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第3キャラの領地経営  作者: 寿 佳実
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第15章 - 開城

ハーゼシュタットはグレイベルクより古く、ノルドハーゲンから南に進出した人間の防衛拠点として灰色森(グレイバルト)の北に広がる草原の中央の小高い丘に築かれた城がその始まりとされている。その草原に野兎が多数住み着いており、その巣穴が多かったことからいつの間にかこの城は野兎穴城(ハーゼロッホブルク)と呼ばれるようになり、その周りに人が住み始めて村ができるといつのまにか(ロッホ)が落ちて野兎村(ハーゼドルフ)と呼ばれるようになった。人間がより南方へ進出し、グレイバルトの森に入り込んでグレイベルクを建設し、グレイベルク-ノルドハーゲン間にグレイス川の横を走るように街道が建設された時、その中間地点に一番近い村ということで街道と村との間に道路が建設され、荷馬車の中継地点としてにぎわうようになった。村は発展し町と呼べる規模になった時、古城を城壁の一部として組み込んだ、それなりにしっかりした城壁が築かれた。この時からこの町は野兎町(ハーゼシュタット)と呼ばれるようになって現在に至る。城壁はほぼ8の字に近く、南半分が古城であり改築されて領主子爵の居城となっている。北半分が街並みとなっており、街道へ出る道路がちょうどその連結部に入るような構造になっている。いわゆるモット・アンド・ベイリーと言われる形式になっている。


ハーゼシュタット攻撃軍のうちノルドハーゲン騎士団が担当するのは北側、市街部の城壁となっているが、強い攻撃はしないように指示してあった。グレイベルク騎士団が攻める南半分と異なり、敵の攻撃もそれほど強くはないようで割とのんびりと包囲していると連絡兵が伝えてきていた。城兵は城を防御するのに手いっぱいで町側の防御にあまり力を入れていないのが明らかに見て取れた。その結果北側の町部分は割と簡単に開城した。その背景には二人のハーゼシュタット住民の働きがあった。グレイバルト騎士団の魔術兵レオナルドがクラン冠鷲の魔法使いアーデルハイドと遠話で話すことに成功し、夫ザインの事と共にハーゼシュタットが置かれている現在の状況を伝えた。ザインの心配をよそに子爵の行状に激怒したアーデルハイドは住民を説得すべく、まず父親を説得した。彼女はそこそこ大きな商家の娘であり、娘を溺愛している父親は娘の発言を信じ行動に移した。彼は町で重鎮と見做されている商人を中心に説得に走り回り、商人を中心に反子爵派の住民が増えていった。ほぼ同じ時期に街のあちこちに貼られていた辺境伯を中傷する張り紙(ポスター)が剥がされ、それに代わるように中傷に反論し辺境伯に協力し反子爵で立ち上がるよう主張した張り紙が街角に見受けられるようになった。街道で小麦を略奪していた部隊の隊長が心を入れ替え、部下を使って今まで張ったポスターを回収し、反論ポスターと入れ替えたようだ。どちらがより効果的だったのかは判らないが、町の住民はほぼ反子爵でまとまり、城兵に対する協力拒否(サボタージュ)に始まるさまざまなレジスタンス活動が行われた。そして最終的に住民の有志によって城門が開かれた。エリザベートはその報に接すると念のためにグリューストに略奪禁止、町の住民への暴行禁止、投降した兵士への暴行禁止を徹底するよう通知し、城兵が町へ入れないように城と町とをつなぐ門を閉鎖・攻撃するよう指示した。町の住民と進駐したノルドハーゲン騎士団との関係は友好的で、幸いなことに通知の前段は杞憂に終わった。


