寿 佳実
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第3章 - 旅の途中

今回は設定披露回です。細かな設定羅列がありますが、苦手な方は飛ばしても大丈夫だと思います。

王都の門を出ると馬車はそのまま東へ向かう。菩提樹の街路樹に導かれた大路が一直線に東へと伸びている。

流れる外の景色も見飽きたころ、私は二人のメイドに話しかける。


「良いかしら?」

「なんでしょう、お嬢様」

「私の知っていることを確認したいと思って。間違いがあったら教えてくれない?」

「わかりました。わたくしどもが知っていることであればお答えいたしましょう。」


私の知っている知識がどの程度正しいのか、二人にぶつけてみることにする。そこで確認したかったのは、(明日香)が持つUUOウルティメイト・ユニバース・オンラインに関する知識がこの世界でどこまで正しいのか、ということだ。エリザベートが教わっているはずのない知識を確認することは難しいだろうが、ほかの知識の正誤が判ればある程度類推はできるでしょう。


「それじゃぁまず、この国の形についてね。」


真顔になったメイド二人に対し、私はゆっくりとその知識の羅列を始める。


---------------


この国ゲオルグ王国は正方形に近い形をしており、王都ツーリンはそのほぼ中央に位置する。東にエリー、西にリーンの2本の大河が流れており、ほぼ国土を三分割している。


北は海に面しており、その海は北の大洋(ノース・オケアノス)と呼ばれている。海の向こうには魔物の住む土地があると言われているが、行って帰ってきた者がいるという話は聞かない。北の大洋は時に大きく荒れ、沖合には巨大な海の怪物が棲み、海が荒れた時にはその姿を現すこともあると言われる。

海岸線のすぐ南から丘陵地帯となっており、国土の大半はそのさらに上にできたなだらかな台地に乗っている。その地勢上海岸線には天然の良港がいくつも存在し、海岸線沿いの流通と漁業を支えている。


(UUOとしては北の大洋の北には魔大陸があってアレクサンダーで何度も攻略に出かけていたけれど、それは口に出さない方が良さそうよね。丘陵地帯に出没する山賊は序盤の良い金稼ぎ相手だったわね。)


東はエリー河を超えてしばらく行くと南北に走る山脈があり人の侵入を阻んでいる。白き峰(ホワイトレンジ)と呼ばれるこの山脈には神が顕現するといわれ、聖地と考えられている。その向こうに広がる森林地帯へ行くには北側から回り込むしかない。この森林地帯は灰色樹グレイオークが多く生えていることからか灰色森グレイバルトと呼ばれている。さらにその東には魔の(デアボリカ)山脈と呼ばれる山々がそびえ、魔物が住み着いているとされる。灰色森(グレイバルト)は名目上全域がゲオルグ王国領となっているが、人が住んでいるのはその北側だけで、南側には森の魔獣が住むと言われている。


(魔の峰にいくつかダンジョンの入り口があるけれど峰そのものに住む者はいなかったわ。ただ魔の峰の向こうは魔族の住む魔王国となっていて、通常の手段ではそこへ向かう方法はないはず。ダンジョンの一つにある魔法門を通してだけ行けるのよね。灰色森の南側にすむ魔獣はアレクサンダーにとってそれほど手ごわい敵ではなかったけれど、その先は知恵ある獣達の住む獣王国へと繋がっていて、そこの王獣王はとてつもない強さだったことを覚えているわ。)


南はなだらかに高さを増した後東西に走る竜峰(ドラゴンズピーク)山脈に至る。この山脈の豊富な鉱脈資源を求めていくつもの鉱山町が点在する。その最大の町ゲオルギアは別名千穴都市とも呼ばれ、その付近一帯には多数の鉱山の入り口がある。山脈の中心にはドワーフの地下王国があり、ゲオルギアの周りにある鉱山のどれかがそこに繋がっていると言われている。現在はドワーフ王国との交流は立たれており、交流があったとされる伝説を残すのみとなっている。ゲオルギアにはいまだ幾人かのドワーフが暮らしているが、その口は堅く彼らの王国について聞き出すことができた者はいない。竜峰(ドラゴンズピーク)山脈の南にはブリュンベルク王国があり、そのさらに南には聖教会の総本山があるサヴィーナ聖国がある。いずれも友好国だがブリュンベルク王国とは隣接していることもあり多少の衝突もある。


