藤ノ森朱弥の独白
元カレ()視点のお話です。
俺には可愛い幼馴染がいる。
名前は張間千尋。
わがままなところが多いけど、それはまぁ…気を許されてるって証拠で…
そんな彼女と俺は、つい最近まで恋人だった。
偽装…だったけど。
昔から容姿が良かった俺は、多くの女の子たちに好意を寄せられてて…
容姿しか見てない女子に好意を持たれたって嬉しくないし、それに小学校の頃は良かったんだけど、中学に入ってから、なんかドロドロしてるというか、お互いに蹴落としあって牽制しあってる姿を見ていると怖くなった。
そこで、誰もが納得する彼女を作ってしまえば、皆俺のことを諦めてくれるんじゃないかと考えて、千尋にお願いした。
千尋は贔屓目なしで容姿が抜群に優れているし、才女と言っても申し分ないぐらいに、やろうと思えばなんでも出来る子だった。
俺に好意を寄せる子の何人かは、千尋が相手なら勝ち目が無いと言っていたのを聞いたことがある。
だから適任だと思った。
…正直、偽装と言うことで、千尋に対しても牽制できるかな、と考えていた節があったのは否定しない。
彼女の好意は嬉しいけど、付き合いたいっていう好意は俺の中にはなかったから。
彼女は見事役目を果たしてくれて、感謝の気持ちと…そして罪悪感が残った。
このまま本当に恋人になった方がいいのかな、と考えたこともある。
だって千尋はわがままはあるけどいい子だし…家族愛に似てるけど好意はあるし…
だけどそんな考えはすぐ消えた。
あの子に会ってしまったから。
姫野愛華―時期外れの転入生。
彼女は俺の容姿ではなく、俺自身を見てくれた。
俺自身を見てくれるのは千尋も一緒で…でも何故か彼女に惹かれてしょうがない。
俺は千尋に偽装恋人は辞めようと話した。
結局、俺の個人的な感情で千尋を振り回した罪悪感はあるけれど、それ以上にあの子が欲しいと思ったから。
…僅かな引っ掛かりを覚えつつも。
次の日から、千尋は恋人の張間千尋ではなく、元の幼馴染みの張間千尋だった。
まるで偽装恋人の間の彼女が嘘だったかのように、彼女の俺に対する好意に恋情が無くなっているのをひしと感じた。
でもその変化は、きっと俺しか分からない。
愛華は愛らしい子だ。
だから、多くの男を虜にしている。
別に…それはいいのだけど…いや、嫉妬するから良くないんだけど…
なぜかその姿に違和感を感じてしまう。
何だろう…嘘八百…いや、八方美人…?
良く分からない。
彼女に群がる男には会長やら副会長やら会計やら風紀委員長やら不良やら先生やら…
というか生徒会、仕事はどうした!?
風紀委員長、アンタが風紀を乱してどうする!?
不良くんは…とりあえず机蹴るのやめようか、うん。
先生、校内で生徒をそういう目で見るのは良くないと思います!
なんかバラエティーに富んだ、濃いメンツが揃っている。
そいつ等が一斉に話しかけているのに、愛華は涼しい顔をして全員に対応している。
あ、分かった。違和感じゃなくて…なんか、怖いんだ。
なのに彼女から離れる気は全く起きなくて…
自分の気持ちもよくわからなくて、余計怖かった。
…こういう時、千尋はすぐ助けてくれるのに。
ああ、ダメだ。俺から手放しといて、今更頼るなんてできやしない。
「朱弥くん、一緒に来て?」
ある日、至極真面目な顔をして愛華が言った。
そう言われてついていく…どこに行くのかと目線を上げれば千尋の姿。
…千尋を追ってる?なんで?
疑問が頭を埋め尽くしているけど、何せ彼女が歩く度に男たちが現れて付いて来る。
…話しかけづらい。
着いたのは古びた校舎の屋上の扉の前。
「旧校舎か…」
会長がポツリと呟いた。
へぇー…旧校舎なんてあったんだな。
微かに開いた扉から、楽しげな男女の声が漏れ聞こえる。
千尋と…だれだろう。
ぼんやりとしていると、バァンと勢い良く、愛華が扉を開けた。
それから愛華がいろいろ言ってたけど、正直何も聞こえてなかった。
ねぇ、千尋、その人は誰?
扉が開き切る前の一瞬、目に入ってきた千尋の笑顔が忘れられない。
君は俺の前でさえ、そんな幸せそうな顔をしたことは無かったろう?
この感情は何?
「そんなに男を侍らせてるお前は、いったい何だっていうんだよ?」
不意に、千尋の隣にいる男の言葉が耳に入った。
彼は俺に話しかける。
愛華が虚構?俺が望むもの?
何かがグサリと胸に刺さった感じがした。
あぁ、そうかも。いや、そうだ。
ようやく違和感が分かった。
俺が欲しかったのは愛華じゃなかった。
当たり前にそばにいたから、気付かなかった。
それにもう、手放してしまった。
そして一生戻ってきやしない。
だけど、それでいいのかもしれない。
それが、ちょうどいいのかもしれない。
少し寂しいけれど、虚しいけれど、絆が切れるわけじゃないんだろう?
なら、これでいい。
俺が振り回してしまった君が、幸せを掴んだのなら…喜ばしいことだ。
お幸せに、俺の可愛い幼馴染み
藤ノ森くんは他キャラと比べ、イベントがあまり起こってないので(半分ぐらいは千尋が関わってるから)、好感度が(他キャラよりも)低い分、冷静に周りを見れてるんじゃないかと…
だからゲームの強制力のせいで、ヒロインに惚れちゃったけどどうしたらいいか分かんない…みたいな?
結局彼の中では千尋に対して 親愛>恋愛 って感じなので、永川先輩に取られても、幼馴染みとして側にいれるからいっか…って思ってる節があると思います。