残るは南側にある子爵の居城であるが、すでにドワーフ工兵による地下通路がハーゼシュタット城の地下に到達している。そこにブラウンバルト騎士団から選りすぐった決死隊が待機しており、その上でドワーフ工兵が上へ上へと掘り進めている。この掘削がハーゼロッホ城の地下室へ、地下室がなければ1階の床まで到達できれば、決死隊が突入して城を内部から制圧する予定だ。小人(ドワーフ)たちとの交渉を終えて戦陣の天幕(テント)に戻ってきたエリザベートは城攻めの喧騒を遠くに聞きながら天幕(テント)の横に設えられたテラスから城壁を眺めている。ときおりブォンという投石器(マンゴネル)が城壁に向かって巨石を投げる音が聞こえる。それに続いてドォンという巨石が城壁にあたる音が聞こえる。本当はもっと近くへ行って戦場の空気を肌で感じてみたいとも思うのだが「指揮は私に任せて高みの見物を決め込んでください」と騎士団長(ベルナルド)が許してくれなかった。「流れ矢にでもあたってまた寝込まれたり、穴に落ちてお姿が見えなくなったりすると士気に関わります。」と言われるとエリザベートは反論ができなかった。


天幕(テント)の前の広場では投石器(マンゴネル)より強力な平衡錘投石機(トレバシェット)巨大弩(バリスタ)の組み立てが進んでいる。攻城櫓(ベルフリー)の姿も見える。UUO(ゲーム)での攻城イベントではアレクサンダーを操作してどの兵器も何度か使ったことがあることを懐かしく思い出した。こうしてみるとどの攻城兵器も巨大である。目の前ではそれらを構築するにも動かすにも数十人の兵士を動員して行っているのが見える。いかにゲームとはいえよくもあんなものを一人で操作していたものだ思う。明日にはこれらも戦線に投入されるのだろう。ハーゼシュタットがこれらの攻城兵器を用いた攻略に完全に対処できるとは思えない。明日には地下からの入城が早いか、地上からの入城が早いかで早晩陥落する状況になると思われた。


そうなるとなおのことハーゼシュタット子爵がこの状況でも動いていないのが気になる。ドワーフ達が辺境伯側についたということは伝わっていないと思われるが、ドワーフの地下通路が完成してドワーフ村からの援軍を期待しているだけとも思えない。それとは別に何か逆転の方法があるのだろうか。一番ありそうに思ったのが転移魔法で私の所に決死隊を送り込んで暗殺するという方法であったが、転移魔法を使える魔法使いは限られておりハーゼシュタットにそのような魔法使いはいない。ハーゼシュタットにいる魔法使いは治療師や呪い師ぐらいであり、それらが使う魔法もグレイバルト騎士団の魔術兵が設置した城を丸ごと取り囲むような軍用魔法陣によりかなり制限されているはずとのことだった。


いくら考えても判らない物は判らないのだから考えていてもしょうがない。エリザベートがそう考え始めたころ、お付きの近衛兵が来客を告げた。戦場が見える位置に設置された簡易テーブルにそれなりに立派に見える簡易椅子を設置し、戦場を眺めながら思索ができるようにしたこの場所に客を入れてよい物か少し考えたのち、それを許可した。近衛兵に導かれて客が入ってくる。小柄な黒衣の老人がやはり小柄な黒衣の女性を連れて入ってくる。黒衣といっても喪服や礼服ではなく立派な生地を使用したスーツという感じであり、襟や腰にある色彩鮮やかな刺繍が華やかさをもたらしていた。


「ハーゼシュタット住民代表、マルティン・ゼーマインおよびその娘です。お目通りをお許しいただき、心より感謝いたします。」


黒衣の老人はそう口上を述べると深々と礼をする。


「ハーゼシュタットの住民より、辺境伯様に寛大な処置を心よりお願いいたします。」

「エリザベート様、私よりもお願いいたします。」


マルティンと一緒に来た娘、かつて一緒に冒険したことのある黒衣の魔女アーデルハイドが一緒に頭を下げる。


「頭を上げて。ハーゼシュタット住民は反逆に手を貸していたわけではないのでしょう?でしたら謝る必要はありません。私も私の軍も町の住民にその罪を押し付けて罰しようなどとは思っていません。それよりハーゼシュタット子爵の反逆を早く鎮圧するために力を貸して。」


エリザベートはそういうと二人の手を取って持ち上げる。


「町の早期開城に尽力されたと聞いています。町にも軍にも無駄な被害が出る前に開城してくれて本当に良かった。」


エリザベートの言葉に二人の顔が明るくなる。最悪殺される覚悟もしてきただけにエリザベートが苛烈なことを言わなかったことに心の底から喜んだ。


その受け答えの間エリザベートはマルティンとアーデルハイドに変な魔法が掛けられていないか魔力への感覚で探っていた。しかし魔法が掛けられている様子を感じ取ることはできなかった。本人も知らないうちに自爆テロリストにさせられていると言ったことはなさそうで安心した。魔法は使われていないとすると次に怖いのは催眠術による暗示となるが、この世界にも催眠術ってあるのだろうか。あとで研究してみる必要があるわね。エリザベートはそんなことを考えながら笑顔で二人に対応している。


