第10章 - ゴブリン
多くの魔物は冬には活動をやめ、姿を現さない。その間どこで何をしているのか、知る者はいない。その代わりに冬にしか現れない魔物がいくつかいるが、比較的強いかわりに移動範囲が狭く、活動範囲に入らなければ攻撃してこないものが多い。例外的に一年中活動する魔物もいないわけではないが、そういった魔物も夏に比べれば冬は動きが鈍く、村里に襲い掛かってくることも少ない。老練なレンジャーを擁するクラン冠鷲を護衛としてつれているためそういった魔物はすべて避けて通れる可能性もあった。だが物事が思っていた通りすべてうまくいくことはまずない。
目的地の『回廊』と呼ばれる洞窟は最寄りの村であるタラスクマスから徒歩で3日程度かかる。ベテランの冒険者だけのパーティーならうまく調整すれば2日での到達も可能だろう。UUOでは実時間で1分もかからない行程ではあったが、小柄で体力もないエリザベートには3日でもかなりの負担に感じられ、頻繁に休憩がとられていた。3日目の朝に野営地をたたみ、最初の休憩を取ってそろそろ移動を再開しようか、という時にラルフが皆を制した。
「進行方向左手に少し行ったところにゴブリンが巣を作ってますね。」
ゴブリン…ファンタジーでは定番だ。亜人に分類されることもある小型で人型の魔物である。緑色や青色の肌をして5・6歳の子供ぐらいの身長を持ち、5・6歳の子供と同じぐらいの知能を持ち、RPGでは序盤に登場する弱い魔物の代表みたいに扱われることが多い。
「どうしてわかるの?」
「奴らは独特な臭いがします。強烈な臭いなので遠くからでもわかります。」
エリザベートの質問にラルフが答える。エリザベートは鼻を鳴らして臭いをかいでみるが、良く判らない。老練のレンジャーであるラルフだからこそ嗅ぎつけられたのだろう。
「ルートは少し行って右へ、か。移動中に後から襲撃されると厄介だな。先に潰しておくか。」
ゴドフリートが気軽に物騒なことを言う。
「ゴブリンって弱いんでしょう?皆さんなら襲撃されても撃退できるんじゃないの?」
「冒険者はゴブリンを弱いからと言って侮りません。奴らはそれなりに悪知恵が働きますし、単体が弱いとはいえ数が多いと攻められた時は危険です。多いほど見つかる前に分断して各個撃破した方が楽です。そうしましょう。」
ザインがエリザベートの質問に答える形でゴドフリートに賛成する。
「ゴブリンを侮るのは初心者、ゴブリンの怖さを知って初心者脱出、とも言います。」
「進行方向左手か…。五三穴かな。」
「なんですか、その五三穴てのは。」
「ここいら辺に多数ある洞窟の一つだ。ここからは一番近くてちょうど進行方向左手になる。古代の神殿跡の遺跡らしくてな、中は入り口通路を入ると5×3の形の大部屋がひとつとその右側に小さな部屋が5個、左側に小さな部屋が3個ある。浅くて神殿跡以外には特に何もない洞窟だ。なのでそういう名前で呼ばれている。」
「奴らが巣食うには手ごろだな。」
ザインの質問にゴドフリートが案内人としての仕事をする。
エリザベートが頭の中で考えていたUUO時代の知識からの推論と同じ結論に到達したようだ。UUOでは古代寺院跡という身も蓋もない名前だった記憶がある。中はゴドフリートが説明したような構造に大理石でできた神像が半壊した状態で埋もれていたりする雰囲気は悪くないところだった。イベント用のアイテムがクエスト時に沸くだけで、敵もいないダンジョンだった記憶がある。
「それでは移動目標を五三穴へ変更し、後顧の憂いを絶つため巣食ったゴブリンを殲滅します。よろしいですか。」