(ドワーフ王国もけっこう華麗だったわよね。竜峰(ドラゴンズピーク)に棲む竜を退治するクエストを受けるためにドワーフ王に会いに行ったんだったっけ。ブリュンベルクはたいしたことない。サヴィーナはさすがに総本山だけあって荘厳な感じだったわね。聖騎士の称号をえるための一連のクエストをこなすために何度も法王に会いに行ったっけ。)


西はリーン河を挟んで広い草原地帯があり遊牧民が暮らしている。草原の西の国境を超えるとアーデントの森がありその先は隣国ランスラント王国になる。アーデントの森には光の妖精(エルフ)が住まうとされ、不可侵の中立地帯とされている。このためランスラントへ行くにはアーデントの森を避けて北周りか南回りで行く必要がある。ランスラントは現在は落ち着いているが何度も戦火を交えたライバル国である。父が戦死したというのもランスラントとの先の大戦であり、双方に多大な被害を出して痛み分けで終わっている。


(エルフの王国も何度も訪れたわね。エルフ王から受けるクエストで魔弓と魔剣をもらったはずね。UUOではランスラントとゲオルグの間に戦争はなかったからそれについてよくは良く判らないわ。ランスラントはその北と南に魔族の国をかかえていて、それに対処するだけで精一杯という設定だった。ギルドの仲間(ギルメン)たちの中にはランスラント所属の人もいたし、アレクサンダーも何度も訪れたわよね。なんで戦争なんて起こったんだろう。)


「こんな感じね。合ってる?」

「よろしゅうございます。」


地勢に関してはUUOの知識をそのまま当てはめて大丈夫なようだ。エルフの国やドワーフの国にもいつか行ってみたいな。


「次は制度についてね。」


ゲオルグ王国は封建制度で成り立っている王国であり、国王の庇護の下、貴族たちがその領地を治めている。貴族には6つの爵位が存在する。


公爵(ヘルツォーク)は王族に与えられる爵位と考えられている。王太子には伝統的にゲオルギア公爵位が与えられる。王国の南端竜峰(ドラゴンズピーク)主峰の麓にある王家の発祥の地でもある鉱業都市ゲオルギアの名を冠しているが、ゲオルギア自体は国王直轄地でありこの公爵位に領地は付属しない。それ以外に現在3つの公爵家が存在し、その領地は比較的小さいが交通の要衝に存在している。王都から北東にある交易都市ルヴァンを抑えるルヴァン公、王都から東へ進みリーン河を渡った場所にある草原都市ステッパンを抑えるステッパン公。王都と鉱山都市ゲオルギアの中間に位置し最大の湖マレーン湖の畔に佇む工業都市マレーナを抑えるマレーナ公の3家である。王族で国内の人や物の流れを完全に抑えていると言える。もしも王家が断絶した場合にはいずれかの公爵が王位を継ぐことになっている。それ以外に過去に王家から分家した領地を持たない公爵家がいくつかあり、彼らは王位継承権を持たない。領地を持たない代わりに王家より年金が与えられていると聞いている。将軍や大臣など国の要職についていることも多い。