それにしても、と近衛兵が出してくれた紅茶を口に運びながら考える。昔読んだ小説では過去を舞台にした歴史小説であれ、未来を舞台にしたSFであれ、主人公は有能な敵と無能な味方との間で苦労するのが常であった。最近のライトノベルでは有能な味方に助けられる者が多くなった気もするが、だいたい敵は有能であった。それに比べて私はどうだろう。味方が優秀で有能なのは本当に助かる。


「敵が無能で本当に助かるわ。」


思わず考えてしまったことが口に出てしまったようだ。


「無能、ですか?」


丁度そこに茶菓子を運んできたフレデリカが聞きとがめる。


「そうよ。もし籠城しているのが(アレクサンダー)だったら、この状況を放っておくことはしないでしょう。魔術か火矢かそれとも夜襲かで攻城兵器を焼くか、敵首脳部の防御の薄いところに戦力を一点集中して指揮系統をつぶすか、どちらかを行わないと先がないのは見えているもの。」

「それは先代(アレクサンダー)様がいらっしゃるならできるでしょうけれど。」

「そういった戦力がないのなら町の代表の従者として工作員を送り込むわね。敵トップが無防備なら暗殺、それができなければ町の代表を暗殺して破壊工作をすれば町と包囲軍との連携を絶てるし、攻城兵器にも損害を出せるわ。」


エリザベートの発言にマルティンがぎょっと目を見張る。おそらく自分が連れてきた従者の中にそういったことをしでかしそうな者がいなかった考えているのであろう。近衛兵を使って事前に従者を含めた来客に対するチェックを行っており、そういう者がいないことは確認してある。セキュリティの穴は人間関係から開くことをSE(システムエンジニア)として叩き込まれていた明日香にとっては当然のようにチェックすべき項目であるが、この世界ではそれほど重要視されていなかった。今後はそういった点に気づく人材の育成も必要だろうか。


「しかしそんなことをしている様子もなし、ただただ籠城して時間を浪費しているだけにしか見えないわね。彼らはいったい何をやっているのかしら?」

「本当にただの無能ならよいのですけれど、何か画策していないか心配ではありますね。」


フレデリカはエリザベートの言わんとしている所を理解したようだ。途端に難しい顔になる。前線で頑張っているグリューストとベルナルドといい、有能な部下に恵まれたことは本当に助かる。


「今夜がやまでしょうか。警備を厳重にしておきます。また(グリュースト)とベルナルド様にも同じ旨警告しておきます。」

「判ってるでしょう。あの二人なら。」

「御意。お(ひい)様」


----------------


同じ頃、ハーゼシュタット城の一角で一人の男と一人の女が言い争っていた。


「籠城をすればすべてうまくいくと言ってたじゃないか、どういうことだ?」

「ええ、うまくいっているわよ。」

「しかし見ろ、城の周りには辺境伯軍の攻城兵器がいくつも準備を始めているじゃないか。明日にはあれらが一斉に城に向かって攻撃を開始するだろう。今いる兵士じゃ一日も持たないぞ。ドワーフも公爵も間に合わない。」

「ええ、それなのに何もしないあなたを見て猜疑心を膨らませているでしょうね。」

「それが目的か?」

「そうよ、あの娘の心に猜疑という毒を一滴落とすの。あの娘が気が付かないうちにそれがあの娘を蝕んでいくの、誰も信じられなくなるまで。」

「それにはどれくらいかかるというのだ。」

「そうねぇ、10年、20年、ひょっとしたらもっとかかるかしら。」

「冗談じゃない。明日にはこの城が落ちるんだぞ。儂らはどうなる?」

「どうなる?って、判ってるでしょ。」

「お、お前は儂に死ねというのか。」

「あら、今頃気づいたの。」

「ゆ、許さん。お前が先に死ね!」


男は剣を抜くと女に向かって切りかかる。淡い緑のドレスを着ているだけで防具も武器も身につけていない女は切り捨てられて床に這いつくばるはずであった。しかし剣が通り過ぎるときに女の姿はゆらりと陽炎のようにゆがんだだけで何事もなかったかのように女はそこに立っている。