普段はにやけた顔のザインの表情がキリリと引き締まる。こういう時のザインは頼れるいい男である。その確認の問いかけにエリザベートは無言で頷く。それを見た全員が戦闘の準備を始める。と言っても非戦闘員のエリザベートとカサンドラは見てるだけである。
全員の準備が整ったのを確認して、移動を開始する。身の軽いザインとラルフが先行、非戦闘員のエリザベートとカサンドラをゴドフリートとフレデリカが直衛する。その直後に治療師のアーガマと魔術師のアーデルハイドが続く。
五三穴の入り口が見えてきた時、エリザベートが見たのは入り口に立つ歩哨らしきゴブリン二体の喉を先行したザインの剣とラルフの矢が貫いた様だった。それに気づいたのか入り口付近にいたのだろうゴブリンが十体ほど入り口から出てきたが二人の敵ではない。すべてのゴブリンが剣で切り伏せられるか、急所に矢を突き立てられ、入り口での戦闘が一段落したころにゴドフリートとフレデリカに守られたエリザベートとカサンドラが入り口に着いた。
「第二波、来ます」
「雷神よ、その鋭き槍を解き放ちて我が敵を貫け、魔術:雷槍!」
ラルフが敵の襲来を告げると同時に右壁に張り付くように退避する。ザインも同じように左壁に退避したところをアーデルハイドが魔術を放つ。黒衣の魔女の右手から放たれた雷は入り口へ向けて殺到しつつあったゴブリン集団の大半をまる焼けにした。大広間から洞窟の入り口までの廊下は直線的で逃げ場はあまりなかったのがゴブリンには災いした。集団の周辺にいて致命傷を受けなかったゴブリンは電撃で麻痺し、剣を持ったラルフと短剣に持ち替えたラルフがとどめを刺していく。
「ラルフ、右前の赤いジャケット、ザイン、二歩前の赤と黒の入れ墨。」
何故判るのか知れないが、アーガマが息のあるゴブリンを見つけ出して二人に伝える。機械のように正確に生き残りを処分していく。
「扉前に生命反応なし。」
アーガマが冷たく言い放つ。ゴブリンにかける情けはない、とその声が伝ている。
その声を聞いて通路と広間の間の扉の前で一旦全員が集合する。
「扉の向こうの大部屋はクリア。その周りに取り囲むように多数いる。」
「広間に出てから襲うつもりね。待ち構えているってことね。ゴリアトを使うわ。」
「ゴリアト?」
ゴリアト…日本語だとゴリアテの方が馴染みがある。聖書に出てくる大男。小柄な羊飼いダビデが倒す相手。この世界では聞いたことのない名前だったから思わず聞いてしまった。
「この人形のことよ。」
魔女はそういうと懐から小さな人形を取り出した。顔も何もない、デッサン人形のような無機質な人形だった。アーデルハイドはその人形を3つ床に置くと呪文を唱え始める。
「幻影よ、依り代を包みてわれらを映し、欺き、誘い、舞い踊るがよい、魔術:人形遣い!」
その魔術により人形が人の大きさになり、アーデルハイドとザインとラルフの姿に変わる。良く見れば陽炎のように揺らめくその姿は幻影と判るが、遠目で見破るのは難しいだろう。幻影をまとった人形はゆっくりと歩き出し、扉を開けて警戒しながら中に入っていく。
「囮?」
「それだけじゃない。」
魔術に集中しているアーデルハイドに変わってアーガマが注釈を入れる。ザインとラルフは広間の扉から中をのぞきこみ、いつでも突入できる態勢で幻影を見守っている。
「目をつぶるか、細目で。さもないと目を傷める。」
アーガマの警告に一旦は目をつぶるが怖いもの見たさで薄目を開けて何が起こるのか広間を覗き込む。幻影があたりを警戒する冒険者3人の姿を取ったまま広間に入って少し進んだところで広間に続く部屋から一斉にゴブリンが幻影に向かって飛びかかった。
「焼き尽くせ!」