侯爵(マルケス)は王国建国に功績のあった7人の領主とその後継者が所有している。その領地はいずれも大きく、領主は絶大な権力を持っている。その7家は宮宰伯(プファルツグラーフ)辺境伯(マルクトグラーフ)巫女伯(シャマングラーフ)学塔伯(タルムグラーフ)聖教伯(チャーチグラーフ)河川伯(リーングラーフ)海賊王(バイキンゲーニッヒ)とも呼びならわされている。王家の継承で問題が発生した場合7侯爵家の会議で継承者を決める習わしとなっており、選定侯とも呼ばれている。その際には彼ら自身が新たな王となることは許されていない。それ以外に外国で侯爵・公爵位にある貴族がゲオルグ王国に亡命した場合、領地を持たない名目上の侯爵位が与えられることがある。継承も許されるため亡命者の子孫で現在も侯爵を名乗る者が数名いるという話だが、会ったことはない。


宮宰伯(プファルツグラーフ)は王都ツーリンとその衛星都市を含む一帯を領有する。王の執事として王宮に住み、事実上の王国の不動のNo.2としての地位を確定している。有事には近衛騎士筆頭として近衛騎士団を率いることになる。当代の宮宰伯(プファルツグラーフ)バーソロミューは王宮の管理者である責務上(エリザベート)のことも知っておりなにくれとなく世話をしてくれた。優しい好々爺然とした容姿だが、相手によっては冷徹にもなれ、その有能さを疑う者はいない。


(王宮では爺やと呼ばせてもらっていた。本当のおじいちゃんのようにやさしくしてくれていた。また会えると良いな。)


辺境伯(マルクトグラーフ)は灰色森奥地や魔の(デアボリカ)山脈から襲い来る魔物たちを抑えるため、最大の領地と最大の軍備の所有が認められている。その本拠地は灰色森北辺に置かれた領都グレイベルクであり、北の港町ノルドハーゲンを通じて王国本土と繋がっている。灰色森の北部にいくつか築かれた城塞都市を相互運用し、その戦力は日々の魔物との闘いにより練度も高い。有事の際には辺境伯(マルクトグラーフ)が大元帥となりこれらの戦力の主力を王国中軍として指揮する。その立地上辺境伯が魔物に襲われて殺されることもあり、先々代の辺境伯はその継承予定者ともども魔物に殺されている。その後父が辺境伯を継ぎ、その活躍により灰色森はしばしの安定を得ている。父の死後その安定はまだ破られておらず、灰色森騎士団の副団長であったマンフレート伯ベルナルドが王の代官として灰色森を治めている。


(安定がまだ破られていないってことは破れる可能性があるってことか。怖いなぁ。)

(戦争が起きたら私が大元帥?冗談じゃないわね。私に何ができるっていうのよ。戦争が起こらないようにしないとね。)

(そのためにも騎士団の掌握は大事よねぇ。)

「代官をしている副団長が話の判る人なら良いのだけれど。」


考えていたことが思わず口をついてしまったようだ。慌てて口をつぐむ。


「大丈夫だと思われます。ベルナルド様は謹厳実直で曲がったことが嫌いだと伺っています。」

「ただ女嫌いとの噂があり少し心配です。結婚して御子様もいらっしゃいますので根も葉もない噂とは思いますが。」


(女嫌いで謹厳実直?どういうことだろう。まぁ会ってみてからか。)


巫女伯(シャマングラーフ)は王国東方にある白き峰(ホワイトレンジ)にある聖地アヴァタリアを中心とした領域を領有する。聖地(アヴァタリア)のオラクル神殿では12歳から40歳の未婚の女性のみからなる巫女団が存在し、その長である巫女姫が巫女伯(シャマングラーフ)である。巫女伯(シャマングラーフ)は結婚を決めるか40歳となると次代の巫女伯(シャマングラーフ)を指名して引退する習わしとなっており、世襲ではない。当代は14年前に代替わりした巫女姫クリスタニアが務めている。巫女姫は引退時王族かいずれかの貴族に嫁ぐことも珍しくはないそうだが先代巫女姫は結婚せずに王宮にて王の相談役を務めていると聞いている。