「無様ね。」


女の姿と自分が持つ剣とをなんども見直して何が起こったのかを理解しようと男は無駄な努力を続ける。それをあざ笑う女はそういうと妖艶に微笑んだ。


「一時でも夢を見られてよかったじゃない。せいぜい足搔いてちょうだい。楽しませてもらうわ。」


何が起こったのか理解できずに男は剣をむやみやたらと振り回す。しかしその剣が女に当たっても女はゆらりと陽炎のように揺らめくだけで、なにもおこらなかった。陽炎が近づくと消えてしまうように、やがて女の姿は初めからそこには何もなかったように消えてしまった。


「は、は、ははははは。」


男は笑った。笑うことしかできなかった。自分にはもう何をすることもできず、ただ破滅のみが待っているのだと理解してしまったが故に。暗い部屋の中には笑い声だけが響き続けていた。


----------------


「おはようございます。お(ひい)様」


目覚めるとフレデリカがそう言いながら朝食の準備を始める。外はまだ薄暗い。少し早めに起きてしまったようだ。なんだか外が少し騒がしい。


「何かあった?」

「みえみえの夜襲が3回ほど。いずれも貧弱なもので、何をしたかったのか判らない程度だったとのことです。」


その時外の喧騒が一段とおおきくなる。


「4回目、でしょうか。あの音からするとすぐ済むと思います。」


フレデリカがいうように喧騒はしばらくすると収まった。そして夜明け前特有の白々しい沈黙があたりを覆う。時折背後の森の中から鳥の鳴き声が聞こえ、沈黙に花を添える。あれは鬼雲雀だろうかそれとも黒鳶だろうか。


「失礼いたします。」


近衛兵の一人が天幕(テント)の中に入ってくる。たしかシンシアという名前の娘だったはず。


「ベルナルド様より伝令。4度目の夜襲を撃退。被害軽微。夜明けを待って攻撃を開始する、とのことです。」

「本当に、何がしたかったのかしら?」

「さあ?私にも判りません。」


フレデリカも容赦がない。シンシアは報告が終わると一礼して天幕(テント)を出ていく。


「夜襲してきた部隊の紋章(コートオブアームズ)は何だったか聞いてる?」

「盾や鎧はすべて黒く塗りつぶされており、判らなかったとのことです。」

「ならいいわ。」


守備隊の盾に描いてある紋章(コートオブアームズ)はハーゼシュタット子爵家の三牙兎ばかりでクレーテムーア男爵家の鬼亀竜、イービスロシュ男爵家の黒地に赤大鷲、シュトックドルフ男爵家の青地に黒の一本ペイルは見当たらない。ハーゼシュタット子爵が合流したはずの3男爵家の兵を温存しているということになる。エリザベートは兵を温存している理由を考えてみたが、思いつかなかった。


「いいわ。ベルナルドのお手並みを拝見しましょう。」


----------------


ハーゼシュタット城はあっけなく落ちた。攻城櫓が城壁にとりついたのと、ドワーフ工兵が城の地下室に到達したのがほぼ同時だった。外側からと内側からと同時に強襲されて城壁の防衛隊はすぐに瓦解した。目ざとい者はすぐに降伏して命を長らえることができたが、何が起こっているのか理解できなかった者や立場上降伏できなかった隊長達は強襲隊の刃の下で血を流し床に横たわることとなった。ベルナルドは自ら強襲隊の先頭に立ち、自ら大剣を振るいながら的確な現場指示を出し続けた。その勇戦の結果、昼前には城壁のすべての塔に灰色大樹の旗が上げられた。


城壁を占拠することに成功した襲撃隊は地下強襲隊の導きで城内へ入り、内部の掃討を共同して行うことになった。城内には使用人など非戦闘員もいたがすぐに降伏し、内部掃討を手伝ってくれる者すらいた。