アーデルハイドが魔術の最後の力ある言葉を発すると幻影が爆発した。幻影があったところから吹き出す真っ赤な炎が飛びかかったゴブリンたちを舐め尽くす。
ゴリアテ…第二次大戦中にドイツで開発された自走地雷。有線操作で融通があまり効かず決して成功した兵器とは言えないが、敵戦車の下に地雷を送り込んで爆発させるというそのユニークな発想は後世よく話の種として好事家の好奇心を刺激している。エリザベートは動画サイトでみた第二次大戦時の奇妙な兵器を紹介する動画を思い出した。ひょっとしてこちらに由来する名前なのだろうか。
魔法の炎が消えた後は再び闇に目が慣れるまでしばらく何も見えなかったが、目が慣れてくると小さなランタンを腰につけたザインとラルフが生き残ったゴブリンたちにとどめを刺して回っているのが見える。アーガマが時折生き残ったゴブリンの位置をザインとラルフに指示している。端に居て魔術の炎のダメージをあまり受けていなかったゴブリンの集団がザインとラルフに襲い掛かるが、統率のとれていないゴブリン達はすぐにその剣の下に倒れる。ゴブリンの一部がアーガマの声を聞いてこちらに向かってきた。石でできた斧で切りかかり、殴りつけてくるが、その攻撃はゴドフリートの鎧とフレデリカの盾によって阻まれる。ゴドフリートが斧をふると一度に数匹のゴブリンが切り裂かれて吹っ飛び、残ったゴブリンにフレデリカの剣が突き抜き、切り抜き、あっという間に殲滅される。その様子を大きな魔法を使って疲れたのかそれとも何か不審なことでもあるのか、アーデルハイドが怪訝そうな目であたりをにらんでいる。
間もなく広間の制圧は終わった。ザインとラルフとゴドフリートが広間の横の部屋を見て回って残党を狩りっていった。
「残るはこの先だけ。デカいのが1。巫術師か戦士。」
アーガマが扉のない壁を指さし上位種の存在を告げる。
「そこに部屋なんぞなかったはずだが。」
ゴドフリートが記憶を手繰る。
「最近掘ったんだろう。そこだけ壁の色が違う。掘って偽装してあるだけだ。」
ザインがそういうと壁を蹴っ飛ばす。ガラガラと音をたててがれきが崩れ落ちる。その先の小部屋というよりは洞穴といった風情の部屋の中に大柄なゴブリンが床になにやら魔法陣と思しきものを描いている。
「危険。すぐ消して。」
アーデルハイドの声にザインとラルフが飛び込んで足で床の魔法陣を消そうとする。ゴブリンは術を邪魔されて怒り狂い、手に持った杖でザインになぐりかかる。その体をザインの剣が貫いた。アーガマが敵の生命を感じられなくなったと言って殲滅は終わった。
「気持ち悪いわ、ここ。」
洞窟の中を覗き込んだカサンドラが呟く。見なければ良さそうなものだが好奇心が勝ったようだ。
「奥にさらに何かある。」
ラルフがそう言いながら壁を調べる。
「もう生命反応はない。何かいるとしても生き物じゃない。死霊かゴーレムか。」
アーガマの声にザインとラルフは同時に頷きあうと壁を蹴飛ばした。ガラガラと音を立てて壁が崩れ落ちる。その穴の中から濃厚な瘴気が噴き出してきた。
「おっと。」
ザインとラルフはすかさずよける。その瘴気に中てられたのか、カサンドラが反対側の壁に走って行って胃の中の物を戻している音が聞こえる。エリザベートはなんとか吐き気を我慢する。
「強烈ね。純粋な魔力が噴き出しているわ。」
アーデルハイドがその瘴気の正体を言い当てる。
「フレデリカ、ちょっと支えてくれる?」
エリザベートはフレデリカの手に体をあずけると穴から吹きだす瘴気に意識を集中する。これは前もやったことのある訓練。まずは力の流れを感じる。部屋の奥に力の源があるり、そこから純粋な力があふれ出ている。そして部屋の中央にある何かの力でそれが魔なる力、それも邪なる力へ変換されている。