「結婚はされておりますが、すぐに先立たれてしまいまして」


ミランダが補足する。


母上(モーリー)様ですよ」


ライザがとしれっと恐ろしいことを告げる。しばらく言葉が出なかった。


学塔伯(タルムグラーフ)は王国の南東部白き峰(ホワイトレンジ)竜峰(ドラゴンズピーク)山脈の交わる場所にあるパルナ山のふもとを領地としている。パルナ山の中腹には精霊の塔と呼ばれる塔があり、そこでは英知の精霊と交流できるとされている。塔の地上階部分は図書館となっており、英知の精霊との交流で得られた知識が保管されていると言われている。パルナ山の麓の町パルナスは町全体が英知を求める学者が集まる学園となっており、その教授会の互選で選ばれる学園長が学塔伯(タルムグラーフ)として付近一帯を支配する。英知の精霊から得られた知識の中には魔法の知識も含まれており、パルナス魔法騎士団は戦闘魔法の使い手から構成されている。


(魔法かぁ、私にも使えるかなぁ。キャラクター作成時には聖術と魔法を両方使えるキャラを想定していたんだけれど、エリザベートも学んではいなんだよな。このままだとただの無能な女の子だし、欲しいよなぁ。)


聖教伯(チャーチグラーフ)は王国の南西部、ブリュンベルク王国へ至る街道とランスラントへ至る街道の分岐点にある都市ラント及びその一帯を支配する。ラントには聖教会の大司教座教会があり、その大司教が聖教伯(チャーチグラーフ)を兼ねる。世襲はせず、聖教伯(チャーチグラーフ)が亡くなると聖教会が新たな大司教を任命する。ゲオルグ王国出身者が任命されることが多いが、まれにそうでない場合もある。現在の聖教伯(チャーチグラーフ)パウロスはブリュンベルク王国出身だが穏健派で知られている。高齢で代替わりが近いのではないかと噂されており、後継者が誰になるかがラント近辺の目下の話題の中心だそうである。その軍備は聖騎士や僧兵からなり、侮れない強さを秘めている。有事の際には聖騎士団が王国軍の左軍を務める。


(たしか爺のくせにいけ好かないしゃべり方をするNPCだったはず。クエストでも裏で手をまわしてくるのを妨害する話が多かったはず。さっさと代替わりしてもらった方が世の中のためなんじゃないかな?)


「聖教伯は私のことをどう思っているかしらね。」

「国のちょうど反対側ですし、同じ聖教会の守護者として先代様との仲は悪くなかったと聞いています。」

「贈り物のやり取りを欠かさなかったと伺っております。」


(いったいどんなものを贈りあっていたのやら。調べてみるまでは判らないけれど、警戒が必要かもしれないわね。)


河川伯(リーングラーフ)は王国の北東部、リーン河の河口付近に広がる交易都市リーンブレスを中心とした一帯を支配する。ランスラントへ至る街道の中継地点でもあり、陸路・海路・河川の3つの流通を約する要衝として幾度となくランスラントとの衝突が繰り返されてきた歴史がある。その権益を守るための常備軍は精強であり、有事の際にはこの軍の主力が王国軍の右軍となる。当代の河川伯(リーングラーフ)の人となりは判らない。


「あまり王宮に来られることはないのです。大戦以降ランスラントとの仲が険悪ですので動くに動けない、と伺っています。」

「噂によりますともともと美剣士でいらっしゃったのが、お年を召して貫禄がついて美丈夫と呼ぶに相応しいお方となった、とのことです。」


海賊王(バイキンゲーニッヒ)は王国北部海岸沿いの丘陵地帯とそこに点在する港湾都市群を領有する。最大の都市カレルモの沖合に浮かぶ城塞島カースラントが彼の居城となっている。王国に属する前は独自の王国として認められており、今でも侯爵位とは別にカースラント王を名乗る場合もある。その主力は海軍となる。当代の海賊王(バイキンゲーニッヒ)の人となりは判らない。


「独立独歩の気風が強く、王宮にいらっしゃったことはありません。授爵も独自に行っており、それを認められていると聞いていますわ。」

「噂では豪放磊落な海の男、という雰囲気と聞いています。」


(うーん、暑苦しい男は趣味じゃないんけどな。)