間もなくシュトックドルフ男爵の立てこもる一室が見つかった。この太った醜い男は見つけられたことを悟った時点で戦うことなく降伏した。彼の連れた兵士達は戦うことなく武装解除された。


ほぼ同時期に別の隊がクレーテムーア男爵の立て籠もった一室と戦闘に入った。クレーテムーア男爵はシュトックドルフ男爵と異なり徹底抗戦を選択した。しかし立て籠もったのが経験豊富な老戦士に率いられた優秀な兵士であろうと、孤立し補給も交代もない状態では交代要員と補給が行き届いているうえに数で上回る相手に長く持ちこたえることなどできはしなかった。結果として立て籠もった男爵軍の半数以上が死に生き残った者も重症を負った。老男爵はその華麗な剣技を双方の兵士に披露したものの蓄積する疲労には勝つことができずに死者の数に数えらることとなった。


襲撃隊は城内にイービスロシュ男爵と彼の兵士を見出すことはできなかった。のちに3回目の夜襲がイービスロシュ男爵と彼の兵士によるものであると判明し、全員の死亡が確認された。


そして襲撃隊は最後にハーゼシュタット子爵がいるはずの部屋へと至った。扉は厚く鍵が掛けられており、中からは子爵によると思われる挑発するかのような笑い声が聞こえてきていた。ドワーフ工兵がその扉に大斧を打ち込み、蝶番と鍵を打ち壊して中へ入り込んだ時、中に見出されたのは中空を見つめ笑い続けている子爵の姿であった。襲撃隊兵士の問い掛けに一切答えることがなく笑い続けるその姿は不気味で恐ろしく感じられた、とある兵士は後に語っている。


----------------


「以上をもってハーゼシュタット城占領に成功したことを報告させていただきます。」


エリザベートの前にベルナルドが片膝をついた軍礼をしたまま経緯を報告する。いつものようにざっくばらんにやってくれていいのに、と思わないではないエリザベートではあったが、周りの兵士達への立場上畏まった対応をしているのだろうと推測した。しかしそうなるとこちらもそれに合わせて対応してあげないといけない。面倒くさいな、と心の中で呟いたのちエリザベートは口を開いた。


「大儀であった。そなたの大いなる軍功、誇らしく思います。褒賞についてはおって沙汰します。」

「ありがたき幸せ。」

「子爵があの状況で籠城を選んだ理由は何か判ったかしら?」

「投降した兵士の話だと、3つの支援があるとの判断だったらしいです。」

「3つ?」


籠城を選んだ理由を考えてみても見出すことはできなかったが、選んだ側にはそれなりに理由があったようだ。今後に影響するかもしれないので聞いておく必要があると思われた。


「一つはドワーフの村からの地下坑道からの支援もしくは脱出が近いうちにできるようになるだろう、という事でした。」

「それは知っていたわ。でも起こりえないけどね。」

「はい。それから兵士たちが『あの女』や『売女』などと呼んでいる謎の女が居り、出入りした形跡がないのに城に居たりいなかったりするそうです。その女を通じて『あの御方』と呼ばれる人物と交渉しており、『あの御方』が『公爵(ヘルツォーク)』を遣わして支援するという約束をとりつけてあるとのことです。」

「『公爵(ヘルツォーク)』ですか。現在グレイバルトに公爵位を持つ者はおりません。単なるニックネームとも思えませんね。至急グリューストに命じて防衛を計りなさい。」

「御意。」

「して、もう一つとは?」

「白き峰の竜から支援を受ける約束があった、とのことです。」

「竜?誇り高き竜があの痴れ者を助けると?」

「少なくとも子爵がそう言っているのを聞いた部下がおりました。」

「よい。ではそれには私が対処しましょう。フレデリカ、近衛の兵のうち山登りに耐えうるものは如何ほどいます?」

「山登りの出来ぬ兵などおりません。全員参加可能です。」

「全員だと多いわねぇ。半分はグレイベルクに戻って城の警備へ廻しなさい。残りを連れて今から山登りかしらね。選別しておいて。」

「畏まりまりました。」

「ベルナルド、通常業務を少し遅らせても構わないからグリューストの支援を。」

「御意。」

「フレデリカ、出発はいつできる?まずは軍馬車で白き峰の麓、マイネスホルンへ。」


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