フレデリカが瘴気による悪寒に耐え手が震えるのが感じられる。エリザベートはさらにその先の訓練を思い出す。そこにある純粋な力を魔なる力や聖なる力へ変換する。あるいは、聖なる力を魔なる力へ、そして魔なる力を聖なる力へ変換する。今既にある魔なる力を聖なる力へ。純粋な力を邪なる力へ変換される前に聖なる力へ。
パリーン
部屋の中央で何かが割れる音がする。瘴気が薄れ、それに代わって清々しい風が一帯を満たす。エリザベートはうまくいったことに安堵する。邪なる力を作っていた何かは入力を失ってその機能を失い、逆方向の力である聖なる力に満たされた場に置かれたことでその存在の維持ができなくなったようだ。
「これは何?みたこともないけれど、まっとうな物じゃないことはたしかね。」
アーデルハイドが部屋の中央に転がった物体を調べている。しかしエリザベートはそれを見ているようで見ている余裕はなかった。エリザベートの耳にどこからか声が聞こえてきていた。エリザベート以外の人には聞こえないようで、その声がどこから聞こえるのかときょろきょろしているのはエリザベートだけだった。最初はよく聞き取れなかった声もだんだんと聞き取れるようになってきた。
『…の称号を得ました。』
『…得たためレベルが上がりました。』
『「世界の鍵」の称号を得ました。」
『充分な経験を得たためレベルが上がりました。』
『充分な経験を得たためレベルが上がりました。』
その声が途絶えるとエリザベートを全身の骨が軋むような苦痛と眩暈が襲った。耐えられずに崩れ落ちるエリザベートを慌ててフレデリカが支えようとする。
「お姫様!」
「大丈夫?」
「どうした?」
「何があった?」
突然の事態に全員が動揺を隠せない。ゴドフリートがエリザベートを抱き上げ、洞窟の外まで運び出す。カサンドラが寝袋を出して雪面に敷くとゴドフリートがその上にエリザベートをゆっくりと下ろし、寝かせる。
治療師であるアーガマがエリザベートの手を取り、何があったか調べようとするが、刺すような痛みに手を放す。
「何かが鑑定を邪魔している。」
それを聞いてアーデルハイドがあたりに魔法の気配を探るが、何も感じることはできない。ザインとラルフが心配そうな顔で覗き込む。カサンドラが何かをひらめいたようで、エリザベートに屈みこむとその指から銀色の指輪を外す。
「お嬢様は鑑定の邪魔をする指輪をしていると聞いています。これがそうなら調べられるはずです。」
その声にアーガマが再度エリザベートの手を取り、原因の鑑定を試みる。
「原因は判らないがひどく衰弱している。外傷はない。体力がほとんど尽きた状態だ。」
それを聞いた魔女が何かに思い当たったのかふと呟く。
「PLS?」
「なんだそれは?」
「パワーレベリング症候群。低レベルの冒険者がいきなり大仕事に連れていかれ大量の経験を得て急激なレベルアップをするとかかる病気よ。体力と魔力の上限が大幅に引き上げられて、最初からある体力や魔力じゃ少なすぎて結果瀕死になるの。」
「…それなら体力・魔力の回復を補助するだけでなんとかなるな。」
アーデルハイドの説明にしばらく考えた後アーガマが治療を始める。持ってきた体力回復の水薬を綿に含ませて口の中へ流し込む。
「レベルアップしてPLSって、お嬢ちゃんは冒険者の素質あり、か。戦闘には参加していなかったが、神様の気まぐれかねぇ。」
「それなんだけれど、今日、やたら魔法の『効き』が良いのよね。ひょっとして…。」
「当たりだ。さすがは辺境伯様。とんでもない能力をお持ちだ。」