伯爵(グラーフ)位にはラントと呼ばれる領地を持つ方伯(ラントグラーフ)と持たないグラーフがある。ラントは王国成立以前の群雄割拠の時代に成立した領有権に基づいており、最低ラント1つの領有権を持つ領主を方伯(ラントグラーフ)と呼ぶ。中には5つものラントを領有する方伯(ラントグラーフ)もいるが、それでもその領地は侯爵領の4分の一にも満たない。地方領主としていずれかの侯爵家に属するものもいるが、ほとんどの方伯(ラントグラーフ)は王家に直接臣従している。ラントを持たない(グラーフ)は王家や侯爵家に仕える騎士・代官・官僚として王国直轄領や侯爵領で暮らしている。


子爵(ブルクグラーフ)は領土を持つ方伯(ラントグラーフ)以上の貴族から一地方を任されるような地方貴族に与えられる。高級貴族の子弟に与えられる場合もある。(グラーフ)同様に王家や侯爵家に仕える騎士・代官・官僚が持つこともある。


男爵(フライエ)は王家や侯爵家に仕える騎士・代官・官僚に与えられる。また子爵以上の貴族の子弟に与えられる場合もある。


騎士爵(ナイト)は男爵以上の貴族の子弟に与えられる。また王家や侯爵家に仕える騎士・代官・官僚、功績のあった平民に与えられる場合もある。騎士爵(ナイト)は他の爵位と異なり、子供に継承することができない。


(伯爵以下は数も多いけど、全体をまとめてみることはできないわよね。あとで紳士録を手に入れてどんな人がどこに住んでどんなことをしているか調べないとだめね。まずは辺境伯領で暮らす貴族達からか~。面倒くさそう。)


エリザベートは淡々と持っている王国に関する知識を披露していく。頭の中では公開できない知識と将来に対する予測とを検討することも忘れない。そのタイミングでは無口になるが、ライザとミランダがその誤りを正し、不足分を補うのにちょうどいいタイミングであり、会話が不自然に途切れることは運よく避けられていた。


「次は歴史ね。」


ゲオルグ王国成立以前、この地には名前も失われたある巨大帝国が存在していた。その領域は現在のランスラント・ゲオルグ・ブリュンベルク・サヴィーナ全てを合わせたよりも広かった。仮に失われた帝国(ロストカイゼル)と呼ばれるこの帝国の正式な名前書きされた文献を見つけ出せたものはいない。その帝国の無能なる皇帝達は土地の領有権を乱発し、帝国内部には何百何千という小国が成立した。その小国同士が相互に憎しみを募らせ始めたころ、帝国は崩壊した。帝国の庇護を失った小国は同士は憎みあい、争いあい、戦国時代へ突入した。


戦国の世では領主は強くなければ生き残ることができない。自分の国が弱いと感じた領主はより強力な国の庇護を求め、その土地を差し出して保身を図る。そうして現在のゲオルグ王国に相当する領域には7つの比較的大規模な国が登場することとなった。竜峰山脈に眠る鉱物資源とそ個から生まれる工業技術に立脚したゲオルギア領、知恵の塔から得られる魔法の知識を持つパルナス領、聖教会大司教座の名のもとに纏まったラント領、国土の中央という立地を生かしたツーリン領、聖地の威光のもとに集まったアヴァタリア領、草原に暮らす遊牧民のもたらす騎馬戦力を背景にしたステッパン領、海に暮らす海賊たちによる海軍力を背景にしたカースラント領の7つとなる。


それ以外の小国はその間で揺れ動き、戦乱はさらに拡大することが予想された。カースラントとゲオルギアの領主が王を名乗り、それにより戦火の拡大が予測されたとき、西にランスラント王国が成立し、ほぼ同時に西方からの魔物たちの侵略が増加した。このままでは挟み撃ちになり全滅する恐れがあると考えた7国の領主たちは会合を持ち、ゲオルギアの領主を王とし、それ以外の領主を現状のまま認める封建国家として統一行動をとることにした。こうして王系と6侯爵によるゲオルグ王国が成立した。


