僕の眼鏡越しに見える物
家に帰る途中、夕日と出会った。いや、見たって言うほうが正しいか......
クスッと笑って横断歩道を渡った。
肩に背負っていた鞄をもう一度かけ直すと、町の声が聞こえた。
イヤホン越しに聞こえる車のエンジン音は、町の雰囲気を醸し出す。
工事をしている男性たちは、きっと何か新しいものをこの町に作ろうとしているのだろう。
自分はここに住んで十数年となるが、毎日毎日同じ光景など無いのだと今気づいた。
同じ角度から見る家は、いつもと変わらない。
ドアを開けても......
「あら、おかえり」
テレビを見ながら煎餅をかじる母は、そう、いつも通りだ。
「ただいま」
僕の眼鏡越しから見えるものはいつも変わらない。
でも、今日に限っては何か特別な気がする。
眼鏡を外して涙を拭くと、母に少しバカにされた。
『うるさい』と言い返すと、また母はテレビを見て笑った。
自分の部屋に入って、ベットに仰向けになった。手を見ると豆が潰れていた。特に部活や勉強に力を入れてこなかった僕は、学校の思い出など片手で数えられる程度しか無かった。
また涙が出る。さっきの時よりも多く。
僕の眼鏡越しに見えるのは、後悔しか無いのだろうか、いや、美しいもの、楽しいこと、いつもの光景、いっぱいいっぱいありすぎて溢れ出てしまった。
眼鏡を取って眼鏡拭きを出した。丁寧に拭くと、何だか洗練されるかのようだ。
『今日からまた頑張ろう』
綺麗になった眼鏡を掛けて立ち上がる僕。