「でも多いとはいえゴブリンだけでそこまでレベルアップするもの?」
「そういえばお主、病気の鑑定だけじゃなく人物鑑定もできたな。」
「仕事柄必要だからな。失礼だが原因を調べるために見た。話してしまっていいものか…。」
その会話に割り込むように弱弱しくかすれた声が響く。
「お願い、教えて。」
ポーションが効いてきたのか、意識の戻ったエリザベートが、横になったまま目を開いてアーガマを見つめ、何とか言葉を発しようとしている。
「無理して声を出すな。頷くだけでわかる。」
エリザベートは無言で頷く。言葉を発するよりは体に負担は少ないようだ。
「いままで鑑定を受けたことはあるのか?」
首を振る。動かすと痛いのかエリザベートは首を振った後でちょっと眉を寄せる。
「理由があって妨害はしていたけれど、今は鑑定結果を知りたい、ということか。」
頷く。
「ここにいる皆に鑑定結果を知られることは構わないか。」
頷く。
「それでは言うぞ。
氏名:エリザベート・イングレアス・フォン・グレイバルト
年齢:12歳
職種:聖姫
レベル:9
レベル上限:不明
筋力:5
頑強:7
知力:25
叡智:25
敏捷:10
魅力:23
体力:5
体力上限:78
魔力:5832
魔力上限:不明
聖力:5875
聖力上限:不明
称号:世界の鍵、神器破壊者、統率者、称号授与者、グレイバルト辺境伯、聖魔操作者、王宮の養い子、元巫女伯の後継者、異界転生者、創造神の寵姫
能力:魔術Lv1、聖術Lv1、魔力供給Lv3、聖力供給Lv3、魔術拡大Lv3、聖術拡大Lv3、聖魔変換Lv3、統率Lv1、神器検知Lv1
追加能力:魔術反射、魅力+3、統率+3
状態:衰弱
私に判るのは以上です。」
ほーぅ、というため息が場を支配する。初耳の職種、不明な上限、桁違いの魔力聖力、聞いたことがない称号・能力のオンパレード。それが目の前に横たわる弱弱しい少女の身に与えられた力、あるいはその身を縛る鎖であることに感じ入らない者はいなかった。
「なるほど、お姫様と一緒にいるだけで魔力回復が早くなり、魔術の威力が増すのか。」
「いつもより命中精度が良い気がしたが、嬢ちゃんの力だったか。アーガマの検知範囲もいつもより広かったしな。」
「さっきのあれはきっと邪神の神器だったんですね。それを破壊したのはお嬢ちゃんだった、と。」
アーガマは何も言わずに頷いている。エリザベートは称号:異世界転生者について何か言われるかと思って身構えていたが、幸い誰も注意を払っていなかったので安心した。
誰もが無言になり、沈黙が場を制したのち、エリザベートが目線でカサンドラを見据えた。カサンドラは慌ててエリザベートの口元に耳を寄せる。
「お嬢様が『私も鑑定能力を身につけることはできるのか?』だそうです。」
カサンドラが伝言を伝える。
「治療師として多くの人物と接して得たが、得るまでに数万人は診たかな。」
「辺境伯様なら多くの人と接するからあるいは…。」
「いや、どうだろう。治療師相手なら人は本性をさらけ出すが、辺境伯様に本性を晒す者は少ない。その人の本性、人となりを知ることが必要じゃないかと。」
「すごい、アーガマがいっぱいしゃべってる。」
「こら、アーデルハイド、茶化すな。」
「ラルフはどう?魔物鑑定、持ってたよね。」
「儂は魔物しか見れんからのぉ。一生を魔物退治に費やして最近やっとじゃ。」
「凄腕商人の中には人物鑑定と物品鑑定両方できる人もいるとは聞きますが…。」
「噂では聞くが、実際そんな大物に会ったことはないな。」
「ギルマスでもありませんか。」
「結論から言うと、難しそうだな。何かしらの方法がないとも限らないが。」