その後ランスラントとの戦争に勝利して得たリーン河河口付近に河川伯領が、魔物を撃退して得た灰色森北部に辺境伯領が置かれ侯爵領が8つになったころにステッパン侯による反乱が発生する。戦乱を嫌ったエルフとの協力に成功したおかげもあり反乱は大きくなる前に鎮圧された。ステッパン侯は滅ぼされ、侯爵領の数は7となって現在に至る。ステッパン領は細かく分割され、反乱鎮圧に功のあった者達に領地(ラント)として与えられた。


その後伯爵間の争いに起因する小規模な内戦はないわけではなかったが、おおむねゲオルグ国内は平和に推移する。ランスラントとの間には数十年ごとに戦端が開かれていたが河川伯の力だけで抑え込める小競り合いに過ぎなかった。魔物の侵攻もしばらくは鳴りを潜め、辺境伯の軍だけで対処可能な小規模の侵攻が散発的に発生するのみであった。


30年ほど前に平和に緩んだ辺境伯領を大規模な魔族の侵攻が襲う。彼らはまず視察中の辺境伯とその家族を暗殺し、その後いくつかの要塞都市を蹂躙した。王国はなんとか国中の戦力をかき集め辺境伯領に送り込み、多大な犠牲を出しながらも失地を回復し、侵攻の撃退に成功する。その際に功のあった聖騎士アレクサンダー・イングレアスに辺境伯の位が授けられる。


15年ほど前に今度はラインラント軍が大軍を擁して河川伯領を攻撃した。王国は再度全軍を集結してこの難局に当たる。双方に多大な犠牲をだして痛み分けに終わったこの戦いはまだ名称が定まっておらず「先の大戦」とのみ呼ばれることが多い。その終結直前河川伯や辺境伯を含む何人かの英雄たちが武器や鎧などの武具を残したまま行方不明になっている。その後の調査でラインラント軍側にも同様に英雄クラスの行方不明者が多数出ており、国中の懸命の探索にかかわらずその行くへは杳として知れない。魔族の介入など何らかの魔術的手段で殺されたものと考えられている。


「これで合っている?」


エリザベートが習っていた歴史の勉強を思い出しながらこの国の歴史を紡ぐ。明日香はUUOの背景設定などあまり気にしないプレイだったから、正直あまり覚えてはいない。歴史好きの友人(shigeさん)は「設定間の整合性のとり方が甘い!」などと憤慨しながらその設定の荒探しをしていたが、そういうプレイもありなんだな、程度でスルーしていた。


「『英雄たちの消失』の際、河川伯様はご子息がご健在でしたのですぐに継承が行われたそうですが、辺境伯様はその時点でお子様がおらず奥様が妊娠中であったため、忘れ形見が大人と見做される年齢(男は15歳・女は12歳)になるまで奥様とお子様を王宮にて保護し、その年をもってその位を継ぐことが決められたそうです。『消失』の原因が不明でしたので、暗殺などの可能性を惧れて、奥様と忘れ形見の存在は厳に秘匿することも同時に決まったそうです。」

「秘匿のために『継承適格者が存在しないため、辺境伯位は継承適格者が見つかるまで空位とする。それまで王国が代官を通じて管理する。』という公式の発表が行われた際には、先の大戦でそれなりの軍功を上げた若手騎士を中心に不満の声が大きかったそうです。ただ辺境伯位に野心を抱いた者達が相互に牽制しあったために大事にはなっていませんでした。先日の舞踏会でお嬢様の存在が公表されたことで、それらの不満の声も沈静化したと思われます。」

「実は王様に直接文句を言いに来た若手騎士も結構いたそうです。国王陛下はそういった方のうち信頼できそうな方にはお嬢様の存在を告げ、野心を諦めるように諭されたそうです。そういった方の中にはその後も野心があるかのように振舞い、他の野心家を牽制してくれた方もいらっしゃるそうです。」

「初めて知りました。国王陛下と当時の決定に携わった方々、そして野心を諦めてくださった方々に感謝をしなければいけませんね。」

「陛下は先代辺境伯様を含め『消失』した英雄の方々を敬愛なさっておいででしたから、それを当然と考えていらっしゃるようでした。」

「陛下が諭されたという騎士の方々がどなたなのか教えてもらうことはできるかしら?何らかの方法で感謝を伝えたいわね。」

「グレイベルクに付いたら王宮のメイドたちを通して教えてもらえないか聞いてみましょう。」

「おねがいね。」


このようなやり取りをしながら私はその知識を正確なものとしていく。しかしそれはあくまで基本的な知識であり、現在の状態を明確にできたというにはまだまだ情報不足であると思われた。


彼女たちを乗せた馬車は東へ向かって走っている。所々に地震による被害がみられるが、王国中心部であるこの一帯なら被害もすぐに対応されるだろう。治安も行き届ているようで、魔物が出るような心配はない。不届き者が山賊となって街道を行く商人を襲うことがないわけではないらしいが、護衛騎士24騎を連れ辺境伯の旗を掲げた馬車を襲う馬鹿な山賊はさすがにいないだろう。


このまま東へ向かいエリー河を超えればすぐに聖地アヴァタリアに着く。同じ格の侯爵とはいえ、聖地の守護者でもある巫女伯を無視して素通りするわけにはいかない。お母様(モーリー)が先代巫女伯だったとすると当代巫女伯と面識がある可能性も高く、挨拶をしないわけにはいかないでしょう。


(格式ばった世界はきらいなんだけれどな。)

「巫女伯へのご挨拶にはどれぐらい待たされるのかしら。」

「公爵家か他の侯爵家の公式訪問でもない限りお嬢様が待たされることなどありません。そういった予定は伺っておりません。」

「いえ、向こうにも都合があるでしょうから。」

「お嬢様はお優しいのですね。でも『辺境伯を待たせた』というそのあとどういう影響があるか判らない状態は巫女伯様でもお避けになるでしょう。」

「先客がどんな方でも後回しにされた名目が『辺境伯を優先した』ということであれば文句をつけはしないでしょうし。」

「そういうものかしら。」

「そういうものでございます。」

「本日はアヴァタリアに宿を取ってございます。明日巫女伯様へご挨拶へ伺う予定で、すでに連絡は済ませてあります。」

「それなら問題はないわね。」

「はい。ご挨拶にどの程度時間がとられるか判らないため、念のためにもう一泊する可能性があることを宿には伝えてあります。」

(これは任せておけば良さそうね。)


メイドたちの先手を取っていろいろな準備を済ませてあるようだった。任せたことを伝えるために鷹揚にうなずく。


(鷹揚にうなずくってこれでいいのかな?単に頷いただけとどう違うんだろう)


アヴァタリアを抜けるた後は進路を北に取り交易都市ルヴァンへ至る。街道を馬車で駆け抜ける方法と船を借りてエリー河を下る方法がある。船の方が早いが格式的にはどちらが正しいんだろう。宿に着いたら聞いてみよう。エリー川河口に位置するルヴァンは国王の叔父ルヴァン公ウイリアムの領地であり、辺境伯領・巫女伯領・海賊王領の3侯領の中間に位置し、海路、陸路、河川の3つの流通路を約する交通の要衝である。ここでもう一泊し、ルヴァン公への挨拶をする必要がある。


ルヴァンより北東は辺境伯領である。私の領地、私の領民たち。どのような人々がどのように暮らしているのだろう。思いははるか先へと逸るがその身はまだ馬車に揺られて静かに進んでいく。まだ見ぬ未来へ向かって。


整合性が合わない設定を少し書き換えて整合性を保つようにしてみました。

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