前の世界で読んだ小説では鑑定スキルは定番であったが、この世界ではそう簡単に獲得できない能力のようだ。
「お嬢様が『ありがとう。他言無用でお願い。』とのことです。」
無言で全員が頷いた。このようなことを他人に話すことはエリザベートの身と、引いてはグレイバルト領そのものを危険にさらす行為であることは熟練冒険者であらずとも想像に難くない。
「私も見てもらえますか?あ、なにこれ、気持ち悪い。」
「鑑定酔いじゃな。その感覚を覚えておくといい。相手に鑑定されたと気付けるからな。」
「ここで言って良いか。」
「良いです。」
「いくぞ。
氏名:カサンドラ・フォン・ドリゴ
年齢:18歳
職種:官僚
筋力:10
頑強:6
知力:17
叡智:7
敏捷:5
魅力:18
体力:5
体力上限:5
称号:グレイバルト辺境領補佐官
能力:思考加速Lv1、情報整理Lv2、高速推論Lv2、記憶Lv2、毒舌Lv3
状態:正常
ふむ、文官だとこんなものか。」
「ほう、ドリゴの所の係累か。」
「末席ですから。お城勤めになってやっと祖父にフォンを名乗っていいと言われました。」
「いかにも才媛って感じよねぇ。」
「ぷぷぷ、毒舌…。さすが残念美人。」
「なによ、いいじゃない。ってなによその残念美人ってのは。」
「お城の野郎どもの間でのカサンドラさんのニックネームよ。知らなかったの?」
「誰よ、そんなことを言ってるのは。デリアン?リッキ?あ、わかったフリドランでしょう。キー。」
「どうだい?騎士のお嬢ちゃんも見てもらうかい。」
「お願いしてもらってもいいですか。幼いころに一度見てもらったきりなので、少しは成長していると良いのですが。うっ、慣れないですね。この感じは。」
「良いな?」
「はい。」
「
氏名:フレデリカ・フォン・ノルドハーゲン
年齢:15歳
職種:騎士
レベル:12
レベル上限:60
筋力:20
頑強:21
知力:6
叡智:12
敏捷:16
魅力:15
体力:115
体力上限:115
聖力:45
聖力上限:45
称号:辺境伯の守護者、戦女神の寵姫、戦乙女、伯爵の後継者
能力:剣技Lv4、槍技Lv2、盾技Lv3、集中Lv3、天啓、重装防御Lv3
追加能力:剣技+2、盾防御+2、聖力回復+3、聖術強化+3
状態:正常
なんだこれは?」
「ふむ、少しは成長してるようですね。」
「少しは、って嬢ちゃんその歳でこれかい?」
「あらん、すごいわねぇ。妬けちゃうわ。」
「末恐ろしいな。」
「グリューストが頭を抱えるわけだ。」
「どういうことです?父が何か言っていました?」
「いや、『普通の幸せを求めてほしいが…無理だろうなぁ』としみじみと。」
「親父殿らしい言い草だ。いい加減諦めればいいのに。」
「追加能力の聖力回復と聖術強化がお姫様の影響ね。すごいわぁ。」
「剣技と盾防御の追加は装備品由来かな?」
「お姫様より出立前にお預かりした剣と盾ですかね。こんなに良いものだったのですね。」
「姫様は少し寝た方がいい。」
「アーガマの言うとおりだな。今日はここで野営しよう。」
「防御結界を張っておくわね。」
「儂は薪を集めてこようかの。」
カサンドラがエリザベートを見ると、ゆっくりと寝息をたてている。眠りについたようだ。
日は落ち、宵闇があたりを包み始めている。目を上げるとラルフが野営地の中央に火をおこしている。そのぱちぱちとはぜる音を聞き、明々と燃える炎を見てカサンドラは考える。創造神の寵姫にして世界の鍵であるお嬢様と戦女神の寵姫たるその守護者、それに仕える者として私に何ができるだろか。
冗長な表現を簡潔にし、指輪の色の誤りを直しました。




